NEWS LETTER VOL.11 GST監査報告書「GSTR-9C」について(後編)
- 第一章 ちょっとブレイク お茶はいかが?
- 第二章:GST監査報告書「GSTR-9C」について
Chapter.01第一章 ちょっとブレイク お茶はいかが?
インドの歴史は関税抜きでは語れないということを再び語りたいと思います。前々回お話した、17世紀初頭から英国東インド会社がインド内で支配力を強めていった時代、インドは国産の綿花から作られる綿製品を英国への主要輸出品目としていました。ところが、産業革命を遂げた自国内産業をさらに拡大したい英国は、インドより原材料の綿花を大量に輸入し、英国内で綿製品を製造してインドに無関税で輸入させるようになり、インドは逆に綿製品を主要輸入品目にさせられてしまいました。
また18世紀には紅茶文化が花開いていた英国では、中国茶の輸入により大量の銀が流出し深刻な貿易赤字となっていました。そこで東インド会社は、主にインドのベンガル地方産のアヘン(習慣性と健康被害をまねく麻薬)の専売を行い、主に英国系の民間貿易商を使って中国への密輸を行わせました。
密輸ですから輸入関税などありません。民間貿易商たちはその対価として中国から銀を大量に獲得しますが、彼らの懐には入れずに東インド会社が持つ中国内に拠点に銀を預けました。英国と東インド会社、東インド会社と貿易商の間の巨額取引はほとんど支払手形でやりとりしましたから、英国は中国に貯めてあるその銀を決済に用いることによって中国から茶を輸入し続けたのです。
これが三角貿易と呼ばれた有名なシステムですが、3か国とも英国人の手でほぼ直接操られた利益搾取の手段にすぎず、残された大きな負の遺産といえばインド国内の綿織物産業の壊滅と、中国国内のアヘンの大規模な蔓延と2度にわたる英国とのアヘン戦争での敗北です。英国の代名詞ともいえる優雅なアフタヌーンティがとても苦く感じられてしまう歴史ですね。
ちなみに英国も相当にひどいことをやっていますが、「英国」を「大日本帝国」に、「東インド会社」を「満州国」に置き換えれば、大日本帝国の傀儡国家であった満州国が、中国東北部でのアヘンの大規模な密売によって帝国陸軍のための膨大な機密費を作り出していた構図とそう変わらないかもしれません。(参照:小説 『赤い月』 なかにし礼 著)
現在、中国に次いで世界2位の茶の生産量を誇るインドですが、アヘン戦争の2年前の1937年に、アッサム地方で初の商業栽培がはじまったばかりでした。世界において中国の独占状態になっていた茶の生産をなんとか英国領で行おうと、中国茶によく似た原種のアッサムでの発見を皮切りに、中国から密輸した種での栽培実験など、商業化までに実に14年間の試行錯誤が行われました。また出ましたね、密輸。
インドと関税つながりで最後にもうひとつ。1770年代、東インド会社は前述したような支払手形中心の巨額貿易取引を続けた結果、社内の人間たちによる空手形発行の横行などが原因で破産状態に陥ってしまいました。そこで1773年、英国は当時植民地であったアメリカに「茶条例」を敷き、東インド会社による茶の専売と茶輸入時の関税撤廃を認め、逆に茶を購買する植民地人には「茶税」を課しました。これまで中国茶を独自のルートで輸入していた業者たちや域内の消費者たちの不満は一気にふくれあがり、同年、ボストン港に停泊していた東インド会社の貨物船が民衆によって襲撃され、現在価値で1.5億円に相当するともいわれる300以上の茶箱が海に投げ捨てられるという、有名なボストン茶会事件が起こったのです。この象徴的な事件の2年後に8年間に及ぶアメリカ独立戦争が始まり、1776年のアメリカ独立宣言、そして1787年の合衆国成立へとつながっていくのです。この植民地時代のトラウマで、現代でもアメリカ人は紅茶をあまり好まず、コーヒーを飲むんだそうです。
・・やはり、今日のブレイクはコーヒーにしましょうかね。
参考文献
https://tea101.teabox.com/brief-history-indian-tea-industry/
http://grantsutherland.net/essays/the_crash_of_the_east_india_company.html
Chapter.02第二章:GST監査報告書「GSTR-9C」について
前回概要をご紹介したGSTR-9Cについて、今回のニュースレターではフォームの各項目の内容と、実務上で注意すべき点を具体的な事例を基にご紹介します。
GSTR-9C フォームの各項目の内容
GSTR-9Cは、GSTR-9の申告内容と監査済決算書との照合を行うPart A(Reconciliation Statement)と、勅許会計士(Chartered Accountants)または原価会計士(Cost Accountants)が発行する証明書(Cerfication)であるPart Bから構成されます。
Part A : GSTR-9と監査済決算書との照合表(Reconciliation Statement)
Part Aは5つのPartから構成されています。
■ 1. Part I : 基本情報(Basic details)
以下の基本情報を記載します。
- • 会計年度(Financial Year)
- • GST番号(GST Identification Number)
- • 社名(Leagal Name)
- • 商号(登記上の社名とは異なる通称があれば記載)
■ 2.Part Ⅱ : 売上の照合(Reconciliation of turnover)
監査済決算書に記載されている売上額とGSTR-9に記載されている売上額との照合を行います。
監査済決算書はPAN番号単位で作成されるのに対し、GST申告書はGST番号単位で作成されます。従って、複数の州に跨って事業を展開し複数のGST番号を取得している企業は、監査済決算書類の売上額をGST番号単位にブレイクダウンして入力しなければなりません。
■ 3.Part Ⅲ: 支払税額の照合(Reconciliation of tax paid)
GST料率毎に課税標準となる売上額を入力します。そして、売上額に対応するGSTの金額をSGST, CGST, IGSTに分けて入力します。
■ 4.Part Ⅳ : 仕入税額控除の照合(Reconciliation of Input Tax Credit)
仕入税額控除(ITC : Income Tax Credit)の照合を行います。GSTR-9に記載されているITCの金額が監査済決算書に記載されているITCの金額と一致していることを確認します。
さらに、監査済決算書に記載されている費用に対するGSTを、仕入税額控除を取れるもの(eligible)と取れないもの(ineligible)に分けて入力する必要があります。
仕入税額控除を取れないGSTはCGST法(Central Goods and Services Tax Rules, 2017)の17条(5)において規定されています。具体例は下記のとおりです。
項目 | 注記 | |
1 | 運転手を含めた座席数が13名以下の自動車の購入 | 運搬業や自動車製造販売業、ドライビングスクールなどは対象外 |
2 | レンタカー(リース契約を含む) | 運搬業や自動車製造販売業、ドライビングスクールなどは対象外、また雇用主が従業員に車を手配することが法令により義務づけられている場合も対象外 |
3 | ・食べ物、飲み物
・化粧品など ・健康関係の費用 |
左記に該当する物品を仕入れて販売する場合(加工して販売する場合も含む)は対象外。例えば、スーパーマーケットが飲み物を仕入れて販売する場合には、仕入税額控除を取ることができる。 |
4 | クラブ会員費など | |
5 | 建物および建物付属設備(Immovable Property)の建設費 | 但し、機械設備(Plant and machinery)の建設費は仕入税額控除を取ることができる |
■ 5.Part Ⅴ : 監査人による追加納税の推奨(Auditor’s recommendation on addition al Liability due to non-reconciliation)
GST監査人が監査中にGSTの納付漏れを発見した場合には、この項目で不足額を報告をします。
しかし実務上は、前回のニュースレター(NEWS LETTER VOL.11 GST監査報告書「GSTR-9C」について)にてご案内した通り、GSTR-9の準備とGST監査を同時並行で進めるのが一般的です。従って、たとえGST監査においてGSTR-9の記載内容と監査済決算書類との間に差異が発見された場合であっても、GSTR-9を適切に修正し納税を済ませたうえでGSTR-9とGSTR-9Cの申告が行われるため、この項目でGST納税額の不足分が指摘されるということは通常ありません。
Part B: GST監査人による証明書(Certification)
Part Bでは、申告者が提出したGSTR-9が適正であることをGST監査人が証明します。
但し、GSTR-9Cの監査を実施していない会計士がGSTR-9CのPart Bに署名することも可能です。その場合、署名をする会計士は、監査済決算書に基づいて、Part Aに自らの見解を記載する必要があります。
事例
ここからはGSTR-9Cに関して注意すべき事例をご紹介します。
■ <事例:GSTR-9提出後にGST監査を実施し、GSTの納付不足が発覚したケース>
GST監査の対象であるX社は、2020年3月度のGSTR-3B申告を2020年4月に完了し、同時に2020年3月期のGSTR-9の申告も完了しました。そして、GSTR-9の申告後にGST監査を実施しました。すると、GST監査を通じて、一部の売上がGSTR-9申告に記載されておらず、納税も行われていないことが発覚しました。
CGST法(Central Goods and Services Tax Rules, 2017)の37条(3)において、「前課税年度のGST申告を修正できるのは、GSTR-9の申告日か9月のGST申告のいずれか早い方まで」という規定があります。
従って、既にGSTR-9の申告を完了してしまったX社は、GSTR-1の修正や追加納税を行うことができず、税務調査による追徴課税を待たざるを得ない状況になりました。このような事態を防ぐため、GSTR-9はGST監査の結果を受けてから申告することをお勧めします。
■ <事例:GSTR-9Cの適用基準がGST番号毎に計算されると誤解したケース>
Y社はカルナータカ州、タミルナドゥ州、アーンドラプラデシュ州、ケララ州の計4拠点で各1,500万ルピー(約2,100万円)ずつの売上を計上し、全社で1,500×4=6,000万ルピー(約8,400万円)の売上を計上しました。
GST監査(GSTR-9C)の対象は売上額が2000万ルピー(約2800万円)を超える企業ですが、Y社は当該基準がGST番号毎に適用されるものと誤解していました。なぜなら、複数の州でGST番号を取得している企業は、州毎にGSTR-9Cの申告をするためです。Y社の場合には、各拠点の売上額が2000万ルピーを下回っていたため、GSTR-9Cの申告やGST監査は必要ないと考えていました。
ところが実際には、GSTR-9Cの適用基準となる売上額はGST番号毎ではなく会社毎に判定されます。Y社の場合は全社での売上額が6000万ルピーとなるためGSTR-9Cの適用対象となり、4つの拠点(GST番号)全てについてGST監査とGSTR-9C申告をしなければなりませんでした。
GST申告フォーム“GSTR-9C”の注意事項
• GST申告はGST番号毎に行いますが、GSTR-9Cの適用対象は全社での売上額を基準に判定される点に注意が必要です。
• CGST法37条(3)の規定により、「GST申告の修正ができるのは翌年度の9月またはGSTR-9申告のいずれか早いときまで」とされています。この規定を意識してGSTの監査や申告スケジュールを組むことが重要です。
以上
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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