NEWS LETTER VOL.6 GST申告フォーム「GSTR-3B」(後編)
- 第一章 脅威は止めよう
- 第二章 GST申告フォーム「GSTR-3B」について
Chapter.01第一章 脅威は止めよう
新型コロナウイルスの災禍中、自分の体温以外のぬくもりのないところで、ぽつねんとコンピュータをいじっていると、通信の対岸にある端末には、その反応や結果がリアルタイムなのか数時間後にやって来るのかに拠らず、必ず人間がいるのだということを、その人の吐息のように実感させてくれます。ああ、コンピュータは道具でした。しかし、これまでのように人との過剰な接点接線の渦にいた時は、あたかもコンピュータが頭上で人界を束ねていて、民が各々天のコンピュータとのみ契約をして生きることこそが有難い、そんなイメージで仕事をしておりました。
1947年から1973年にかけてのテクノロジー進歩の黄金時代は、主として機械・科学・宇宙工学といった分野が主であり、イノベーションと生産性の増大は、労働者の価値を高め、高い賃金をもたらしました。米国では1948年から1969年にかけて4度の景気後退はあったものの、そのたびに増加した失業率も回復期になれば下がり、新しいテクノロジーの導入は生産性の増大をもたらしましたが、その成長の分け前は賃金増という形で労働者に還元されていました。
ところが、その後イノベーションの主流が情報テクノロジー分野になり、労働生産性の伸びと労働者の報酬の停滞が進み、その差は著しく乖離していきます。さらに1990年から1991年の景気後退のあとには、「雇用なき回復」、つまり企業経営者たちは労働者を雇いなおさなくても、事業回復を推進していけるように変身を遂げていきました。
米国労働統計局の示すデータによると、1973年以降、GDPに労働者の報酬が占める割合「労働分配率」は下がりはじめ、21世紀に入ると急降下します。これは米国に限った話ではなく、日本・カナダ・フランス・イタリア・ドイツ・中国では、米国以上に大きな低下がみられるという、経営学者たちによる分析があります。これは経済全般に及ぼすイノベーションの利益がほぼすべて、労働者ではなく企業の所有者や投資家に流れこんでいっているという証拠です。別の言葉でいうと、企業業績の拡大と労働者賃金の停滞がもたらす所得格差の深刻な拡大が進んでいるのです。
今年2020年の中盤以降、企業経営者たちは間違いなく経営危機からの脱出・事業転換による生き残りに努めてきます。その業績のV字回復はつまり、生産性の増大→賃金の上昇→購買力の増加という有史以来の法則に従うべきです。それが真ん中「賃金の上昇」・労働者部分を完全に無視して進めようと社長さん達が考えるのであれば、現在もてはやされているイノベーションのベクトルは、新型コロナウイルスの進行以上に人類の脅威となるのは明らかです。機械とは、「労働者」の生産性を上げる道具なのであって、「労働」のみの至上を目指すものでは決してありません。そんな脅威は止めましょう。次号は、マハトマ・ガンディーさんの自立の思想を引用しつつ、経済活動における人間の幸福とは何かについて考えてみたいと思います。
Chapter.02第二章 GST申告フォーム「GSTR-3B」について
前回概要をご紹介したGSTR-3B申告について、今回のニュースレターでは申告手続きの詳細と、実務上で注意すべき点を具体的な事例を基にご紹介します。
GSTR-3B申告手続の詳細
GSTR-3Bの申告は6つのパートに分かれています。3以降の項目については、実際の申告フォームを見ながらその詳細について以下にご説明いたします。
1. GST登録番号(GST Identification Number)
2. GST登録者名(この項目はGST番号を登録すれば自動的に表示されます)
3. GST受取額(GST Output)とリバースチャージ
4. 仕入税額控除(Input Tax Credit : ITC)の対象となる仕入額
5. GSTの課税対象とならない仕入
6. GSTの支払
3. GST受取額(GST Output)とリバースチャージ
3.1 GST Outputとリバースチャージの詳細情報
(a) Outward taxable supplies
顧客への売上のうち課税売上の対象なるものを入力します。
(Invoiceの金額) + (Debit Noteの金額) – (Credit Noteの金額) + (Invoice未発行の前受金) – (Invoiceに対する前受金の調整額)
(b) Outward taxable supplies (zero-rated)
海外やSEZ(Special Economic Zone)等への売上に関する情報を記載します。
(c) Other outward supplies (nil rated, exempt)
GSTの料率がゼロの売上(Nil Rated)やGSTが免除されている売上(Exempt)に関する情報を記載します。Nil-Ratedは塩など、Exemptは牛乳やパンなどが該当します。
(d) Inward supplies (liable to reverse charge)
リバースチャージメカニズムによりGSTを納税しなければならない場合の売上に関する情報を入力します。
※通常の取引では、事業者が顧客からGSTを預かって政府へ納税しますが、事業者がGSTの納税をできない場合(例えば、輸入取引において事業者がインド国外にいる場合など)にはインド国内の顧客側が事業者に代わって政府にGSTを納税リバースチャージメカニズム(Reverse Charge Mechanism:RCM)という仕組みが採用されています。
(e) Non-GST outward supplies
GSTの対象外(Non-GST)の売上に関する情報を入力します。Non-GSTには、アルコールや石油など、GSTは課税されないもののGST以外の間接税の対象となるものが含まれます。
3.2 3.1で登録した売上情報およびリバースチャージ情報のうち、GST未登録者などの情報
下記の取引主体と取引をした場合が対象となります。
• GST未登録業者
• Composition Dealers (一定の条件を満たす小規模事業者)
• UIN番号保有者(大使館や国際機関など)
(※ UINとはUnique Identification Numberの略語で、GSTの納税が免除された大使館や一定の国際機関等に付与される固有識別番号です)
4. 仕入税額控除(Input Tax Credit : ITC)の対象となる仕入額
IGST、CGST、SGSTそれぞれの GST Inputの金額を申告します。なお申告するのは総額のみでよく、請求書単位の情報は必要ありません。
(A) ITC Available (仕入時に支払ったGST Input額)
(1) 物品の輸入額
(2) サービスの輸入額
(3) 上記輸入以外のリバースチャージ
(4) Input Service Distributorから与えられたITC
(5) 上記(1)~(4)以外の全てのITC
(B) ITC Reversed(仕入税額控除の対象とならないGST Input)
(1) インドCGST法(Central Goods and Services Tax Act, 2017)では、仕入れた商品やサービスの一部が事業のために使用され、一部が他の目的のために使用された場合には、事業のために使用されていない部分のITCを取り崩さなければならないと規定されています。同様に、仕入れた商品やサービス、購入した固定資産に課税対象、非課税対象、ゼロ評価の供給物が含まれている場合にも、インプットクレジットの取崩しが必要となります。取り崩しの金額については詳細な計算式が定められています。
(2) 法定の他に、帳簿上で戻されているITC
(C) 仕入税額控除(Input Tax Credit)の対象額 ((A)-(B))
(D) 有効とならないITC
5. GSTの課税対象とならない仕入
6. GSTの納税額
この項目で最終的なGST納税額を報告します。
Tax Payableの金額は上記の3.1.(a)と一致する必要があり、IGST、SST、CGSTに分けて入力します。一方、上記の4(c)と一致するようにITCを入力します。現金で支払うべき差額が”8 Tax/Cess paid in cash”の欄に表示されます。もし遅延利息や延滞税の支払も必要である場合には、その値も報告されます。
事例
ここからはGSTR-3Bの申告に関して注意すべき事例と、その予防策をご紹介します。
<事例1: 仕入税額控除(Input Tax Credit)の適用順序を間違えてしまうケース>
ABC社はGSTの納税額(もしくは繰り越せるInput Tax Credit)の計算をする際、GST Outputに対してまずIGSTのInput Tax Creditから相殺を行いますが、このときCGSTとSGSTの課税売上高から均等に控除をしなければなりません。
上記の正しくない例(Wrong method)の場合、IGSTのITC70,000ルピーをCGSTに対して45,000、SGSTに対して25,000控除していますが、CGSTとSGSTは常に均等になるよう控除しなければならないため、正しい例(Correct method)のようにSGSTとCGSTの課税売上に対して均等に35,000ルピーずつ相殺する必要があります。
<事例2: 支払条件のせいでInput Tax Creditの計上日を間違えてしまうケース>
PQR社は、サプライヤーとの契約上、サプライヤーから受領した請求書日付の270日後にサプライヤーへの支払いを行っています。同社は請求書日付に基づき費用計上を行い、それと同時にInput Tax Creditを計上していますが、このような支払条件が前提となっている場合に、これは正しい手順ではありません。インドCGST法(The Central Goods and Services Tax Act, 2017) 第16条(2)において、サプライヤーへの支払が請求書発行日から180日を超える場合には、サプライヤーへの支払日にはじめてInput Tax Creditを計上することができると定められています。
上記の例の場合、サプライヤーへの支払日が請求書受領日から起算して180日を超えているため、2020年4月1日にはInput Tax Creditを認識することができず、2020年5月1日の売上で計上されるGST Outputとの相殺をすることができません。つまり、サプライヤーへの支払に関するInput Tax Creditは、2021年1月1日に初めて計上することができます。PQR社のような誤りを防ぐためには、請求書日付から180日以内にサプライヤーへの支払を実施することをお勧めします。それが難しい場合には、サプライヤーへの支払日にInput Tax Creditを計上しなければなりません。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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