インド人材採用で失敗しない!日本企業が事前検討すべき10の重要事項
今回はですね、インド人材を採用をする時に日本企業が事前に検討すべき10個のポイントについて解説してみたいと思います。
「インド人材の採用活動を進めたいんだけど、何から始めたらいいのかわからない」最近こういうご相談をいただくことがむちゃくちゃ増えています。インドの魅力はとにかく「人」だと思ってるんですけど、ただその一方で、人材採用における「落とし穴」もたくさんあります。つまり、優秀な人材を見つけたときに準備不足を理由に採用を逃してしまう、そんな落とし穴にハマらないように、インド国内の複雑な労働法、雇用慣行や特殊な文化など、インド社会特有の事情を踏まえた事前準備をしっかりやっておくことはむちゃくちゃ重要になってくるんですね。そこで今回の動画では、インド国内でインド人材を採用する際に事前に検討しておくべき10個のポイントを体系的に整理して解説してみたいと思います。
1. 役職や等級の明確化
インド人材を採用する際に事前に検討しておくべきポイント、まず一つ目は、「役職や等級の明確化」です。インド人材は、とにかくキャリアアップ志向がむちゃくちゃ強い傾向にあるので、現職より上位の役職に就きたいという期待値だったり、入社後のキャリアパスとしてどのような役職があって、どれぐらいのスピード感で昇格できるのかとかを気にする傾向にあるんですよね。なので、組織の役職や等級テーブル、キャリアパスの典型例など、将来的にどのような魅力的なポジションがあるのか、どのようにしてステップアップできるのかを、ある程度説明できるようにしておくことが重要です。
2. 勤務形態の基本方針
2つ目は「勤務形態の基本方針」です。現在インド国内では肌感覚として完全出社が全体の約20%、完全リモートが約20%、そしてハイブリッド型が約60%っていうイメージです。もちろんリモート勤務が難しい職種もあるとは思うので一概には言えないですけど、在宅勤務はかなり一般的になってきていると感じます。特に子育てをしながら勤務する女性従業員も増えてきているので、柔軟な働き方ができるフレックス制などを導入するケースもあります。ただ、仕事上インドと日本との連携が多いようなケースだと、例えば3時間半の時差も考慮して共通のコアタイムを設定するなど、どうすればリモートでも効率的に連携ができそうか、その仕組みを考えておくことが大切です。
3. 給与体系の戦略的設計
三つ目は、「給与体系の戦略的設計」です。まず基本的な考え方としてインドでは、年収をCTC(Cost to Company)、つまりその人にかかるトータルの人件費という意味合いで定義して、オファーレターでは社会保険料の会社負担分も含めて年収を提示するケースが一般的です。
そして、給与の内訳として、基本給を月給総額の50%、さらに、HRAと呼ばれる住宅手当を基本給の40〜50%に設定しているケースが散見されます。これはインド所得税法上の規定に基づく節税効果を最大化するために用いられる一般的な給与配分方法になっていてですね、さらに言うとLTA(Leave Travel Allowance)と呼ばれる有給旅行手当など他にもいくつかの手当てに細かく配分をすることで個人所得課税の点でさらに非課税処理ができるというメリットもあるんですけど、ただ、その分会社側は事務負担・管理工数が増えるというマイナスの側面もあるので、私のおすすめとしては当初はまずシンプルに、そして、従業員が増えていくフェーズで社内の人事部門と一緒に現場の業務オペレーションとともに給与体系を本格的に作り込んでいく、という流れがいいんじゃないかと考えています。
あと、ボーナスについては日本だと年2回、夏と冬に支給されるのが一般的ですけど、インドでは基本的にボーナスは年1回する企業が多いように思います。そしてインド人の方は「年収」よりも「月給」をより重要視する傾向が強いので、年収は同じだったとしても年2回のボーナスを設定すると相対的に月給が低く見えてしまって、採用競争力が落ちてしまう可能性さえあります。日本でも賞与を廃止して月給に上乗せする会社も出てきていますけど、インドもいかに月給を高く見せるか、という点は無視できないので、この点も踏まえて給与体系やボーナスの支給方法を設計しておく必要があろうかと思います。
4. 有給休暇制度の設計
四つ目は、「有給休暇制度の設計」です。インドの労働法は中央政府と州政府それぞれに立法権限が認められているので、州ごとに労働法の内容が異なる、ということが起こるんですけど、この有給休暇がまさにそうです。
例えば、私が住んでいるバンガロールのカルナタカ州では、Sick Leaveという傷病休暇を年で12日間、通常の有給休暇Earned Leaveを20日勤務ごとに1日付与すること、というルールになっていますけど、例えばチェンナイのタミル・ナードゥ州では、Sick LeaveとCasual Leave、そしてEarned Leaveを年にそれぞれ12日ずつ付与することと、規定されています。なのでまずは企業様の拠点がある州の労働法を最低限満たす形で運用を開始していってですね、必要に応じてPaternity Leave父親の育児休暇をどうしようとか、Bereavement Leave忌引き休暇はどれぐらいに設定しようかとか、弊社のような会計事務所などではExam Leave試験休暇なども含めて、従業員が増えていくフェーズで細かい各種休暇についても設計していく形で良いかなと思います。
一方で、産前産後休暇についてはThe Maternity Benefit Act, 1961という中央政府管轄の法律で規定されていますので、州を問わず労働者が10人以上の事業所で勤務する女性従業員は出産予定日の8週間前から産前産後休暇を最大26週間取得することができる、という規定になっているので念のため知っておくとよいと思います。
5. EPF(従業員積立基金)の加入方針
五つ目は、「EPF(従業員積立基金)の導入方針」です。EPFっていうのはEmployee Provident Fundの略語でインドの社会保障制度のひとつなんですけど、日本で言うところ厚生年金のようなものです。原則として従業員が20名未満の企業にはこのEPFの加入義務はありません。つまり、インド現地法人を立ち上げたばかりのタイミングだと社会保障が一切ない状態で採用活動をスタートすることになるんですね。
一方で、例えば、インド人の採用活動を実施していく中で、前職ですでにPFに加入していて引き続きこの社会保障制度への加入を継続したいという候補者は結構いますし、実際、採用面接の中で御社はPFはありますか?って聞いてくる候補者もいると思います。ただ、このPFの有無が入社意欲をそのまま左右する決定的な原因になるか、というとそういうケースはかなり稀なので、基本的な考え方としては、どれぐらいのスピード感で従業員何人ぐらい採用する計画があるか、といった企業様の採用計画に基づいてこのEPFを任意で最初から加入するか、それとも、その義務が発生するまでは加入しないか、という方針を決めていくのがいいんじゃないかなーと思います。例えば、1年以内に従業員がすぐ20人以上になるみたいなスピード感で組織を立ち上げていくのであれば、最初から任意でPFの適用事業所として登録をして多少なりとも採用競争力を持たせるっていうのも一案だと思いますし、そうではない場合はいったんPFは無い状態でスタートして、20人以上になるタイミングで法的に加入義務が発生したタイミングで加入する形でも良いと思います。
6. 福利厚生としての医療保険
6つ目は、「福利厚生としての医療保険」についてです。インドには日本のような国民皆保険制度がないので、国の社会保障制度としては主に先ほどご説明をしたEPFという積立基金しかなくて、基本的に健康保険とか雇用保険っていうのはないんですね。ただ、その代わりに福利厚生の一環として民間の保険会社が提供している医療保険を従業員に提供している企業がむちゃくちゃ多いんですよね。
日本の健康保険だと本人に加えて年収130万円未満のご家族とかも対象になるとか、医療費は3割負担だとか、国としての制度がある程度決まっているわけですけど、インドの医療保険は民間の保険会社が提供している保険商品を選ぶ形になるので、例えば、医療費の100%を保険でカバーできるようにするのか、もしくは本人や家族に例えば1割を負担させるのかなどの保険のカバー割合だったり、従業員本人以外に配偶者や子供までを保険の対象とするのか、はたまたご両親まで対象にするのか、など対象範囲の設計によって医療保険料も大きく変わってきますし、当然それによって採用競争力にも多少の影響を与えることになるのでこのあたりも戦略的に設計しておく必要があるわけです。
7. 休日カレンダーの作成方針
七つ目は、「休日カレンダーの作成方針」です。インドの休日はとにかく複雑なのでまずは全体像を把握しておく必要があるんですけど、大枠としては主にこの4区分があってですね、もっとも重要な「国民の祝日」である3日を必ず含める形で、その他3区分の中から企業ごとにだいたい10〜15日程度祝日を選択して企業の年間の休日カレンダーを作成するケースが多いと思います。
4区分について説明をしておくと、まず最初「国民の祝日(National Holidays)」は、インド全土共通の祝日で法律上全ての事業所が休業しなければならない日のことですね。具体的には、1月26日のRepublic Day(憲法施行を記念した共和国記念日)と、8月15日のIndependence Day、独立記念日、そして、10月2日のGandhi Jayantiガンジーさんの誕生日この3つが国民の祝日として規定されています。
そして次に考慮すべきなのが官報告示の祝日(Gazetted Holidays)と呼ばれる祝日です。これは、インド政府や各州政府が官報にて告示する公的な祝日で、官公庁や銀行などが休業になる日なんですけど、一般企業の多くもこれを慣例的に休暇として参考にするケースは多いかなと思います。具体例として、ヒンドゥー教の祭日ディワリやホーリ―、イスラム教のラマダン明けを祝うイード、キリスト教のクリスマス、仏教のブッダ生誕祭などがまさにそうですね。
3つ目の区分が州別の祝日(State Holidays)ですね。これは各州特有の重要な祭日や記念日のことを指します。例えば、収穫を祝うケーララ州の正月祭り「オーナム」とか、太陽神に感謝するタミル・ナードゥ州の収穫祭「ポンガル」、農耕とシク教の誕生を祝うパンジャブ州の「バイサーキー」などがこれに当たります。つまり、企業様が進出をする州によっても変わってきますし、複数拠点を持つ場合には同じ会社であっても州ごとに別々の休日カレンダーを作ることになったりもします。
そして最後4つ目は制限付き休日(Restricted Holidays)です。これは、会社全体での一斉休業日としては設定しないけど、特定の宗教や特定の地域の従業員が個人の選択で休暇を取得できるようする場合に設定される休日です。立ち上げ初期はここまで考慮しないケースがほとんどだと思いますけど、インドでは従業員人数が増えてくると、組織としての多様性はかなり豊かになってくるので、徐々にこういった配慮も必要になってくることを認識しておく必要はあります。
8. 出張や研修にともなう旅費規定
八つ目は、「出張や研修にともなう旅費規定」です。例えば、インド人従業員が入社してすぐに日本で研修を実施する場合には、日本側での研修の受け入れ体制やどのようなコストを日本本社で負担するのか、航空券代やホテル等の滞在費用に加えて、食費やその他生活コストをまかなうための日当(Per Diem)を支給するのかどうかなどを決めておく必要があります。役職ごとの上限金額や支給する方法・タイミングを設定したり、日当についてはインド国内で個人所得課税対象となる可能性もあるため、場合によっては給与計算プロセスに組み込んでおく必要もあるので留意が必要です。
9. 入社時オンボーディング体制の整備
九つ目は、「入社時オンボーディング体制の整備」です。新しい従業員がスムーズに業務を開始できるように、入社時のオンボーディングプロセスを明確にしておくことも採用後の定着に結構影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。例えば、他の都市から引っ越してくる新入社員に対してその引っ越し費用をどこまで負担するのかなどを検討しておいたり、会社が貸与するPCや携帯電話などの支給物品リストを事前に作成したり、そのリストを「入社時チェックリスト」に盛り込んで物品受領確認手続きも合わせて入社時に実施したりすることで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。あと、就業時間や休日カレンダー、有給休暇の申請方法、経費精算方法、困ったときの相談窓口など、仕事をしていく中で直面するであろう基本情報や各種論点をざっと入社時に説明してあげると安心して業務を開始できる体制を強力に補完できると思います。
10. リスク管理
最後10個目は、「リスク管理」です。まず、オファーレターで事前に合意しておくべき重要なリスク管理項目としては、学歴・職歴詐称に対する内定取り消しや雇用契約を解消できる権利を明記しておくことですね。インドは他国と比べてもこういった不正が起こりやすい環境であると言われているので最低限のバックグランドチェックと合わせて、万が一不正が発覚した場合の法的措置を明確にしておきます。
また、雇用契約書において合意しておくべき重要な項目として、試用期間Probation Periodの明記があります。基本的には最大6ヶ月まで試用期間を設定することができますので、例えば、万が一入社したインド人従業員のパフォーマンスが期待していたレベルにはないような場合には試用期間中に即日雇用契約を解消できるようにしておくことで雇用リスクを軽減したり、退職通知期間Notice Periodについては、一般職であれば1~2ヶ月、管理職の場合は最低でも2ヶ月程度設定しておいて、逆に、急な退職による業務への影響を最小限にする、つまり突然の退職リスクを軽減するための工夫も必要です。
あと、入社後に中長期で研修を実施するような場合には、研修直後に早期退職されてしまうリスクに備えてBond Agreementの締結を検討する企業様も比較的いらっしゃいます。例えば「日本での研修実施にはこういった多大な投資コストが発生するということを従業員は認識をしている」といった文面を明記したり、「日本での研修後1年以内に退職をした場合には研修費用の一部を従業員が負担する」といった文面を盛り込んだりするイメージです。これは、過去の判例上法的拘束力を持たせるのは現実的に難しかったりするんですけど、それでも明文化することによる一定の牽制を効かせておくことで、研修にかかる投資コストが無駄になるリスクを少しでも軽減できる可能性があります。
さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?今回はインド人材を採用をする時に日本企業が事前に検討しておくべき10個のポイントについて解説してみました。インド人材の採用を検討されている方は、ぜひ参考にしていただければと思います。