Vol.0066 インドコーディング産業、政府の教育政策が追い風となり急成長
10カ月で25万人の新規ユーザーを獲得したThink Coders
インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2020年1月11日付けの報道で、K-12(※1)向けのコーディングのスタートアップである『Tinker Coders』を取り上げています。
Tinker CodersはAnoop Gautam氏によって2020年3月にノイダを拠点に設立されました。同社はK-12の学生にPythonとAI、ブロックベースのコーディング、アプリ開発、3Dデザイン、Arduino(※2)プログラミングコースを提供しています。ローンチ後10カ月足らずで25万人以上の学生の登録があり、講師陣の数も現在500人を超えているようです。ユーザーはインド人のみならず、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、中東、アフリカ、東南アジアを含む31カ国のユーザーが登録しているとのことです。同社は2021年末までに、ユーザー数1,000万人、講師陣2,000人、収益1,000万ドルを見込んでいます。さらに2025年までには、50カ国以上に事業を拡大し、2億5000万ドルの収益達成を計画しています。
現在同社はグローバル市場でのチャネルパートナーシップの構築に積極的に取り組んでおり、インド農村部向けに低価格な新製品やDIYキットを開発しています。また、インターネット接続の悪い環境でのモバイルフレンドリーなコースにも取り組んでおり、数週間後にはモバイルアプリの提供を開始する予定です。
インドでコーディング業界が伸びた背景
インドのコーディング業界は飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びていますが、これにはインド政府が発表したNEP2020(※3)も関係しています。インド政府は2020年7月末に新教育改革として、クラス6(小学校6年生相当)以降の生徒を対象にコーディングの授業を義務付けました。これは、幼少期から分析力やデザイン思考を身につけることを目的としているようです。
子供向けのコーディングは、インドではすでに140億ドル規模の市場と推定されています。2020年に起きた2大イベントがこのセグメントの活動を急増させましたが、それは、NEP 2020のロールアウトと、インド最大のエドテックスタートアップであるBYJU’Sが、18ヶ月のコーディングプラットフォームWhiteHat Jrを3億ドルで買収したことです。 それを機にTekie、CodeYoung、Codingal、Coding Ninjas、Codevidhya、Dcoder、CodeMonkey、Camp K12などのK-12 コーディングスタートアップが続々と台頭し、また、Toppr、Vedantu、Unacademyといったエドテックプレイヤーでさえ、現在はコーディングクラスの提供を開始しています。
Tinker Codersのビジョンとビジネスモデル
Tinker Codersの創設者兼CEOであるAnoop Gautam氏は、YourStoryに次のように語っています。『以前の“リテラシー”は読み書きの能力と定義されていた。今ではコーディングがリテラシーの重要な一部となっている。さらに、研究によると今後10年間でK-12の学生の65%が、まだ生まれてもいない仕事に就くことになるだろう。』Anoop氏はコーディングスタートアップが果たすべき大きな役割はそこにあると考えているようです。彼は続けてこう述べています。『我々の目的は、実生活の問題を解決するための重要なツールとなるようなエコシステムを構築する、コミュニティのための問題解決者を生み出すことである。コーディングはそのための最も便利なツールだと考えている。子どもたちがデジタルキャンバスを使って自分自身を表現できるようになり、同時に学業成績も向上するだろう。』
Tinker Codersのユーザーは、1:1またはグループセッションの選択が可能で、学年に応じてコースを選択することができます。各コースにはライブクラス、録画されたビデオ、自己学習モジュールが含まれており、コースの価格は、学年と選択した学習方法に応じて、月額1,999ルピーから30,000ルピーまでとなっています。
NEP 2020でコーディングが義務化された後、インド国内の学校はコーディングスタートアップと提携することに意欲的になっています。Tinker Codersは地区レベルのパートナーシップを強化し、より多くの学校に導入するために、今後2カ月以内に5,000万~1億ルピー(約7,100万~1億4200万円)の資金調達を計画しており、また、学校がコーディングの授業を自分たちで実施できるように、教師のトレーニングモジュールを開始する予定です。
日本でも、近年子供向けのプログラミングスクールが急増しています。文部科学省が発表した新学習指導要領によって2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化、2021年度からは中学校でも必修化されますが、小学校のプログラミング授業ではコードは書かないようです。また、プログラミングを教える先生の質も問題視されています。このような背景から、日本ではこれからますますプログラミングのスタートアップが増えてくるでしょう。
コーディングは現在世界共通で注目されている分野であり、日本でもプログラミングを全般的に学ぶだけでなく、コーディングに特化したスクールも増えてくるのではないでしょうか?この業界に関してはインドのほうが日本よりも進んでいるので、インドのプログラミング、コーディングのスタートアップに注目しておくことで得られる学びが多そうです。今後もTinker Codersやその競合の動きを見ていきたいと思います。
※1 K-12:From kindergarten to 12th gradeの意。小学校に入る年齢から12年目(6歳~18歳)までの人口を指す。
※2 Arduino(アルドゥイーノ ):C++に似た言語でプログラミングをすることができる。AVRマイコンや入出力ポートを備えた基盤、Arduino言語や専用の統合開発環境によって構成されるシステム。
※3 NEP2020:National Education Policy 2020の略。インド政府が発表した国家教育政策。
Source:コーディングスタートアップのThinker Coders