India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0072 17歳起業家が生み出したインドブルーカラー労働者向けのサービス

労働者のスキルアップと就職支援の『Junoon』が生まれるまで

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年1月26日付けの報道で、ブルーカラーやグレーカラーの労働者のスキルアップと就職支援を行っているスタートアップの『Junoon』を取り上げています。

Junoonは17歳の企業家であるAhaan Aggarwal氏によってグルガオンを拠点に設立されました。2020年3月末に始まったロックダウンで企業は一夜にして大打撃を受け、何百人もの雇用が失われ、各部門で賃金カットが行われました。ブルーカラーの労働力マネジメントプラットフォームであるBetterplaceの報告書によると新型コロナウイルスの影響で仕事に影響を受けたインド人ブルーカラー労働者の数は10,000,000人以上であると推定されています。

この状況の深刻さを実感したAggarwal氏は、ニューデリーのアメリカ大使館学校でIB(※1)と高校の卒業資格を取得する傍ら、苦労している労働者を支援するためのプラットフォームの構想に4月に取り掛かりました。そして、僅か4か月後にはブルーカラーとグレーカラーの仕事に特化した、シンプルな指示ベースのオンライン職業訓練と仕事探しのプラットフォーム、『Junoon』を立ち上げました。Aggarwal氏は『Junoonは、未熟練・準熟練労働者がキャリアに特化したスキルを見直したり、習得したりして、より良い資格を得ることができるように支援する役割を果たしている。長期的な目標は、広範な経済的自立を可能にするための機会を提供することである。』と説明しています。

 

Junoonのビジネスモデル

Junoonは、自動車整備士、自動車運転手、塗装工、配管工、電気工、倉庫番、警備員、大工、石工、建設作業員、清掃員、ランドリーアテンダント、庭師、調理助手、乳母、配達員など20のカテゴリーにまたがるトレーニングプログラムを提供しています。 トレーニングプログラムはテキストとビデオの両形式で提供されており、インド国内でレベルが低いとされている仕事を標準化し、労働者が一般的な生活を送れることを目的としています。『質の高い熟練した労働力を生み出すことで、エンド・ツー・エンド(※2)の労働力管理システムを提供し、インド経済に貢献したい。ブルーカラー労働者のスキル向上によって、インドは大きな経済成長を遂げることができると強く信じている。』とAggarwal氏は述べています。

職業訓練のコンテンツは英語とヒンディー語で提供されており、登録者は無料で利用できます。このプラットフォームでは、求職者がプロフィールを作成する際や雇用者が求人情報を掲載する際に料金は発生せず、掲載数の制限もありません。雇用主が候補者の応募書類をダウンロードして連絡先情報を入手する場合のみ手数料がかかり、その際の手数料は応募書類1件につき79ルピー(約113円)となっています。

 

Junoonの拡大計画

現在、同プラットフォームには1800人以上のユーザーがトレーニングにサインアップしており、60社以上の雇用主がプロファイルを作成し、求人情報を掲載しています。雇用パートナーには、Droom Automobile Marketplace、ShopClues Marketplace、Renovite Technologies Inc.、St.Kabir School、Fixcraft Automobile servicesなどがあります。

Junoonの立ち上げからわずか3ヶ月後の2020年11月に、同社はSandeep Aggarwal、Chaim Freidman、Vishesh Tandonのような評判の良い投資家から、シードラウンドで非公開の金額を調達しました。当初、契約ベースのわずか10人のメンバーで製品、リサーチワーク、コンテンツ、ビデオ制作を担当していました。資金調達後の今は、社内チームを拡大して様々な部門を統括する計画を立てているようです。 また、性別、年齢、知識、語学力などのスキル評価テストを導入し、候補者が立地条件や賃金などを考慮した上で、業種を絞り込むことができるように機能性を高めていくようです。『雇用パートナーにとって必要なデータになり得るであろう、ブルーカラー労働者のKYC認証(※3)、バックグラウンドチェック、リファレンスチェックの導入も計画している。さらに、市場調査ですでに特定した1万近くの村でコミュニティカレッジプログラムを開始する予定だ。』と今後の展望を明らかにしています。

インドで実際に生活していると、ブルーカラーやグレーカラーの労働力の供給過多を実感することができます。実際に清掃作業や建築作業をしている場面では必要以上に従業員が集まっており、何もせずにただその場に座っている、という光景も稀ではありません。飲食店でも、人件費を考慮しなければいけない日本では考えられない数の従業員が働いています。人口大国のインドにとって仕方のないことであり、それ故にJunoonのようなブルーカラーやグレーカラーの労働者のスキルアップや就職支援のプラットフォームはこれまでは重要視されてきませんでした。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックにより、ソーシャルディスタンスやステイホームが推奨され、ロックダウンも実施されたことでこのような仕事の活躍の場が一気に減ったため、ブルーカラーやグレーカラーといった職にもスキルアップを求める傾向が見られ始めました。インターネット環境にいない、デバイスを持っていない等の理由で、このようなプラットフォームにアクセスできないセグメントとの格差がますますでてくるのでは、という懸念もありますが、インド国内のスマホユーザー数やインターネット環境は着実に拡大・改善をしてきています。Aggarwal氏が述べているように『ブルーカラー労働者のスキル向上によって、インドは大きな経済成長を遂げることができる』のではないかと期待しています。

 

※1  IB:International Baccalaureate(国際バカロレア)の略。国際的な機関や外交官の子供が母国での大学進学のため、様々な国の大学入試制度に対応し、1つの国の制度や内容に偏らない世界共通の大学入学資格及び成績証明書を与えるプログラム。

※2 エンド・ツー・エンド:端から端までの意。この場合、求職者から雇用主を表す。

※3  KYC認証:Know Your Customer認証の略。事業者が顧客の身元を特定し、身元確認のために取られる手続きのこと。

 

Source:17歳起業家が考えたブルーカラー労働者向けプラットフォーム