NEWS LETTER VOL.4 COVID-19に伴うコンプライアンス手続期限延長とGSTR-1事例
- COVID-19に伴うコンプライアンス手続期限延長
COVID-19に伴うコンプライアンス手続期限延長
COVID-19感染防止のため、インドでは2020年3月25日より21日間ロックダウンが行われております。これに伴い、2020年3月31日時点で一部の手続きにつき下記の通り申告期限の延長が発表されております。なお、下記表は2020年3月31日時点の内容のため、今後の通達にて申告期限が変更される可能性がある旨をお含みおきください。
GSTR-1 事例
前回概要をご紹介したGSTR-1申告について、今回のニュースレターでは実務上で注意すべき点を具体的な事例を基にご紹介します。
ここからはGSTR-1の申告に関して問題が発生した事例と、その予防策をご紹介します。
事例1:事務所移転時のGST申告への影響
A社はGSTR-1の申告を法令に則って実施していましたが、顧客B社から「GST Input CreditがGSTR-2Aの報告書に見当たらない」と指摘を受けました。(※“GST input Credit”とは、A社がGSTR-1において正しく申告することによって、B社が支払ったGSTを税額控除(Input Credit)として利用できるものです。)
GSTR-1はベンダーが売上を申告するためのフォームですが、逆に顧客側は発注額をGSTR-3Bで登録し、両社の申告をGSTR-2AというGSTポータルサイト上のフォーマットで照合することとなります。A社が確認をしたところ、B社は州を跨ぐ拠点の移動に伴ってGST番号が変更されているにもかかわらず、A社は変更前のGST番号をそのままGSTポータルへ登録していたため、旧番号のまま申告が実施されてしまっていたことが発覚しました。つまり、A社は、B社が他州への移転にともなってGST番号を変更した日以降に発行した全ての請求書についてGSTR-1を修正申告しなければなりません。このような事態を防ぐためには、顧客のGST番号を常に最新のものへアップデートするための顧客との密なコミュニケーションおよび社内の業務プロセスを整備しておく必要があります。
事例2:人的ミスや過誤によるGST申告への影響
C社はGSTR-1の申告を法令に則って実施していましたが、顧客のD社から「GSTポータルサイトに登録されている請求書の番号が、実際の請求書原本の番号と異なる」と指摘を受けました。C社が確認をしたところ、GSTR-1の申告時に間違った請求書番号を申告していることが分かりました。つまり、請求書原本上では“INV/001/2019-2020”と記載されていましたが、GSTR-1申告時に入力した番号は“INV/001/2019-20”でした。
したがって、C社はこの請求書番号について修正申告をしなければなりません。毎月のGST申告に一定の手作業が含まれる以上、人的ミスや過誤は常に起こり得ますが、このような間違いを極力軽減するために、特に間違いやすい文字(例えば、“1”と“I”や、“2”と“Z”など)には注意をしながら正しいGST番号の把握と入力作業の意識を高める、必ず2回チェックをする、または、別のスタッフがダブルチェックをする等の従業員に対する意識づけ、さらには業務プロセスや内部統制の構築が必要となります。なお、請求書番号の修正は1回目のみ認められており、2度目の修正はできないため注意が必要です。
事例3:売上認識基準の違いによるGST申告への影響
エンジニアリングサービスを提供するインド子会社E社は顧客から発注書を受け取り、業務が完了したら請求書を発行しています。請求書を発行したらGSTR-1にて申告をしなければなりませんが、グループ会社内の経理規程上は検収時に売上を計上するという決まりになっているため、請求書を発行したものの検収を受けていない案件については、社内の経理規程上は売上を認識すべきではないという判断がなされ、GST申告上の売上高と社内の会計報告用の売上高との間に差異が生じることとなります。
さて、GST申告上の売上はGSTR-1に申告された売上高を基準に集計されますが、一方で、法人税申告上の売上は会計上の売上高を基準に集計されるため、年度末に「請求書発行済・検収書未受領」の案件があるとGST申告と法人税申告との間で売上金額に差が生じることになり、監査人から指摘を受ける可能性があります。つまり、監査人からは「会計上の売上高」を「GST申告上の売上高」に合わせて請求書発行時に売上を認識するように指摘を受けることとなります。したがって、海外本社の会計基準が検収基準である場合には、海外本社とインド子会社の売上認識基準において差異が発生するため、本社が連結決算を実施する際には修正が必要になります。つまり、もしインド子会社側で本社向けの連結パッケージを作成している場合には、連結パッケージ内で会計基準の差異に基づく調整(GAAP調整)を反映させる必要性が出てくるわけです。
なお、このような連結決算上のGAAP調整を排除することが難しい現実的な事情は多々あろうかと思いますが、調整項目を軽減するために、例えば、期末までに請求書を発行した全ての案件について可能な限り検収書を早期に回収できるよう顧客と連携・調整をしておくなど、年度末決算に備えて取引先と密に連携を取り、よりスムーズな決算作業の準備をすることは可能だと考えています。
GST申告フォーム“GSTR-1”のまとめ
• GSTR -1の申告においては請求書の日付 / 請求書の番号 / 取引価格 / GST税額 / 合計金額が正しくGSTポータルサイトへ入力されなければなりません。そして、根拠証憑となる請求書等の書類の番号も正しく入力されている必要があります。
• GSTR-1の申告時には、売上高のうちインド国内法人への売上、海外への売上、個人への売上など売上区分、また、RCM(リバースチャージ)やEコマースの対象となる取引を正しく把握し、区分ごとに正確に申告しなければなりません。
(※GSTR-1の申告にかかる詳細は前回のニュースレターをご覧ください)
• 海外やSEZへの売上について、もし海外売上の免税対象であるにも関わらずIGSTを払ってしまった場合には、フォームRFD-1にて還付申請を実施しIGSTの返金を受けることができます。
• もし売上がなかった場合にも、GST登録をしているすべての事業者はGSTR-1の申告はしなければなりません。前年度の年間売上金額が1500万ルピーを超える場合には毎月申告が必要となります。(※1500万以下の場合には四半期に1度の申告も可能)
• 顧客の最新情報と取引スキームを明確にして、GST番号と課税されるべきGST区分(SGST/CGST/IGST)を正しく理解しておく必要があります。
• 人的ミスや過誤を最大限未然に防ぐための意識付け、業務プロセス、内部統制を整備しておくことが望ましいと考えます。
執筆者紹介About the writter
慶応義塾大学経済学部卒。日本・香港・スリランカ・インドにて、日系企業の経理・財務・総務業務に約14年従事。スリランカにてCSR業務から派生したソーシャルビジネスの起業実績もあり、経営者として管理業務実績を数多く積んでいる。2019年よりバンガロールを中心とした南アジアに強い会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。
東京大学経済学部卒。IT業界での営業職を経て、経営企画室にて予算管理や内部統制整備、法務コンプライアンス業務、また、財務経理部にて海外子会社の経理業務などを含む幅広い経営管理業務に約10年従事。2018年より南インドに移住し、インド会計・税務コンサルタントとして日系企業のインド進出を支援している。2022年7月に退職。
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