日系企業の資金繰りを苦しめる税金の仕組みと実態について理解する
インドでビジネスをしていてよく思うことですが、想定していた以上に資金繰りに苦しめられている日系企業が多いように思います(当社も含めて、汗!)。こんな声をよく耳にします。「事業計画ではもう少し資金に余裕があるはずだったんだけど思っていたよりも早く運転資金が底をつきてしまった。」「損益計算書を見ると黒字なのに、なんでこんなにお金が足りないんだろう。」もちろん、想定していたよりも売上が上がっていない、売掛金の回収が遅れている、想定外の経費がかかってしまった、などなど、企業の資金繰りを苦しめている理由は多種多様で、インドで当初の事業計画どおりに会社を経営していくことは決して簡単ではありません。今回は、資金繰りを苦しめている税金の仕組みにフォーカスをして、インドビジネスの資金繰りの実態に迫ってみたいと思います。
■ サービス業やコミッション事業モデル商社はTDS(源泉所得税)に注意!
インドでサービス業を営む日系企業や、コミッション事業モデルの日系商社などは、サービス提供の対価として売上を計上します。この売掛金の回収時に、多くのケースで10%等一定の税率に基づいて計算されたTDSが控除されて入金されるため、その控除された税額分だけ目先の資金繰りが苦しめられることになります。この控除された税金は、クライアント側が自社の代わりにインドの税務当局に納税をしてくれますが、設立初期で事業がまだ赤字の場合には、そもそも年度末の法人税納税額は発生しないので、最終的には還付されることになります。つまり、納税する必要のない税金を一時的に納税せざるを得ないので資金繰りを苦しめるのです。インドは3月末決算ですが、法人税の税務申告期限は同年9月末、納付した税金が還付されるのは申告から3~4ヶ月後の同年12月~翌年1月ぐらいになるので、結果的に1年以上も税金を預けておくことになります(もちろん多少の利息が乗って還付されますが)。また、日本本社からインド子会社へコミッションを支払っているケースも多いと思います。この場合、日本からインドへ海外送金する際に、日本側で控除された源泉所得税は日本の税務当局に納税されるため、インド子会社が赤字の場合には、インド側で二重課税を防ぐための外国税額控除の適用ができず、還付請求もできません。つまり、日本側で控除された税金は、実質的には単なるコストとして認識せざるを得ないことになります。
また、「サービスの輸出取引」にかかるサービス税についても注意が必要です。例えば、上述のコミッション事業モデルの場合、インド子会社が日本の親会社に対して販売促進のためのサービスを提供している(サービスを輸出している)ことが想定されます。サービス税が免税となる「サービスの輸出取引」に該当するためには、以下5つの要件をすべて満たす必要があります。
1.サービス提供者が課税区域内にいること
2.サービス受領者がインド国外にいること
3.ネガティブリストに記載されたサービスではないこと
4.サービスの提供地がインド国外であること
5.サービス報酬が交換可能な外貨で支払われていること
ちなみに、これらの要件の中で「サービスの提供地がインド国外であるかどうか」、についてはさまざまな論点があり、サービス内容によっては明確な判断が難しいケースもあります。(※詳細については別規定“Place of Provision of Service Rules”を参照)もし、サービスの提供地がインド国内であるとみなされてしまった場合には、サービス税(2016年4月1日現在で14.5%)が追加で課税されることになります。
逆に、サービス税が免税となる「サービスの輸出取引」に対して、例えば、当該業務に直接関わるサービスの一部をインド国内ベンダーに外注するようなケースの場合、当該業務の外注先に支払ったサービス税については、還付請求することが可能です。なお、サービス税の還付申請後は、当局に対して定期的かつ継続的にフォローアップを行い、実際に還付されるまで粘り強く対応をすることが求められます。(※サービス税還付申請フォーム“Form A”およびインド勅許会計士の証明書”Form A-1”等必要書類を添付して1年以内に申請する必要があります。)
■ 製造業や輸出入事業モデル商社は間接税や通関時のデポジットに注意!
【サービス税(Service Tax)の還付漏れに注意しよう】
製造業や輸出入事業モデル商社で、製品をインド国外に輸出している日系企業は、サービス税の還付漏れがないかを注意する必要があります。具体的には、製品をインド国外に輸出する際に、当該輸出取引に付随して発生するサービスに対して支払っているサービス税については、還付請求することが可能です(※間接的な輸出取引(=みなし輸出取引(Deemed Export))の場合は適用外)。なお、サービス税の還付申請後は、当局に対して定期的かつ継続的にフォローアップを行い、実際に還付されるまで粘り強く対応をすることが求められます。(※上記と同様、サービス税還付申請フォーム“Form A”およびインド勅許会計士の証明書”Form A-1”等必要書類を添付して1年以内に申請する必要があります。)
【物品税(Excise Duty)や州付加価値税(VAT)/中央販売税(CST)の還付漏れには注意しよう】
インド国内で調達した部品を使って製造した製品をインド国外に輸出するケースや、インド国内で調達した製品をそのままインド国外へ輸出するような場合、調達した際に支払ったExcise DutyやVAT/CSTを還付請求することが可能です。なお、これらの税金還付申請後は、同様に当局に対して定期的かつ継続的にフォローアップを行い、実際に還付されるまで粘り強く対応をすることが求められます。この還付手続きおよびフォローアップが長期化し(もしくは一切の対応がなされていないケースもあり)、資金繰りを苦しめている事例が多く見受けられます。(※みなし輸出取引(Deemed Export)も適用対象)具体的には、Excise Dutyの還付申請には“Form R”を、VAT/CSTの還付申請には“Form W”を使って申請する必要があります。)
【通関時の担保金EDD返金漏れに注意しよう】
日本の親会社(関連会社を含む)から何らかの物品を輸入する際には、輸入申告価格の妥当性についてSVB(Special Valuation Branch)当局による詳細な査定を受けることになります。これは、関連会社間において実際の金額よりも安い金額で輸入されると、輸入時の関税収入が減ってしまうため、「適正価格(Arm’s Length Price)」で取引させるために運用されている制度です。(※余談になりますが、逆に、実際の金額よりも高い金額で輸入されると、インド側で計上されるコストが高くなり(=利益が低くなり)、インド国内の法人税の税収が下がるため、同様に「適正価格」で取引させるために運用されている税法が“移転価格税制”です。)
まず輸入者は、輸入した物品を適時に通関させるために、EDD(Extra Duty Deposit)と言われる担保金(デポジット:CIF価格の1%)を一時的に支払わざるを得ないという実務的な問題があります。このデポジットを返金してもらうために、輸入者は、SVB当局が発行する質問状に対する回答や、売買契約書、決算書類、輸入価格が適正であることを証する書類、その他さまざまな書類を提出し、輸入価格が適正である旨の承認を得る必要があります。なお、SVB当局が発行した質問状に対して30日以内に回答できなかった場合には、当該担保金がCIF価格の最大5%に引き上げられ、日系企業の資金繰りをさらに苦しめる要因となっています。最終的にSVB当局から承認される(=Final Orderが発行される)と最大3年間有効となります。
なお、SVB当局はこの制度を利用してある種の“収入”を得ているというブラックな側面もあり、適正価格であることが承認されるまでに、不当に時間をかけられてしまうケースや、不当な金銭の支払を要求されたという実例も後を絶ちません。関連会社からの輸入に際しては、この担保金の負担と、担保金が実際に返金されるまでに要する相当な労力と時間コストを理解した上で、粘り強く対応していく必要があります。
(※当該コラムは2016年4月時点の税制に基づいて執筆しております。)