NEWS LETTER VOL.24 給与所得者の個人所得税の概要
- 序章
- 本章:給与所得者の個人所得税の概要
Chapter.01序章
この時期、冷房も暖房もつけずに、毛布を鼻までかぶってぐっすり眠るというのは、ここバンガロール生活の醍醐味ですね。それでは、新年の本章「インド企業の給与の仕組み」に入る前に、茶飲み話を少しだけ。
ハードシップ手当
日本人が「インド・給与・手当」等のキーワードからまず連想するのが、支給額相場のもっとも高い国の代表格とインドが言われて久しい、ハードシップ手当ではないでしょうか。
ハードシップ手当とは、企業が海外赴任する職員に対して支給する手当のひとつで、「生活の困難さ」への補償、言い換えれば生活する上での快適さや安全性が欠落している度合いに応じて、職員に対しておこなう補償ですが、なかなか各国の生計費指数のように、その「困難さ」度合いを客観的にはとらえられるものではありません。
いわゆる先進国(※)への赴任には支給されないというのが一般的のようですが、それ以外の国や地域ごとに、それぞれの企業の基準にしたがって、手当の有無および高低が設定されています。
※ “先進国”の世界共通の明確な定義はないものの、日本の内閣府では「OECD(経済開発協力機構)加盟国」を先進国としている。
ラッキーにも。。
インドの印象といえば、まだまだ、「大嫌いになってしまうか、大好きになってしまうか、そのどちらかだ」などと表現され、まるで伊豆諸島名産のくさやのような言われようですが、生活する上では、そんな好き嫌いのはざまで、心を高揚あるいは疲弊させていく必要はどこにもなく、極めて淡々としていればよいのであります。
ちなみに筆者の初インド赴任時の個人的体験でいえば、それまである島国の山奥の工事現場暮らしをしていたこともあり、ニューデリーの巨大ショッピングモールそばのオフィスに配属された時は、魅惑のフードコート、おしゃれなケーキ屋、快適で清潔な映画館、最新鋭の会員制ジムなどが揃っている環境に、ここは天国かと思いました。
しかしそんな感情もまた相対的かつ刹那的なものであって、腰を据えて生活するうちに自然と収まっていきます。
ハードシップ手当の話を絡めると、当時、その山奥工事現場向けのハードシップ手当と、ニューデリー向けのハードシップ手当が同額(いずれも社内最高額)だったんですね。
とてもラッキーだと思いました(そしてその思いは、本社人事部にわざわざ伝えたりはせずに、心に秘めることにしました。)。
東京はハード?
世界一多くのミシュランの星を獲得し続ける美食都市、東京は、いろいろな生活指標(例:犯罪の少ない都市ランキング、公共交通が充実している都市ランキング)でも世界10位以内に入ることが多く、とても住みやすいという印象を世界に与えています。
そんな東京でも、外国人の自国からの赴任時にハードシップ手当が支給されたことがありました。2011年東日本大震災直後の危険手当です。
公式記録に残っているものでは、米国から派遣された各機関の文官たち(軍人および米軍基地所属の文官を除く)に対して、福島の第一原発からの直線距離に基づいて、東京を含む主要都市の危険手当額がそれぞれ設定され、米政府が補償したもの等があります。
そもそも震災後、「日本からの退避勧告」を発令した国は14か国にも上ったことから、多くの駐在員が日本から一時退去した事は想像に難くありません。もう手当支給どころではなかったわけです。
さて、インドのハードシップ手当は、コロナ禍を越え、さらに上がっていくのか、それとも下がっていくのか。
さて、本筋から逸れる前に、インド企業の給与の仕組みのお話に入っていきます。
Chapter.02本章:給与所得者の個人所得税の概要
今回は給与所得者の個人所得税についてご紹介します。給与所得者の個人所得税については、雇用主から支払われる際にTDSとして源泉徴収されます。
1.給与(Salary)とは
“Salary”は所得税法(Income-Tax Act, 1961)第17条においてに下記の通り定義されています。
- 賃金(Wages)
- 年金(Annuity or Pension)
- 退職金(Gratuity)
- 賃金に追加して、または賃金の代わりに支払われる報酬、手数料、みなし給与または利益(fees, commission, perquisites or profits)
- 前払の給料(any advance of salary)
- 従業員が取得しなかった休暇に関連して受け取った支払い(any payment received by an employee in respect of any period of leave not availed of by him)
2.給与のTDS概要
SalaryのTDSとは、基本的には、給与を従業員の口座に振り込む際に、雇用主が税金を差し引くことを意味します。
従業員の口座から差し引かれた金額は、雇用主によって政府へ納税されます。
雇用主は、従業員の給与から源泉税を差し引く前にTAN登録を取得する必要があります。
TAN番号(Tax Deduction and Collection Account Number)とは、基本的に10桁の英数字で、税務当局によるTDSの控除や送金を追跡するために使用されます。
3.給与TDS計算の概要
入社時の雇用契約書に提示される給与総額(CTC:Cost to Company)には、
- 基本給
- 出張手当
- 家賃手当
- 医療手当
- 親孝行手当(Dearness Allowance)
- 特別手当
- その他の手当
などが含まれます。
入社時の給与総額は、大きく分けて給与(Salary)とみなし給与(perquisites)の2つに分けられます。
みなし給与とは、旅費、食堂代、ホテル代、会社負担分所得税など、従業員が便益を享受した支出に対する雇用主の負担分です。
FY2021-22(AY2022-23)の場合
前年度の年齢が60歳未満の個人 | |
課税所得 | 所得税率 |
INR 250,000 以下 | – |
INR 250,000 超
INR 500,000 以下 |
5% |
INR 500,000 超
INR 1,000,000 以下 |
20% |
INR 10,00,000超 | 30% |
前年度の年齢が60歳以上80歳未満の個人 | |
課税所得 | 所得税率 |
INR 3,00,000 以下 | – |
INR 3,00,000 超
INR 5,00,000 以下 |
5% |
INR 5,00,000 超
INR 10,00,000 以下 |
20% |
INR 10,00,000超 | 30% |
前年度の年齢が80歳以上の個人 | |
課税所得 | 所得税率 |
INR 5,00,000 以下 | – |
INR 5,00,000 超
INR 10,00,000 以下 |
20% |
INR 10,00,000超 | 30% |
Add : 付加税(Surcharge)
課税所得 | 付加税率 |
INR 5,000,000 超
INR 10,000,000 以下 |
10% |
INR 10,000,000 超
INR 20,000,000 以下 |
15% |
INR 20,000,000 超
INR 50,000,000 以下 |
25% |
INR 50,000,000 超
INR 100,000,000 以下 |
37% |
INR 10 Crores超 | 37% |
健康教育目的税加算
所得税と付加税に対して4%の健康教育税が加算されます。
4.給与の所得税計算項目
課税所得は以下の計算式で計算されます。
- Basic Salary + Allowances = Gross Income
- Gross Income + Perquisites = Total Income
- Total Income – Allowable Deductions = Taxable Income
従業員へ直接現金支給される給与金額がGross Incomeとなります。
Gross Incomeのうち一部がBasic Salaryとなり、残りの金額が手当(Allowance)となります。
Allowanceについては一部が所得税免除となるため、Gross Incomeの全額をBasic Salaryとするよりも、Basic SalaryとAllowanceに分けた方が所得税を抑えることができます。
一方、会社が従業員の家賃を大家へ直接支払う場合など、従業員への現金支給以外の課税所得がPerquisitesとなります。
Gross IncomeにPerquisitesを合計して算出したTotal Incomeから控除項目を差し引いた金額が課税所得(Taxable Income)となり、課税所得に税率を乗じて個人所得税を計算します。
5.主な手当項目
1. 家賃手当(House Rent Allowance)
下記の金額のうち低い金額をHRAとして申告することができます。
- Ⅰ 雇用主から受け取ったHRAの全額
- Ⅱ 家賃から給与(基本給+ Dearness Allowance)を減じた金額
- Ⅲ 給与(基本給+ Dearness Allowance)の40%(非メトロゾーン)
- Ⅳ 給与(基本給+ Dearness Allowance)の50%(メトロゾーン)
HRAを請求するための証明として家賃の領収書を雇用主に提出することができない場合には、所得税は免除されません。従って、家賃の領収書は保管するようにしておいてください。
※メトロゾーンとは、ムンバイやデリー、コルカタ、チェンナイ、バンガロール等の主要都市を指します。
2. 休暇旅費手当(Leave Travel Allowance (LTA))
3. 携帯電話手当(Mobile reimbursement)
4. 書籍と定期刊行物購入手当(Books and Periodicals)
5. 食事手当(Food coupons)
6. 引越手当(Relocation allowance)
7. 子ども手当(Children Allowances)
6.Perquisites(みなし給与)
従業員に直接支給される現金の他に、会社が従業員のために負担した金額がPerquisites(みなし給与)として従業員の課税所得に含まれます。
日系企業で最も多い例としては、駐在員のインドでの所得税です。
駐在する場合、日本では所得税がかからずインドのみで所得税がかかるケースが一般的ですが、日本とインドとでは所得税率が異なるため、インドでの所得税を従業員負担としてしまうと日本勤務の従業員との間で公平性が損なわれてしまいます。
そこで、日本に勤務していたら発生していたであろう所得税額を「みなし所得税」として駐在員の給与から減額する代わりに、インドで発生する所得税については全額会社負担とするケースが多いです。
この場合、会社が従業員のために負担した所得税は雇用主が従業員のために負担した費用となるため、インドの所得税に含めなければなりません。
これをグロスアップ計算といいます。グロスアップ計算をして所得税額が増えると(会社が従業員のために負担する所得税が増えるため)更に従業員のPerquisitesが増額し、再度グロスアップ計算が必要になる・・・という無限ループで所得税が大幅に増額します。
この事態を避けるため、所得税法(Income Tax Act)Section 10CCに関連するHigh Court Rulingにおいて、グロスアップ計算は1回のみで良いとされています。
但しその場合には、会社側で当該Perquisitesを損金算入にすることができません。
このように、会社が給与以外で従業員のために負担した費用がPerquisitesとなりますが、下記のPerquisitesについては従業員の課税所得に含めなくて良いこととされています。
- 業務に関連する車代(Cab facility transport provided by employer)
- 雇用主が提供する健康クラブの費用(Health club facility provided by employer)
- 雇用主からの贈答品(Gifts or vouchers provided by employer)
- 従業員に提供されたインド国外での医療費(Medical expenditure incurred outside India on employee)
7.主な控除項目
1. 基礎控除(Standard Deduction)
全ての給与所得者は50,000ルピーの基礎控除を受けることができます(2018年度は40,000ルピーでしたが、2019年度から50,000ルピーとなりました)。
2. Section 80C控除
Section 80Cは最も有名な控除項目で、政府が指定する下記の投資または支出について年間15万ルピーを控除することができます。
- 生命保険の掛金Life insurance premium
- 企業年金(Employee Provident Fund (EPF))
- 住宅ローンの元本の支払(Principal payment on home loans)
- 子どもの学費(Tuition fees for children)
- 定期預金Fixed Deposit (Tax Savings)
- 郵便局の定額預金Post office time deposits
- 国の年金制度National Pension Scheme
3. 医療費および医療保険Medical Expenditure and Insurance Premium (Section 80D)
4. 住宅ローン利息Interest on Home Loan (Section 80C and Section 24)
5. 高等教育の学資ローンDeduction for Loan for Higher Studies (Section 80E)
6. 寄付Donations (Section 80G)
7. 普通預金利息Deduction on Savings Account Interest (Section 80TTA)
8. 住宅ローン利息Interest on Home Loan (Section 80EE)
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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