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【2025年施行】インド新労働法で「手取り」が減る?日系製造業・IT企業が直面する7つの変化

インド新労働法で「手取り」が減る?悪質違反の禁固刑リスクと日系製造業・IT企業が直面する7つの激変

インド新労働法で「手取り」が減る?日系製造業・IT企業が直面する7つの変化

2025年11月21日、インド政府がついに4つの新労働法典を一斉に施行すると発表しました。実務上の運用においては、各州政府による規則(いわゆるRules)の制定が必要で、まだ最終化されていない州も多いので、当面はこれまで運用されていた旧法に基づく規則が、新しい労働法典と矛盾しない範囲で運用されていく、ということが通達において発表されている状況です。

そこで今回は、まずは今回施行された4つの新労働法典の中でも特に知っておくべき変更点7選と合わせて日本企業が今すぐにやるべき対策について解説してみたいと思います。

【ポイント】

2025年の新労働法典施行により、企業は「給与構造の見直し」と「コンプライアンスの厳格化」を迫られます。違反時には役員への禁固刑リスクもあります。

重要ポイント:
    ◦手当等の除外項目が総額の50%を超えた場合、超過分を賃金とみなす「50%ルール」を適用
    ◦ 全従業員への「任命通知書(Appointment Letter)」発行を義務化
    ◦ 解雇規制の対象を100名以上から「300名以上」へ緩和する一方、中核業務への契約労働者利用を禁止。

まず大前提として、今回の改正はこれまで無数に混在していた法律をシンプルに4つに「まとめました」というだけのものではありません。哲学として、これまでのインド労働法はどちらかというと「規律と取り締まり」に重きをおいていたとも言えるんですけど、これからは「自律と促進」という方向性が打ち出されているとも言えます。 「お、じゃあ緩くなるの?」と思う方も多いかもしれませんが、より柔軟に運用していけるという側面もあれば、逆にコンプライアンス違反に対する罰則が厳格化されて、悪質な場合は役員への禁固刑まで規定されている項目もありますので、引き続き労務コンプライアンスには細心の注意をもって対応しておかないとヤバいことになります。

そこで今回は、特に日系企業への影響が大きい「賃金」「雇用」「工場運営」の3つの視点から、特に重要な変更点とその対策を深掘りしていきたいと思います。

人件費増のリスクは本当か?「賃金の50%ルール」が与える衝撃

基本給を抑える節税スキームは終了?PF(社会保険料)と退職金引当が増加する仕組み

まず1つ目は「賃金(Wages)の定義変更」と「50%ルール」についてです。

これまでインド国内の日系企業の中には、基本給(Basic Wage)をあえて低く抑えて、その分だけ住宅手当(HRA)とか特別手当とかほかの手当への配分を大きくすることで、全体としてPF社会保険料の負担を軽減したり、退職金や賞与の負担を軽減したりする、こういった給与構造をとっているケースも見受けられたんですけど、新しい労働法典では実質これができなくなることになります。

具体的には、通勤手当や住宅手当、残業代、成果報酬などの「除外項目」の総額が、報酬総額の50%を超えた場合には、その超過分は強制的に「賃金」とみなされて、PFや退職金の計算標準金額として考慮する必要が出てくるので、実質賃金が加算されることになります。

例えば、基本給が全体の30〜40%くらいに設定されているケースだと、これが強制的に50%ラインまで引き上げられるわけですね。 その結果、PFの社会保険料が増えたり、将来払わないといけない退職金の引当金が増えたりする可能性もあります。さらに、従業員側からすると、手取り給与(Take Home Salary)も減ってしまう可能性があるので、これまでの手取りはちゃんと保証してほしい、とか言ってくる従業員もいるかもしれないですよね。

すべての従業員に「任命通知書(Appointment Letter)」の発行が必要なのか?

政府指定フォーマットの罠と、記載必須となる「Aadhaar番号」「昇給基準」

次にご紹介をするのが、任命通知書(Appointment Letter)をすべての従業員に対して発行することが義務づけられた、という論点です。

これまでは、従業員に対するオファーレターや雇用契約書の法的な作成義務はなかったので、あくまで企業が実務上の必要性から任意で作成していたに過ぎなかったとも言えますが、一方で、新しい労働法典では、職種や役職を問わずに、すべての従業員に対して、政府が定める所定のフォーマットで任命通知書を発行することが一律に義務付けられたわけです。

特に注意すべき論点として、政府指定のフォーマットがあるという点と、そこに記載すべき必須事項が何か、という点についてです。つまり、新しい規定では、単に「書面を渡せばよい」というわけではなくてですね、インド政府が指定するフォーマットおよび必須記載項目を盛り込んでおく必要があるわけですね。具体的には、氏名や給与額といった基本情報だけじゃなくて、Aadhaar番号とかUANという社会保障番号、技能レベル区分、昇格・昇給基準や昇格・昇給機会の有無、写真の貼付についても規定されています。こちらは、州政府によって州独自の基準が設定されてくる可能性もありますので、今後各州政府の発表に基づいて順次、対応をしていく必要があります。

就業規則(Standing Order)の作成義務が「300名」に緩和されたメリットとは?

300名未満の企業は独自の「HR Policy」で運用可能に

次にご紹介をするのが就業規則作成義務に関する規制緩和です。これまでは多くの州で過去12ヶ月のうちに100名以上の労働者を雇用していた場合、政府が指定する就業規則(いわゆるStanding Order)を作成することが義務付けられていたんですけど、この基準が300名に引き上げられました。州政府によって州独自の基準が設定される可能性はありますけど、今後は300名未満の事業所であれば、自社独自の就業規則を作成しておけばOKということになります。

ちなみに、この自社独自の就業規則を作成する場合には、政府指定のStanding Orderという言葉とは区別をして、インドでは一般的に「HR Policy」とか「Employee Handbook」って言われたりします。

あと、300名以上の事業所は、政府が指定するモデル就業規則をそのまま活用するか、指定モデルをベースに自社用にアップデートをするかを選択適用することになりますけど、後者の場合には労働当局の認証官による承認を得る必要がある点はご留意ください。

【製造業向け】工場の解雇・閉鎖がしやすくなる?「解雇規制の緩和」の真実

従業員300人未満の中堅工場なら、政府許可なしでレイオフ・閉鎖が可能に

4つ目は、特に製造業の皆さんへの朗報です。整理解雇やレイオフ、事業所の閉鎖に対するコンプライアンスが緩和されることとなりました。 これまでは従業員100人以上の工場だと、レイオフするのに政府の事前許可が必要で、実質的に解雇手続きっていうのはむちゃくちゃ難しかったんですけど、この基準が「300人」に引き上げられました。 つまり、従業員100人〜299人規模の中堅規模の工場であれば、これまでよりもより機動的な人員調整ができるようになるわけですね。今後、州政府によって州独自の基準が設定される可能性はありますけど、これは経営の柔軟性という観点でむちゃくちゃデカいメリットだと思います。

【製造業向け】派遣社員が使えなくなる?「契約労働者の中核業務禁止」という警告

ライン作業員は「中核業務(Core Activity)」か?外部委託の見直しが急務

一方で、製造業の皆さんへの警告もあります。それが「中核業務(Core Activity)への契約労働者の禁止」という新しい規制です。今までみたいに、「工場のライン作業員は全員派遣会社からの契約社員でまかなっています」みたいな労働力の確保は、原則NGとなる可能性があります。ここで重要なのが、どのような業務が「中核業務」に該当するのか、という問題ですよね。普段から一般的に外注されているような清掃や警備、食堂、ハウスキーピングなどの業務や、工業のライン業務であっても一時的な増員対応などは中核業務には該当しないものと考えられています。一方で、継続的にフルタイムで工場勤務が求められるような業務や、常時対応が必要な業務などについては契約労働者を起用できなくなる可能性があるわけですね。この「中核業務」のより具体的な定義については今後政府の見解や実務事例に基づいて慎重に評価していく必要がありますので、ぜひ最新情報を継続的にキャッチアップしていきましょう。

【IT・サービス業向け】「週休3日制」は実現可能なのか?労働時間と有休買取の落とし穴

1日12時間勤務や残業上限の引き上げ(125時間)と、未消化有給の「強制買取」リスク

6つ目はですね、IT企業やサービス業への影響についてで、より柔軟な労働時間を設定できるようになったという話です。従来規定されていた週48時間までという1週間あたりの労働時間の上限はそのままなんですけど、1日の労働時間を最大12時間まで延長できるようになりました。つまり、計算上は「週休3日制(週4日勤務)」っていうのも可能になるわけですね。また、残業時間の上限についても労働者の事前同意を前提に、四半期で従来は最大75時間までだったところから、125時間まで一気に引き上げられています。在宅勤務も含めてインド人の働き方もこれからますます多様化していくかもしれないですね。

ただ、未消化の有給休暇の買取義務については注意が必要です。 新しいルールでは、有給休暇の繰越上限日数を30日とした上で、30日を超える未消化の有給休暇については、労働者が会社に対して買取を請求できる権利が与えられています。Leave Encashmentの一部義務化ですね。これまでは退職時の有休買取が一般的でしたけど、今後は在職期間中の有給買取が発生する可能性があるので、人件費への影響について十分にシミュレーションをした上でコスト負担増の可能性について把握しておく必要があります。

女性従業員が24時間働けるようになる?夜間勤務(Night Shift)解禁の条件

送迎・セキュリティ確保の義務と、同意に基づく雇用機会の平等

最後は、女性従業員の夜間勤務の解禁についてです。 これまでは女性の勤務時間は午前6時〜午後7時までとされていて、夜間勤務は原則禁止だったんですけど、今後は書面による本人の事前同意と、送迎などの安全対策を条件に、原則24時間すべての時間帯で女性が働けるようになります。BPOセンターとか24時間稼働の現場だと、夜間シフトもあると思いますので、今後は男女均等に雇用機会が提供されることになります。

一方で、企業様ごとにどのようなコストインパクトが発生するか、他の法令との関連からどのような影響がありそうかは十分に理解をしておく必要があります。例えば、送迎などの安全対策にかかるコストだけではなく、女性専用のトイレや更衣室、休憩スペース等が整備されているか、同一労働同一賃金の徹底という観点から夜間労働を拒否した女性が不利益な人事評価がなされていないか、など十分な配慮と体制の構築が必要です。

こちらも、州政府によって州独自の送迎ルールなどが設定される可能性もありますので、今後州ごとの具体的な規則について確認をしていく必要があります。

日系企業が今すぐやるべき「短期・中期アクションプラン」

これまで新しい労働法典の主な変更点についてざっとご説明をしてきました。じゃあ、具体的に何から始めればいいの?っていう話だと思いますので、 最後に、日系企業がまず最初にとるべき具体的なアクションプランをまとめておきます。

短期】全従業員の「給与構造シミュレーション」と雇用契約書の改訂

まず短期的に最優先なのが、最初にご説明をした給与構造のシミュレーションです。 全従業員の給与構造を確認して、冒頭ご説明をした「50%ルール」による影響があるかどうか、影響がある場合には人件費としてどれくらいインパクトが出そうかを試算されることをおすすめします。その上で、必要に応じて、基本給比率を更新した新しい給与テーブルを作った方が良いかもしれません。

もうひとつ重要な点は、入退社時の手続きについてあらためて見直しましょう、ってことですね。現在作成している雇用契約書のフォーマットについて、労働法典において求められるAppointment Letterのフォーマットや必須記載事項との差異を認識して、どの程度改訂が必要となりそうかを確認しておく必要があります。あと、退職時の最終精算(Full and Final Settlement)の対応期限についても対応期限があらたに設定されていて、これまでの慣習とは違って「退職日から2営業日以内」というむちゃくちゃタイトな期限が規定されたので、社内の人事部門と経理部門がより密に連携をして、従業員が退職をする際の退職手続きをスピーディに実施していく必要がある点も注意してください。

【中期】派遣社員(契約労働者)の業務棚卸しと就業規則のアップデート

次に、中期で対応が求められる論点としては、州政府の規則が発表されていない項目については引き続き常に最新の情報をキャッチアップしていくことに尽きますけど、特に、契約労働者を起用している企業さまについては労働力のアレンジについて見直しが必要になるかもしれないという点ですね。特に製造業だとその影響が大きくなる可能性が高いので、どの業務が「中核業務」でどれが「非中核業務」に当たるのかを棚卸しして、派遣社員が継続的に中核業務を担っている場合には、有期雇用などへの切り替えを検討する必要もあるかもしれません。

また、就業規則(Standing Orders)については、事業所の人数が300人未満であれば自社独自の柔軟なルールに変更できるチャンスとも言えるので、現状の就業規則において見直したい箇所がある場合にはぜひ確認してみていただけると良いと思います。また、今回の労働法改正を機に、より柔軟な労働時間の設定や勤務体制をアップデートしたい企業さまは、それによって新たに発生する可能性のあるコンプライアンス項目の洗い出しと管理体制の構築を検討していく必要があります。

さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?今回は、「インド新労働法典(Labor Codes)」について、その概要と、日系企業が今すぐやるべき対応策について解説しました。これからインドに駐在される方はぜひ参考にしていただければと思います。

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