Vol.0058 インドフィンテックPaytmにとって飛躍の2020年を振り返る
Paytmの目標とこれまでの活動
インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2020年12 月4日付けの報道で、インド巨大フィンテックのPaytmに焦点を当てています。2020年はPaytmにとってウェルスマネジメントサービスの拡大から、アプリプラットフォームの開発など、同社が市場で新たな高みに到達した年となったようです。Paytmは以前より、金融包摂がすべての活動の中心にあると繰り返し訴えており、これまでに銀行口座を持たない1億9,000万人のインド人にデジタル貯蓄銀行口座を提供したり、6300の中小企業に対し融資関係や簿記管理などの金融サービスの利用支援など積極的に活動を続けてきました。このように、進化する消費者のニーズを常に把握し、金融包摂の目標をぶらすことなく、可能な限りシンプルな方法で消費者のニーズに対応し続けている姿勢が、新たな分野でも受け入れられ、その存在感を増していく秘訣だと思います。
2020年の主要マイルストーン
【1月】
- 新QRコードを発表
- 手数料ゼロ、支払い上限額を排除
【2月】
- UPI(※1)上でのPaytmの累計取引が1億回を超える
- 日本のジョイントベンチャーであPayPayのユーザーが2,500万人を突破。200万近いクライアントとの提携
【3月】
- 約5,000万ルピー(約7060万円)を新型コロナウイルス関連医療サービスに投入
【4月】
- Mastercardと共同でデビットカードを開発
- Paytm Payment Bankの利用者5700万人の預金額合計が100億ルピー(約140億円)を突破
【5月】
- 10億ルピー(約14億円)をデジタルペイメント産業に投資
- ロックダウン期間中のPaytmを介した支払い数がプレコロナの4倍を記録
【7月】
- スタートアップ、株式、債券投資のための事業であるVSS Holdings、VSS Investcoを法人化
- ムンバイ拠点の民間の保険会社QBE Rahejaを買収
【8月】
- 中小企業向けにアンドロイドオールインワンPOSデバイス(※2)を開発
- Paytmマネーが株式仲介サービスを開始
【10月】
- アンドロイド用ミニアプリストア(自社のアプリのプラットフォーム)をローンチ
- Paytm MoneyがETF(※3)をローンチ。12-18カ月以内に10万人のユーザー獲得を目指す
【11月】
- 2021年3月までに中小企業向けに100億ルピー(約140億円)を融資することを発表
- Paytm MoneyでIPO投資オプションを導入
【12月】
- 中小企業向けの取引手数料を排除
ウェルスマネジメントの新境地を切り開く
投資銀行、ウェルスマネジメント、保険、個人の口座とビジネス口座など、金融のあらゆる部分を統合したアプリを開発したことで、ユーザーがひとつのプラットフォーム上で簡単に操作することを可能にしました。このアプリは最先端のテクノロジーを導入しており、ユーザー目線で開発されています。この金融の民主化こそが2020年のPaytmの最大の武器となりました。
Paytmのようなフィンテックは、投資信託、株式、IPO取引にヒューリスティックなアプローチを提供することで、今日のウェルスマネジメントと投資の意味を変えることに貢献してきました。ユーザーが株式投資をできるようにすることで、インド国民ひとりひとりが経済成長の、そしてIPO投資によって企業の成長促進の一員となることができます。
中小企業部門の強化
Paytmは、非接触決済を可能にするAndroidオールインワンPOSデバイスをローンチしたり、低金利で迅速な融資を受けられるよう支援したりと、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で危機的な状況に直面している中小企業を支援するための取り組みを開始しました。
12月には、加盟店取引のすべての料金を免除することを発表しました。これにより、加盟店はPaytmウォレットからの支払いを受け入れるための手数料を支払う必要がなくなりました。さらに同社は、中小企業が事業を拡大するために使用できる資金を確保するために、MDR(※4)を60億ルピー(約85億円)を緩和すること、『merchant lending programme』 のもとで2021年3月までに100億ルピー(約140億円)の無担保ローンを提供することを目標とすることを発表しました。
インド初のスーパーアプリの今後
Paytmはインド初のスーパーアプリの誕生だとよく言われていますが、その通りです。金融サービスや小規模店舗向けのオンライン・ディスカバリー・プラットフォームから、Eコマースやチケット販売プラットフォームまで、すべてを手がけています。
すでに世界で最も価値のある金融新興企業の1つに数えられているPaytmは、消費者層を広げるために様々な分野に急速に進出しており、インドネシアのGoJekとシンガポールのGrabという世界最大級のスーパーアプリの競合となっています。
2018年10月にSoftBankとYahoo Japanとの合弁事業としてローンチされたPayPayも新型コロナウイルのパンデミックに後押しされ、提携店舗や利用場面がますます増えています。インド発のサービスがこのように日本で需要を伸ばしているのは嬉しく、また、今後このようなケースは増えてくるのではないかと思います。Paytmは今年、株式仲介サービスや保険サービスにも進出したことから、2021年もインド国内のみならず、国外でのあらゆる分野での活躍が期待できそうです。
※1 UPI:Unified Payments Interfaceの略。ひとつのプラットフォーム上でいくつかの金融取引ができる仕組み
※2 アンドロイドオールインワンPOSデバイス:非接触決済を可能にするPOSデバイス。売上や単価などの情報をリアルタイムで管理してくれる
※3 ETF:Exchange Traded Fundsの略。上場投資信託のこと。
※4 MDR:Merchant Discount Rateの略。Paytmの加盟店がPaytmを使用するために銀行に支払わなければいけないコスト
Source:Paytmの2020年の取り組み