NEWS LETTER VOL.14 源泉所得税TDSの四半期申告の概要と入力項目
- 第一章:ZOOMの向こう側の違和感 (3)
- 第二章:源泉所得税TDSの四半期申告の概要と入力項目
Chapter.01第一章 ZOOMの向こう側の違和感 (3)
通称ウソ発見器と呼ばれるもののひとつに、ポリグラフ(Polygraph)という1921年に米国で発明されたものがあります。
人の生体反応を同時記録することによって、「被検者がある事象を記憶しているか否か」を判定するというもので、平たく言えば「それは私の記憶にございません」と言い張る被検者が「実はお前、記憶しているだろう?」と発見器に判定されれば、そのウソが暴かれたことになるという仕組みです。
ポリグラフ大国の米国では、多くの企業が従業員の不正を暴くためにこれを使用してきましたが、このイエスかノーかの解を発見器にゆだねるということには、やはり道義上の問題が絶えなかったようで、現在では監視カメラやパソコンの監視ソフトを使った、より客観的な情報から証拠やアリバイ等を得るという手段に取って代わられているようです。
唐突に今回の、いえ最終的な結論を言います。
インドの職場において、従業員の熱量とぬくもりのビッグデータ、つまりは生体情報(体温・血圧・心拍数・瞳孔・声紋・話題性向・言語発出パターン・身振り手振り・一定時間内の動線傾向など)をZOOM面談の録画や、各所に設置した固定カメラ、センサーなどから収集して、AIが過去の実績をも精密に学習した上で、「今から3か月以内に貴社の労働組合員20名以上によるストライキが決行される確率は25%です。」と、はじき出すのは技術上可能であります。これが、堀下栄太氏(VALUENEX(株)ビジネスデザイン室リーダー)の情報解析技術者としての見解です。
これが本当だとすれば、日本とインド間の約6,000kmのリモートワークで人心掌握が片手落ちになってしまうどころか、とんでもない量の情報と解析分析結果が手に入ることになります。しかし、はじき出されたのは25というパーセンテージです。ウソ発見器のような、イエスかノーではないのです。
AI、とてもいいです。人はそもそも「見たくないものは見えないフリをします」し、「信じたくないことをあえて深くは考えないようします」し、ましてや何か灰色のものがぼんやり見えてきたところで、「平穏な職場にあえて波風を立たせるような面倒くさい裁定は下したくはない」というのが人です。その点AIは、その権限さえ与えれば、ずばり言われたくもないことをあえてはっきりと冷静に言ってあげられます。
しかし、しつこいようですがどんなに踏み込んでみたところで数字は相変わらず25というパーセンテージです。実はドラマはここからなのです。25という数値を引っ提げて、ボスはストライキ首謀者になる確率の高そうな人間を特定して自主退職勧告交渉を始めますか?あるいはボスみずから乗り込んで現場主義を再開しますか?それとも時期尚早・緊急性なしとみて目立った行動は差し控えますか?
今まで見えなかった解析分析世界が見えてくればくるほど、いよいよ人が人の事に踏み込んで考えて動いていかねばならぬ時代に突入するでありましょう。人が人であるための尊厳を忘れずに、対情報反応力や大胆仮説力を磨く、その労力の大きさたるや、前時代の比ではなくなります。人類は、例えば下に示すようなたぐいのグラフに踊らされている場合ではないのです。
このグラフです。見出しと曲線だけを眺めると、「なるほど、ビール系飲料の販売量は、過去4年間ほぼ横ばいだが、そのかわり低アルコール飲料の販売量が順調に伸びている。」→ならば俺もビールのついでに低アルコール飲料も買ってみるか!という気持ちになるかもしれません。
ところが同じグラフの数値表示上のからくりを見抜いてしまった場合はどうでしょう(左右の目盛りの違いに注目!)。
「低アルコール飲料の販売量は、前年比5%増のペースでわずかに伸び続けているものの、ビール系飲料の販売量は、過去4年間で実にその3倍も落ち込んでいる。」→各世代のアルコール離れが進んでいるのかな、よし俺も週2日は禁酒するか!となるかもしれません。
これからの人類は、とくに上の前者パターンのように、たかだか2次元グラフの恣意とからくりに踊らされるようでは、人知を超える人工知能AIと共存などできません。
人類が無知丸腰でAIとの接点を持つようなことが絶対起きないよう、例えばですが、「対AIコミュニケーション優位論」、「対AIリーダーシップのススメ」、「対AI認知心理学」などが早々に提唱され、活発に論じ合われることで、人類はいかにAIを愛すべき理解者として認めるか、逆にAIにはいかに人類の尊厳を認めてもらうか(結局これも人類側の覚悟にすぎませんが)、その上で両者の究極の使命分担が果たせるか、ということに気持ちを注いでいかねばなりません。
そうそう、認知心理学といえば、本来は人が物事を感知するその起点から、感覚入力→変換→還元→精緻化→貯蔵→回復、最後に使用(=行動)するところまでを科学する学問です。つまり、AIのデータ解析アルゴリズムに似ているのです。神がこしらえた人類について人類が研究することができるというのなら、人類がこしらえたAIを人類が丸裸にして研究できない理由などありましょうか。
さて、これまで全3回にわたる「ZOOMの向こう側の違和感」のとりとめもない内容の根本は、人類の喫緊の脅威かつ最後の望みでもあるのはAIなどではなく人そのものであるということでした。最後に先人の編み出した有名な法則に、ちょっぴり私見を加えて締めくくりたいと思います。
下の三角形の図は、労働災害時によく引用されるハインリッヒの法則です。1件の重大災害(死亡事故含む)が起こる背景には、29件の軽微な災害がすでに起こっていて、さらに300件の未遂(ひやりとした、あるいははっとした危ない経験)が日常的に発生しているという状態を示しています。
さらにビッグデータ的な観点からいえば、この300件のさらに下位には、個人レベルの「無数の違和感」が存在していて、それを脳が「見たくないもの」あるいは「聞きたくないもの」に無意識に分類して、ほうっておかれているものが3,000件はあるはずだ、という私見です。
氷山の不可視領域に、失敗予備軍情報がたんまりと。ああ違和感のビッグデータよ、3,000の自己反省はとうてい無理でしょうから、近い将来、AIに反省すべき優先順位くらいはつけてもらいましょうね。その後の冷や汗もの、涙ものの大仮説樹立と有言実行にこそ人類の未来を託しまして。
本章は、過去3回にわたり、コロナ禍におけるリモートワークの進化形をAIの切り口から探るべく、堀下栄太氏(VALUENEX(株) ビジネスデザイン室リーダー) への取材とインタビューを重ねて構成したものです。最後に、氏に寄稿していただいたあとがきを記して終えることに致します
– あとがき- 肌と機械の温もりに溢れた暑苦しい世界
堀下栄太 (VALUENEX(株) ビジネスデザイン室リーダー)
情報技術の発達で、遠隔から莫大な情報を取得できる時代だ。その先にある「思考」の獲得すらも機械が担ってくれるなら、人間は相当に楽をできるのではないか、いや意外とそんなことにはならない、というのが今回の結論であった。勿論、テクノロジーを使役して高度な現場管理を実現することはできるが、それも機械とヒトのお互いの理解・尊重のもとで初めて可能になるものだ。さらに、結局のところ人間社会における意思決定はヒト固有の認知プロセスであり、この責務から人間は逃れられない。未来は、きっと相変わらず、肌と機械の温もりに溢れた暑苦しい世界なのだ。
Chapter.02第二章:源泉所得税TDSの四半期申告の概要と入力項目
前回はインドの源泉税であるTDSの課税タイミングや納付期限、遅延利息ついてご紹介しましたが、今回はTDSの四半期申告の概要と入力項目についてご紹介します。前回同様、源泉徴収の義務を負う者のことを「源泉徴収義務者」、源泉徴収を受ける者のことを「納税者」と呼びます。
1.TDSの四半期申告とは
前回のニュースレターにて、TDSは、納税者が当該取引を記帳した月または源泉徴収義務者から支払いを受けた月のいずれか早い方のタイミングで課税され、翌月7日(3月度は翌月末)までに納付しなければならない旨をご説明しました。
但し納付のタイミングではTDSを銀行へ納付するだけであるため、納付したTDSがどの取引先への支払に紐づいたものなのかは税務当局に通知されません。従って、単にTDSを納付しただけではForm 16, Form16A, Form26ASなどのフォームにTDS金額は反映されません(Form16やForm26ASなどの詳細は過去のニュースレター「NEWS LETTER VOL.12 源泉所得税TDS概要」をご参照ください。)。
源泉徴収義務者が本記事で説明するTDS四半期申告を実施することによって初めて、納付したTDSがどの納税者への支払時に控除したものであるのかが税務当局に通知されます。この通知がされることで、Form 16やForm26ASにTDSの金額が反映されます。
2.TDS四半期申告の種類
TDSの四半期申告は、取引内容により下記3種類のフォームが用意されています。
フォーム名 | 取引の内容 |
Form 24Q | 従業員への給与支払時に控除したTDS |
Form 26Q | 給与以外の支払時に控除したTDS |
Form 27Q | 非居住者への支払時に控除したTDS |
3.TDS四半期申告フォーム入力項目
ここからは、Form 24Q, 26Q, 27Qで申告すべき項目をご紹介します。
<Form 24Q>
Form 24Qは従業員への給与支払時に控除したTDSに関する申告で、本文とAnnexure I, Annexure IIで構成されています。
<Form 26Q>
Form 26Qは給与以外の支払に控除したTDSに関する申告で、本文とAnnexureで構成されています。
<Form 27Q>
Form 27Qは非居住者に対する支払時に控除したTDSに関する申告で、本文とAnnexure で構成されています。
1.本文の主な入力項目
本文の入力項目はForm24Q, 26Q, 27Qともに共通で、下記の内容を入力します。
- 申告対象の会計年度
- 源泉徴収義務者の名称、住所、源泉徴収番号(TAN : Tax Deduction and Collection Account Number)、税務番号(PAN : Permanent Account Number)
- 四半期申告担当者の氏名、PAN、住所
- 該当四半期に納税したTDSの金額と、TDS納税後に銀行からメールで送付されたTDS Payment Challanの番号
2.Annexure Iの主な入力項目
Form 24QのAnnexure IおよびForm26Qと27QのAnnexureでは、本文で入力したTDS Payment Challanの内容を納税者単位でブレイクダウンするため、納税者の氏名、PAN、給与支払日、給与額、TDS金額、TDSの根拠となる所得税法の条文番号などを入力します。これからの項目が適切に入力されていないと、納税者のForm 26ASに適切な金額が反映されません。
なお非居住者向けの支払時に控除したTDSを申告するForm 27Qのみ、以下の項目も入力します。
- TDS控除の根拠がインド所得税法か、それとも租税条約か
- Form 15CA(海外送金にあたり源泉税を適切に徴収する旨の報告書)の番号
Form27Qの場合、納税者がPANを取得していない場合があるため、その場合には以下の情報を入力する必要があります。
- 納税者の居住国での税務番号(TIN :Tax Identification Number)
- 納税者の居住国
- 納税者の居住国での住所
- 納税者の電話番号
- 納税者のEメールアドレス
3.Form 24Q Annexure IIの主な入力項目
第4四半期のForm 24Q申告のみ、上記書類に加えてAnnexure IIの入力が必要となります。Annexure IIには各従業員の年間給与明細(各種手当などの金額など)、控除したTDSの金額、給与以外の収入、資産・負債金額などを入力します。
次回はTDS四半期申告の期限や延滞税、事例などをご紹介します。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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