India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0098 コロナワクチンのラストマイル配送での無駄を減らすBlackfrog Technologies

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年5月7日付けの報道で、ワクチンのラストマイルデリバリー(※1)における無駄を削減するためのソリューションを提供しているBlackfrog Technologiesを取り上げています。

 

ラストマイル配送で無駄になっているワクチンの現状

マニパルを拠点とする設立5年目のBlackfrog Technologiesは、コロナ対策の最前線にいるスタートアップ企業のひとつで、ワクチンのサプライチェーンの効率化強固なコールドチェーンシステム(※2)を確保することを目的としています。

World Health Organization(WHO:世界保健機関)によると、毎年、世界で無駄になっているワクチンの50%以上は、配送時、特にラストマイルデリバリーで発生しているようです。配送時に使えなくなってしまう理由は、温度に敏感なワクチンが温度管理の不備によって熱劣化してしまうからです。コロナウイルスのワクチンやその他のワクチンが有効性と効力を維持するためには、生産地からワクチンを必要としている目的地までの長く複雑な旅に耐えうる強固なコールドチェーンの設備や仕組みが必要となります。

このギャップを埋め、ラストマイルでワクチンを無駄にしないために、BlackFrog Technologiesは、ワクチンやその他の生物学的製品(血清、検体、薬剤など)を安全にラストマイル輸送するためのポータブル温度調節機能付きキャリアであるEmvolioというソリューションの展開について政府関係者と協議しています。

 

ワクチンを熱劣化から守るEmvolioの可能性

Emvolioは、ワクチンのラストマイル配送で使用されている従来のアイスボックスに代わるもので、すでにマニプールビハールカルナタカタミルナドゥの国内4つの州の遠隔地で展開されており、ワクチンが投与されるまでその有効性を維持できるようにしています。これは、コロナウイルスのワクチン、通常のワクチンの両方を、ラストマイル配送において適切な条件で保管・輸送することで実現しています。

Blackfrog Technologiesは、バイオテクノロジー部門のBIRAC(※3)やQualcomm(※4)、インパクトインベストメント(※5)を行っているSocial Alpha(※6)やVenture Centre(※7)からの支援を受け(投調達額は非公開)、3年以上にわたる広範な定性調査を経て、携帯可能なバイオメディカルグレードの冷蔵装置であるEmvolioを開発しました。『我々は、WHOが定めた設計仕様に沿ってEmvolioを設計した。同製品は使いやすく、さまざまな地理的条件の下での動作可能である。インドには砂漠から山岳地帯、沿岸地域まであるため、新製品をテストするには最適だ。同製品はさまざまな環境に適応でき、世界にインパクトを与える可能性を秘めている。』とBlackfrog Technologies の共同創業者兼SEOのMayur  Shetty氏は説明しています。同氏は、アフリカや南アジアのような地域では暑さの問題を、東欧のような凍結が問題となる地域では寒さの問題を、Emvolioで解決できると指摘しています。商業的な観点からは、実験室や病理学的な臨床要求にも展開することを目標としています。

 

Blackfrog Technologiesのこれまでの成果と今後の動き

現在インド国内で取り扱われているコロナウイルス用のワクチンはCovishieldCovaxinの2つがありますが、いずれも凍結に弱く、摂氏2~8度の温度で保管・輸送する必要があります。WHO のPQS E003(※8)の仕様に基づいて設計されたEmvolioは、あらかじめ設定された温度を12時間以上、厳密に維持することができます。

2リットルの容量を持つバッテリー搭載のEmvolioは、標準的な1日がかりの予防接種活動に必要とされている、30~50本のバイアル瓶(※9)を運ぶことができます。

同社は、SELCO財団(※10)とSVYM病院(※11)と共同で、マイソールで2週間にわたって行われた予防接種活動において、1580種類以上のワクチンの有効性を確保し、熱劣化から完全に保護することに成功しました。

また、同社はC-CAMP(※12)にも支援されており、4月にはインド政府の主席科学顧問(Office of the Principal Scientific Adviser)の後押しのもと、HT Parekh Foundation(※13)からCSR支援を受け、アッサムやマニプールなどインド北東部の州にワクチンを届けるためのEmvolioを100台製造・普及させることになりました。この100台は6月中に配備される予定です。

また、Donson D’Souza氏とAshlesh Bhat氏の他の2人の共同創業者が率いるチームは、別のプロジェクトでバンガロールとタミルナドゥ向けにさらに50台の追加作業を行っているようです。

『その先の大規模な調達は、インド政府自身が行うことになるだろう。私たちはそのために政府関係者と協議している。コロナウイルス用のワクチンのみでなく、インドの予防接種プログラム全体が弊社のソリューションで強化されるようにすることが重要』とShetty氏は述べています。加えてShetty氏は、BlackFrog Technologiesにとっての最優先事項は、『人類がこのパンデミックから少しでも早く抜け出すための解決策の小さな一端を担うこと』と、『ラストマイルデリバリー時のワクチンの廃棄による経済的負担を軽減すること』だと述べています。

『アイスボックスの温度管理が不十分なために、無駄になっているワクチンがどれだけあるか、それによるインド政府やその他の国が直面する経済的負担はどのようなものか、多くの証拠がある。このような観点からみると、政府関係者や購買担当者に、なぜこの分野に大きな投資と努力を費やさなければならないかを理解してもらうための数字が揃っているのは確かだ。』と説明しています。

 

インド、コロナワクチンの現状

インドでは5月1日から18歳から44歳の人口を対象に約6億人分のコロナウイルスワクチンを新規提供する予定でしたが、予約受付サイトがアクセス集中で機能しなくなるなどの問題が起こっています。第2波が始まる前にワクチン提供が始まっていたので、当初はインド政府も状況を楽観視して、ワクチンの輸出などを行っていましたが、第2波の今、状況は一変しています。ワクチンの供給が追いついていないのはおろか、これまで承認済みのワクチンを購入できるのは連邦政府のみだったのが、今では州政府に独自調達を認めたばかりか、民間病院にもそれを認めたため、争奪戦状態になり、ワクチンの価格にもばらつきがでています。

インドの45歳以上の国内人口は約4億4000万人で、この全員の接種を終えるにはまだ6億1500万回分のワクチンを必要としています。18~44歳の人口においては6億2200万人が対象となり、それには12億回を超える分量のワクチンが必要ですが、これには廃棄分は含まれていません。どれだけのワクチンが保管やラストマイル配送での管理不足によって廃棄されているかは明らかにされていませんが、本記事で取り上げたBlackFrog Technologiesのようなワクチンをできるだけ効率的に必要としている人のもとに届けるサービスは少なくとも今後重宝されるでしょう。

 

 

※1 ラストマイルデリバリー:顧客へ商品を届ける物流の最後の区間のこと
※2 コールドチェーンシステム:食品、医薬品等の一定の温度管理が必要な商品を、品質の劣化を防ぎながら一貫して適当な温度(低温、冷蔵、冷凍)のまま流通するシステムのこと
※3  BIRAC:Biotechnology Industry Research Assistance Councilの略。インド政府バイオテクノロジー局(DBT)によって設立された非営利の公的機関。新興のバイオテクノロジー企業を強化し、支援するためのインターフェイス機関。
※4  Qualcomm:https://www.qualcomm.com/
※5 インパクトインベストメント:経済的な利益を追求すると同時に、貧困や環境などの社会的な課題に対して解決を図る投資のこと
※6  Social Alpha:https://www.socialalpha.org/
※7  Venture Centre:https://www.venturecenter.co.in/
※8 PQS E003:WHOのワクチンを保冷・冷凍するための機材における規則。
https://apps.who.int/immunization_standards/vaccine_quality/pqs_catalogue/categorypage.aspx?id_cat=17
※9 バイアル瓶:注射剤の容器
※10  SELCO財団:https://www.selcofoundation.org/
※11  SVYM病院:Swami Vivekananda Youth Movementの略。https://svym.org/site/health
※12  C-CAMP:https://www.ccamp.res.in/
※13  HT Parekh Foundation:http://www.htparekhfoundation.com/

 

Source:ワクチンのラストマイル配送の無駄を削減するためのスタートアップ