Indian Market "Insight"

インド市場の”今”を知る

Vo.011 インドのゴミ問題と廃棄物処理産業の実態とは?

インドの急激な経済成長とその巨大な市場は日本でも注目されて久しいですが、その裏で、インフラ整備が追いついておらず、廃棄物処理は深刻な問題の一つであるといえます。インドに住んでいると、分別どころか、都会でも一歩外に出ればあらゆるゴミが通りに散乱している、という光景が当たり前のように広がっています。

1. インドの都市廃棄物の現状

環境問題ニュースメディアDownToEarthが引用した、2014年のインド政府計画委員会(現在の政府系シンクタンク、NITI Aayogの前身であるPlanning Commission)報告書によると、インドの都市部では、年間6,200万トンの都市廃棄物(MSW:Municipal Solid Waste)が発生しており、2030年には1億6,500万トンに増加すると予測されています。一方、廃棄物収集率は、多くの先進国ではほぼ100%であるのに対し、インドの現状では70%程度に留まっています。さらに、インド環境森林省(Ministry of Environment and Forest)の2016年の発表では、年間4300万トンの都市廃棄物が収集され、そのうち3100万トンが埋立地にそのまま投棄され、処理されたのは1190万トンのみでした[1]

インドでは年間約340万トンのプラスチック廃棄物が発生しており、そのうち30%しかリサイクルされておらず、国内のプラスチック消費量は9.7%の年間平均成長率(CAGR)で上昇しつづけているという調査もあります。[2]

また、インドは、アメリカ・中国に続き、世界第3位の電気電子機器廃棄物排出国で、全世界総排出量5360万トンのうち、この三国が38%を占めています。[3]

このうち未処理の廃棄物の大部分は、町や都市の郊外に投棄され、地下水汚染や大気汚染の原因となっています。

2. インフォーマルセクターが支える廃棄物のリサイクルシステム

廃棄物のリサイクルが効果的にされているのは大都市の一部に限られますが、その回収・リサイクルの方法は一様ではありません。また、回収したゴミを処理するための資金が不足している状況で、インド住宅・都市問題省(Ministry of Housing and Urban Affairs)によると、すでに支出の3分の2が収集そのものに費やされています。そのため、インドの廃棄物処理、特にリサイクルの大部分はインフォーマルセクターで行われているのです。例えば、アジアでも有名なスラム街であるムンバイのダラヴィ地区は、インドの重要なリサイクルの場の一つとして確立されています。毎年、約15,000人の零細企業家が、約100万ドル相当の廃棄物をリサイクルしています。その過程で、彼らは廃棄物回収業者、販売業者、日雇い労働者として、約25万人の雇用を創出しています。[4]

2014年、インド政府はモディ政権下で「クリーン・インディア・ミッション(Swachh Bharat Abhiyan)」キャンペーンを発表し、今に至るまで、廃棄物処理、上下水、衛生施設、大気汚染等の環境改善を目指す様々な政策を実施しています。[5] 廃棄物管理政策は、インド環境・森林・気候変動省(Ministry of Environment, Forest and Climate Change)の管轄下におかれ、2016年には、2000年からの旧政策を基に、それまで公式には認められてこなかったインフォーマルセクター(廃棄物収集を行っている非組織労働者)も、廃棄物管理プロセスに含めることが明記された「固体廃棄物管理規則(Solid Waste Management Rules)」を制定しました[6]

しかしながら、本政策には不充分で強制力に欠けており、効果は非常に低いという批判もされています。[7]殆どがインフォーマルセクターであり、実質現状のシステムを支えている廃棄物回収業者をインドの廃棄物管理システムにもっと効果的に組み入れることは、現在もインドが直面している大きな課題のひとつであるといえます。このような人々がいなければ、多くの都市で廃棄物処理とリサイクルのシステムは崩壊してしまうでしょう。

 

3. 廃棄物処理への民間企業の参入

インドでは、廃棄物排出量は増加していく一方、政府が民間企業に支援を求め始めています。一貫性のある持続可能な廃棄物管理システムを構築することを義務付けられた自治体は、中央政府から民間セクターと提携するよう奨励されています。実情として、個々の都市自治体に期待される廃棄物管理インフラは存在しないことも多々あります。[8]

インドの自治体と提携して廃棄物処理事業を行っている、主な民間企業を以下に紹介します。

(1)A2Z Green Waste Management Ltd.

https://www.a2zgroup.co.in/

IIT 卒業生の Amit Mittal 氏によって、2002年に設立されました。電力、通信、インフラの清掃・メンテナンス、廃棄物管理など、インフラ分野のほぼすべての重要な業種にエンジニアリング ソリューションを提供することを事業としています。ウッタル・プラデーシュ州カンプールに大規模な廃棄物処理センターを所有しており、廃棄物発電等も行っています。

(2)BVG India Ltd.

https://www.bvgindia.com/

元々は、1993年にHanmantrao Ramdas氏が創設した、地方の若者のエンパワメントを目的としたNGO「Bharat Vikas Pratishthan」としてスタートしましたが、現在は55,000人の従業員を抱える大企業となりました。UNDP(国連開発計画)のパートナーとして、プラスチック廃棄物管理プロジェクトや、地方自治体の廃棄物処理事業を行っています。

 

(3)Tatva Global Environment Ltd.

https://www.tatvaglobal.com/index.php

インド全国で9つの子会社をもち、タミルナドゥ州・ケララ州・マハラシュトラ州等、複数の州に渡って廃棄物処理や下水処理事業を行っています。廃棄物

処理プロジェクトでIndia Excellence Award 2010の受賞や、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)で同社作成のドキュメンタリービデオのコンテスト入賞等のユニークな経歴があります。

 

(4)Antony Waste Handling Cell Ltd.

https://www.antony-waste.com/index.html

デリーNCRをはじめとする北インド、ムンバイを中心に全国で固形廃棄物の収集と輸送、埋立地の建設・管理、廃棄物発電等の事業を行っています。

 

(5)Urbaser

https://urbasersumeet.com/

スペイン系大手Urbaser社と、インド系Sumeetグループによる合弁企業。チェンナイ公社(Greater Chennai corporation)提携し、2020年10月より、廃棄物の収集・リサイクルを行っています。多数の小型車両がそれぞれの担当地域を回って廃棄物を回収しており、チェンナイに住んでいる方なら、一度は同社の白い三輪巡回車両を見たことがあるはずです。さすがに先進国には及びませんが、同社の事業が始まって以来、チェンナイ市内の通りが以前に比べて清潔になった印象を持つ方も多いのではないでしょうか。

 

インド政府はスマートシティの構築に力を入れており、より最先端の廃棄物管理ソリューションへのニーズはますます高まる一方でしょう。今後も、民間企業の参入が続くものと予想されます。

       

参照元データを見る

[1] Why India’s solid waste management system needs a digital overhaul

https://www.downtoearth.org.in/blog/waste/why-india-s-solid-waste-management-system-needs-a-digital-overhaul-75671

 

[2] India recycles only 30 per cent of 3.4 MT plastic waste generated annually: Report

https://economictimes.indiatimes.com/news/india/india-recycles-only-30-per-cent-of-3-4-mt-plastic-waste-generated-annually-report/articleshow/96918352.cms?from=mdr

 

[3] India third largest e-waste generator in the world, capacity limited to treat only one fourth of its waste

https://timesofindia.indiatimes.com/india/india-third-largest-e-waste-generator-in-the-world-capacity-limited-to-treat-only-one-fourth-of-its-waste/articleshow/76780611.cms

 

[4] Recycling in India: A Market in Transition

https://waste-management-world.com/recycling/recycling-in-india-a-market-in-transition/

 

[5] Swachh Bharat Abhiyan

https://www.pmindia.gov.in/en/major_initiatives/swachh-bharat-abhiyan/

 

[6] ‘Solid Waste Management Rules Revised After 16 Years; Rules Now Extend to Urban and Industrial Areas’: Javadekar

https://pib.gov.in/newsite/PrintRelease.aspx?relid=138591

 

[7] Solid Waste Management in Urban India: Imperatives for Improvement

https://www.orfonline.org/research/solid-waste-management-in-urban-india-imperatives-for-improvement-77129/

 

[8] The Waste Management Industry in India: Investment Opportunities

https://www.india-briefing.com/news/the-waste-management-industry-india-investment-opportunities-14032.html/

 

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執筆者紹介About the writter

安本 理恵 | Rie Yasumoto
2014年より北インドグルガオン拠点の現地日系企業で法務や総務、購買等を中心とした管理業務を経験後、インドの法務および労務分野の専門性を深めるべく2018年に当社に参画し、南インドチェンナイへ移住。現在は会社法を中心とした企業法務や、労働法に基づく人事労務関連アドバイス、インドの市場調査業務を担当。2023年3月に退職。