Vol.0064 インドヘルステックのMindPeers、東南アジアへの拡大目指す
MindPeersが生まれた背景
インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2020年1月8日付けの報道で、デリーを拠点とするSaaS型メンタルヘルススタートアップの『MindPeers』を取り上げています。MindPeersは2020年1月にKanika Agarwal氏によって設立され、臨床的に認証された診断ツールと、パーソナライズされたウェルネスプランを個人と企業向けに提供しています。
コロナウイルスのパンデミックによって在宅勤務やリモートワークが増え、これまで以上にメンタルヘルスの重要性が問われるようになったと同時に、その解決策を提供できる専門家が不足していることが浮き彫りになってきました。Kanika氏は『職場での従業員のメンタルヘルスケアのニーズへの対応には大きなギャップがある。従業員はエビデンスに基づいたシステムで診断を受け、それに基づいた治療を受けるべきだ。』と訴えています。このギャップを埋めるために、MindPeersの認定メンタルヘルストレーナーと臨床医は、ディープテック(※1)とディープデータ(※2)を採用したソリューションを提供しています。同社のプラットフォームは『臨床的に認証されているツールを介して診断をし、パーソナライズされたウェルネスプランを取得することが可能である。そのウェルネスプランには行動、認知レベルの要素が含まれており、セルフケアテクニックや、リラックスするためのゲーミフィケーション(※3)、分析と洞察、セラピーサービスなどがある。』とのことです。
Kanika氏は、個人的に280万ルピー(約400万円)を投資し、100x.vcからシードラウンドを調達しました。MindPeersはまた、米国、シンガポール、インドネシア、インドのエンジェル投資家から20万ドル(約2080万円)のプレシードラウンドを調達しています。『この資金調達は人材の獲得に役立ちましたが、機械学習と人工知能の分野で、ヘルスケアに理解のある人材を見つけることは困難だった。』とKanika氏は述べています。
MindPeersのビジネスモデル
Kanika氏は、『メンタルヘルスコーチングを提供するプラットフォームはあまりない』と述べています。インドのメンタルヘルス分野のプレイヤーのほとんどは、主にB2Cに対応しており、B2Bサービスははまだ主流ではありません。そこでMindPeersは個人のみならず、企業向けのビジネスモデルをつくりました。
同社の顧客獲得アプローチは、まずメンタルウェルネスについて組織に情報を提供することにあります。人事部やチームリーダーに、なぜメンタルヘルスケアが組織にとって重要なのかを理解してもらった上で、SaaSワークフローが導入されたサブスクリプションに登録してもらいます。その後、各従業員がパーソナライズされたセルフケア情報を入手することが可能となります。同社はこのサブスクリプションプランの顧客拡大を目指しており、また、リテーナー型(※4)の顧客が長期契約につながることを期待しているようです。
現在、同社はうつ病や依存症、適応障害、ADHDなどの各メンタルヘルス領域におけるさまざまな専門家をカウンセラーとして多く擁しています。アプリ上でクリニカルモジュールが利用可能で、今年中にアプリの利用可能地域を東南アジアにまで拡大する予定です。創立以来、15社以上の法人契約と5,000人以上の個人顧客との契約を結んでいるようです。
ヘルステックの今後の見通し
インド国内にあるMindPeersの競合としてMindhouseやePsyclinic、Trijogなどが挙げられますが、今後もこの分野での競争は激化していくでしょう。実際にMarketsandMarketsのレポートで、世界のモバイルヘルスソリューション市場は、2020年の508億ドルから2025年には2,136億ドルに拡大、CAGR(※5)は33.3%に達すると予測されており、世界的に注目を集めていることが分かります。
ここ数年、日本でもよく耳にするようになった『ウェルネス』や『ウェルビーイング』ですが、コロナ渦によってその存在感がさらに増してきました。リモートワークによって人との関わり方、距離感がこれまでと変わり、違和感を感じている人も少なくはないでしょう。コロナ禍が引き起こした変化が人々に与えている心理的負担は多く、気づかないうちにストレスを抱えてしまっているというケースも稀ではありません。MindPeersが提供するようなメンタルヘルスケアサービスはこのようなストレスを予防するという面でも、また、従業員のモチベーションアップ、生産性の向上においても今後欠かせないものとなってくるでしょう。
※1 ディープテック:最先端の研究成果に基づいて問題解決する取組み
※2 ディープデータ:特定の人の属性や趣味嗜好を、深く長く蓄積したデータ
※3 ゲーミフィケーション:ゲームデザイン要素を利用して学習能力を上げるための仕組み
※4 リテーナー型:前払い型
※5 CAGR:Compound Annual Growth Rateの略。年平均成長率
Source:SaaSヘルステックのMindPeers