NEWS LETTER VOL.2 The Finance Bill 2020
- 第一章 The Finance Bill 2020
Chapter.01第一章 The Finance Bill 2020
インドの2020年度予算案(Union Budget 2020)が発表されました。この記事では、その中でも「The Finance Bill 2020」において日系企業に影響を与える可能性がある主な税制改正案についてご説明します。
個人所得税率の選択制度
2020年度より、一定の条件の下で個人所得税の税率を選択することができます(但し健康教育目的税とサーチャージには変更はありません)。
新しい税率の方が税率は下がりますが、新しい税率を選択する場合にはインド所得税法(Income Tax Act, 1961) 第16条に定める基礎控除や、 同第10条に定める住宅手当等の各種控除が認められません。つまり、現行の税率と新しい税率のどちらの方が所得税額を少なくすることができるかを計算の上、選択する必要がございます。
スタートアップ企業への免税
インド所得税法第80-IAC条では、適格なスタートアップ企業(eligible start-up)に対する法人税の免税を定めておりますが、その適格要件が拡大される案が発表されました。
但し、“eligible start-up”は全てのスタートアップ企業が該当するわけではありません。
インド所得税法第80-IAC条4項1号において“eligible business”とは「技術や知的財産によって新製品、プロセスやサービスの変革、開発、商業化などをするビジネス」と定義されていますが、これ以上の詳細な定義はないため、何が該当するかは監査人や税務専門家による見解、過去の判例等に基づき判断をする必要があります。
配当分配税 (Dividend Distribution Tax:DDT)の廃止
現行の税制では、配当を支払うインド法人に対し一律15%(サーチャージと健康教育目的税を含めた実効税率は20.56%)の配当分配税(Dividend Distribution Tax)を課しております(※配当の受取り側は非課税)。
2020年4月以降、DDTは廃止され、配当時にインド所得税法第194条に基づいて10%のTDSが控除され、インド側で源泉徴収したTDSについては、日印租税条約に基づき、日本側で外国税額控除の適用を受けることができるようになる予定です。
配当所得は(インド国内企業から受け取った配当であっても、海外から受け取った配当であっても)課税所得となりますが、この配当所得に対しては当該所得額の20%を上限として利子控除が認められます。利子控除とは、銀行からに対して借入利息などを支払っていた場合に、当該利息を費用として配当所得額から控除することができるという意味です。
法人税率の減税制度に発電ビジネスが追加
インド所得税法第115-BAB条では、2019年10月1日以降に設立され2023年3月31日までに製造を開始した企業に対し、一定の条件の下で15%(サーチャージと健康教育目的税を含めた実効税率は17.16%)の税率を選択適用できる旨を規定しています。従来は、対象企業が製造業に限られていましたが、今回の予算案では発電事業(generation of electricity)も適用対象となる案が発表されました。
税務監査の対象が売上高5000万ルピーを超える企業に限定
インド所得税法第44-AB条に定められた税務監査の適用対象企業の基準が、課税期間における年間売上高1000万ルピー超から、5000万ルピー超へと変更となる案が発表されました。
電子商取引における源泉税の徴収
インド所得税法第194-O条において電子商取引における源泉税(TDS)の徴収義務についての案が発表されました。消費者がAmazon等のオンラインショップから物品を購入する場合において、オンラインショップから個人出店者への支払が年間50万ルピーを超える場合には1%のTDSを控除する必要があります。(※個人出店者がPANもしくはAadhaarを取得していない場合は取引金額を問わず5%のTDSが課税される)。出店者が法人である場合には、支払金額を問わず支払時のTDS控除は不要です。
高額の物品販売におけるTax Collected at Source(TCS)の納税
年間売上高が1億ルピーを超える場合、500万を超える支払については0.1%(PAN/Aadhaarがない場合には1%)のTCSを課税する案が発表されました。TCSはGSTと同様に物品の売り手が買い手から徴収し、税務当局へ納税します。TCSの負担者は物品の買い手となりますが、物品の買い手は売り手へTCSを支払った際に当該支払額を資産として計上し、期末に未払法人税と相殺します。
非居住者が受領するロイヤリティや技術支援料について所得税の申告を免除
2020年4月以降、非居住者がインドからロイヤリティや技術支援料を受領した場合には、インドにおける所得税申告義務が免除されるという案が発表されました。但しこの規定は個人の非居住者(Non-residents)に限定され、外国企業(Foreign Company)は対象となっていません。
技術サービスに係る源泉税(TDS)料率が10%から2%へ改定
インド所得税法第194-J条ではプロフェッショナルサービスと技術サービスの報酬に係る源泉税を10%としていましたが、このうち技術サービスに係る源泉税のみ料率が2%へ改定となりました。
「プロフェッショナルサービス」はインド所得税法第44-AA条において、“legal, medical, engineering or architectural profession or the profession of accountancy or technical consultancy or interior decoration or any other profession”(法律、薬、技術、建築の専門家、または会計、技術の専門家、インテリア装飾やその他の専門家)と定義されています。このうち、どのサービスが技術サービスに該当するかについて今のところこれ以上詳細の情報は出ておりません。今後、より詳細な通達が発表される可能性がございます。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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