NEWS LETTER VOL.1 ここがちがう日本の消費税とインドのGST
- 第一章 インド?インディア? 大陸?海洋?
- 第二章 ここがちがう 日本の消費税とインドのGST
Chapter.01第一章 インド?インディア? 大陸?海洋?
いまさらですが、インドは、英語ではINDIAです。インドという国を科学するとき、ラテン語の地名接尾辞である、” IA ”をつけて「インディア」と呼んだ方が、ユーラシア・アジアと同様、大陸や地域を表現する言葉という意味においてインディアが大国であることをあらためて認識できるような気がいたします。そもそもムガール帝国崩壊後は、イギリス領インディア帝国が第二次世界大戦直後まで存在していましたが、その時代のインド亜大陸面積の45%は、実はイギリスの直轄ではない藩王国の集まりだったようです。国内外に現在の”インド- INDIA”の国家概念が定着したのは、1947年イギリス領からの独立時に、かなり強引に全国境が設定されてからだと言われています。
地政学的には、「インド共和国」は、大陸国家と海洋国家の両方の性質を併せ持つ、世界でも稀な国と言えます。北インドはパキスタン・アフガニスタン・中国・ネパール・バングラディシュ・ブータン・ミャンマーと国境を接し、一部地域では常に国家的臨戦態勢にある一方で、南インドは、広大なインド洋に面し、近隣島国との目立った争いも現在はなく、世界との交易が盛んな港を数多く備えています。気候区分では、北部はツンドラ氷河気候や温帯夏雨気候(デリーは温帯です!)、西部は乾燥砂漠気候、南部が熱帯(湿潤熱帯気候)に属します。
コンサルタントらしい見方でいうと、インドは、主観的・排他的とされる大陸国家の法体系である成文法主義と、交易・発展的である海洋国家(英米など)の法体系である判例法主義の二面性をもっているという考え方もでき、我々日本人からすると理解に苦しむ複雑な法的局面が発生することがあります。
皆さんの、目下切実な法律といえば、まず税法ということになると思います。インドの税制が複雑で厳しいというのも皆さんご存じの通りです。そもそも税金とはなんでしょうか。その本質は、「国民(あるいは、滞在許可を受けた個人や法人)であることの参加費用」と言われることもありますが、本当に優れた国家ならば、それが様々な形で国内の「富の再配分」に使われていくことになります。税金を納めれば納めるほど、国を良くする貢献度が高くなるはずです。20世紀前半、インド独立運動を推し進めたマハトマ・ガンディは、カースト制度を肯定しつつも、万人への富の再配分を願いました。インド紙幣のすべてのデザインはガンディーの肖像です。紙幣という現金が往々にしてお金持ちの所得隠し・脱税に利用されているのはとても皮肉なことですが、我々が外国人としてインドでお金を稼がせてもらい、その分しっかり税金を払うことによって、この大国がガンディーの理想に次第に近づいていくのを見守る、なんていうのは、お人好しすぎますかね。ということで、ここからはインドの税務について日本のそれと比較をしながらご紹介していきたいと思います。
Chapter.02第二章 ここがちがう 日本の消費税とインドのGST
インドのビジネスは日本とは勝手が違うことが多く、悩んでいらっしゃる方も多いのではないでしょうか?会計や税務も例外ではありません。営業やエンジニアとして駐在されている方は会計や税務の専門家ではないことが多く、一方で本社の経理担当者の方はインドについて詳しくないため、インド人経理スタッフとのコミュニケーション等で悩んでいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。このニュースレターでは、会計や税務を専門とされない駐在員の方にも、インドへいらっしゃったことのない本社経理の方にも、インドの会計・税務を理解して頂けるよう、インドの最新の税制や会計制度についてご紹介するとともに、インドの基礎的な会計・税務の実務についてもご紹介いたします。
さて、インドには様々な税金がありますが、最も主要な税金はGST(物品・サービス税)とIncome Tax(所得税)です。GSTは日本でいう消費税、Income Taxは日本でいう法人税と個人所得税に相当します。そこで今回は、日本の消費税とインドのGSTの主な違いをご説明します。
GSTは品目により税率が異なる
日本では2019年9月まで、全ての品目について消費税は8%でした。2019年10月の改正により軽減税率が導入され、初めて2種類の税率が適用されることになりました。日本では一般的に、消費税の税率変更については何年もかけて議論されるものです。
これに対し、インドでは原則5種類の税率が複雑に設定されており、2017年の7月に初めてGSTが導入されて以降、定期的に開催されるGST評議会および通達等を通じて税率が既に何度も変更されております。主な品目の税率は下記の図の通りです。より詳細な品目別のGST税率等につきましては、次回以降のニュースレターでご紹介します。
GSTに限ったことではありませんが、インドでは突然の法令改正が頻繁に行われることが珍しくありません。日本から新任でいらっしゃった方の中には、インド法令のあまりの複雑さに戸惑われる方も少なくありません。これでもGST導入により、それ以前の税制に比べれば遥かに簡素化され、税務コンプライアンスはシンプルになりました。インドはこのように頻繁な改正があるため、常に最新の情報を入手するよう注意する必要があります。
GSTは毎月申告と納税がある
日本の消費税では、法人の場合課税期間の末日の翌日から2か月以内に申告・納付を行うこととされており、企業によっては年に1~11回に分けて、直前の課税期間の消費税額に基づき中間納付を行います。これに対しインドのGSTは、原則、毎月申告と納付を行わなければなりません。申告は毎月10日と20日に行い、納付は毎月20日までに行います。詳細は次回以降に改めてご説明したいと思います。
なお、日本では期末決算で仮払消費税と仮受消費税を相殺して未払消費税を計上する、という仕訳を行いますが、インドではGSTの申告と納付を毎月行うため、そのような仕訳は行いません。一方年度末の申告は、2019年11月現在、2017年4月~2018年3月度の申告期限が2019年12月、そして、2018年4月~2019年3月度の申告期限が2020年3月となっております。
国内でもCGST、SGST、IGSTの違いがある
日本の消費税は国が一元管理をしていますが、インドは州の権限が強く、GSTも州内の取引の場合と州を跨(また)ぐ取引の場合とで取り扱いが異なります。同じ州内での取引の場合、中央政府へのGSTであるCGST(Central GST)と州政府へのGSTであるSGST(State GST)が同じ料率で課税されます。
例えば、GSTの料率が5%であれば、CGSTとSGSTがそれぞれ2.5%ずつ課税されます。これに対し州を跨ぐ取引や海外からの輸入の場合にはIGST(Integrated GST)が課税されます。つまり、GSTの料率が5%であればIGSTのみが5%課税されることになります。
なお、インドにはSpecial Economic Zone(SEZ)と呼ばれる経済特区(見なし非課税区域)があり、SEZとの取引は海外との取引と同様の処理がされるため、SEZ入居企業へ物を販売した場合は輸出扱い、逆にSEZ入居企業から購入した場合には輸入扱いとなります。日本の場合ですと、全ての仮払消費税と仮受消費税を相殺しますが、インドの場合には3種類のCGST、SGST、IGSTがあるため、相殺の順序についてもルールが決まっており注意が必要です。
今月は以上です。本ニュースレターでは、読んでいただく皆さんに、ご自分なりのインド観と、日本人・日本企業としての確固たる経営管理戦略をもっていただけるよう、会計コンサルタントとしての現場の視点を大切にしながら毎月発信させていただければと思っております。引き続きよろしくお願いいたします。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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