India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0044 インドスタートアップのBays Labs、創薬フロー改善を目指す


インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2020年11 月2日付けの報道によると、AI (Artificial Intelligence:人工知能)やゲノミクス、機械学習を使って新薬の開発の効率化を図るスタートアップの『Bayes Labs(ベイズラボ)』が注目を集めているようです。

新薬開発は薬物の特性、毒性、薬物同士や薬物と食品の相互作用を認識することから始まり、通常は長い年月がかかり、かつ承認に至る成功確率の低いプロセスです。しかし、現在このプロセスに変化が起きており、業界ではAIの活用によって、効能が高く、かつ副作用の少ない医薬品を効率的に開発することが可能になっています。これに目をつけたKolli Sarath氏は2019年にバンガロールを拠点に500万ルピー(約700万円)の初期費用でBays Labsを設立しました。

Bays Labs はChEMBL(※1)、PubChem(※2)、米国特許などの一般公開情報から入手可能な有機化学や低分子データ、分子構造を活用して新薬のあらゆる特性を予測するモデルを構築しました。そのプロセスの一部としてグラフベースの機械学習を幅広く使用しています。また、生物学、化学的特性の予測に加えて分子合成プラットフォームも開発しており、企業が新分子を合成する際に最適な合成ルートにたどり着くためのサポートを提供しています。同プラットフォームは強化学習(※3)と最先端のグラフ生成モデルを導入しており、これまで数ヶ月かかっていた新分子発見プロセスを数日に短縮することを可能にしました。

同社の競合企業には北米やヨーロッパを拠点とするスタートアップであるAtomwise、Cyclica、BenevolentAIなどがあり、Sarath氏は『新薬開発のリスクを軽減できる革新的なビジネスモデル』をインド国内で構築・提供することで優位性を保とうとを考えているようです。同社はバイオテックや製薬会社とパートナーシップを結んでいるものの、開発最終段階のサービスはまだリリースしていないため、現時点での収益はゼロのようです。料金体制として、SaaSプラットフォームは3ヶ月間、ユーザー1人あたり1,000ドル、ライセンスやパートナーシップモデルの料金は契約内容によって変動する、というプランを予定しているようです。Sarath氏は2020年12月までに最終版プラットフォームをリリースし、2021年の第2四半期から収益を生み出すことを計画しています。同時に顧客基盤を拡大するための資金調達に向けて、様々な投資家と協議を進めているようです。

新薬開発のAIプラットフォームは数年前から耳にすることがありましたが、今年3月ごろから流行り出した前代未聞の新型コロナウイルスによってその存在意義がさらに強くなったように思います。当初はコロナ渦の終息見通しが立たず、先行きが不透明な中で、皆の希望はワクチンが早期に開発されることでしたが、実際のところワクチンの開発研究は現在も続いており日本での実用は来年から再来年になるだろうと言われています。創薬に時間を要することは誰しもが承知していることではあるとは思いますが、年々洗練されていくテクノロジーを駆使することでもっと効率的に開発、臨床実験を行えるのではないかと疑問に思うところもあります。Bays Labsのサービスは、バイオテックや製薬会社にとって新薬開発プロセスのあり方に一石を投じることとなるか、今後の事業展開に期待をしたいと思います。

※1 ChEMBL:イギリスに拠点を置く化学分子データベース
※2 PubChem:化学分子データベース。NCBI(アメリカ国立生物工学情報センター)によって管理されている。
※3 強化学習:システム自身が試行錯誤しながら最適なシステム制御を実現する機械学習手法のひとつ。
Source:新薬開発プラットフォーム『Bays Labs』