NEWS LETTER VOL.12 源泉所得税TDSの概要について
- 第一章 ZOOMの向こう側の違和感 (1)
- 第二章 源泉所得税TDS概要
Chapter.01第一章 ZOOMの向こう側の違和感 (1)
1. 人の熱量やぬくもりのビッグデータ?
数字や数値データは、物事を可視化し曖昧さを回避することを可能にする、非常に便利な人類の共通概念です。上司や部下との会話にひとつやふたつの具体的な数値を織り込むことが、物事の優劣、信憑性の高低、事態の切迫度などを伝える際には非常に有効であることは皆さんがご承知の通りですし、部下から上がってきた会計書類を数分間ぺらぺらめくった上司が、事象の違和感や問題解決のヒントをあぶり出し、部下達に対して矢継ぎ早に具体的指示を出していく勇ましい姿を見せるだけでも、組織全体がピリッと引き締まるものです。しかしながら、そんな会計書類に代表される、有用な数字情報からでも、残念ながら、人の熱量、人と人の間に生まれるぬくもりや摩擦熱までは感じとることはできません。組織であることの醍醐味とは、例えば人と人の丁々発止のやりとりであったり、打てば響くような連係業務であったはずです。乱暴に言えば、それらは組織の最小範囲である半径約5m以内の人々の5感が駆使されることによって発生し、やがて組織内外を横断縦断して、文字通り熱伝導されていくものです。
個人や人間関係が醸し出す、熱量やぬくもりという「情報」をいわゆるビッグデータと呼べる水準になるまで貯えて、例えば財務諸表のように体系的かつ定期的にまとめることが可能になれば、そこから大層なビジネスアイデアは生まれなくとも、ちょっとした違和感や、事件事故を未然に防ぐヒントが浮かび上がり、遠隔地からの内部統制に大きな改善が期待できそうです。ただし、そういう表や図を見て、「ある仮説」を立てる能力がなければ、ビッグデータの持ち腐れとなってしまいますが。
2. 自然言語処理に未来を託すことができるか?
唐突ですが、下の「地図」をご覧下さい。これは、「2020年度の日本学術会議会員によって過去に研究されてきた分野」の分布を示した二次元マップです。ちなみに、2020年9月の菅首相による当会議の一部会員の任命拒否行為が、「学問の自由が脅かされる重大な事態である」などと、世間で大きな問題として取り上げられており、今注目を浴びている話題の1つです。
上図は、マッピング(膨大な量の事象の有機的な関連付け)と呼ばれる技法を使ったコンピュータ分析の1例で、地理空間情報分野で国際会議にも登壇している堀下栄太氏 (VALUENEX(株) ビジネスデザイン室リーダー) が個人的な作品として公開したもので、2020年第25期日本学術会議会員名簿のリストにある約200名の会員が関わっている、公開済の約4,800件の研究データを解析して、各分野の研究項目の頻出度と相互関連性を示した分布図となっています。さあ、ここからが血の通った人間の出番です。日本学術会議の存在意義と、国益への結びつきについて、大胆な仮説を得ることができるでしょうか。筆者は。。。ダメでした。不慣れなルールに基づいているであろうこのマップを眺めても何の物語も浮かんでこないのです。
自然言語とは、人間が日常用いている書き言葉や話し言葉の事であり、情報処理の分野において、コンピュータで用いる「プログラミング言語」 と区別する目的で用いられています。上図は、公開されている会員の研究データという自然言語の処理を、技術的には機械学習と空間情報分析をも掛け合わせることによって作成されており、このマップのデータは色々な条件指定を行うことによって、誰にでも広げたり絞り込んだりすることができます。
【あなたも挑戦: 大仮説を導け】 https://co-place.com/social/academic-atlas/scj/
今月号では、この自然言語処理についての簡単な紹介をするに留めますが、この分野の目指す人類への貢献は、筆者のようなITに疎い人間にとっても非常に想像力が掻き立てられるものであります。なぜなら興味深いことに、上図の作成者である堀下氏によれば、このマップから、前述した「日本学術会議会員任命拒否問題」に対する、国粋主義者いわゆる右翼に有利な仮説を導き出すことも、逆に左翼的な団体に有利な仮説を導き出すこともできてしまうというのですから。
さて、次回はその驚くべき仮説の組み立て方のご紹介とともに、ZOOMをはじめとするオンラインツールから、自然言語のみならず「人の熱量とぬくもりのビッグデータ」を集めて分析し、経営者が様々な仮説を立てつつ検証していくことが可能かどうか、はたまたそれが遠隔地からの内部統制の飛躍的改善につながるのかどうかを、堀下氏の大胆な見解をふんだんに取り入れながら探っていきたいと思います。(次号に続く)
Chapter.02第二章 源泉所得税TDS概要
さて、前回まではインドの間接税であるGSTについてご紹介してきましたが、今回からはインドの直接税についてご紹介します。今回は源泉所得税(TDS : Tax Deducted at Source)の概要、適用対象と税率、納税期限についてご紹介します。
1.TDS とは?
源泉所得税(TDS : Tax Deducted at Source)とは、まさに所得の源泉で徴収される税金のことです。特定の性質の支払いをする者は、支払時にTDSを控除して中央政府へ納税しなければなりません。TDSの課税対象となる取引や適用されるレートは所得税法(Income-Tax Act, 1961)において規定されています。
以下、源泉徴収の義務を負う者のことを「源泉徴収義務者」、源泉徴収を受ける者のことを「納税者」と呼びます。
2.TDSの適用対象と主な税率
TDSはサービス取引に対して課税され、物品の取引には課税されません。TDSの控除が必要となる支払には給与、銀行の預金利息、成果報酬(コミッション)、賃料、専門家報酬などが挙げられます。
条文番号 | TDS料率 | 内容 | 免除基準 |
194 | 10% | 配当 | 年間2,500ルピー以下 |
194C | 2% | 業務請負 | 1回の取引が3万ルピー以下かつ年間取引が10万ルピー以下 |
194H | 5% | コミッション | 年間15,000ルピー以下 |
194I | 10% | オフィス賃料 | 年間240,000ルピー以下 |
194J | 10% | 専門家報酬 | 年間3万ルピー以下 |
194J | 2% | 技術サービス | 年間3万ルピー以下 |
※194Cについては個人への支払の場合TDS税率が1%になります。
給与のTDS金額については、所得の金額や控除項目によって変わるため、回を改めてご紹介します。
なおコロナウィルスにより、2020年5月14日から2021年3月31日までTDS料率が引き下げられております。詳細は政府のプレスリリース(https://pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=1623745)をご参照ください。
3.TDSの控除証明
納税者は、年度末の所得税申告時に、控除されたTDSを所得税年税額から相殺することができます。もし所得税年税額が発生しない場合や年税額よりも控除されたTDS税額が多い場合には還付を受けることができます。控除されたTDSの金額は、以下のフォームで確認することができます。
(1) 源泉徴収義務者が発行するフォーム
源泉徴収義務者は納税者に対して、源泉徴収をしたことを証明するフォームを送付します。給与の場合はForm 16、固定資産売却の場合はForm 16B、賃貸契約の場合はForm 16C、それ以外の取引の場合にはForm 16Aを発行します。これらのフォームは、日本の源泉徴収票に相当します。
名称 | 対象取引 | 発行時期 | 期限 |
Form 16 | 給与 | 年に1回 | 翌年度5月31日 |
Form 16A | その他 | 四半期に1回 | 申告後15日 |
Form 16B | 固定資産売却 | 取引毎 | 申告後15日 |
Form 16C | 賃貸借 | 取引毎 | 申告後15日 |
所得税法(Income Tax Act, 1961)272A条の規定により、 上記の証明書を発行しなかった場合には、源泉徴収義務者に1日あたり100ルピーの延滞税が課せられます。
(2) Income Tax Portalから発行するフォーム
納税者は、源泉徴収義務者から発行される上記フォームに加えて、Income Tax PortalからForm 26ASというフォームをダウンロードすることにより自分で源泉徴収額を確認することも可能です。Form 26ASは、日本で税務署から発行される納税証明書に相当します。
Form 16やForm 16Aに記載されている源泉徴収額とForm 26ASに記載されている源泉徴収額は必ず一致します。もし源泉徴収義務者からの支払いで控除されたはずのTDSがForm 16やForm 26ASに反映されていなかった場合には、源泉徴収義務者へ確認する必要があります。
事例:物品とサービスの両側面を有する契約にTDSが課税されたケース
X社はY社に対して、試作品の製作を依頼しました。X社はY社に提案依頼書を送り、Y社はX社の依頼に従って試作品を設計、製造し、X社に納品しました。納品後、Y社は「開発費(Development Cost)」と記載した請求書をX社に送付しました。
X社は、Y社から提供を受けたものがサービスではなく物品であったため、TDSの控除は不要と判断しました。しかし税務調査の際、担当官から「最終成果物が物品であっても、契約の中に業務委託の要素が含まれているため、TDSの控除が必要である」という指摘を受けました。
最終成果物が物品である場合には物品取引であると解釈することも可能であり、反論をすることで税務署側が折れてくれる可能性もありますが、全ての税務担当官がそのように解釈しくれるとは限りません。契約内容に物品とサービスの両側面を含むと場合など、人によって見解が分かれる可能性がある場合には、保守的にTDSを控除した方が税務リスクを減らすことができます。
次回はTDSの課税タイミングと納税期限、延滞税や遅延利息についてご紹介します。
以上
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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