Other Indian Column

コラム

日本本社への資金還流方法とその実態に迫る

インドに進出している日系企業にとって、インド現地法人が得た利益をいかに日本の親会社(=株主)に還元するか、つまり、インドから日本への資金還流方法について頭を悩ます日系企業が増えています。もちろん、日本の親会社が何らかのサービス等を提供している場合には、その対価として管理報酬や技術上の役務提供報酬、ロイヤリティなどを契約書等に基づいて支払うことなり、この場合にはサービス税や源泉所得税(TDS)、また、移転価格税制における税負担や税務リスクと合わせて取引スキームを検討することとなります。しかしながら、ここでは、サービス等の対価として支払うのではなく、株主との関係性において資本や税引後の利益剰余金をどのように株主に資金還流できるかをご紹介したいと思います。

 

1.配当(Dividend)

言わずと知れた株主の権利であり、かつ、最も一般的な資金還流方法が「配当」です(※インド新会社法第123条)。主に、取締役会決議による中間配当と、定時株主総会の普通決議による利益配当があり、単純に利益を株主に還元する最もシンプルな方法となっていますが、インド特有の「配当分配税(DDT:Dividend Distribution Tax)」が大きな障壁になっています。つまり、通常は配当を行った場合には配当を受けた株主側に課税(※配当支払時に源泉所得税として控除)されるのが一般的で、日本の場合は「外国子会社配当益金不算入制度」により大きな課税負担なく配当を受け取ることができるケースが多いですが、インドでは配当を行う側が配当行為に対して課税される「配当分配税(DDT)」という税金があります。したがって、支払時に所得税を源泉徴収する必要はありませんが、その代わりに支払側が実効税率約20%の配当税をインド税務当局に納税する必要があります。なお、個人の株主が100万ルピーを超える配当を受け取った場合には、株主側にも10%の所得税が課税される点については留意が必要です。

さて、ここで重要な論点となるのが、インド現地法人が負担する配当分配税(DDT)が日本法人側の外国税額控除として利用できるかどうか、という点ですが、明確な規定はなく、配当分配税は一般的な源泉所得税とは性質の異なる税金であることから、日本の親会社において税額控除として適用するのは難しいとの見解が有力であると思われます。つまり、インド現地法人としては、税引前利益からすでに法人所得税を納税しているにも関わらず、税引後利益から分配する配当に対してもさらにインド現地法人が税金を負担しなければならないといういわゆる“二重課税”が発生してしまうことから配当の実施はあまりに税負担が重く、積極的に配当を行っていない法人も多く見受けられます。

(※2019年に配当分配税が廃止されることが発表され、二重課税がようやく解消されることとなりました。)

 

2.自社株買い(Buy Back Shares)

「配当」以外に考えられる資金還流方法の一つが「自社株買い」です。自社株買いとは、既存の株主から自己株式を買い取り、当該株式を消滅させる手続きのことです。つまり、既存株主全員が自社株買いに応じる場合に限って、各株主の持ち分比率(=会社に対する株主の影響力)を維持したまま株主へ資金を還元できることになります。なお、特定の株主が自社株買いに応じない場合には、当該株主が保有している株式が減少しないため、相対的に株式持ち分比率が高くなり、逆にその他の株主の株式持ち分比率は低くなります。

ちなみに、自己株式の買い取り価格が額面株価を上回る場合には、株式譲渡益(=キャピタルゲイン)に対する課税がなされ、原則、株主は株式売却に伴って得た利益に対して税金を納税する必要があります。しかしながら、2013年度の税制改正において、非公開会社が額面株価を上回る価格にて自己株式を買い取る場合には、株主が納税をする代わりに、株式を買い取る会社側が「利益分配税(Tax on Distributed Income)」という税金を納税する必要がある旨の規定が発表されました(※インド所得税法第115QA条)。つまり、自社株買いにおいて株式譲渡益が発生する限りにおいては、支払企業側は上述の配当分配税に似た「利益分配税」を結局は株主の代わりに払わなければならないこととなります。

 さて、次に自社株買いの実施する上での条件や具体的な手続きについて見ていきたいと思います。自社株買いは、原則、付属定款(AOA:Article of Association)における当該規定の定めがあり、かつ、株主総会の特別決議で承認されれば実施可能です。自己株式を買い戻した後は、当該株式の取得日から7日以内に消却し、さらに、30日以内にROCに登記しなければなりません。ちなみに、過去3年間に下記3つのいずれかの債務不履行があった場合、また、自己資本について下記2つのいずれかに該当する場合には自社株買いは実施できないため注意が必要です。

 

【債務不履行にかかる3つの条件】

■ 預り金、利息の支払不履行

■ 社債の償還、優先株式の償還不履行

■ 借入金の返済不履行

【自己資本にかかる2つの条件】

■ 自己株式の取得金額が自己資本の25%を超の場合

■ 自己株式取得後の自己資本が負債金額の50%未満の場合

 

 なお、非居住者の株主たる日本本社から自己株式を買い取る場合には、当該自己株式の買い取り価格がインド国勅許会計士(Chartered Accountant)が証明した公正な価格(上場会社の場合には、インド証券取引委員会に登録しているカテゴリー1のマーチャントバンカー(SEBI registered Category-I, Merchant Banker)が決定する公正な価格)を上限とする株価で買い取る必要があります(※外国為替管理法基本通達第15番/2015-16)。また、日系企業のような外国法人が株主である場合には、出資当時からの為替レートの変動により為替差損益が発生します。自己株式の買い取りについては税務リスク等も含めて慎重に判断する必要があるため、専門家へ事前に相談することをおすすめ致します。