NEWS LETTER VOL.15 源泉所得税TDS四半期申告の期限と延滞税
- 第一章:おばあちゃんにもわかる債務超過 ①
- 第二章:源泉所得税TDS四半期申告の期限と延滞税
Chapter.01第一章: おばあちゃんにもわかる債務超過 ①
今は亡き筆者の祖母が、昔、野球のテレビ中継を見てこういったそうです。
「あそこから球を投げる人(投手)は大変だねえ。あんな遠くでかまえるこん棒(バット)にじょうずに当ててあげるんだから。」
“ピッチャーとバッターは敵同士” というそもそもの条件を祖母は知らなかったのでしょう。でなければこんな哲学者のつぶやきのようなものは生まれません。
奇しくもこの哲学こそ、世界の王貞治 直筆ノート”気”の章第7項 の心構え 「こちらが待ちかまえているところへ投げ込んでくるのだから打てぬ訳がない。」 の世界観そのものであり、頂点を見続けた男がついに祖母の領域にまでたどり着いてしまったということでしょう。物事の 「そもそも」 の部分を考え直すだけで、人はとんでもない発想に至る可能性があります。
「そんなに大変なら“ケッサン”やらなきゃいいんじゃないですか。」 新卒サラリーマンとしてとある企業の本社経理部に配属された2000年4月のうららかな春の日、思わず口を突いて出たあの一言を自分でもよく覚えています。1年中で一番話しかけづらい雰囲気を身にまとった決算最盛期の異形の経理部職員たち(多分自分たちはそれに気づいていない)の中に放り込まれた迷い猫、たまに相手してもらえたかと思えば 「ケッサンが始まるとほんとユウウツだぞー」 だとか 「君もいずれわかるよ、ケッサンのツラさがねー」 などと先輩方の呪文を聞かされ続けた末、どうにもやるせなくなって出た無知な新人の迷言がそれだったのですが、そもそも、決算にまつわる 「そもそも論」 を聞かされていなかったのですから無理もありません。
例えば、
- ・企業の決算数値を今か今かと心待ちにしている人なんてそもそも存在するのか?
- (→ YES!厳然と存在する。)
- ・それが企業の果たす義務かつ経理マンの宿命だから決算をするのか?
- (→ 一応YES!だが真の理由はそれが自社のⅤ字回復戦略のためのキラーアイテムとなりうるからだ。)
- ・決算を経て法人税を日本国に支払う意義はそもそも何なのか?
- (→ 国富増強と富の再分配だ!)
こういう話は、4月のなるべく早い時期に新人諸君にしてあげたほうがよいでしょう。
それはさておき、既存の 「そもそも論」 にまるで束縛されていない 「年次ケッサン不要」 発言は、逆説的にその数年後に始まることになる四半期決算の恒常化、そして格段に精度が高くなった月次決算、さらに日次決算なんていう概念の登場をも予見してたかのようです(先輩方、お世話になりました。)。年の瀬の大掃除のように仰々しかった年次決算作業が、究極的には日常的に行われて経営に活用されてしかるべきだったのだと、今では多くの経営者が気づいているのです。
ところで、「そもそも」 を自分の口癖にしてしまうことで、複雑怪奇な世の中が一気に単純なものに感じられてくるのは不思議です。それは 「自分のおばあちゃんにもわかるような単純明快な理論展開」 を常日頃から心掛けるということにも通じ、自分のまわりの理解者を増やすのにもとても良いかもしれません。
企業経理の世界に身を置く方々は、会計言語と呼ばれる道具とルールを駆使し、それはお互いの話し言葉が分かり合えなかったとしても、経理部内の業務がある程度成立してしまうほど便利なものなのですが、その専門レベルでとどまってしまうのであれば、わざわざ数字を作って公表する意味がありません。会計言語と数値を、それこそおばあちゃんにもわかってもらえるほど単純明快に翻訳してはじめて、万人に有用な情報になると思うのです。
そこで今回と次回は、近年よく聞く 「企業の債務超過」 を例に挙げて、それをあろうことか貸借対照表(バランスシート)の世界観をもってしておばあちゃんに説明することが果たして可能かどうか、にチャレンジしていきたいと思います。
言うまでもないことですが、「債務超過とは、そもそもどのような状態をいうのか。」 という疑問に対しては、これまでも無数の識者たちが回答してきています。その大半は、「負債の額が資産の額を超過し、資産を全部売っても負債を返しきれない状態のことであり、別の言葉でいえば、累積赤字が株主資本すらも上回った状態である」 という内容であり、いかにも沈没寸前の船の切迫感が伝わってくるようですが、あれ?そもそもこういった説明は、借方と貸方に分けられたあの長方形の物体(バランスシート)が読者の頭の中にあることを前提にしてはいないか?と思うわけです。
いけません。そんなことでは、長方形の物体など知らない、そして今後も知る必要がないおばあちゃんに無理やりにでも興味を持ってもらうことなど期待できません。そこでですが、いわゆる通常の企業のバランスシートの右側には 『真実を映し出す魔法の鏡』 を据えてみることにします。
一方、債務超過の企業のバランスシートには、それに少し細工を施すことで 『負の光を放つ月と、浮かび上がる禍々しい影』 に登場してもらうことにします。その単純明快な物語展開への挑戦は、次号に続きます。
Chapter.02第二章:源泉所得税TDS四半期申告の期限と延滞税
前回はインドの源泉税であるTDSの四半期申告の概要と入力項目についてご紹介しましたが、今回はTDS四半期申告の期限や延滞税についてご紹介します。前回同様、源泉徴収の義務を負う者のことを「源泉徴収義務者」、源泉徴収を受ける者のことを「納税者」と呼びます。
1.TDS四半期申告の期限
源泉徴収義務者によるTDS四半期申告は下記のスケジュールで実施します。
期 | 対象月 | 申告期限 |
第1四半期 | 4月、5月、6月 | 7月31日 |
第2四半期 | 7月、8月、9月 | 10月31日 |
第3四半期 | 10月、11月、12月 | 翌年1月31日 |
第4四半期 | 1月、2月、3月 | 5月31日 |
3月のTDS納付期限が4月30日となっているため、第4四半期のTDS申告のみ申告期間が2か月と設定されており、申告期限は5月31日となります。
なおコロナウィルスの影響により、2021年3月期は第1四半期と第2四半期のTDS四半期申告期限が2021年3月31日に延長されております。
2.TDS四半期申告の延滞税
TDS四半期申告が遅延した場合、インド所得税法(Income-Tax Act, 1961)234E条の規定に従って延滞税が課されます。延滞税は1日当たり200ルピーですが、支払ったTDS金額を超えることはありません。
例えば、第2四半期(10月31日申告期限)に申告すべきTDSの金額が5,000ルピーであったのに、この申告が漏れてしまい、この申告を翌年の2月28日にした場合、遅延日数は120日となります。従って延滞税は
200ルピー/日 × 120日 =24,000ルピー
となりますが、実際に課される延滞税はTDSの金額である5,000ルピーとなります。
事例1:TDSを控除したか納税および四半期申告をしていなかったケース
2021年1月31日、日系企業のX社は顧客のY社に10,000ルピーでプロフェッショナルサービスを提供し、Y社からの支払を受けました。X社への支払時、Y社は7.5%のTDSを控除して9,250ルピーをX社に支払いましたが、控除したTDSの750ルピーを納税せず、四半期申告もしていませんでした。
従って、Y社からX社へはForm 16Aが発行されず、X社のForm 26ASにも当該TDSが反映されていませんでしたが、X社はそれに気がつかないまま、2021年9月末に2021年3月期の法人税申告を完了してしまいました。なぜX社がY社によるTDS未納を見逃してしまったのかというと、X社のForm 26ASに表示されているTDSの金額が会計帳簿と一致しているかを確認していなかったためです。(※Form 16AとForm 26ASの詳細は過去のニュースレターNEWS LETTER VOL.12「源泉所得税TDSの概要について」をご参照ください。)
X社は、TDSの控除を受けると、控除されたTDSの金額を” TDS Receivable(資産)” という勘定科目で記録していましたが、TDS Receivableの残高がForm 16AやForm 26ASの金額と一致しているかどうかを確認していなかったため、Y社による納税漏れに気がつくことができませんでした。通常であれば法人税申告前に監査人が気づくはずですが、監査人も見逃したまま監査報告書にサインをしてしまいました。
X社は、法人税申告後の2021年12月に実施された本社による内部監査によって初めてY社によるTDS未納に気がついたため、Y社に対してTDS 750ルピーの返金を請求しました。TDSの控除は源泉徴収義務者に課されているため、納税者であるX社には税務上何らペナルティーは課せられませんが、控除されたTDSが納税されていないことに気がつかないと、未払法人税額を納付済TDS金額と相殺することができず、必要以上に法人税を払ってしまうリスクがあります。
源泉徴収義務者からスムーズに未納のTDSを返金してもらえれば損失はありませんが、取引先とのやり取りや未納TDS金額の特定に工数がかかってしまう可能性があるため、TDS Receivableの金額をForm 26ASやForm 16Aと照合し、不一致の場合には源泉徴収義務者に対して納税を促すことが重要です。なお帳簿のTDS receivable残高とForm 26ASやForm 16Aの金額をスムーズに照合するため、TDS Receivableの残高は取引先別、年度別に管理することをお勧めします。
一方、TDSを控除したにも関わらず納税が漏れていたY社にはペナルティが課されます。納税漏れを起こさないようにするため、源泉徴収義務者はTDSの納付や申告時に帳簿の未払TDS残高と照合する必要があります。
事例2:FRROの申告期限時にForm 26ASを発行できなかったケース
2020年の4月より、日系企業の駐在員Z氏はコロナウィルスの影響を避けるため日本へ長期一時帰国をしていましたが、2020年10月31日にインドへ戻ることになりました。Z氏の就労ビザとFRRO(外国人登録証)は2020年11月10日で切れることになっていましたが、Z氏はインドへ戻ってからビザ更新手続きをすることにしました。
インドへ戻って荷物の整理も落ち着いた11月3日に、Z氏がビザ更新手続きの申請に必要な書類を確認したところ、2020年4月から9月までのForm 26ASを求められました。
そこでZ氏がForm 26ASの発行を経理部門へ依頼すると、経理担当者は「2020年4月から9月までの四半期申告期限は2021年3月へ延長されているため、まだ四半期申告を実施していない。今は2020年3月期の法人税申告で忙しく、四半期申告をするのに数日かかる。四半期申告の実施後、申告内容がForm 26ASへ反映されるのも3営業日ほどかかるため、ビザ更新の期限に間に合うかどうかわからない」と言われました。実際にZ氏のForm 26ASは11月10日の期限に間に合わず、Z氏のビザは期限切れになってしまいました。
このように、たとえTDSの四半期申告期限が延長された場合であっても、ビザの申請や日本での法人税申告時の外国税額控除適用申請など他の理由によりForm 26ASが必要となるケースがあるため、四半期申告の期限が延長された場合には注意が必要です。また、ビザの更新は不測の事態が発生するため、直前ではなく早めに実施することをお勧めします。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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