Vol.0088 盛り上がる不動産テック、Square Yardsが買収したPropVRとPropsAMCとは?
インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年3月18日付けの報道で、不動産スタートアップの『Square Yards』を取り上げています。
Square Yards、デジタル不動産体験の創造を提供するPropVRを買収
Square Yardsは3月17日に3D技術、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)を用いたデジタル不動産体験の創造を専門とするAIベースのプラットフォームであるPropVRの買収を発表しました。Square Yardsの創業者兼CEOであるTanuj Shori氏は、リリース発表の際に『PropVRによって、顧客、エージェント、不動産開発者のデジタル不動産体験を再定義するだけでなく、長期的には、インドのすべての組織化された不動産のデジタルツイン(※1)を作成することで、構築された世界をデジタル化し、インデックス化したいと考えている。』と述べています。また、同社のポータルサイト上で『ユーザーが3D環境で都市の不動産全体を検索、探索、ナビゲートできる新しい3D体験の提供を開始予定』、『リアルタイムの在庫状況を紹介し、エンド・ツー・エンドの取引を可能にする予定』と新サービスのリリースについて報告しています。
PropVRのAIベースのプラットフォームは、あらゆるフロアプランや物理的スペースを数分でインタラクティブな3Dウォークスルー(※2)に変換することができ、不動産マーケティングの費用を80%削減する一方で、顧客のエンゲージメントレベルを最大400%向上させることができるようです。
先月買収した不動産データ分析スタートアップPropsAMCとは
PropVR社を買収したことで、Square Yards社の直近1年の買収は3回となりました。同社は昨年、インド最大級の賃貸・不動産管理プラットフォームであるAzuroを買収し、続いてPropsAMCを買収しています。
PropsAMCはデータ・インテリジェンス、資産管理、および不動産サービスを提供している不動産データ分析のスタートアップで、不動産関連法規や技術、不動産評価などのサービスを提供するだけでなく、100社以上の顧客のために、SaaS(※3)ベースのプラットフォームで15億ドル相当の不動産資産を管理しています。Square Yardsの創業者兼CEO のShori氏は、買収の発表時に(2021年2月)以下のように述べています。『PropsAMCによって、当社の統合的な不動産エコシステムに、非常にユニークで差別化されたデータインテリジェンスと資産管理の機能を加えることが可能となった。弊社はPropsAMCのデータ機能に多額の投資を行い、インドの主要都市で組織化された不動産プロジェクトのすべての取引(物件の掲載、売却、賃貸、抵当権(※4)設定)をマッピングした、インドの不動産に関する最も包括的な『住宅辞典』の構築を目指している。』
PropsAMCのデータプラットフォームは、100万以上のデータを持ち、取引データ(売買・賃貸)、住宅ローン、土地所有権、土地情報、ゾーニング(※5)、道路幅、建築許可、RERA(※6)の詳細などをGIS(※7)対応のインターフェースで分析し、取引前後のデリジェンスをサポートします。また、PropsAMCは、インドの大手銀行と共同で、デジタルタイトルサーチや不動産の電子評価プラットフォームの試験運用を行っているとのことです。
不動産テックの今後の展望
Square Yardsは、2020年12月期の四半期において、売上総利益が前年同期比13%増の3億2800万ルピー(約4億9450万円)となりました。また、同四半期の総収益は前年同期比12%増の8億9200万ルピー(約13億4500万円)と堅調にビジネスを拡大しています。
世界中の不動産会社の動向として、顧客や関係者が不動産空間を視覚化できるようにするために、莫大な費用と時間を費やしています。ゴールドマン・サックスは、不動産におけるVR(仮想現実)とAR(各超現実)の市場は2025年までに800億ドルに達すると予測しています。
日本でも不動産テックは進んでおり、三井不動産や三菱UFJ不動産などの大手企業も米国Matterport社の3Dウォークスルー技術を使用しています。また、VR内見やAIを活用したオンライン接客サービスを提供しているスタートアップも増えてきているようです。その他にもAIを用いた一戸建て住宅の価格査定サービスを提供する㈱コラビットや、遊休地とユーザーのマッチングサービスを提供する㈱スペースマーケット、中古リノベーション住宅のオンラインマーケットを運営する㈱ツクルバなど、不動産業に変革をもたらす企業がどんどん誕生しています。
ウィズコロナ時代を生き抜くために今後さらに不動産テック業界は競争力が増してくるでしょう。インドでもこれまで以上に革新的な不動産テックが誕生してくると思うので注目していきたいです。
※1 デジタルツイン:リアル(物理)空間にある情報をIoTなどで集め、送信されたデータを元にサイバー(仮想)空間でリアル空間を再現する技術。
※2 3Dウォークスルー:スキャンカメラを使って撮影することで、物件を様々な角度から閲覧することができる画像。実際に室内を内覧して歩いているかのように、バーチャルで画像内の間取りを自由に移動し、物件の様子を確認することができる。
※3 SaaS:Software as a Serviceの略。
※4 抵当権:住宅ローンなどでお金を借りた際に、万が一、借りた人(債務者)が返済できない(債務不履行)場合に土地や建物を担保とする権利のこと。
※5 ゾーニング:空間をテーマや用途に分けて考えること
※6 RERA:Real Estate(Regulation and Development)Actの略。不動産の開発・販売規制に関する法律のこと
※7 GIS:Geographic Information Systemの略。地理情報システムのこと。地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術
本記事で取り上げたスタートアップ一覧
Square Yards:https://www.squareyards.com/bangalore-real-estate
PropVR:https://www.propvr.in/
Azuro:https://www.azuro.in/
PropsAMC:https://propsamc.com/
㈱コラビット:https://collab-it.net/
㈱スペースマーケット:https://spacemarket.co.jp/
㈱ツクルバ:https://tsukuruba.com/
Source:Square Yards、AIベースプラットフォームのPropVRを買収
Square Yards、不動産データ分析のPropsAMCを買収