NEWS LETTER VOL.25 監査費用交渉時の注意事項
- 序章:「下から読み」のススメ?
- 本章:監査費用交渉時の注意事項
Chapter.01序章:「下から読み」のススメ?
以前、インド国内便の機内で日本の文庫本を読んでいるとき、隣席の熟年インド人男性に、「お前のその文字は、下から読み上げるのか、それとも上から読み下げるのか。」とちょっと居丈高に問われ、「あまりに不躾だ。からかう気なのか。」と憤慨したことがありました。
後で調べると、書字方向が縦の国は世界的にも珍しいようで、熟年インド人男性の素朴な疑問だったことがわかりました。
書字方向とは全く別の話ですが、『決算書は「下」から読む、が正解!』 (前川修満 著 SB新書) という書籍があります。
ある意味においては、作り手目線でつくられているともいえる財務諸表は、下から読む(最終ページから読むという意味ではなく、それぞれの表の総計や、各項目の小計等から、推論を組み立てていき、全体の状況を判断する)ことを薦める内容なのですが、もっともなことです。
今月の当コラムの本章は、会計監査に関しての続編となっていますが、監査の結果として出来上がる監査報告書も、とくに起承転結に満ちた構成になっているわけではないので、クライマックスを期待して1ページ目から最終ページ目まで読み進めていく必要は全くなく、読む人にとって重要な情報をうまく釣り上げていくことこそが肝要だと言えます。
さらに全く別の話になりますが、落ち着きのない性格かつ、読書のスピードが遅い筆者(序章担当)は、ある程度長いコラム等に遭遇して「面倒だなー」と感じた時は、まず、一番下の段落から読んでしまい、わけもわからぬまま、一応「読んだ気」になっておいてから、そこから逆さ読みしていったり、今度は上から読み下げていったり、上往下往しているうちに気づいたら全部を読み終えている、という不埒な方法をとっています。
そして仕上げにざっと上から総括読みしてシメます。
心理的なごまかしにすぎないのですが、有効な人には有効かもしれません。
本章が佳境に迫る、結構下の方の内容が一番重要であるのは、まさにこの厳選コラムがそうですので、ぜひ毎月、上はトバしてでも最後の方から読んでいただきたいと思います。
Chapter.02本章:監査費用交渉時の注意事項
日本では非上場企業には監査を受ける義務はありませんが、インドでは全ての企業が監査を受ける必要があります。
今回は、監査人と監査費用を交渉する際の注意事項をご紹介します。
1.必要な項目が網羅されているかどうか
新しい監査人から見積を取得する際、会社に必要な項目が全て網羅されている見積となっているかどうかを確認する必要があります。
最低限の項目のみ記載された見積に基づいて監査契約を締結し、後から「このコンプライアンスも必要です」と言って追加の見積が送付される場合があります。
もちろん、監査人には監査単体のみ依頼し、税務監査や税務申告は他の勅許会計士に依頼することも可能ではありますが、他の会計士へ依頼すると更に値段が高くなってしまうケースが多いので注意が必要です。
なぜなら、監査人は監査を通じて会社の帳簿や帳票をチェックし、その結果に基づいて税務申告や税務監査を行うことができますが、監査人とは別の会計士に税務監査や税務申告を依頼する場合には、その会計士が改めて会社の帳簿や帳票をチェックしなければならなくなるためです。
従って、監査契約後に追加の費用が増加して当初の予算を超過してしまうリスクを防ぐためには、最初の見積取得時に必要な項目が全て含まれているかどうかを確認することが重要です。
監査人の見積に含まれているかどうかをチェックすべき項目は下記のとおりです(2022年1月時点)。
必要な手続 | 適用対象 |
期末監査(Statutory Audit) | 全ての企業 |
税務申告(Income Tax Return) | 全ての企業 |
中間監査(Interim Audit) | 期末監査を早期に完了する必要がある企業(主に日本本社が上場企業の場合で、4月中に期末監査を終了させる必要がある場合) |
移転価格証明書(Form 3CEB) | 関連者間の国際取引または特定国内取引がある場合 |
移転価格税制対応のためのマスターファイル (Form 3CEAA) Part A |
関連者間の国際取引または特定国内取引がある場合 |
移転価格税制対応のためのマスターファイル (Form 3CEAA) Part B |
関連者間の国際取引があり、グループの連結売上が50億ルピー超であり、かつ国際取引の金額が500万ルピー超または無形資産関連取引が100万ルピー超の企業 |
移転価格レポート(TP Study Report) | 関連者間の国際取引が1000万ルピー超 |
税務監査(Tax Audit) | 売上が1000万ルピー超 |
GST監査(GST Audit) | 売上が5000万ルピー以上 |
2.中間監査の見積に関する注意事項
新しい監査人から見積を取得する場合、会社から依頼しない限りは監査費用の見積には中間監査が含まれていないことが一般的です。
監査見積を取得して社内の予算枠を確保したあと、監査人と監査スケジュールを調整する段階になってから、中間監査をしなければ期末監査が本社の希望日までに完了しないことが発覚し、監査人に中間監査を依頼すると年間の監査費用合計が予算枠を超えてしまいます。
例えば年間監査費用が60万ルピーで、中間監査を1月末に実施する場合、「中間監査は4月~1月の10か月分、期末監査は2月・3月の2か月分なのだから、中間監査の費用は50万ルピー、期末監査の費用は10万ルピーという内訳になるのではないですか?」という質問を受けることがありますが、以下の理由によりそうはなりません。
1.BS科目は中間監査と期末監査の2回確認が必要になる
確かに、旅費交通費や外注費、売上などのPL項目の帳票類確認については、4月~1月分を中間監査に実施しておけば、期末監査では2月~3月分のみ確認すれば良いため、期末監査における監査人の作業は少なくなります。
しかしながら、現預金や棚卸資産、固定資産残高などのBS科目の確認については、中間監査で実施したからといって期末監査での確認を省略してよいわけではなく、3月末の期末残高を監査する作業は中間監査を実施しても基本的には変わりません(残高確認状の送付省略など、一部手続きを軽減することは可能です)。
また固定資産の減損や棚卸資産の低価法評価など、期末決算独自の監査項目については中間監査の実施有無に拘らず期末監査での負担は変わりません。
2. 会社法準拠の財務諸表の作成と監査が2回必要になる
毎月の月次決算では各社が独自のフォーマットで作成するのが一般的ですが、期末決算ではインドの会社法に定められた事項を網羅したフォーマットで財務諸表を作成しなければなりません。
このフォーマットは開示事項などの項目が多数あり、社内の月次報告書を作成するのに比べると大幅に時間がかかります。
作成にも4~5営業日を要しますが、監査にも時間がかかります。中間監査を実施する場合は、中間と期末の両方とも会社法準拠の財務諸表の作成と監査が必要となるため、その分だけ年間合計の監査費用は高くなってしまいます。
「期末監査では法律に基づいて会社法準拠の財務諸表を作成しなければならないが、中間監査は社内手続きに過ぎないので、会社法準拠の財務諸表の作成と監査までは求めていません。中間監査では社内の月次報告書と帳簿だけ監査してもらえば十分なので、その分だけ監査費用を値下げしてもらうことはできませんか?」と質問を受けることがありませんが、残念ながらその対応は難しいことが一般的です。
なぜなら、社内の報告書や帳簿が会社法監査で定められた開示項目を全て網羅している保証はなく、また分類が異なる可能性もあるためです。
一部でも項目の抜け漏れがある場合、その項目に虚偽表示が発生している可能性は否定できないため、監査人は結局期末監査で4月から3月までの1年分の項目をやり直さなければならなくなります。
中間監査でも会社法準拠の財務諸表を作成・監査しておけば、期末監査では1月分までの帳票類の監査は省略し、1月末と3月末の差分のみ監査して早期に期末監査を終了させることが可能になります。
上述の理由により、中間監査を実施したからと言って期末監査の工数が全て軽減されるわけではないので、中間監査を実施した場合には年間トータルの監査費用が1.5倍くらいに増加してしまう可能性がある点に留意が必要です。
例えば年間監査費用が60万ルピーで、中間監査を1月末に実施する場合、中間監査は40万ルピー、期末監査は50万ルピーくらいが目安になるかと思います(会社の規模や監査法人によって異なるため、一概には言えない点に留意が必要です)。
3.Out of Pocket Expenseの請求に関する注意事項
大手の監査法人を中心に、監査終了後の請求書に”Out of Pocket Expense”という項目が記載されているケースがあります。
これは、特定の顧客に紐づく実費精算とは限らず、全ての企業の監査に費やした印刷代や交通費、通信費などの実費を、クライアント別の監査報酬で按分して請求するケースがあります。
監査報酬の4~5%であることが一般的ですが、領収書が出てくるわけでもなく、かつ事前に金額の連絡があるわけでもなく、請求の段階になって突然載ってくる金額のため、トラブルになるケースがあります。
監査人によって、請求するケースと請求しないケースがありますので、最初の見積取得時にOut of Pocket Expenseが請求されるのかどうか、請求される場合にどのような計算・根拠に基づくものか等を確認しておくことで未然にトラブルを防ぐことができます。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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