Vol.0100 ワクチン接種の行方は?インド政府が公開したCoWINオープンAPI
インド政府によって作られたコロナウィルス用のワクチン接種予約プラットフォーム『CoWIN』が、コロナウィルス第2波がピークを迎えている今、波紋を繰り広げています。
コロナワクチン接種予約のプラットフォーム『CoWIN』とは
インドでは数年前から、全国予防接種プログラム(UIP:Universal Immunization Programme)のもと、eVIN(electronic vaccine intelligence network)と呼ばれるワクチン情報システムを使用しており、ワクチンの在庫、供給状況、温度変化などの情報をリアルタイムに提供してきました。CoWINは基本的にeVINを拡張したもので、インドにおけるコロナワクチン接種の計画、実施、モニタリング、評価を行うためのクラウドベースのITソリューションです。
インドでは今年1月16日にコロナワクチン接種活動が事実的に開始され、同日にCoWINの発表がありました。
CoWINのAPIを利用してインド人ITエンジニアが通知サービスを次々にローンチ
5月1日より、18歳以上のすべての人を対象としたコロナワクチンの第3期接種が開始されましたが、このフェーズでは、18歳以上の人はまずCoWINポータルに登録し、その後希望する接種センターで接種枠を予約する必要があります。
CoWINポータルへの登録は、番号を入力してワンタイムパスワードを入力するだけの簡単なステップで完了しますが、ワクチン接種の予約は、需要と供給の間に大きなギャップがあるため、難しい課題となっています。というのも、18歳以上の人口にワクチン接種を開放したにもかかわらず、ワクチン不足のために多くのセンターが閉鎖したり、45歳以上の人口を優先しているセンターがほとんどなのです。そして、あらゆる情報が錯綜し、18~44歳の人口は不安を募らせています。さらに、CoWINのプラットフォーム上では予約枠の空き情報を通知してくれるシステムがないため、早くワクチンを接種したい18~44歳の層はCoWINの前に居座り、ポータルをリフレッシュし続け、空きを見つけた瞬間に予約登録をしなければならない、という運任せ、あるいは早い者勝ちのゲームに参加しなければいけないのです。
何故この政府公式アプリに通知機能が搭載されていないのか疑問視されていますが、インド政府は4月28日にCoWINのAPI(※1)を公開しました。そのことによって第三者が予防接種センター、地区リスト、予防接種の予約などの情報にアクセスすることが可能になりました。これを利用して、インドのITエンジニアたちは予約に空きがでるとリアルタイムで通知を出すサービスを作りはじめました。本記事では予約枠の空きを知らせてくれるサービスをいくつか紹介したいと思います。
※1 API:Application Programming Interfaceの略。ソフトウェアやアプリケーションなどの一部を外部に向けて公開することにより、第三者が開発したソフトウェアと機能を共有できるようにするもの。
Paytmがモバイルアプリにワクチンファインダーを統合
日本のスマホ決済サービス「PayPay」に使われているQRコードの技術開発元としても知られ、また、デジタル金融サービスのユニコーンスタートアップであるPaytmは5月7日に、コロナワクチンファインダーの提供を開始したことを発表しました。同サービスでは、国民が特定の日のワクチン接種枠の空き状況を確認できたり、スロットに空きが出るとリアルタイムで通知を受け取ることが出来ます。
同プラットフォーム上の「Mini App Store」をスクロールダウンし、「Vaccine Finder」のリンクから情報を入力することで同サービスを利用することが出来ます。
Source:Paytmがワクチンファインダーを統合
Paytm:https://paytm.com/
農村部をターゲットにCoWINでのワクチン予約を支援するRaiPay、Spice Money、BANKIT
CoWINを通してのワクチン予約はデジタルに疎い農村部の国民に対する差別であるという議論がなされています。実際にインド農村部でのインターネット使用率は34.6%というデータがあり、農村部の多くの人にとって自らCoWINにログインし、予約枠を見つけて予約することは至難の業です。
そこに目を付けたのがフィンテックスタートアップのRaiPay、Spice Money、BANKITです。
RaiPayはB2Bアプリで、小売店などの加盟店から50万以上のインストール実績があります。インターネットを使用していない農村部の人たちはRaiPayを利用している加盟店に行き、その加盟店のRaiPaiのプラットフォームを通じてCoWINサイトにリダイレクトし接種予約や、情報を入手することが出来ます。
Spice Moneyは農村部をターゲットに活動しているフィンテックスタートアップです。同社のパートナーであるSpice Money Adhikarisは農村部を中心に銀行取引サービスを行っており、インド農村部の95%の地域をカバーしています。Spice Money Adhikarisを通してワクチンの最新情報を農村部の人口に伝えることで、通常新サービスの情報伝達やアクセスが遅れてしまう層へ、ワクチン情報をいち早く届けることを可能にしています。また、Spice Money AdhikarisはThe Digital Dukaansというサービスをローンチし、コロナワクチン予約に関するヘルプセンターの役割を担っています。
BANKITはTier2(※2)やTier3(※3)地域のインターネットに詳しくない人たちや、コロナワクチンの予約プロセスを知らない人向けの予約支援サービスを行っています。BANKITのアプリを導入している店舗に行くことで、代わりに予約をしてくれます。同社はこのサービスを通じて、220万人以上の農村部の人々の予約支援をすることを目標にしています。
Source:CoWINのデジタルデバイドにおける懸念点
RaiPaiが農村部のワクチン接種予約を支援
Spice Moneyがコロナワクチン予約のヘルプセンターに
BANKITがTier2、Tier3の人口のワクチン予約を支援
RaiPay:www.rapipay.com
Spice Money:www.spicemoney.com
BANKIT:www.bankit.in
※2 Tier2:人口5万人~10万人未満の地域
※3 Tier3:人口2万人~5万人未満の地域
Telegramに予約枠の通知が届くUnder45.in
Under45.inはチェンナイ在住のプログラマーBerty Thomas氏が始めたサービスで、18歳~44歳の人口がコロナワクチンの予約の空きを探すのに貢献しています。ユーザーは自分の住む州と地区を入力することで、その地域専用のTelegramチャンネルに誘導されます。そしてその地域での予約に空きが出るとTelegramメッセージングアプリに通知が来る仕組みになっているようです。Berty氏は現時点で50以上の地区や都市に対応したコロナワクチンTelegramチャンネルを持っているようです。
Source:Telegramにワクチン接種の空き情報が届くサービスUnder45.in
Under45.in:https://under45.in/
ヘルステックスタートアップのHealthifyMeがVaccinateme.inをローンチ
バンガロールを拠点とするヘルステックスタートアップのHealthifyMeがコロナワクチンのスロット情報を教えてくれるVaccinateme.inをローンチしました。このサービスは、年齢、場所、ワクチンの種類(CovishieldまたはCovaxin)のフィルターが付いており、携帯電話番号やメールアドレスを入力することで、スロットに空きが出るとWhatsAppの通知でユーザーにお知らせしてくれます。
Source:WhatsAppでスロットの空きを教えてくれるVaccinateme.in
Vaccinateme.in:www.vaccinateme.in
インド政府モバイルアプリのAarogya Setuでもワクチン予約登録可能
Aarogya Setuはインド政府が提供するモバイルアプリで、コロナウイルスとの戦いを共にするインドの人々と、必要な医療サービスを繋いでいます。Aarogya Setuのプラットフォーム上でCoWINタブにアクセスすると「ワクチン情報」「予防接種」「予防接種証明書」「予防接種ダッシュボード」という4つのオプションが表示されます。「ワクチン接種」タブをタップし、「今すぐ登録」を選択すると、CoWINワクチン登録と同じ手順で登録が行えるようです。
Aarogya Setuアプリでは最大4名まで登録できるという点が、他のサービスと一線を画しています。
Source:Aarogya Setuを使ってコロナワクチンの接種予約
Aarogya Setu:https://www.aarogyasetu.gov.in/
このようにワクチンの空き状況を知らせてくれるサービスはこの1カ月足らずで数多くローンチされ、国民のワクチン予約の手助けをしています。しかし、最終的に予約を完了するためにはCoWINのサイトにアクセスする必要があるため、予約枠の空き情報の通知後すぐにCoWINサイトにアクセスをしても、既に予約が埋まってしまっているというケースがほとんどのようです。
CoWINプラットフォーム自体も5月8日にエラーを抑えるための対策として4桁のセキュリティコードの導入や、17日にはヒンドゥー語と14の地域言語に対応言語を増やす発表をするなどシステムの改善を続けています。ワクチン予約枠の争奪戦による国民のストレスを軽減するためにも、予約プロセスの効率化や改善も期待したいです。
Source:CoWINプラットフォームに4桁のセキュリティコードを導入
CoWINでの対応言語拡大