India Weekly Topics

週刊インドトピックス

Vol.0096 FMCG向けのデジタルサンプリングソリューションを提供するFreeStand

インド最大のスタートアップメディアであるYourStory社の2021年4 月29日付けの報道で、FMCG(※1)ブランド企業向けのB2B、SaaS(※2)プラットフォームを運営しているFreeStandを取り上げています。

 

FreeStandのはじまり

女性企業家であるSneh Soni氏は、デリーのLady Shri Ram College for Womenで統計学の学士号を取得した後、Konark Sharma氏、Kavach Chandra氏と共同で、FreeStand Sampling Solutionsを立ち上げました。FreeStandはFMCGブランド企業が製品のサンプリング作業をすべてデジタル化、自動化できるB2B SaaSプラットフォームです。

Soni氏はデータ分析の専門知識を生かして、また、Sharma氏とChandra氏の男性2人は大学時代の専攻であるコンピュータサイエンスのノウハウをビジネスに繋げています。Soni氏は『自社のD2C (※3)FMCGブランドの立ち上げを検討していたが、USP(※4)を強調するマーケティング活動を計画する中で、デジタル化されたサンプリングキャンペーンを実行する効果的な方法がないことに気付いた』と述べています。手動のサンプリング方法は、Soni氏らのデジタルファーストのブランド戦略に合致していなかったため、デジタルサンプリングの構築を始めたことがこのビジネスの始まりでした。

 

FreeStandのサービス内容

FreeStandのプラットフォームを利用することで、FMCGブランドは、自社商品に関心の高そうなターゲット顧客にSNSまたはFreeStandのコミュニティチャネルを通じてアプローチすることが出来ます。そしてAIが導入されたFreeStandのチャット機能を通じてターゲット顧客と直接会話をし、物理的な製品サンプルを規模に応じて提供することができます。実際に商品を手にしてもらうことで顧客の購入意欲を高めることができ、直接連絡を取り合うことで、顧客のロイヤルティを高めることにもつながります。手動のアナログサンプリングと比較し、FreeStandのデジタルサンプリングは1) ターゲット顧客を絞ることが可能、2) アナリティクスと関連付いているためデータ収集が可能、3) サンプル提供後もターゲット顧客とつながっておけること、4) リアルタイムでサンプリング状況を確認できること、5) サンプル使用後にフィードバックをもらえるようAIが導入されている点などで優れています。

『デジタルサンプリングは、製品の発売や顧客関係の構築に最も効果的な方法である。私たちは、あらゆる形やサイズのFMCG製品に対応するソリューションを提供している。』とSoni氏は付け加えています。

FreeStand社は、デリーを拠点としていますが、コロナウイルスのパンデミック以降は、リモートで活動しています。同社は、FMCG企業、中小企業、D2Cブランドにサービスを提供しています。現在FreeStandの顧客には、Anmol Industries、Keeros Foods、Soch Foods、Wild Vitamin Drink、Evocus Alkaline Waterなどがいるようです。同社チームには8人が所属しており、4つの異なるカテゴリーの9つのFMCGブランドと提携しています。

 

FreeStandの今後の計画、展望

国内市場向けの製品サンプリングを提供するSaaS企業として、現時点でFreeStandには直接の競合他社はいませんが、製品ディスカバリー・プラットフォーム(※5)やBTL(※6)マーケティング・エージェンシーとは間接的に競合するとSoni氏は考えています。

これまでに友人や家族からの投資のほか、MeiTY(※7)のTide 2.0 scheme(※8)でシードグラント(※9)を受けており、今月にはSucSEED Indovation Fund(※10)から1,000万ルピー(約1,480万円)の資金調達に成功しています。この資金を利用して、インド全土へと事業を拡大、そして2022年までに東南アジアの市場に進出する計画をたてています。

コロナウイルスのパンデミックによって「ニューノーマル」という言葉が誕生しましたが、このニューノーマルの時代ではデジタルトランスフォーメーション(DX)に適応することが生き残る術だともいわれています。このような背景からデジタルサンプリングは追い風に乗っています。世界的に見ても、デジタルサンプリングを提供しているベンチャー企業の資金調達が大幅に増加しており、インド国内でもFMCGブランドからの直接投資の意向が高まっているようです。『デジタルサンプリングは、今日のテレビ広告や屋外広告のように、FMCGのマーケティングにおいてユビキタスな存在になると信じている』とSoni氏は自信をあらわにしています。

 

日用品のデジタルサンプリングを代行しているサービスはこれまであまり聞いたことがなかったので面白いサービスだな、と思いました。FreeStand社のサイト上の説明によると、同社プラットフォーム内のチャット機能で直接顧客と会話することができ、顧客からのフィードバック回収、商品の配送をFreeStand社が対応してくれるようです。現時点ではFreeStand社の収益や提携しているFMCGブランドの成果など公表していませんが、インド国内に直接的な競合がいないことからも今後成長していくことが予想されます。コロナウイルスのパンデミックによってオンラインサービスの需要が伸びており、さらにコロナウイルス第二波が流行する今日、国民の大多数が実店舗ではなくオンラインで日用品を揃えているので、FreeStand社の今後のさらなる活躍が期待できます。

 

※1 FMCG:Fast Moving Consumer Goodsの略。日用消費財のこと。

※2  SaaS:Software as a Serviceの略。提供者(サーバー)側で稼働しているソフトウェアを、インターネット等のネットワーク経由で、利用者がサービスとして利用する状況を指す。

※3 D2C:Direct to Consumerの略。自ら企画、生産した商品を広告代理店や小売店を挟まず、消費者とダイレクトに取引する販売方法。

※4 USP:Unique Selling Propositionの略。自社の強みを集約し、顧客に伝わりやすくしたもの。

※5 製品ディスカバリー・プラットフォーム:製品を探すため検索エンジンのようなプラットフォーム

※6 BTL:Below the Lineの略。マスメディア4媒体以外を利用した、いわゆる販促活動を中心とした販売戦略系施策のこと。

※7  MeITY:Ministry of Electronics and Information Technologyの略。電子情報技術省。
https://www.meity.gov.in/

※8  Tide 2.0 scheme:MeiTYが始めた特定の分野のスタートアップ2000社を強化するプログラム。TideはTechnology Incubation and Development of Entrepreneursの略。

※9 シードグラント:シード期(起業前の準備段階)
グラント:OSS(オープンソース)の文化、つまり、オープンソースのプロダクトを開発・保守することで社会にITの力を還元することを前提に投資してもらう方法

※10  SucSEED Indovation Fund:https://www.sucseed-indovation.com/

 

Source:FMCGブランドに効果的なデジタルサンプリングソリューションを提供するFreeStand

FreeStand:https://www.freestand.in/