【世界一やさしい】インドの源泉所得税(TDS)を徹底解説!
インドの源泉所得税(TDS)を徹底解説!
今回はインドの源泉所得税TDSについて徹底解説していきたいと思います。
インド進出を考える企業様にとって、もっとも重要かつ避けて通れないリスクがインドの税制度です。ジェトロが実施した「2023年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」においても、インドでは「税制・政務手続きの煩雑さ」がもっとも高い投資環境上のリスクとして認識しているという結果が出ています。事実、TDSの仕組みを理解していなかったがために、取引先とのトラブルに巻き込まれたであったり、多額の損失を被った、こういった企業をこれまでたくさん見てきました。
そこで、本日はTDSの基本的な仕組みや計算方法、申告期限、そして、日印租税条約の観点から理解しておくべき重要なポイントについて解説したいと思います。今回の動画を見ていただくことで、取引先に対してインドの税制を踏まえた積極的な提案ができるようになり、また、TDS課税による事業リスクを最小化できるようになります。
インドの源泉所得税・TDSは、インドに進出する日本企業にとっていちばん最初に理解すべき重要な税制です。なぜなら、日本の源泉所得税と違って課税対象となる取引の範囲がむちゃくちゃ広いからです。まだ売上もたっていないインド事業の立ち上げ初期フェーズであっても、従業員の給与、オフィスの家賃、車のレンタカー代、経理業務や人材紹介などの外注費などいろんな費用が最初から発生しますよね。インドでは基本的にこれらすべての支払ひとつひとつにTDSが課税されるんですけど、一方で免税基準があったり、軽減税率があったり、例外的な対応を求められるケースも多くて戸惑う方が多いからです。今回の動画では、その全貌をひとつひとつ分かりやすく解説していきたいと思います。それではいってみましょう!
TDSの基本概念
TDSとは、Tax Deducted at Sourceを略した言葉ですが、企業が個人や取引先に支払いを行う際に、所得税を源泉徴収し、支払先の代わりに所得税を前払する制度です。
もっとも分かりやすい例は、従業員に支払われる給与から天引きされる所得税ですね。つまり、源泉徴収者である会社が従業員の給与から個人所得税を天引きして、従業員の代わりにインドの税務署に税金を前払する制度です。日本でも給与明細を見てもらったら税金が天引きされて自分の手取り額が計算されていることが確認できると思うんですけど、毎年12月に年末調整で所得税が還付されたりしますよね。なぜ還付されるのかというと、会社が従業員の代わりに納税していた個人所得税が、実際に納税すべだった税額よりも結果的に多くなったからですね。天引きしすぎていた税金をお返ししますね、ということです。
インドでは、従業員への給料だけでなく、幅広いサービス提供の対価に対してもTDSが課税されることとなるので、例えば、サービスの提供が本業である会社にとっては、お客さんが御社に支払ってくれる際にこのTDSが天引きされてしまうことになるので、つまり売掛金の回収として入金される金額がTDSの税金部分だけ少なくなるので、キャッシュフローに大きな影響を与えるという点が重要なポイントです。
TDS課税の仕組みと計算方法
例えば、A社がB社に100ルピーのサービスを提供し、この取引に対して10%のTDSが課税される場合、インドの消費税GSTの税率が18%だとすると、実際にB社がA社へ支払う金額は100 + GST18(100×18%)- TDS10(100×10%) =108となります。
※TDSの計算はGST抜の額面金額が課税対象となります。
GSTの18ルピーはインド税務当局に納税する必要があるのでA社に残るお金は90だけ、ということになります。
つまり、TDSについてはサービスの受益者、つまり支払者側が源泉徴収義務・納税義務を負い、GSTについてはサービスの提供者、つまりお金を受け取る側が納税義務を負うことになります。このGSTについては次回の動画で詳しく解説したいと思いますので、見逃したくない方はぜひ今のうちにチャンネル登録をして公開までお待ちください。
TDSの税率と免税基準額
TDSは取引の性質によって異なる税率が規定されていて、主なTDSの税率はこんな感じになっています。
給与については日本と同様、所得金額によって税率が高くなっていく累進課税制度が採用されていますが、給与以外にも家賃や業務請負、仲介手数料、プロフェッショナルサービス、技術サービスなどサービスの性質によって、そして、支払先が法人か個人かなどによって適用される源泉税率や免税基準額がそれぞれ違うので、取引ごとにそもそも源泉徴収をすべきかどうか、すべきだったらいくら源泉徴収をして納税する必要があるのかをひとつひとつ確認をしていく必要があります。
また、定期的に税制改正によって税率や免税基準額などが変更される可能性があるため、最新の税制を確認するようにしてください。ちなみに、これらの税率は取引先がインドの税務番号PANを持っていることが前提になっているため、もし、支払先がPANを持っていない場合は高税率である20%が適用されることになりますので、必ず取引先がPANを持っているかどうかも事前に確認する必要があります。
TDSの納税と申告の仕組み
企業は支払時に控除したTDSを毎月翌月の7日までに納付し、こんな感じで四半期ごとにTDSの申告を実施する必要があります。
申告をするときには、源泉徴収義務者である企業の源泉徴収番号TANと、支払先のPANを紐づけることで、インド税務当局のTDSポータルに正しく記録していきます。
もし、TDSの納税期限を過ぎてしまった場合は、1ヶ月あたり1.5%、つまり年利18%という高い延滞利息がかかりますし、TDSの申告期限を過ぎてしまった場合には1日あたり200ルピーの延滞金や、最大100,000ルピーのペナルティが科される可能性もあるので注意が必要です。
源泉徴収義務者である企業側はTDSの納税・申告を行なったことの証明として、給与のTDSについては年に一度Form16という納税証明書を、給与以外の各種サービス取引に対しては四半期に一度Form16Aという納税証明書を従業員や取引先ごとに発行します。また、TDSの納税・申告を実施すると「TRACES」というインド税務当局が運営するTDSポータルサイトに記録されるんですけど、このポータルサイトからForm 26ASやAIS/TISという源泉徴収票のような書類をダウンロードすることができるようになっているので、納税者は課税年度ごとにどれぐらいの所得税が源泉徴収されているかを包括的に確認することができるようになっています。
ただ、取引先がPANを持っていない場合には、取引先の情報を記録することができないため、Form 16Aや26ASなどの書類も発行できない、っていうことになります。
TDSが還付されるケース
ちなみに、源泉徴収されかつ納税されたTDSは「法人税の前払」という性質を持つので、年度末の法人税申告の際には、すでに前払したTDSの金額を最終的な年度末の未払法人税から相殺することになりますが、もし赤字だった場合にはそもそもその年度の法人税が発生しないことになるので、原則、課税期間中にすでに納税したTDSは全額還付されることになりますし、もし仮に黒字であっても期中にすでに納税したTDSが、当期に納税すべき法人税額よりも結果的に多くなった場合は、その過払いとなった部分のTDSが還付されることとなります。先ほどの従業員のケースで、年末調整で税金が還付される仕組みと基本的に同じですね。
ただ、還付がされるのは法人税の税務申告後しばらく経ってから、ということになります。最悪のケース半年、1年経っても全然還付されない、ということも起こりえるので、取引の都度TDSが源泉徴収されてしまうこの仕組みは、会社のキャッシュフローに大きな負担を強いる可能性があります。
そこで、一定の条件を満たす納税者は、TDS課税について減免の適用申請をすることも可能です。具体的には、インド税務当局から TDS軽減税率証明書(Lower Deduction Certificate)又はTDS免税証明書(Nil Deduction Certificate)の発行を申請して、証明書を取引先に共有することで、これらの証明書に記載された軽減税率や免税を適用してもらうことができる、という仕組みです。これは、納税者が事前に見積もった法人税額見込みに基づいて、当該課税期間において軽減税率を使うことやTDSをそもそも源泉徴収しないことが合理的かつ正当であると税務当局が判断した場合にのみ利用できる制度です。この証明書の発行はForm No.13というフォームで、デジタル署名証書であるDSCなどで認証をした上で、申請を行うかたちになります。
日印租税条約(DTAA)と二重課税の回避
最後に、インドと日本との間の国際取引が発生した場合のTDSについても見ておきたいと思います。日本とインドの間では日印租税条約、英語ではDouble Taxation Avoidance Agreement(いわゆるDTAAなどと言われますけど)、これが締結されていてですね、その名前のとおり、国際的な二重課税の回避や、脱税や租税回避行為などの回避を目的に、二国間の安定した課税関係や健全な投資を促進するための仕組みが整っています。
この租税条約を適用することで、例えばインドから日本に海外送金を実施する場合のTDSに軽減税率を適用することができたり、外国税額控除を適用することで二重課税を回避することができたりします。インドから日本への海外送金の仕組みや課税関係についてはこちらの動画で詳しく解説していますのでぜひ観てみてください!
ちなみに、この租税条約は、経済協力開発機構(OECD)がひな形として1963年にOECDモデル条約というのを作っていてですね、インドもこのOECDモデルをベースに作られているんですけど、このOECDモデル条約はかなり簡潔にまとめられているので、租税条約を実際に適用する際には有識者によってかなり解釈・見解が分かれるケースが散見されますので、自社で適用を検討する場合にはその点に留意をして、必要に応じて専門家からもアドバイスを得ることをおすすめいたします。
なお、他の国の租税条約と比較したときに日本とインドとの日印租税条約はこのような2つの特徴を持っています。
- 恒久的施設(Permanent Establishment:PE)における代理人PEの認定範囲が広い
- 技術的役務提供の対価(Fee for Technical Service:FTS)には源泉地国課税が適用される
PEについては今回の動画の主旨から少しズレてしまうので詳しくは触れませんが、PEとは一般的に事業を行う一定の場所等のことをいいます。例えば、インドに進出をしていない日本企業が、インドにPEが有ると見なされてしまうと、その日本企業はインド国内に何らかの法的主体や事業を行っている場所がなかったとしてもインドで事業をおこなっていると見なされて、その活動から生じる所得(これをPE帰属所得とかって言ったりしますが)これに対してインド税務当局が課税権を主張してくる、というものです。
「PEなければ課税なし」という考え方が、事業所得課税の国際的なルールになっているんですけど、インドでは、事業活動の実態から「代理人PE」と見なされてしまう認定範囲が諸外国よりも広くなっています。
もうひとつの特徴は、技術的役務提供の対価については、「PEなければ課税なし」という原則が適用されず、「源泉地課税」が適用されることです。つまり、インドから支払う技術的役務に対する報酬の支払いについては、インド側での源泉徴収が求められますし、逆に日本からインドに対して支払う同様の報酬についても、その技術的役務がインド国内で発生していたとしても(これが本来の「源泉地」ですね)、その技術的役務提供の対価を支払う支払者側の居住地国、つまり日本で生じたものと見なされる「源泉地課税」が適用されるので、その日本企業はインド国内に何らかの法的主体や事業を行っている場所がなかったとしても、日本側でも源泉徴収が求められることになります。
例えば、日本から諸国外への海外送金でこれまで源泉徴収してこなかった日本企業は多いと思いますが、インドへの海外送金については源泉徴収が必要となる可能性があるので注意が必要、ということになります。
さて、みなさん、いかがでしたでしょうか?
今回はインドの源泉所得税TDSについて基本的な仕組みや税率、申告手続き、日印租税条約において注意すべきポイントについて解説しました。これらをしっかり理解することで、インド進出における税務リスクを最小限に抑えることができます。