NEWS LETTER VOL.16 源泉所得税TDSの控除証明の概要
- 第一章:おばあちゃんにもわかる債務超過 ②
- 第二章:源泉所得税TDSの控除証明の概要
Chapter.01第一章: おばあちゃんにもわかる債務超過 ②
1945年の終戦時、玉音放送の難解な漢語を含んだ内容が、結構な数の臣民には即座に理解できるものではなかったという話を聞きます。
それこそ、耐えがたきを耐えて戦争を続けろと宣っていると理解してしまった中隊長もいたということですから、南方のジャングルや北方の荒野で銃を構えながらも短波で流れてくるラジオに耳を澄ました満身創痍の若い兵隊さんたちにとっては、とてつもなく不便なものに感じられたことでしょう。
今回はすぐにでも、会計言語のひとつである「バランスシート」の右側(貸方)に 『真実を映し出す魔法の鏡』 を据えて複雑怪奇な世界観を単純明快化する、というお話でおばあちゃん編を終わりにしたかったのですが、駒をいくら進めても振り出しに戻ってしまうロックダウンジェネレーションの我々(4月28日現在バンガロールにて傷心中)ですので、閑話休題・・と襟を正すふりして、さらに茶飲み話が続いてしまうくらいのアソビ心をもったとしても大勢に影響はないでしょう。
続けます。「やさしい日本語」という取り組みをご存じですか。阪神淡路大震災時、外国人被災者のための情報提供が発災から半日後に英語では始まったものの、当然、英語圏出身者だけではなかったために伝達には限界があり、混乱を引き起こしてしまったといいます。災害時は、発災後72時間が生死を分けると言われており、速やかに情報を伝達する必要があるのです。
こういった経験を生かして、外国人に災害情報を「迅速に」「正確に」「簡潔に」伝えるべく、弘前大学社会言語学研究室や一橋大学国際教育センター等で研究され始めたのが「やさしい日本語」です。災害時だけでなく、平時における外国人への情報提供手段としても利用され始め、行政情報や生活情報、毎日のニュース発信など、全国的に様々な分野での取組が広がっています。
これには、
- できるだけ余分な情報をカットする。
- 伝えたいことを前に持ってくる。
- 必要に応じて補足情報を加える。
- 一文中で一つの情報提供に留める。
- 一文を短くする。
- 主語と述語を明確にする。
などのガイドラインがあります。前述の玉音放送を例に挙げると、その冒頭部は、
「朕深ク世界ノ大勢ト帝国ノ現状トニ鑑ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ収拾セムト欲シ茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク 朕ハ帝国政府ヲシテ米英支蘇四国ニ対シ其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通告セシメタリ」
ですが、これはたしかに現代のわたしたちにとってはやるのかやらないのか、不明なところがあります。
これを今の「おとなの日本語」にすると、「私は、世界の情勢と日本の現状を深く考え、緊急の方法でこの事態を収拾しようとし、忠実なるあなた方臣民に告げる。私は政府に対し「米国・英国・中国・ソ連の4カ国に、共同宣言を受け入れる旨を伝えよ」と指示した。」 となり、すこしただならぬ感がでてきます。
これをさらに前述したガイドラインにのっとって 「やさしい日本語」化してみると、「日本の国民へ – 日本の政府は今日か明日にも戦争に負けたことをみとめます。つまり我々はアメリカ・イギリス・中国・ソ連の4か国のポツダム宣言のすべてを受け入れます。それは主権をもつ私が、これが日本がとることができる唯一の方法であると考えたためです。」
このくらいしてあげて、かつ陛下が切迫感をもって読み上げれば、かなり音質の悪いラジオでも、なにが起こったかが伝わるでしょう。重大なポイントとしては、ここまで余分を排除しつつ補足も行い、さらに伝えたいことや本質を最初にもってきてカンタンな表現にするという行為は、日本語や日本そのもの(文化や歴史を含む)を熟知した真正日本人にしかできないであろうということです。
しかし「やさしい日本語」 、いいですね。やさしいからこそ、曖昧さが排除され、YES/NOや、5WIHがはっきり浮き出てきて、ビジネス・シーンで使えば単刀直入な交渉ができそうです。
終戦ついでに言いますが、GHQは占領時代に、英語そのものではなく、英語コンプレックスだけを日本国民に植え付けて去りました。つまり米国への憧れと従属をゆがんだ形で達成させる方針をとったのです。
しかしそんな呪縛はもう別に解いてもいいのではないでしょうか。コロナ禍を経て、急速に進みつつある「オンライン・クロスボーダー」の世界観を見据えると、日本にいたとしても世界中の外国人と一緒に仕事をする機会は今後ますます増えてくると思われます。
「やさしい日本語」の本質(迅速に、正確に、簡潔に)を大切にしつつ、相手が外国人であっても気負いをせず、片言の外国語でも伝える覚悟と熱い想いを持ったコミュニケーションを継続していくことができれば、我々の海外ビジネスもいつしか格段にやりやすくなるなんて仮説を立てるのも楽しいではありませんか。
【続く】
Chapter.02第二章:源泉所得税TDSの控除証明の概要
前回はインドの源泉税であるTDS四半期申告の期限や延滞税についてご紹介しましたが、今回は控除証明であるForm16やForm16Aの概要をご紹介します。前回同様、源泉徴収の義務を負う者のことを「源泉徴収義務者」、源泉徴収を受ける者のことを「納税者」と呼びます。
1.TDSの控除証明とは
源泉徴収義務者は納税者に対して、源泉徴収をしたことを証明するフォームを送付します。給与の場合はForm 16、その他の取引の場合にはForm 16Aを発行します。これらのフォームは、日本の源泉徴収票に相当します。
納税者は、源泉徴収義務者から発行される上記フォームに加えて、Income Tax PortalからForm 26ASというフォームをダウンロードすることにより自分で源泉徴収額を確認することも可能です。Form 26ASは、日本で税務署から発行される納税証明書に相当します。
2.TDS控除証明書の使用目的
納税者は主に以下の目的でTDSの控除証明を利用します。
Form 16
- 個人所得税申告(Individual Income Tax Return)
納税者は、年度末の所得税申告時に、控除されたTDSを所得税総額から相殺することができます。もし所得税が発生しない場合や、年度の所得税総額よりも控除されたTDS税額が多い場合には還付を受けることができます。
- 外国人登録(FRRO registration)
外国人がインド国内で就労ビザを取得するためには年収が162万5000ルピー以上でなければならず、規定の額以上の収入を得ていることを証明するためにFRROの更新時にForm 16の提出が求められます。
- 出国時に必要となる納税証明(Income Tax Clearance Certification)
就労ビザを取得していた外国人が帰国する場合、納税漏れがないかどうかをチェックするため出国審査で納税証明書(ITCC:Income Tax Clearance Certificate)を求められる場合があります。納税証明書は事前に税務当局へ申告をする必要がありますが、納税証明書を取得する際にForm 16の提出が求められます。
- 従業員がローンを組む場合
従業員が銀行などの金融機関から個人で借入をする場合、収入を証明するために金融機関からForm 16の提出を求められます。
Form 16A
- 法人税申告(Corporate Income Tax Return)
納税者は、年度末の法人税申告時に、控除されたTDSを法人税総額から相殺することができます。もし法人税が発生しない場合や、年度の法人税総額よりも控除されたTDS税額が多い場合には還付を受けることができます。
- 個人所得税申告(Individual Income Tax Return)
納税者が従業員ではなく個人事業主など外部委託の場合には、たとえ個人であってもForm 16Aが発行されます。手続きはForm 16と同じです。
Form 26AS
- 法人税申告(Corporate Income Tax Return)
- 個人所得税申告(Individual Income Tax Return)
- 従業員がローンを組む場合
- 外国人登録(FRRO registration)
上記については、Form 16やForm16Aと同じです。なお、Form16は年に1度しか発行されないのに対しForm 26ASは四半期ごとに発行されることから、FRROでは「前年度までのForm16と直近四半期までのForm 26AS」を求められるケースが多いです。
- 租税条約に基づき外国税額控除を申請する場合(Foreign Tax Credit application as per DTAA)
日本の企業(納税者)がインドの企業(源泉徴収義務者)へサービスを提供し、インドから日本へ代金を支払する場合、一部の取引では日印租税条約に基づき源泉税を控除しなければなりません。租税条約に基づき源泉税を控除した場合にもForm 26ASは発行されます。
納税者が日本の税務署へForm 26ASを提出することにより、インドからの支払い時に控除した源泉税は、日本の税務署から納税者へ還付されます。
3.Form16とForm 16Aの比較まとめ
項目 | Form 16 | Form 16A |
対象となる納税者 | 従業員(給与所得者) | 法人および個人事業主 |
発行者(源泉徴収義務者) | 雇用主 | 顧客(納税者からサービスの提供を受け、納税者に対して支払いをする者) |
対象となる取引 | 給与 | 給与以外の取引※ |
頻度 | 1年に一度 | 四半期に一度 |
Form 26ASとの関係 | Form 16に記載されている情報のうちTDSの詳細のみがForm 26ASに反映されている。 | Form 16Aに記載されている情報は全てForm 26ASに記載されている。 |
※固定資産売却の場合はForm 16B、賃貸契約の場合はForm 16Cを発行しますが、少ないケースのため省略しています。Form 16BやForm 16Cの記載内容はForm 16Aとほぼ同じです。
次回はForm 16とForm16Aのフォームの詳細をご紹介します。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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