【この1本で解決】インド現地法人の増資手続きと注意点
インド現地法人の増資手続きと注意点
今回はですね、インド現地法人の増資手続きとその注意点について徹底解説してみたいと思います。
会社経営において資金繰りがむちゃくちゃ重要なのは皆さんご存知のとおりだと思いますけど、実際にそのための資金調達手続きをインドで実施しようとすると意外に時間がかかってしまうケースが散見されます。特に、インド事業立ち上げ初期フェーズにおいては、万が一対応が遅れてしまうと資金ショートにおちいる、なんてことにもなりかねません。
そこで今回の動画では、資金調達手段の中でももっとも一般的な「増資」の手続きについて詳しく解説してみたいと思います。
まず、増資には主に(1)株主割当増資と(2)第三者割当増資と、そして、(3)公募増資の3種類がありますが、インドに現地法人や子会社を設立した日本企業が実施する増資は基本的に親会社やグループ会社、つまり、既存の株主に対して新規株式を割り当てる「株主割当増資」が該当するケースが一般的です。英語ではRights Issueって言ったりしますね。一方で、例えば、インド企業にマイノリティ出資をしたり、合弁事業として新しい株主を迎え入れたりするようなケースだと、第三者の新しい株主に対して新規株式を割り当てる「第三者割当増資」、英語ではPrivate Placementと言う増資手続きもありますので、まずはこの2つを区別して理解しておくと良いと思います。ちなみに、例えば親子ローンとかインド国内借入など増資以外の資金調達手段それぞれのメリット・デメリットについては、こちらの動画で詳しく比較・解説をしていますのでご興味ある方はぜひこの動画をご覧ください。
話を増資に戻しますが、この増資っていうのは、定款に記載されている授権資本(いわゆる出資できる上限枠ですね)この範囲内で資本金を増やすことができて、増資手続きが完了すればその資金を自由に使うことができるんですけど、手続きには最低でも2ヶ月ぐらいかかるのと、手続きする際に考慮しておくべき経理処理や税務論点もあるので少し煩雑です。それでは具体的な手続きについて見ていきましょう。
増資手続きの事前準備
株主割当増資(Rights Issue)の場合の手続きの全体像についてはこんな感じになっています。
その中でも特に、増資手続きを始める前にやっておくべきことが2つあるのでまずはここから説明したいと思います。
1つ目は、この部分ですね。
この手続きは、すでに定款に書かれている授権資本の範囲内で増資をする場合には必要ないんですけど、もしその授権資本金額を超えて増資をしたい場合には、まず授権資本つまり出資できる上限枠を引き上げておく必要があります。要は定款を変更する必要があるわけですね。具体的には取締役会と臨時株主総会を開催して、定款の授権資本を変更して、それを決議してから30日以内にインド当局ROCに登記をする、っていう手続きをとることになります。この際、授権資本の金額によって授権資本増加部分に対する1〜3%程度の登記費用も発生するので事前に認識しておく必要があります。
そして、2つ目は、この部分です。つまり、増資をするタイミングにおけるインド法人の企業価値を評価を実施した上で「株式評価証明書(Share Valuation Certificate)」を取得する必要があるということです。つまり、新規に株式を発行する場合には、その株式の発行価額は国際的に認められた評価方法に基づき、かつ、独立企業間価格でなければならないと定められています。要は、自社の株価を自分で勝手に決めちゃいかんで、ちゃんと公正な市場価格を評価してくださいね、と言っているわけですね。この株価評価方法の1つとして一般的に用いられるのがディスカウントキャッシュフロー法いわゆるDCF法です。このDCF法は5カ年の事業計画数値に基づいてこれから将来得られるであろうキャッシュフロー(現金収支)を現在の価値に割り引いて算出することで、企業の市場価格を評価する手法です。また、「株式評価証明書」は客観的立場にある第三者が発行する必要があるんですけど、非居住者株主に対する「株式割当増資(Rights Issue)」の場合は社外のインド勅許会計士が発行する必要がありますし、非居住者株主に対する「第三者割当増資(Private Placement)」の場合はインド証券取引委員会(SEBI: Security Exchange Board of India)に登録された登録評価人(Registered Valuer)もさらに追加で発行する必要があります。
増資手続きの流れ
増資するために必要となる授権資本枠がまだ残っていることと、株価評価の確認ができた後は、こんな感じで増資手続きを実施していくことになります。
まず、取締役会と臨時株主総会を開催して、増資の目的や発行する株式数や価格、権利割当比率(例えば、既存株1株につき新株1株の購入権を付与するみたいなイメージですね))、あとは、株主の新株購入権の行使期間も含めて決議・承認を取ります。
次に、株主に対して株式割当の条件とか、価格や支払方法、権利行使の期限を通知するための「オファーレター」を発行して、株主に送付します。株主は、オファーレターに基づいてこの権利行使期間中に必ずルピー建でちょうどぴったりの金額を日本からインド現地法人に送金します。
ちなみに、この海外送金をする際にWISE等の海外送金サービスを利用すると、増資後のコンプライアンス対応において支障が出るので必ず銀行窓口で正規の海外送金手続きを実施する必要がある点も留意してください。っていうのも、例えばWISEのビジネスモデルの性質上、日本法人からインド現地法人に直接海外送金が実施されるわけではなく、日本国内で円建ての送金がされて、インド国内でルピー建の送金がされることになるので、インド国外からの外貨送金であることを証明するFIRCっていう書類を入手できなくなっちゃうんですよね。
入金が確認できたら60日以内に取締役会を開催して、 株式の割り当てを決議・承認して、株券(Share Certificate)を発行します。株式割当の決議をした後は60日以内に会社登記局ROCに対してForm PAS-3を通じて登記して、かつ、インド準備銀行RBIに対して資本金受領および株式割当の報告する流れです。
あと、2023年10月に発表された通達によって、一定の条件を満たす企業は株式等の電子化が必要となりました。株券の電子化の具体的な手続きについてはこちらの動画で解説していますのでご興味ある方はご覧ください。
ちなみに、株式評価の結果、株式の市場価格が額面株価を下回るような場合には、そもそも額面株価未満の金額で新規株式を発行することはできないので、額面株価で株式を発行することとなります。一方で、もし株式評価の結果、株式の市場価格が額面株価を上回る場合には、上回った部分については「プレミアム」として認識されて株式を発行することとなります。いわゆる「プレミアム発行」ですね。
このような増資の際に発生するプレミアム部分は、貸借対照表上における「資本」の項目に組み込まれて、広義の意味では増資金額として認識することになりますけど、狭義の意味において会計処理上の勘定科目としては「資本剰余金(Share Premium)」として「利益剰余金(Reserve and Surplus)」の一部として計上されることになるので、額面株価の部分のみが資本金勘定に計上されることになります。授権資本金額やそれによって発生する登記費用についても株面株価部分の増資部分のみに基づいて認識することになるのでその点は留意が必要です。
あと、例えば、投資家がインド国内企業に出資をするようなケース、つまり、第三者割当増資Private Placementのケースにおいては、以前エンジェル税制(Angel Tax)というものがありました。インド国内企業が市場価格を上回る株価をベースにしてインド居住者から出資を受ける場合には、その超過部分についてはインド企業側のその他の所得(Income from other sources)、要は課税所得として認識すべきっていう法律があってですね、2023年4月以降はそれがインド非居住者に対しても適用になったので日本企業の増資手続きにも影響を与えたんですけど、その翌年2024年4月以降はこのエンジェル税制そのものが廃止されることとなったので、現在はこの課税論点についての影響はなくなっています。
皆さん、いかがでしたでしょうか?本日はインド現地法人の増資手続きとその注意点について解説をいたしました。インド事業の立ち上げフェーズは特に資金調達や資金繰りの考え方は大切なので、ぜひ参考にしていただければと思います。