NEWS LETTER VOL.18 インドにおける監査スケジュールの全体像
- 第一章:インドの最難関試験?
- 第二章:インドにおける監査スケジュールの全体像
Chapter.01第一章:インドの最難関試験?
今月は、本題(第二章)において会計士監査のスケジュール等についてお話ししますが、そもそも監査を行うインド勅許会計士とは、いったいどのような人たちなのでしょう。日本のようにやはり難しい試験に合格してきた人たちなのでしょうか。
その点の詳しい説明は 弊社ホームページのコラムD-23. インドの勅許会計士試験制度にも載せておりますが、ここでは、インドにおける最難関試験の数々について紹介していきましょう。果たしてその中に会計士試験も含まれているでしょうか。
日本での最難関試験といえば、司法試験·国家公務員試験1種·公認会計士試験が挙げられることが多く、受験資格を得るまでの長い過程を考慮すれば、医師国家試験も挙げられます。また中学、高校、大学であれば偏差値で高い順ということになると思います。
では、インドでの状況はどうでしょうか。そもそもインドの教育制度は、6歳時から初等·中等教育(全10年制:このうち8年間は義務教育)が行われ、進学希望者は上級中等教育(2年制)に進むというもので、その全過程がひとつのカレッジやスクールで完結する場合が多いです。
それでは、上級中等教育後の最難関試験の数々を見ていきましょう。なおこれら有名な7つの試験の中でのランク付けは特になく、あくまで順不同で載せています。
IIT 共通入学試験 (IIT- Joint Entrance Examination)
ご存じ、全国に23校あるインド工科大学 (Indian Institute of Technology: IIT) の入学試験で、世界最難関の呼び声も高く、試験成績順に希望する学校と学部を選べる方式です。全体の合格率は毎年2%前後ということです。
IIM 共通入学試験 (IIM CAT– Common Admission Test)
全国に13校あるインド経営大学院(Indian Institute of Management : IIM)の入学試験で、合格者はMBAに相当する2年間の経営学修士課程等を履修します。先述のIITの卒業者が当大学院でMBAを取得するパターンも増えてきており、そう考えるととんでもない学歴になりますね。
工学修士課程適性試験 (GATE– Graduate Aptitude Test in Engineering)
先述のIITおよびバンガロールにあるインド理科大学院 (Indian Institute of Science: IIS) での工学修士課程における適性試験であり、インド重工業·公営企業省傘下の公営企業に就職する際の決め手にもなり得る、重要な試験です。
国立法科大学入学試験 (CLAT- Common Law Admission Test)
インド全国に500校以上存在するロースクールの最高峰である国立法科大学16校への入学試験です。ちなみにインドでは日本の司法試験に相当するものはなく、各ロースクールで学士号を取得した後、弁護士や裁判官になるためにそれぞれの試験を受けます。
国立防衛大学校試験 (NDA- National Defense Academy)
インドの国立防衛大学校の入学試験であり、合格者のその成績によって陸軍·海軍·空軍のいずれかに配属される、押しも押されぬ難関試験です。
国家公務員試験 (UPSC- Union Public Service Commission)
いわゆる中央官僚になるための試験で、合格率はなんと0.3%を上回る年がないほど低く、その試験内容自体も、毎年の上位合格者の正答率が40%未満であるというくらいの難問ぞろいです。
勅許会計士試験 (CA- Chartered Accountancy Exam)
やはりインドでもランクインしました。インド勅許会計士協会 (The Institute of Chartered Accountants of India: ICAI) が定める3段階の試験に合格していく必要があり、2段階までの試験に合格後、3年間の研修期間を終えてようやくたどり着く最終試験においても合格率は10%~15%にとどまっており、初心貫徹、ゴールまでたどり着くのが非常に困難な試験といえます。
それでは、気を引き締めて会計士監査のお話に移ることにしましょう。
参照:
https://www.getmyuni.com/articles/toughest-exams-in-india
https://www.tutorialspoint.com/top-10-toughest-entrance-exams-in-india
Chapter.02第二章:インドにおける監査スケジュールの全体像
日本では非上場企業には監査を受ける義務はありませんが、インドでは全ての企業が監査を受ける必要があります。今回は、インドにおける監査スケジュールの全体像についてご紹介します。
1.日本とインドのスケジュール感の違いを理解する
日本では、上場企業は45日以内の開示に向けて決算を実施し、非上場企業でも期末決算時には締日から2~3か月以内に法人税の申告を完了させなければならないため、期末決算の時期は非常に慌ただしくなります。
一方のインドでは、決算月が3月に法定されており、海外関係会社との移転価格取引がない企業の場合は翌年度の9月末、移転価格取引がある場合には翌年度の11月末が法人税の申告期限となっています。
監査については上記の法人税申告期限までに完了させれば良いため、インドでは日本と比較して非常にのんびりと期末決算を実施します。期末だからと言って特別に忙しいわけではありません。
インドでも上場企業は日本と同様の開示スケジュールで慌ただしく期末決算を行いますが、上場企業を担当していない監査人は決算日から6~8ヶ月以内というゆっくりしたスピード感で監査を進めるのが当たり前という感覚を持っていることに注意が必要です。
その監査スケジュールでも特段の問題がない場合には、わざわざ日本本社や日本人駐在員が積極的に監査スケジュールの進捗管理をしなくても、インド人のローカル経理スタッフと監査人に任せておいて問題ありません。
しかしながら、本社が上場企業である場合には遅くとも4月25日頃までに期末決算の数字を確定させて欲しいはずですし、非上場企業であっても早めに決算報告をして欲しいと考える企業は多数あります。
その場合には、日本人が積極的に決算の進捗を管理する必要があります。この記事では、監査スケジュールの計画と進捗管理に関する注意事項をご紹介します。
2.一般的な監査スケジュール(日本本社が上場企業の場合)
この項目では日本本社が上場企業である場合にインド子会社へ要求される一般的な監査スケジュールをご紹介します。( )内の期日は、最終試算表を4月25日に確定させることを前提とした場合のスケジュール目安です。
1.監査報酬と監査スケジュールの確定(12月末)
日本本社が上場しており、インド子会社が連結決算の対象となっている場合には、一般的に4月25日頃までにはインド子会社の決算を確定する必要があります。
当該期日からスケジュールを逆算すると、12月末までには監査報酬と監査スケジュールについて監査人と合意をしておく必要があります。
4月25日までに財務諸表の数字を確定させる場合、3月31日から4月25日までの間に1年分の帳票類を全て確認するのは難しいことから、1月末または2月末時点で中間監査を実施するのが一般的です。
2.監査必要書類リスト(PBC List)の送付(1月末)
まずは監査人からクライアントへ、監査に必要な書類リスト(PBC List : Provided By Client List)を送付してもらう必要があります。
1月末時点で中間監査を実施する場合には、1月末までに監査人からPBC Listを入手する必要があります。監査人がPBC Listを作成するためには会社の規模や取引数などをざっくり把握しておく必要があることから、12月までの試算表を監査人に送付し、1月末までに必要書類リストを作成してもらうのが一般的です。
監査人からPBC Listを受領したら、各書類の担当者と送付期限について社内で確認します。中には日本の本社が準備しなければならない資料もあるため注意が必要です。
3.中間監査必要書類提出(2月中旬)
上述の通り、4月中に期末監査を完了させたい場合、4月に入ってから1年分の監査を実施するのはスケジュールの観点から厳しいため、期中で中間監査を実施するのが一般的です。
取引量が少ない場合には2月末までの中間監査を実施することもありますが、3月までに中間監査が完了しなければ中間監査と期末監査が重なってしまうことになってしまい、結局慌ただしいスケジュールになってしまうため、通常は4月~翌1月分を中間監査でチェックし、2月~3月分を期末監査で確認します。
4.中間監査指摘事項送付(2月末)
4月~翌1月分(10か月分)の中間監査を実施した場合、監査人は中間監査の指摘事項を2月末頃までに送付します。監査指摘の内容を確認し、異論があれば監査人へ反論し、指摘事項に納得した場合には指摘事項に従って帳簿を修正します。中間監査の指摘事項は3月末まで(期末監査が始まる前)に完了し、試算表を監査人へ送付して認識に齟齬がないかを確認します。
5.期末監査必要書類提出(4月15日)
3月の決算を速やかに締め、2~3月分の必要書類を4月10日までに監査人へ送付します。
6.期末監査指摘事項と最終試算表送付(4月20日)
主要な修正は中間監査までに完了しているはずなので、期末監査の指摘事項は最低限であることが一般的です。但し、2~3月で新しい取引が発生したり会計方針の変更があった場合(工場の稼働開始、新しいビジネスの開始、M&Aの実施など)には大幅に時間がかかってしまいます。スムーズに期末決算を完了させるために、大きな取引は中間監査の段階で事前に監査人と協議しておく必要があります。
7.監査修正の実施(4月23日)
監査指摘事項を確認し、異論があれば監査人と協議し、異論がなければ監査修正を実施します。監査修正が完了すれば最終的な監査済財務諸表が確定し、それ以降は数字が動くことはありません。
8.連結パッケージの最終確定(4月25日)
監査人はインドの会社法に準拠した財務諸表で数字を確定させるため、日本の本社が読み解くには時間がかかります。最終確定した数字に合わせて社内の経理スタッフが月次報告書や連結パッケージを修正する必要があり、この作業に1~2営業日必要となる点に留意が必要です。
9.監査報告書の提出(4月30日)
4月23日の時点では数字が確定しただけなので、まだ監査報告書は提出されません。監査報告書が必要となる場合には、監査報告書の提出スケジュールについても事前に決めておく必要があります。
なお、上述の通りインドでは税務申告が翌年度の秋となっているため、決算書が完成した段階ではまだ税務申告書は作成されていません。
損益計算書に法人税が計上されている場合や、貸借対照表に繰延税金資産または繰延税金負債が計上されている場合には最終的な試算表が確定した段階で正確な税金計算が完了していますが、法人税や繰延税金資産·負債の計上がない場合には税金の計算が後回しになっており、監査報告書提出の段階では完了していない場合があります。
本社の連結決算の監査で本社の監査人からインド子会社の繰越欠損金などについて問い合わせがあった場合、上記の事情により情報を提供できない可能性があるため、もし4月30日の段階で法人税の計算まで完了させておく必要がある場合には、スケジュール調整の段階でその旨を監査人と合意しておく必要がある点について注意が必要です。
3.一般的な監査スケジュール(日本本社が非上場企業の場合)
本社が非上場企業の場合は、上場企業ほどのタイトなスケジュールは求められませんが、だからと言ってインド人経理スタッフと監査人にスケジュール調整を任せていては決算の確定が翌年度の秋となります。もし決算数値を早く知りたい場合には、積極的なスケジュール調整が必要です。以下は、5月末までに監査を完了させたい場合の一般的なスケジュールです。
1.監査人と事前に協議しておいた方がよいと思われる取引の精査(1月)
期中にすでに発生している取引や、期末までに発生することが見込まれる取引において、監査人と事前に協議をしておいた方が良いと思われる重要性の高い取引や事象の有無を確認し、会計処理や税務処理にける見解を事前に確認·精査しておくことが必要です。
2.監査報酬と監査スケジュールの確定(2月)
日本本社が非上場企業の場合は中間監査を実施しないのが一般的なため、年末までにスケジュールを確定させる必要はありませんが、とはいえ3月に入ってからスケジュールの調整をしたのでは手遅れの可能性が大きいので注意が必要です。
3.監査必要書類リスト(PBC List)の送付(3月末)
2月末までの試算表を監査人へ送付し、年度末までに監査人から必要な書類リスト(PBC List)を受領します。
4.期末監査必要書類提出(4月末)
監査人から依頼された資料を4月末までに監査人へ送付します。
5.監査修正と最終財務諸表送付(5月20日)
監査人と協議しつつ監査修正を進め、5月20日頃までに決算数字を確定させます。この際に、監査修正仕訳(AJE : Audit Journal Entry)のリストも合わせて入手しておくと監査修正の全体像および具体的な内容を把握でき、かつ、翌期への繰り越し処理がスムーズです。
6.監査報告書の提出(5月31日)
監査人から会社へ監査報告書を提出します。
次回は、監査スケジュールの計画時に特に注意すべき具体的なポイントと事例をご紹介します。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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