NEWS LETTER VOL.9 GST年次申告フォーム「GSTR-9」(前編)
- 第一章 日本の終戦記念日との関わりについては割愛しますが
- 第二章 GST年次申告フォーム「GSTR-9」について
Chapter.01第一章 日本の終戦記念日との関わりについては割愛しますが
8月15日はインドの独立記念日、1947年に英国統治から分離独立した日です。「分離独立」と呼ばれるのは、同年前日の8月14日にパキスタンも同領土からの独立を果たしているからです。バンガロール市内にあるインド最大の州議会議事堂の大きな広場前には、さすがにコロナ禍で例年ほどの数ではありませんでしたが、インドの大小国旗を持ってはしゃぐ老若男女の姿が見受けられました。
インドの国旗(上の左図)の由来は、現政権における野党であるインド国民会議の英国領時代の党旗(同中央図)のデザインであり、さらには第二次世界大戦中の大日本帝国軍の支援のもとに成立したインド国民軍の軍旗(同右図)のデザインでもあり、それぞれ真ん中のシンボルマークこそ変化してきましたが、ずっと変わらない上のオレンジ色部分と下の緑色部分は、それぞれヒンドゥ教、イスラム教を表し、白地部分はその融和を意味しています。
国民の8割近くがヒンドゥ教徒であるインドが、1970年代までイスラム教国家である隣国パキスタンと戦争(第一次~第三次印パ戦争)を繰り返し、現在に至るまでその国境付近での動乱や衝突が続いていることなどを考えると、この国旗に込められた想いや理念を理解することはとても難しいですね。筆者の個人的な意見ですが、それらをすこしでも分かるには、ヒンドゥスターン (広義のインド亜大陸) という史観をもつ必要があるのではないかと考えています。ボリウッドの時代劇映画 「PANIPAT」 などで描かれているように、ヒンドゥスターンの統一(日本の戦国時代でいうところの“天下布武”でしょうか)は、紀元前から続く為政者たちの果てなき野望とロマンでした。
コロナ禍により2020年度はマイナスの経済成長が見込まれているインドですが、独立から約80年後の2030 年頃までに世界3位の GDP を達成すると依然予想されています。ヒンドゥスターン史観をもって眺めた場合、これは新興国の台頭というよりも、むしろ前史の栄光の奪還と捉えることができます。というのも英国最大の資産運用会社Abadeen Asset Management (現 Abadeen Standard Investments) の2016年の報告書によると、インド亜大陸圏は1000年代と、1700年代に、それぞれ世界の4分の1 前後の GDP を有していたというのです。
日本では 「この世をば、我が世とぞ思う望月の・・・」 の和歌で有名な藤原道長の政権が栄華を極めていた1000 年前後を見てみると、インド亜大陸では、北部のプラティハーラ朝・南部のチョーラ朝をはじめとするヒンドゥ教王朝が主に支配を行っていましたが、11 世紀前半には、西方よりインド北部にイスラム教王朝であるガズナ朝が侵攻してきます。この頃は 「この世」 といっても、ユーラシア大陸から広大なロシア部分をごっそりのぞいた、ごく限られた地域に富と権力が集中していましたから、ヒンドゥとイスラムの強国がひしめいていたインド亜大陸が世界のGDPの大きな部分を占めていた、という見解には説得力があります。
第2の繁栄期とされる17世紀中の様子をみると、勢力図はがらりと変わり、南端部をのぞいたインド亜大陸全域を支配していたイスラム教王朝ムガル帝国の力が圧倒的です。しかし3代目君主のアクバルは、帝国の安定化のためにヒンドゥ教徒をはじめ異教徒との融和的政策を進めて行きました。特に、イスラム世界では始祖ムハンマドの死以来厳然と行われてきた、異教徒(非イスラム教徒)からのみ徴収する人頭税ジズヤーの廃止などが有名です。それでも帝国には当時で約 17.5 百万ポンドもの年間の税収入があったといい、前述の調査によれば、経済面でも世界の GDP の約 4分1を占めていました(下記グラフ参照)。
今回は少しだけ触れましたが、インド亜大陸に関わりのある税制の歴史は、宗教に絡むもの・英国統治時代のものを含め、興味深い内容が多いので、次号でご紹介したいと思います。本日8月15日は、リクシャー(オート三輪型タクシー)も国旗をヒラヒラさせながら暴走しております。そのかるーい感じと歴史の重みのギャップもまたインドですね。
(次号に続く)
Chapter.02第二章 GST年次申告フォーム「GSTR-9」について
さて、前回までご説明をしてきましたGSTR-2A(取引先とGST申告額の照合をするためのフォーム)に引き続き、今回からはGSTの年次申告フォームである「GSTR-9」について具体的にご紹介をしていきたいと思います。
1.GSTR-9 とは?
「GSTR-9」は、GST登録事業者が年に1度申告しなければならないフォームです。このフォームでは、1年間(毎年4月から翌年3月まで)の売上取引、仕入取引に係るGST(CGST、SGST、IGST)の詳細を、取引額などの情報と共に申告します(※申告内容の詳細は次回のニュースレターでご案内します)。
2.GSTR-9の申告対象
GST登録事業者は原則としてGSTR-9を申告する必要がありますが、下記の事業者は申告が免除されています。
■ 1.非居住者(registered non-resident taxable person)
「非居住者」は、インドに恒久的施設(Permanent Establishment : PE)を持たず、インドに短期滞在しビジネスをした外国法人などが該当します。なお、恒久的施設(PE)とは、非居住者や外国法人の課税関係を決める上での指標となる概念で、事業を行う一定の場所や代理人として重要な役割を担う者を含みます。
■ 2.Input Service Distributor
Input Service Distributorとは、各支社で購入した商品・サービスに対するinvoiceを一括で支払っている場合の本社を指します。
例えば、デリーに本社、ムンバイとチェンナイに支社があるABC社が、本社で全支社分のソフトウェア保守料を支払い、ソフトウェア会社からの請求書を受け取った場合、本社のあるデリーでITC(Input Tax Credit:仕入税額控除)を全額利用することはできません。なぜなら、ソフトウェア保守サービスは各支社でも利用されているためです。本社はITCを各支社に配賦しますが、この場合の本社がInput Service Distributorとなります。
■ 3.Casual Taxpayer
Casual TaxpayerはインドCGST法(Central Goods and Services Act, 2017)Section 2(20)にて規定されており、GST登録事業者がGST登録をしている州以外の州で一時的に取引をした場合に適用されます。典型的な事例は、他州で開催された展示会へ参加し、物品やサービスを販売した場合などが該当します。この場合には、展示会が開催された州にてCasual Taxpayerとして登録することになります。
なお2018-19年度と2019-20年度については、年間売上額が2,000万ルピー(約2,800万円)の事業者についてはGSTR-9の申告が免除されておりました。2020-21年度については、2020年8月時点では同様の免除規定は発表されていませんが、今後発表される可能性はあります。
一方、年間売上額が5,000万ルピー(約7,000万円)を超える事業者についてはGSTR-9の他にGSTR-9Cという申告フォームを提出する必要があります。GSTR-9Cは、GSTR-9に記載されている内容が申告者の監査済財務諸表と一致していることを確認するための書類です(※GSTR-9Cの詳細は回を改めて別途ご案内します)。
まとめると、2018-19年度および2019-20年度については、下記の通りとなっていました。
3.GSTR-9 の期限
GSTR-9の申告期限は翌会計年度の12月末です。従って、2018-19年度のGST申告期限はもともと2019年12月末でしたが、この申告期限は再三に渡り延長され、2020年8月時点での申告期限は2020年9月末となっています。2019-20年度の申告期限については2020年12月末となっており、こちらは2020年8月時点では延長の発表はございません。
4.GSTR-9 の延滞税
延滞税はCGST法 (CGST Act, 2017)にて1日あたり100ルピー、SGST法(State Goods and Services Act, 2017)にて1日あたり100ルピーの計200ルピーが定められています。しかしながら、2017-18年度と2018-19年度については、売上額が2,000万ルピー以下の事業者については特例で延滞税の支払が免除されました。次回のニュースレターではGSTR-9申告フォームの詳細と、実務上注意すべき事項についてご紹介します。
以上
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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