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【基礎から学べる】知らないと危険!インドでの移転価格税制の落とし穴

知らないと危険!インドでの移転価格税制の落とし穴

今回はですね、日本とインドの移転価格税制の違いと実務上の注意点について解説してみたいと思います。

日本企業がインドで事業をする上で、移転価格税制に対する理解はむちゃくちゃ重要なんですけど、移転価格税制って、所得税や消費税とかと違ってちょっと取っ付きにくくてようわからん、っていう方も多いですよね。この動画では、そもそも移転価格とは何か?そして、日本とインドの移転価格税制の違いを具体的に比較して、特に見落としやすいインド特有のリスクや対応策について分かりやすく解説してみたいと思います。

移転価格税制とは?

「移転価格税制」って聞くとちょっと難しそうっていう印象を持たれる方も多いかもしれませんが、仕組みとしてはとてもシンプルです。
最近はたくさんの日系企業が海外にも子会社やグループ会社を持っていて、国と国をまたいでモノやサービスのやり取りをしていますよね。

たとえば、

日本の「親会社」がインドの「子会社」に部品を売る
タイの「グループ会社」がインドの「子会社」に技術支援サービスを提供する

このときに「いくらで売ったか(この取引価格)」がむちゃくちゃ重要になります。なぜなら、親子会社間とかグループ会社間だったら社内で取引価格を自由に決めることができちゃうからです。皆さんも税金が安い国と高い国があるのはなんとなく知ってますよね?たとえば、日本の法人税率はざっくり30%程度ですけど、インドは25%程度、タイだと20%程度なので、日本はアジア諸国の中でも比較的法人税率が高い国だと言われています。そうすると、「日本で利益が出ると税金が高くなるから、できるだけタイの子会社で利益が出るようにしたいな」と考える企業が出てきます。企業によってはそのためにわざと安く売ったり・わざと高く買ったりして、なるべく日本の利益を減らして、税金逃れをしようと考える企業も出てくるわけですけど、これを防ぐルールが「移転価格税制」っていうわけです。

移転価格税制は、企業が関連会社同士で「普通じゃない価格」で取引していないか?不自然に利益を他の国に移転していないか、この取引価格のことを「移転価格」と呼んで各国の税務当局がチェックする仕組みのことです。もし「第三者の他人どうしだったらこの値段で取引してるはずだよね?」っていう価格、これを「独立企業間価格(Arm’s Length Price)」って言ったりするんですけど、国ごとにこの独立企業間価格に対する一定のロジック・基準を持っていて、このロジック・基準と照らし合わせたときにもし取引価格が不自然に高かったり、安かったりすると各国の税務当局がそれを正しい金額に修正しようと追徴課税をすることになります。

ただ、日本とインドの移転価格税制には実は大きな違いがあるので、今回は、そうした“違い”に焦点を当てて、実務上の注意点を踏まえて解説していきたいと思います。

日本とインドの移転価格税制の基本的な枠組みの違い

まず、基本的な枠組みの違いですけど、日本とインドはいずれもOECDの移転価格ガイドラインを基に制度を設計しているんですけど、その運用の実態において大きな違いがあります。日本では1986年に移転価格税制が導入されてから、40年近くにわたって運用をしてきた中で、現在は制度自体も成熟していて、実務運用も落ち着いてきている印象です。

一方、インドは2001年から本格的に移転価格税制が導入されて以来、急速な外資流入と経済成長に対応するため、より厳格で細かい制度運用が行われています。インドでは租税回避に対する強い姿勢と、形式的な不備であっても厳しい指摘や追徴課税がされるケースも多く見られますし、関連者の定義も広い上に、対応すべきコンプライアンスの範囲も広くなっています。このように、日本とインドの移転価格税制の根本的な考え方・理念こそ似ているものの、その運用姿勢や実務上のコンプライアンス対応においてや大きな違いがあるので、日本国内の感覚のままで対応を進めてしまうと、法令遵守違反や税務調査時のペナルティなど、過剰なリスクを負ってしまう可能性もあるので注意が必要です。

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インドにおける「国外関連者」の定義

インドの移転価格税制で特に重要なのが、「国外関連者」の定義が日本より広いことです。日本だと、出資比率が50%を超える外国法人や、実質的に支配している法人が対象とされていますが、インドではこの定義がより広範囲な関係性に基づいて総合的に判断される傾向があります。

具体的には、ここに記載されているような関係性が対象となっているんですけど、議決権付き株式の26%以上保有している場合とか、企業の総資産の51%以上の貸付金があるようなケース、さらには役員の半分以上が兼任しているケース、さらに、製造・事業活動が、もう一方の企業の技術や特許等の無形資産に全面的に依存しているようなケースも国外関連者の要件に含まれます。なので、もし仮に資本関係が薄かったとしても移転価格規制の対象になる可能性はあるっていうことですね。

なので、日本では「国外関連者」に該当しなくても、インドでは「国外関連者」として扱われる可能性もあるので、事前に契約形態や資本関係、取引関係などを洗い出して、慎重にリスク評価を行っていただければと思います。

移転価格算定方法に関する日本とインドの違い

移転価格の算定方法についても、日本とインドとの間で実務上の選定や適用基準に違いが見られます。日本で実務上最も多く用いられているのが「取引単位営業利益法(TNMM)」で、この点はインドも同じなんですけど、対照的に「独立価格批准法(CUP法)」については日本では比較可能性の確保やベンチマークデータの入手の難しさという点からあまり積極的に採用されない傾向がある一方で、インドでは比較的にCUP法や「その他の方法」というインド特有に認められた曖昧な方法が採用される傾向にある点が特徴的です。また、インドだとインド企業省に登記された決算書からでは商品の原価や粗利データが入手しにくいというという背景もあって、再販売価格基準法(RP法)や原価基準法(CP法)などは一般的に採用されない傾向にあると思います。

さらに、独立企業間価格のレンジの設定方法にも違いがあります。日本では四分位レンジ(インター・クウォータイル・レンジ)、つまり上位25%と下位25%を除いた中央50%を対象レンジとするのが一般的なんですけど、インドでは上位35%と下位35%を除いた中央30%を対象レンジとするので、日本と比べると独立企業間価格の許容範囲が狭くなっていて、その結果、企業にとっては厳しい判断を迫られる場面が多くなるわけですね。

移転価格コンプライアンスに関する日本とインドの違い

次に、移転価格の文書化義務においても、日本とインドでは大きな違いがあります。日本では、国外関連者との前年度取引総額が100億円以上、とか、50億円以上、または、国外関連者との前年度無形資産取引総額が3億円以上の場合にマスターファイルの作成義務や移転価格文書いわゆるローカルファイルの作成義務が発生します。インドでは国外関連者との何らかの取引が発生した場合には取引総額に関係なくすべての会社がマスターファイルのPart A(Form 3CEAA)と移転価格証明書(Form 3CEB)の申告が義務付けられていて、毎年インド勅許会計士に申告を依頼しないといけないので、中小零細規模の企業であっても移転価格税制へのコンプラ対応が求められる点がインドの特徴です。また、国外関連者との前年度取引総額が1,000万ルピー(約1,800万円)を超えると移転価格文書(ローカルファイル)の作成義務も発生します。

移転価格調査とペナルティにおける日本とインドの違い

税務調査時の運用とペナルティの規定についても、インドは日本に比べてより厳しい規定になっていると言えます。日本では、国税庁の調査は比較的協調的に行われ、かつ、企業側が移転価格に対する合理的な説明や経済的背景を提示できれば、強引に追徴課税の指摘を受けるケースは稀ですが、一方、インドでは形式的な不備だけで高額な追徴課税に繋がるケースも発生しており、税務調査の手続きについても理不尽な課税権の行使が目につきます。

例えば、移転価格証明書であるForm 3CEBが申告できていない場合は10万ルピーの罰金、申告漏れがあった場合にはその取引金額の最大2%がペナルティとして科されますし、移転価格文書ローカルファイルの未整備や不備・不足についても同じく取引金額の最大2%、さらに、所得の隠蔽等悪質だと見なされた場合には100〜300%の追徴課税という重い罰則が規定されています。

また、税務調査の手続きにおいてはTPO(Transfer Pricing Officer)と呼ばれる移転価格専門の調査官が独立して税務調査を実施してくるんですけど、企業が提出したベンチマーク調査や独立企業間価格の算定・分析内容を基本的にそう簡単に受け入れてはくれるケースは稀で、税務当局が独自に収集したベンチマークデータに基づいて強引に追徴課税を指摘してくるケースも散見されています。こういった税務調査に対する対応は、調査官に対する強力かつ説得力のあるロジックと文書を事前に準備しておくことはもちろん大切なんですけど、理屈だけでは通用しないケースも多いので、時間をかけて粘り強く交渉を続けること、状況によっては外部の専門家をうまく巻き込みつつ税務訴訟にまで発展しない落としどころ探る工夫も必要となります。

皆さん、いかがでしたでしょうか?今回は「日本とインドの移転価格税制の違いと実務対応のポイント」について、制度の枠組みからコンプライアンス、ペナルティにいたるまでを解説いたしました。日印間の制度は、一見すると共通点も多いように思えますが、実務レベルでは細かい違いが数多く存在し、日本ではあまり移転価格の対応をしていない中小零細企業においてはそれがそのままリスク要因に繋がってしまいます。

特にインドでは、「形式的な不備」や「提出の遅れ」だけでも大きな追徴課税やペナルティに発展する可能性があるので、インドでの移転価格対応は、単なる法令遵守ではなく、戦略的なリスクマネジメントの一環として捉えることが重要です。インドで事業展開をされている企業様はぜひ参考にしていただけると嬉しく思います。

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