NEWS LETTER VOL.13 源泉所得税TDSの納付期限と遅延利息
- 第一章 ZOOMの向こうの違和感 (2)
- 第二章 源泉所得税TDSの納付期限と遅延利息
Chapter.01第一章 ZOOMの向こうの違和感 (2)
さて前回より、会社内外で用いられるZOOMをはじめとするオンラインツールから、自然言語のみならず 「人の熱量とぬくもりのビッグデータ」 を解析し、経営者が様々な仮説を立てることができれば、遠隔地からの内部統制の飛躍的改善が可能になるのではないか、というお話をしているのですが、解析を終えた機械からいよいよバトンタッチを受けた人間様が充分な仮説力を持ち合わせていなければ、その解析結果は宝の持ち腐れ、それどころか機械にもてあそばれることにもなりかねません。
前回協力いただいた堀下栄太氏 (VALUENEX(株) ビジネスデザイン室リーダー) は、しばしば「AI・ビッグデータ解析」という名のもとにおいて、意思決定者がAIを過信してしまう、ひいてはデータを巧みに操る「技術者」をも妄信対象としてしまうことが、意思決定者自身の思考の停止をまねき始めているのではないか、と非常に危機感を抱いています。車が完全自動運転化されたとしても、例えば、「今最も話題性のある都内のいずれかのラーメン屋のラーメンに1時間以内にありつきたい」 という車の持ち主の思考・目的なしでは、1センチたりとも動きはしませんよね。
しかし一方で、逆説的に人間の仮説力の恐ろしさにも言及しなければなりません。前回紹介した2020年第25期日本学術会議会員名簿のリストにある約200名の会員が関わっている、公開済の約4,800件の研究分野の分布図(図①と②: 前出の堀下氏の個人的な解析作品)を操作してみて、おまけに東京大学関係者の研究分野の分布図(図③:同氏の作品)をも使って、「日本学術会議の存在意義」についての仮想国会答弁を、与党や野党になったつもりで展開してみましょう。図中、青→黄→赤と色が変わるにつれて研究頻度が高くなっています。
ちなみに当国会答弁はフィクションであり、実在の人物・団体とはほとんど関係ありません。あくまで筆者自身の仮説力を養うために堀下氏の助言のもとに試作した妄想答弁です。
野党代表質問者:
「総理は、図①を参照して、当学術会議は、研究分野に偏りがなく、自由闊達な研究団体だ、とおっしゃる。しかし2017年からの研究分野に絞った図②をご覧いただきましょう。見事に、政策・制度・国家の研究に偏っているではありませんか。これでは、政府の意向が何らかの形で反映されているという 「分析」結果を導かない方が無理というものです、総理?」
総理:
「研究分野および研究頻度について、政府が意見を申し上げるということは一切ございません」
野党代表質問者:
「そうおっしゃるのであれば、総理の当学術会議の一部会員の任命を拒否したというご行為は、まさにその真逆ともいえる事実です。これだけ研究分野を政策・制度・国家に集中させつつ、さらに現政策に批判的な研究者達を排除しているという状態は、鉄の鎧ともいえる周到な理論武装をさせて、当学術会議を政府の都合の良いものにしている証拠であります。」
総理:
「提示いただいた図②についてですが、そもそも、各研究には過去3年を切り取っただけでは把握できない長期継続性というものがあり、また図①を見てご理解いただけるように、ひとつの分野にとらわれない、分野横断的な素晴らしい研究も多数存在しているという明白な事実もあります。それを無視しての定点観測的ともいえる安易なご「分析」は、受け入れがたいものがあります。」
野党代表質問者:
「それでは、主要国立大学の2017年以降の研究分野の分布(例-図③:東京大学)をご覧いただきましょう。総理はどう思われますか。たとえ短期間を切り取ってみたとしても、研究分野はまんべんなく網羅されているではありませんか。これら他団体のデータを「分析」し比較すればわかるように、近年の日本学術会議における偏りは、まぎれもない異常値だ、と申し上げているのです。」
総理:
「先程も申し上げました通り、1949年から続く、歴史ある当学術会議を長期的に「分析」した上で、依然として当会議は、学問の自由が保障された、文字通り自由闊達な研究団体であるものと認識しております。」
・・・・ 仮想国会答弁の作成トレーニングは、なんとも疲れました。しかし、総理側と野党側どちらを見ても、同じ約4,800件のデータ解析結果からはじまったはずの「分析」が、仮説とともに見事に右と左へ暴走していくさまがお分かりいただけたと思います。仮説力にも人間の尊厳が要求される時代といえます。
今回は、2021年以降は、「対AIコミュニケーション優位論」 「対AI認知心理学」 「対AIリーダーシップのススメ」 等が激しく議論されていくであろう、というところまでなんとか書きたかったのですが、無駄に国会答弁が長引いてしまったので、それは次号に回したいと思います。一体どうなる?「人の熱量とぬくもりのビッグデータ」解析と、遠隔地からの内部統制の飛躍的改善。。。
Chapter.02第二章 源泉所得税TDSの納付期限と遅延利息
前回はインドの源泉税であるTDSの概要ついてご紹介しましたが、今回はTDSの課税タイミングや納付期限と遅延利息についてご紹介します。以下、源泉徴収の義務を負う者のことを「源泉徴収義務者」、源泉徴収を受ける者のことを「納税者」と呼びます。
1.TDSの課税タイミング
TDSは、納税者が当該取引を記帳した月または源泉徴収義務者から支払いを受けた月のいずれか早い方が課税のタイミングとなります(以下、課税のタイミングとなる月のことを「対象月」と呼びます)。
<設例1>
P社は、2020年12月分の専門家報酬を2021年1月に支払いました。
⇒専門家報酬を2020年12月に記帳するため、TDSは2020年12月に課税されます。
<設例2>
Q社は、2020年12月分のオフィス賃料を2020年11月に支払いました。
⇒オフィス賃料の支払を2020年11月に行ったため、TDSは2020年11月に課税されます。
2.TDSの納税期限
TDSの納付期限は、対象月の翌月7日までとされています。
前項の場合、設例1ではP社の納付期限は2021年1月7日、設例2ではQ社の納付期限は2020年12月7日となります。但し、年度末の毎年3月に限り、TDSの納付期限は4月30日となります。
TDSの支払は取引銀行を通じて行いますが、納付方法は通常のネットバンキングと異なります。具体的な納付方法については取引銀行にご確認ください。納税後に銀行からTDS Payment Challanがメールで送付されますが、このTDS Payment Challanは次回のニュースレターでご紹介するTDSの四半期申告時に必要となります。
3.TDSの遅延利息
所得税法(Income-Tax Act, 1961)の201条によると、TDSの納付が遅れた場合、源泉徴収義務者には以下の遅延利息が発生します。
遅延利息 | 対象期間 | |
TDSを控除しなかった場合 | 1か月あたり1% | 控除すべき日を含む月から実際に控除した日を含む月まで |
TDSを控除したが支払わなかった場合 | 1か月あたり1.5% | 控除した日を含む月からTDSを納税した日を含む月まで |
TDSの遅延利息は日割り計算せず、1か月単位で発生するため注意が必要です。
4.TDSの支払漏れ
TDSの控除・納税を忘れた場合、源泉徴収義務者は、そのTDSに関わる支払の30%が損金不算入となります。なお、インド国内のTDSではなく、租税条約に基づいて海外へ支払いを行う際に控除すべき源泉税を控除し忘れた場合には、当該支払額の100%が損金不算入となります。海外送金の際にはForm 15CBという勅許会計士の証明書が必要となるため、源泉税を控除し忘れることはまずありませんが、控除した源泉税を納税し忘れないよう注意が必要です。
<事例1:TDSの控除を忘れたケース>
X社は2021年5月31日、会計事務所G社に50,000ルピーの支払を行いました。本来、X社は7.5%のTDSを控除して納税しなければなりませんが、控除を忘れて満額の50,000ルピーをG社に支払ってしまいました。
X社はそのことに気がつかないまま、2021年9月30日に2021年3月期の法人税申告を完了し、2021年12月31日に当該TDSの控除漏れに気がつきました。
このままX社がこの事態を放置すると、税務調査が入った時、所得税法(Income-Tax Act, 1961)40条(a)(ia)に基づき、支払額の30%である15,000ルピー(50,000×30%)が損金不算入となり、X社の2021年3月期の課税所得に加算されます。
納税者であるG社の2021年3月期法人税申告も完了していたため、X社はTDSを控除することができません。この場合には、X社は対象月からの遅延利息のみを納税し、TDSの控除をしなかった顛末に関する勅許会計士の証明書(Form 26A)を取得します。Form 26Aには、以下の事項が記載されます。
- TDSを控除すべきだったが、控除しなかった旨
- 納税者であるG社が既に2021年3月期の法人税申告を完了している旨
- X社が遅延利息の月1%を支払った旨
上記Form 26Aを入手することで、税務調査の際に上記の30%損金不算入を防ぐことができます。
このような控除漏れや遅延利息の発生を防ぐため、費用の支払時には専門の会計事務所に控除すべきTDSの金額を確認したうえで支払いを行う必要があります。
<事例2:前払金のTDSを払い忘れたケース>
Y社の財務担当者は、2021年5月31日、ローカルの不動産デベロッパーであるH社に1億ルピー(約1.4億円)の支払いを行いました。2021年5月度のBank Statementを確認した経理責任者は、財務担当者に当該支払の内容を尋ねました。すると財務担当者は「たしか土地の敷金(Deposit)だったと思う。」と口頭で答えました。財務担当者の回答を信じた経理担当者は、「敷金であればTDSの控除は必要ない」と考え、TDSを納税しませんでした。
ところが、その後2021年10月になってH社から上記の支払に関する正式な請求書(Tax Invoice)が到着し、経理担当者が確認したところ、実際には敷金の支払ではなく、建物付属設備(Leasehold Improvement)の前払金であったことが判明しました。
建物付属設備であれば所得税法(Income-Tax Act, 1961)194C条に基づき2%のTDSを控除する必要があります。TDSの課税タイミングは「納税者が当該取引を記帳した月または源泉徴収義務者から支払いを受けた月のいずれか早い方」であるため、今回のケースでは2021年6月7日がTDS納付期限となり、遅延利息は2021年5月31日から(そして上述の通り遅延利息は日割り計算をしないため、実質的には2021年5月1日から)発生します。
従って、2021年5月から10月の6か月間、1%の遅延利息が発生するため
1億ルピー × TDS 2% × 6か月 × 遅延利息1% = 12万ルピー
の遅延利息を支払う必要があります。
このような事態を防ぐために、支払を行った場合には、支払担当者は経理担当者に対して支払内容を口頭で伝えるのではなく、根拠証憑を送付することが重要です。たとえ正式な請求書(Tax Invoice)を受領していない場合であっても、少なくとも契約書や発注書などの書類を送付する必要があります。
一方の経理担当者も、Bank Statementに記載されている全ての支払いについて、財務や購買担当者の口頭での通知を信じるのではなく、契約書や発注書などの根拠証憑を確認したうえでTDSの計算をすることが重要です。「まだTax Invoiceを受け取ってないらしいから、とりあえずTax Invoiceが届くまで放置しておこう」という受け身の姿勢は極めて危険です。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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