NEWS LETTER VOL.17 源泉所得税TDS四半期申告の期限と延滞税
- 第一章:おばあちゃんにもわかる債務超過 ③
- 第二章:源泉所得税TDS四半期申告の期限と延滞税
Chapter.01第一章 : おばあちゃんにもわかる債務超過 ③
以上は、市井のありふれた日常会話です。
おばあちゃんは、何がたいへんだかわからないままに、さらにはうんちくを披露した孫も、具体的に何がまずいのかわからないままに、切迫感が伝わったことに満足して会話は終わります。
しかし、以前より申し上げているように、物事のそもそものルールを知らない純粋なハートをもった方々は、時にあらぬ方角からの質問を投げかけてくることがあります。
ドキッとした孫が 「話は長くなるけど複式簿記っていうのがあってね。」 などと、そういう時によく新聞等で引用される無機質なバランスシート(貸借対照表)を広げ始めたら、もうコミュニケーションはアウトです。
それをぐっとこらえて、こう言うべきではないでしょうか。
そのあとで孫は、読者を哲学の世界に引き込んでいく経済学者風に、ちょっと変わった掟破りのバランスシートを提示してみます。
Chapter.02第二章:源泉所得税TDS四半期申告の期限と延滞税
前回はインドの源泉税であるTDSの控除証明であるForm16やForm16Aの概要についてご紹介しましたが、今回はForm16やForm16Aで記載すべき項目の詳細および事例についてご紹介します。Form 16やForm16AにはTDSの四半期申告においてForm24Q, 26Q, 27Qなどで申告した内容が反映されます。なおForm 26ASに表示される項目はForm 16やForm 16Aとほぼ同じため、説明は省略します。
※Form 24Q、Form26QとForm 27Qの詳細は過去のニュースレターNEWS LETTER VOL.14「源泉所得税TDSの四半期申告の概要と入力項目」をご参照ください。
前回同様、源泉徴収の義務を負う者のことを「源泉徴収義務者」、源泉徴収を受ける者のことを「納税者」と呼びます。
1.Form 16に表示される項目
Form 16 はPart AとPart Bの2つのパートから構成されています。
Part Aは各四半期毎に控除されたTDS総額に関する情報で、具体的には以下の情報が表示されます。
- 納税者(従業員)の氏名と住所
- 源泉徴収義務者(雇用主)の氏名と住所
- 納税者のPAN番号
- 源泉徴収義務者のPAN番号とTAN番号
- 対象年度
- 対象年度の中で源泉徴収義務者に雇われていた期間
- 四半期毎の、支払われた給与額
- 四半期毎の、源泉徴収されたTDS金額
Part Bは給与の詳細に関する情報で、具体的には以下の情報が表示されます。
- 年間給与総額(Part Aに表示されている情報と一致しています)
- 住宅手当などの各種手当の金額
- 基礎控除などを始めとする控除の金額
- 課税所得の金額
- 所得税額
2.Form 16Aに表示される項目
Form 16Aに は下記の情報が表示されます。
- 納税者の氏名と住所
- 源泉徴収義務者の氏名と住所
- 納税者のPAN番号
- 源泉徴収義務者のPAN番号とTAN番号
- 対象年度・期間
- 四半期毎の、源泉徴収義務者から納税者へ支払われた金額
- 四半期毎の、源泉徴収されたTDS金額
3.Form 16とForm 16Aの送付
源泉徴収義務者は、TDS申告額と会計帳簿の額が一致していることを確認したうえで、前述のTDS四半期申告を適切に実施し、納税者に対してForm 16またはForm16Aを送付する義務があります。
Form 16は年に1回、対象年度の翌年度5月31日までに、Form 16Aは四半期に1度、四半期申告後15日以内に納税者へ送付する必要があります。なお、源泉徴収義務者から送付されたForm 16またはForm 16Aについて認識に齟齬がある場合には、納税者が源泉徴収義務者と協議することとなり、必要に応じて修正を依頼する、などの対応も必要です。
事例:源泉徴収義務者がTDSを控除したのに納税していなかったケース
2021年1月31日、日系企業のX社は顧客のY社に10,000ルピーでプロフェッショナルサービスを提供し、Y社からの支払を受けました。支払時、Y社は7.5%のTDSを控除して9,250ルピーをX社に支払いましたが、控除したTDSの750ルピーを納税せず、四半期申告もしていませんでした。
従って、Y社からX社へはForm 16Aが発行されず、X社のForm 26ASにも当該TDSが反映されていませんでしたが、X社はそれに気がつかないまま、2021年9月末に2021年3月期の法人税申告を完了してしまいました。なぜX社がY社によるTDS未納を見逃してしまったのかというと、X社のForm 26ASに表示されているTDSの金額が会計帳簿と一致しているかを確認していなかったためです。
X社は、TDSの控除を受けると、控除されたTDSの金額を” TDS Receivable(資産)” という勘定科目で記帳していましたが、TDS Receivableの残高がForm 16AやForm 26ASの金額と一致しているかどうかを確認していなかったため、Y社による納税漏れに気がつくことができませんでした。通常であれば法人税申告前に監査人が気がつくはずですが、監査人も見逃したまま監査報告書にサインをしてしまいました。
X社は、法人税申告後の2021年12月に実施された日本の本社による内部監査によって初めてTDS未納に気がついたため、Y社に対してTDS 750ルピーの返金を請求しました。TDSの控除は源泉徴収義務者に課されているため、X社には税務上は何らペナルティーはありませんが、控除されたTDSが納税されていないことに気がつかないと、未払法人税額を納付済TDS金額と相殺することができず、必要以上に法人税を払ってしまうリスクがあります。
源泉徴収義務者からスムーズに未納のTDSを返金してもらえれば損失はありませんが、取引先とのやり取りや未納TDS金額の特定に工数がかかってしまう可能性があるため、TDS Receivableの金額をForm 26ASやForm 16Aと照合し、不一致の場合には源泉徴収義務者に対して納税を促すことが重要です。
なお帳簿のTDS receivable残高とForm 26ASやForm 16Aの金額をスムーズに照合するため、TDS Receivableの残高は取引先別、年度別に管理することをお勧めします。
TDS控除証明フォームForm16, Form16Aの注意事項
源泉徴収義務者は、TDS申告額と会計帳簿の額が一致していることを確認したうえでTDSの四半期申告を適切に実施し、Form 16とForm16Aを納税者に送付することが重要です。
納税者は、Form 16やForm 16Aに表示されている金額が会計帳簿のTDS Receivableの金額と一致していることを確認することが重要です。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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