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【永久保存版】インド年度末の会社法・税法上コンプライアンスの全体像や注意点などを徹底解説

インド年度末の会社法・税法上コンプライアンスの全体像や注意点などを徹底解説

今回はですね、意外に知らないインドの年度末コンプライアンスの全体像について徹底解説したいと思います。

インドはさまざまな規制や税制、複雑なコンプライアンスがたくさんあるんですけど、特に年度末はいろいろありすぎてもはやよう分からん、という企業も多いと思います。

インドではすべての企業に会計監査が義務付けられていて、決算や監査をスケジュール通りに終わらせるのにも一苦労、という日本企業も多いと思いますが、会計監査がようやく終わったと思ったら、今度は会社法そして税法上のコンプライアンスがてんこ盛りです。11月末期限のものが多いなかで今まさにラストスパート!っていう企業もいると思いますので、うっかり対応漏れとか、気がついたら法令違反とかの落とし穴にハマらないように、本日は、年度末のコンプライアンスの全体像とそれぞれの注意点について徹底解説したいと思います。

年度末の会社法コンプライアンス

取締役会と年次株主総会(AGM)の開催

会計監査が終わった後まず最初に実施すべき会社法コンプライアンスが取締役会と年次株主総会(AGM)の開催です。

インド会社法の規定によると、One Person Company(OPC)以外のすべての会社は会計年度終了後6か月以内、つまり通常は毎年9月30日までに年次株主総会(AGM:Annual Genelra Meeting)を開催する必要があります。概要としてはこんな感じですが、開催期限や開催場所・開催方法などに例外規定もありますし、株主総会への出席者として代理人の任命はできるのか、とか、誰が議決権を持てるのか、とか、いろんなルールが細かく定められていますので、取締役会と株主総会についてもし詳しく知りたいという方はこちらの動画のリンクを概要欄に貼っておきますので見てみてください。

年次株主総会では、こういった重要な議題を決議します。監査済財務諸表の承認、取締役報告書や監査報告書の確認、追加取締役の再任、監査人の任命、株主への配当、などが一般的に年次株主総会で決議される主な議題ですね。

ちなみに、合理的な理由がある場合にかぎって、年次株主総会の開催期限の延期申請をすることも可能です。具体的には、まず取締役会において開催期限の延期について決議をした上で、その決議書の抜粋(Extract)を添付する形でForm GNL-1というフォームを使って延期申請手続きを行い、審査の結果、もし延期理由が合理的であると認められれば延期することができるという仕組みです。

あと、司法当局であるインド会社法審判所(NCLT)はですね、会社に対して年次株主総会を開催させる法的権限を持っていてですね、もし期限内に開催できていない場合には一定期間経過後に会社が法令違反の状態であることが登記局のMCAポータルサイト上でも公表されてしまうことになります。金銭的ペナルティとしては最大10万ルピーの罰金に加えて、法令違反の状態が続く場合には1日当たり5,000ルピーの罰金が追加される可能性があるっていうことと、あとは、この法令違反のステータスを是正するためには、インド企業省のRegional Directorもしくはインド会社法審判所NCLTなどに対して調停手続き、いわゆるコンパウンディングの手続きを申請しなければならなくなります。これがまた厄介な手続きなってしまうので、必ず開催期限までに年次株主総会を実施して、これから説明をする年度末のコンプライアンス全てを漏れなく対応できるように事前に準備を進めていただければと思います。

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Form AOC-4の提出

年度末の会社法コンプライアンス2つ目はForm AOC-4の提出です。

Form AOC-4というのは監査済決算数値を登記するためのフォームで、年次株主総会開催日から30日以内に、インド会社登記局ROCに対してこのような書類を添付した上で提出する必要があります。この手続きを通じて企業はインド当局に対して自社の今期の監査済決算数値を登記することとなります。

  1. 監査済財務諸表
  2. 取締役報告書
  3. 監査報告書
  4. 株主名簿

この手続きにおける主な注意点はこんな感じです。

  • 添付する書類一式が不鮮明にならないように、プリントアウトやスキャンに注意
  • 監査済財務諸表や取締役報告書に取締役2名の署名がされているか
  • 常勤のカンパニーセクレタリー(Full-Time CS)を選任している企業はCSが財務諸表に署名しているか
  • 会計監査人が署名時に必要となるUDIN(ユニーク識別番号)が適切に登録されているか
  • 監査報告書の指摘事項が取締役報告書やAOC-4において適切に反映されているか
  • 取締役会や年次株主総会の開催日・財務諸表の署名日が整合しているか
  • 関連者間取引の金額や取締役等の報酬が正しく記載されているか

ちなみに、このForm AOC-4はこの表のとおり、会社の事業規模等によって該当するフォームが異なりますので、この5つのフォームの中から自社に合ったフォームを選択して登記手続きをすることになります。

Form MGT-7の提出

年度末の会社法コンプライアンス3つ目はForm MGT-7の提出です。

Form MGT-7というのは今年度の法人概要を報告するためのフォームになっていて、年次株主総会開催日から60日以内に、インド会社登記局ROCに対して提出する必要があります。この手続きによって会社が今期1年間で株主や取締役に変更があったか、取締役会や株主総会をいつ開催したかとか、取締役や主要な経営幹部に対する報酬総額がいくらだったかとかを含めて、今期の法人概要全般の情報をインド当局に登記することとなります。

この手続きにおける主な注意点はこんな感じです。

  • 取締役会の開催日が正しく反映されているか
  • そもそも取締役会の開催要件や取締役の出席条件等を満たしているか
  • 株主総会を開催期限までに正しく開催できているか
  • 取締役の区分(Executive or Non-Executive等)やその変更が正しく反映されているか
  • 取締役や主要な経営幹部の変更が正しく反映されているか

年度末の税法上のコンプライアンス

さて、ここからは年度末の税法上のコンプライアンスについて見ていきたいと思います。全体像としてはこんな感じです。

税務監査(Tax Audit)

1つ目はForm 3CAおよび3CDの提出、いわゆる税務監査(Tax Audit)ですね。

税務監査っていうのは、原則、売上高が1,000万ルピー超の一般事業者に対して義務付けられている監査手続きで、インド勅許会計士CAが実施する必要があります。ただし、現金取引が少ない事業者、つまり、現金受取が総収入金額の5%で以下でかつ、現金支払が総支払金額の5%以下である場合には、2020年度以降、適用基準である売上高が1億ルピーに緩和されています。現金取引を減らしてくれたら中小規模の事業者については税務監査手続きは免除しますよ、ってことですね。あと、税務監査が適用される会社は、法人税申告期限の1ヶ月前までに実施してくださいね、ということになっています。日本企業の場合は、ほとんどのケースで親会社やグループ会社との関連者間取引が発生していると思いますので、税務申告期限である11月末の1ヶ月前、つまり、10月末までに税務監査を実施する必要がある点も留意いただければと思います。

移転価格証明書

年度末の税務コンプライアンス2つ目はForm 3CEBの提出、いわゆるインドでは移転価格証明書と言われるものです。

移転価格税制っていうのは、通常、経済協力開発機構OECDが定める移転価格文書化(BEPSの行動計画13)においてその国際的なガイドラインが示されているんですけど、このForm 3CEB、移転価格証明書についてはここに言及がされていないインド独自のコンプライアンスになっています。この図のとおり、親会社やグループ会社との国際関連者間取引(International Transactions)や特定の国内取引(Specified Domestic Transaction)が1ルピーでも発生しているすべての企業が対象となるもので、関連当事者間の取引価格(=これが移転価格ですね)この移転価格の妥当性を証明する書類になっています。

英語ではTP Certifcateなどと言ったりもしますけど、この移転価格証明書についても、法人税申告期限の1ヶ月前までに実施してくださいね、ということになっていますので、税務申告期限である11月末の1ヶ月前、つまり、10月末までにインド勅許会計士CAに発行してもらう必要があります。一定の関連者間取引がある企業はこの証明書がないと最大10万ルピーの罰金が課せられたり、税務申告手続きに影響が出るリスクもあるので、必ず期限までに取得しておくよう注意していただければと思います。

法人所得税の確定申告

年度末の税務コンプライアンス3つ目はForm ITR-6の提出、いわゆる法人所得税の確定申告です。

これはすべての企業が対象となるもので、課税年度(4月1日から翌年3月31日までの期間)終了後、11月30日までに法人税申告書であるForm ITR-6を提出する必要があります。監査済財務諸表の会計上の利益から、こういった要素を考慮した上で今年度の法人税納税額を計算する形です。具体的には過年度からの繰越欠損金や、税務上必要となる加算・減算調整項目、また、課税年度中にすでに納税された源泉所得税TDSやTCS、予定納税(Advance Tax)、さらに、インド国外で納税された源泉所得税(Withholding Tax)の外国税額控除としての適用可否、そして、過年度に納付した最低代替税MATも含めてすべて考慮した上で税金計算をしていく仕組みになっています。

ちなみに、インドには中央政府の承認が得られれば会計期間を変更できる制度があるんですけど、もし仮に会計期間を1月1日から12月31日に変更したとしてもですね、税務申告については引き続き課税期間4月から翌年3月のままなので、年に2回決算をする必要が出てくる点にも留意が必要です。

Form 3CEAAの提出

年度末の税務コンプライアンス4つ目は移転価格に関する税務申告フォームであるForm 3CEAA(いわゆる、マスターファイル)の提出です。

マスターファイルにはPart AとPart Bがあって、それぞれこんな感じで申告すべき情報が異なるんですけど、一定の関連者間取引があるすべての企業は少なくてもこのPart Aだけは毎年11月30日までに申告・提出する必要があります。

さらに、Part Bについてはこういった一定の基準を満たす国際グループの構成企業のいずれかの企業が提出する必要があります。つまり、こんな感じで構成企業がたくさんある場合には例えばインド現地法人としてPart Bの申告をしていれば、日本の親会社やタイのグループ会社の申告義務は免除される形です。

移転価格文書の作成

年度末の税務コンプライアンスの最後5つ目は移転価格文書(いわゆる、ローカルファイル)の作成です。

ローカルファイルは、英語でTP Report/TP Documentなどとも言われますけど、こういった会社の組織構造や関連当事者、事業内容、事業環境の説明に加えて、関連者間取引の詳細、取引価格の設定方法とその妥当性を説明する理由や根拠などを記録した文書のことを指します。税務当局への提出義務・提出期限はないので、あくまで社内保管義務が規定されているだけなんですけど、税務調査のときに提示を求められる可能性が高いですし、もしその時に整備ができていない場合には関連者間取引総額の2%の罰金が課される可能性があるので、グループ会社間での取引が多い企業にとっては特に重要なコンプライアンスなので早めに作成して社内で保管しておく必要があります。

ちなみに、移転価格についてはこの図のように他にもいくつかコンプライアンスがあってですね、例えば、インド国内に複数の国際グループ企業が存在している場合に必要となるForm 3CEABというフォームや、CBCR(いわゆる、国別報告書)など、一定の条件を満たす企業が追加で対応する必要がある項目もありますので、移転価格税制におけるコンプライアンスについてはどれが自社の適用対象となるかを、現在ご依頼されている会計事務所に個別にご相談・ご確認をいただくことをおすすめいたします。

今回は、インドの年度末に対応すべき会社法および税法上のコンプライアンスについて解説しました。ぜひ参考にしていただければと思います。

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