NEWS LETTER VOL.27 予定納税(Advance Tax)
- 序章:「だからやるしかない」
- 本章:予定納税(Advance Tax)
Chapter.01序章:「だからやるしかない」
平和ボケの学生時代、格闘技系運動部を引退した時にしみじみと感じたことは、「 “今日こそは大ケガをするかもしれない”という不安にかられて道場へ向かい続ける日々から、これで解放されるんだな。」 ということでした。
人一倍臆病だった筆者は、日々の練習ですらそんな調子でして、それでもなんとか4年間部活動を続けられたのは、その節目節目で「試合」という、勝利に飢えた対戦者の待つ合法的な暴力の檻に、〇月〇日〇時頃、1回につきたった2分間だけだが放り込まれることが予定されていたからに他なりません。
「腕っぷしを証明するために戦う」なんていうのは、筆者に限っていえば全くあてはまらず、「弱いと思われたくないから、むりやり恐怖を設定してでも、闘う場になんとか立ったるー」といった歪みきったものでした。
所詮は学生アマチュア達のままごとに過ぎなかったのですが、たった2分間であっても、死んだ気になって向かってくる相手にやられるがままになっていたとしたら、自分はあっという間に死んでしまいますから、それは一応有事の状態だったのです。
「やらねばやられる」
有事の状態、といってもいわば平時の有事、漫画家が全国のファンの待つ週刊連載の原稿をオトす(締め切りに間に合わずに掲載されない)かどうかの瀬戸際に立たされるような場合もありますし、あるいは有事中の有事、人に手を上げたこともない市井の人達、例えば自分の妻や恋人たちの目の前に、戦火の中の敵兵がついに立ちふさがる絶望の瞬間もあります。その土壇場で漫画家は脅威の描き上げを見せてついに校了してしまうかもしれない一方、戦火の妻や恋人たちは、最期の徒手空拳、コーラの火炎瓶があれば敵兵めがけて投げつけてしまう不幸があるだろうことを思うと、左胸のあたりがどうしようもなく疼くのです。
「だからやるしかない」
「なんだよーもっとはやくアナウンスしろよー、関係者をかなり焦らせてしまったじゃないかー。」、インドの各種コンプライアンス(税務申告・法定会議の開催等)の期限日は、結構な頻度で延期発表されることが多いのですが、その当局発表が期限当日になってなされることもままあります。
そこでいちいち寿命が縮む思い+(プラス) 解放感を味わう=(イコール) インドの手のひらで見事に踊らされている、という図式です。追い詰められてはじめて人は動き出す、、締め切りがふと消えてしまうと、それまでの追われていた日々がいかに美しく輝いていたかに気づくのですが、そんなドラマはいらないから、締め切り対策は平時から予定しておきましょう、というお話です。
Chapter.02本章:予定納税(Advance Tax)
日本では前年度実績または今年度上半期の仮決算数字に基づき法人税の中間納付を行いますが、インドでは今年度の事業見積に基づき年4回に分けて予定納税を行います。
今回は、インドの予定納税制度についてご紹介します。
1.予定納税の概要
予定納税の制度はインド所得税法(Income-tax Act, 1961)208条で定められており、1会計年度に支払うべき法人税の総額がINR10,000以上の場合に適用対象となります。
所得が発生した年度の各四半期(6月15日、9月15日、12月15日、3月15日)にオンラインまたは銀行で納付する必要があります。
オンラインの場合には、National Securities Depository Ltd (NSDL)のウェブサイトから納税することができます。
2.予定納税の支払期限
期 | 納付期限 | 納付金額 |
第1四半期 | 6月15日 | 年間見積金額×15% |
第2四半期 | 9月15日 | 年間見積金額×45%-前回までの納付合計 |
第3四半期 | 12月15日 | 年間見積金額×75%-前回までの納付合計 |
第4四半期 | 3月15日 | 年間見積金額×100%-前回までの納付合計 |
3.予定納税の計算方法
予定納税額は以下の4つのステップで算出します。
- その会計年度中に得られる収益を見積もる。
- 推定された収入に関連する経費を見積もる
- 法人税の計算における加算減算項目を見積もる。
- 納税額の合計を計算する
<事例>
X年度の第1四半期時点(6月15日時点)での事業見積が下記の通りであったと仮定します。
- 年間の売上見積:2,200,000ルピー
- 年間の費用見積:1,000,000 ルピー
- TDS控除対象の年間売上見積:500,000ルピー
- 受取利息見積: 50,000 ルピー
仮に税率を25%とすると、予定納税額は以下のように計算されます。
単位:ルピー
① | 収益 Gross Receipts | 2,200,000 | |
② | 費用 Expenses | 1,000,000 | |
③ | 事業所得 Income from business | 1,200,000 | ①-② |
④ | その他収益(Income from Other sources) | 50,000 | |
⑤ | 総所得(Total Income) | 1,250,000 | ③+④ |
⑥ | 法人税加算項目(Add Items) | 100,000 | |
⑦ | 法人税減算項目 (Less Items) | 350,000 | |
⑧ | 課税所得(Taxable Income) | 1,000,000 | ⑤+⑥-⑦ |
⑨ | 見積法人税額(Tax Payable) | 250,000 | ⑧×25% |
一方、TDS控除対象の年間売上見積が500,000ルピーであるため、仮にTDS料率が10%であると仮定すると、年間で控除されるTDSは50,000となる見込みです。
従って、年間の未払法人税見積額は250,000-50,000=200,000となります。
この15%分が第1四半期納付分となるため、6月15日までの納付分は
200,000ルピー×15%=30,000ルピー
となります。
続いて、第2四半期時点(9月15日時点)での事業見積が下記の通り変化したと仮定します。
- 年間の売上見積:3,200,000ルピー
- 年間の費用見積:1,500,000 ルピー
- TDS控除対象の年間売上見積:750,000ルピー
- 受取利息見積: 100,000 ルピー
仮に税率を25%とすると、予定納税額は以下のように計算されます。
単位:ルピー
① | 収益 Gross Receipts | 3,200,000 | |
② | 費用 Expenses | 1,500,000 | |
③ | 事業所得 Income from business | 1,700,000 | ① -② |
④ | その他収益(Income from Other sources) | 50,000 | |
⑤ | 総所得(Total Income) | 1,750,000 | ③+④ |
⑥ | 加算項目(Add Items) | 100,000 | |
⑦ | 減算項目 (Less Items) | 350,000 | |
⑧ | 課税所得(Taxable Income) | 1,500,000 | ⑤+⑥-⑦ |
⑨ | 見積法人税額(Tax Payable) | 375,000 | ⑧×25% |
一方、TDS控除対象の年間売上見積が750,000ルピーであるため、仮にTDS料率が10%であると仮定すると、年間で控除されるTDSは75,000となる見込みです。
従って、年間の未払法人税見積額は375,000-75,000=300,000となります。
この45%分が第2四半期納付分となるため、9月15日までの納付分は
300,000ルピー×45%=135,000ルピー
となります。
このうち30,000ルピーは既に6月15日に支払済であったため、9月15日納付分は
135,000 – 30,000 = 105,000ルピー
となります。
第3四半期、第4四半期も同様に計算します。
4.延滞税
予定納税を延滞した場合、インド所得税法(Income-tax Act, 1961)の第234C条に基づいて以下の延滞税を払う必要があります。
支払期日から実際の支払日まで、1か月あたり1%を3ヶ月分
<例>
- 予定納税額:1,000ルピー
- 支払期日:2021年6月15日
- 実際の支払日:2021年6月16日
- 遅延利息:1,000 × 1% × 3ヶ月 = 30ルピー
5.予定納税に関するその他注意事項
- ・納付したAdvance TaxはTDSと同様、貸借対照表の資産へ計上されます。
- ・事業所得が赤字であっても、定期預金利息等の収入がある場合には予定納税が必要となる可能性があるため注意が必要です。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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