Vol.0089 小規模店舗と提携して電動リキシャの充電問題を解決するBattery Smart
インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年3月29日付けの報道で、電動リキシャ(※1)の充電問題のソリューションを提供している『Battery Smart』を取り上げています。
Battery Smartはデリーを拠点とする電動モビリティ企業で、電動リキシャコミュニティの生活に影響を与えるというビジョンのもと、2020年にPulkit Khurana氏と Siddharth Sikka氏によって設立されました。同社は、インド最大のEVバッテリー交換ステーションのネットワーク構築を目指して活動しているようです。
電動リキシャの課題とは?
電気自動車への注目が高まっているインドですが、現在電気自動車の80%をリキシャが占めていると言われています。これは、リキシャを利用する人々の間で、安価でクリーンな交通手段への移行が進んでいるためです。しかし、これまでの電動リキシャには大きな課題がありました。それは1) バッテリーの充電時間が最大10時間かかること、2) 収益が限られていること、3) 高価な新バッテリーへの投資が必要なことなどです。一般的な電動リキシャの場合、バッテリー1個あたりの交換費用は25,000〜28,000ルピー(約37,400~42,000円)です。また、鉛蓄電池の重量は通常80kg近くになり、走行距離が短くなります。さらにバッテリーは再生できないため、寿命が来たら業者に返却しなければなりません。Battery Smartはこのような課題に対応するため、後付け可能なリチウムイオン電池を採用し、ドライバーとパートナーに「2分間の電池交換機能」サービスを提供しています。
Battery Smart社のビジネスモデル
同社は現在9人のメンバーで構成されており、先進的なリチウムイオン電池を電動リキシャドライバーにサブスクリプションベースで提供しています。ドライバーは、現在南西デリーの26カ所に設置されている同社提携のバッテリー交換ステーションに立ち寄ることで、使用済みバッテリーとフル充電されたバッテリーを交換することができます。毎週1,000回以上のバッテリー交換が行われており、発売以来15,000件以上の交換が行われています。
ステーションを管理するパートナーは地元の小規模店舗で、『弊社の低コスト、コンパクト、低メンテナンスのバッテリー交換ユニットは、小規模な店舗や個人でも設置可能』とKhurana氏は述べています。パートナーは、Battery Smartのモバイルアプリケーションを通じてステーションを管理し、バッテリーの交換と充電の役割を担います。その報酬として、経費を差し引いて月に5,000〜10,000ルピー(約7,500~15,000円)をBattery Smartから受け取ります。ドライバーは使用量に応じてパートナーにサービス量を支払い、Battery Smartに手数料として1日当たり100〜200ルピー(約150~300円)を支払います。Khurana氏によると、『ドライバーは、Battery Smartに移行することで収入を倍増させることができ、パートナーも人件費や不動産コストをかけずに、新たな収入源を得ることができる』とのことです。
Battery Smart社の今後の計画
同社は、2021年年末までにデリーNCR(※2)に300カ所のバッテリー交換ステーションを開設し、1平米あたり1ステーションを計画しています。また、今後10カ月で5,000人の電動リキシャドライバーをBattery Smartのプラットフォームに登録することを目指しているようです。
競合他社にSun Mobility(※3)、Bounce(※4:Bounce社製二輪車)、Oye Rickshaw(※5:Oye社製リキシャ)などがありますが、Battery Smartが他社と画一しているのは地元のショップオーナーをバッテリー交換ステーションのパートナーとして迎え入れる戦略です。この戦略によって資産を持たずして運営することが可能となります。Khurana氏は『自社で充電ステーションを開設するのではなく、コストと時間をかけて、交通量の多い道路沿いの密集した地域にある地元の小規模店舗と提携することにした』と説明しています。Battery Smartはこの戦略によって、パートナーを開拓し、安定した収入源を提供することで、供給を確保しています。そしてそれが、急速に拠点を拡大することに繋がっています。プラットフォームに登録されているパートナーステーションの数が増えれば増えるほど、Battery Smartの提案はリキシャドライバーにとっても魅力的なものとなります。このように同社の営業モデルにはネットワーク効果が内在しています。現在同社はバッテリー交換技術を電動二輪車に搭載する試験も行っているとのことです。
電気自動車業界の展望
Avendus Capital社のレポートによると、EV市場は2025年までに約5億ルピー(約7億5,000万円)になると見られており、コロナウイルスのパンデミックにより中期的には二輪と三輪の電動化が進むと考えられています。また、電動リキシャ市場の40%がリチウムイオン電池に移行、インドにおける電動二輪車のリチウムイオン電池交換の市場は2024年までに60億ドルに到達すると予想されています。
インドでは環境対策から政府も電気自動車に力を入れており、ここ数年のうちにEV関連のスタートアップが多く誕生し、大手外資自動車メーカーもインドのEV産業に進出してきています。自動車や二輪車に関連する企業が取り上げられることが多く、電動リキシャに関してはあまり認識がなかったため、インドの電気自動車の80%がリキシャであるという事実には正直驚きました。インドでEV車を推進していくにあたっての課題の一つに充電ステーションの土地不足が挙げられていますが、Battery Smart社が採用しているバッテリー交換ユニットは個人でも設置が可能、場所もとらないということですぐに普及しそうだと思いました。Battery Smart社のビジネスモデルではパートナーも簡単に新しい収入源を手に入れることができ、リキシャドライバーも収入倍増、さらには環境にも優しいと、三拍子揃っており今後の事業拡大に期待が持てます。
※1 リキシャ:インドの三輪タクシー。東南アジアのトゥクトゥクと同じ。
※2 デリーNCR:デリーNational Capital Regionの略。デリー首都圏。
※3 Sun Mobility:https://www.sunmobility.co.in/
※4 Bounce:https://bounceshare.com/
※5 Oye Rickshaw:https://www.oyerickshaw.com/
Source:電動リキシャの課題を解決するBattery Smart