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【インドビジネスするなら必見】インドの物品・サービス税(GST)を徹底解説!

インドの物品・サービス税(GST)を徹底解説!

今回はインドの物品・サービス税GSTについて徹底解説していきたいと思います。

インド進出を考える企業にとって、もっとも重要かつ避けて通れないリスクがインドの税制度です。ジェトロが実施した「2023年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」においても、インドでは「税制・政務手続きの煩雑さ」がもっとも高い投資環境上のリスクとして認識しているという結果が出ています。実際、GSTの仕組みを理解していなかったがために、取引先とのトラブルに巻き込まれたり、多額の損失を被った、こういった企業をこれまでたくさん見てきました。

そこで、本日はGSTの基本的な仕組みや計算方法、申告期限、輸出入取引におけるGSTの課税関係、そして、いくつかの特殊事例の観点からビジネスに影響を与え得る重要なポイントについて解説したいと思います。今回の動画を見ていただくことで、取引先に対してインドの税制を踏まえた積極的な提案ができるようになり、また、GST課税による事業リスクを最小化できるようになります。

GSTとは何か?

インドのGSTは、Goods and Service Tax、日本語に訳すと「物品・サービス税」、他の国では一般的に付加価値税と言われるたぐいの税金なんですけど、いわゆる日本の消費税にあたります。

GSTが導入される前までは、中央政府が課税する物品税・サービス税・中央売上税、州政府が課税する付加価値税VAT、そして、州をまたぐ場合の入境税などたくさんの間接税が散乱していて、それぞれの課税対象となる取引や課税時期も異なっていたのでむちゃくちゃ複雑だったんですけど、モディ政権によってインド全土を統一する間接税として2017年7月に導入されました。このGSTの導入は、インド史上最大かつ最も重要な税制改革とまで言われてですね、これによって、サプライチェーンにおける商流のステージや、物品やサービスの提供場所を問わず、基本的に同じ仕組みの中で税務処理ができるようになった点、またそれらがオンライン上のGSTポータルというひとつのプラットフォームで記録される点おいてまさに画期的な税制だったわけなんですけど、実務上は、注意すべき点がたくさんありますので本日はその全貌をひとつひとつ解説していきたいと思います。それではいってみましょう!

GST課税の仕組み

GSTの負担者はこの図のように最終消費者になりますけど、サプライチェーンにおける各事業者は自社が顧客から預かった仮受GST(GST Output)から、自社が仕入先に対して支払った仮払GST(GST Input、日本で言うところの仕入税額控除ですね)これを差し引いた上で、自社が付加した価値部分のみ対してGSTを納税します。

これが諸外国では「付加価値税」と言われているゆえんですね。このGSTは自社が事業拠点を持つインド国内の州ごとにGST番号を登録した上で申告・納税していくことになるんですけど、物品やサービスの提供を行った事業者が、物品やサービスの提供する場所(Place of Supply)に属するGST税務当局に対して、納税義務を負うこととなります。

例えば、A社がB社から10,000ルピーで受注したプロジェクトを、C社に対して6,000ルピーで外注するとします。このサービス取引に対して18%のGSTが課税、10%のTDSが課税される場合、実際にC社がA社へ支払う金額は10000 + GST1800(10000×18%)- TDS1000(10000×10%) =10,800となります。つまり、A社は顧客であるB社から1800ルピーのGSTを預かった形ですね。一方で、A社がC社へ支払う金額は6000 + GST1080(6000×18%)- TDS600(6000×10%) =6,480となります。つまり、A社は外注先であるC社に対して1,080ルピーのGSTを逆に預けた形になります。この、顧客から預かったGSTを仮受GST(GST Output)、外注先に支払ったGSTを仮払GST(GST Input)と言うんですけど、この差額である720ルピーをインドのGST税務当局に納税をする形になります。別の見方をすると、先ほどご説明をしたように、「自社が付加した価値部分のみに対してGSTを納税する」ということの意味は、今回のケースだと受注金額である10,000ルピーと、外注金額である6,000ルピーの差額4,000ルピーがA社が提供した付加価値ということになりますので、それに対する18%である720ルピーがA社が納税すべきGSTということになります。

GST申告・納税期限としては、まず、GSTR-1という申告書を通じて毎月翌月11日までに売上に関する申告を実施した上で、GSTポータル上に記録された売上・仕入にかかるGSTに基づいて当月納税すべきGST税額を計算して、GSTR-3Bという申告書を通じて翌月20日までに納税・申告する形になります。

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GSTの税率と区分・相殺の仕組み

ちなみに、インド全土を統一する画期的な税制とまで言われたGSTですが、とはいえやっぱりGSTって複雑だよねーと言われるいくつかの理由に、GSTの税率と区分・相殺の仕組みがあります。

まず、GSTの税率について見ていきましょう。
GSTの税率は大きく0%、5%、12%、18%、28%の5つのカテゴリーに分かれています。税率は商品やサービスの性質によって異なります。例えば、牛乳や卵、野菜などの基本的な生活必需品には低い税率が適用され、一方で高級車や炭酸飲料などの贅沢品や嗜好品には高い税率が課せられます。さらに、特定の輸出取引には税率0%が適用されます。ちなみに、サービスについては原則、基本税率18%が適用されますが、一部例外もありますし、そもそもこのGST税率については定期的に変更される可能性もあるので、企業は自社が提供する商品やサービスがどのカテゴリーに当てはまるのかをしっかりと理解し、常に最新の情報を確認した上で、適切な税率を適用する必要があります。

次にGSTのカテゴリーについてです。この図のとおりGSTは主に3つのカテゴリーに分けられます。

州GST(SGST)、中央GST(CGST)、そして統合GST(IGST)の3つです。州内でおこなわれる取引にはSGSTとCGSTが半分ずつ課税され、州をまたいで行われる取引にはIGSTのみが課税されます。また、SGSTが州政府に納税され、CGSTとIGSTが中央政府に納税される形になります。そしてさらに複雑さを助長しているのが、先ほどご説明をした顧客から預かった仮受GSTと外注先に支払った仮払GSTの相殺はあくまで州単位でしかできない、ということと、そして相殺できる順番が決まっていること、さらに、相殺できない組み合わせがあるということです。

この図のように、州ごとに①から⑥というこの順番で相殺をする必要があることからわかるように、まず仮払IGSTを先に相殺する必要がある上に、SGSTとCGSTはお互いに相殺ができない、そして、A州の仮受GSTと、B州の仮払GSTも相殺ができないっていう3点ですね。

この相殺ができないケースについて、具体的にどのような状況で発生するのか、その典型例として実際の事例を1つご紹介したいと思います。

例えば、ハリヤナ州のグルガオンに登記事務所を持つ日本企業が、カルナタカ州のベンガルールに出張に行って、ベンガルールの顧客に商品を販売したケースを考えてみたいと思います。商品の価格は100,000ルピー。ベンガルールのホテルの宿泊費は5000ルピーとして、GSTの税率はそれぞれ18%だと仮定します。この場合、カルナタカ州の顧客に請求する際には、州をまたぐ取引になるのでIGSTを18,000ルピーを請求します。一方で、ベンガルールで滞在したホテルが発行する請求書にはSGSTとCGSTが9%ずつ請求される形になります。というのも、宿泊サービスはそのホテルが実際にあるベンガルールで提供されているサービスで、自社の拠点があるハリヤナ州に提供されているわけではないですよね。そうすると、自社の所在地と、ホテルの所在地が異なるにもかかわらず、同じ州内取引と見なされて、SGSTとCGSTが請求されてしまうんですね。

この場合、ハリヤナ州でGSTの申告をする日本企業にとって、カルナタカ州でGST登録をしない限り、このSGSTとCGSTは仮払GSTとして記録することはできないので、顧客から預かったIGST18,000ルピーとは相殺ができず、そのまま企業のコストになってしまう、ということが起こるわけです。この問題を解決するためには、ベンガルールがあるカルナタカ州でもGST登録を行って、GST申告を実施する必要がありますが、その税務登録や税務申告手続きには一定の工数・コストがかかってしまうので、今後ベンガルールでどれぐらいの売上が見込めそうかに基づいて判断をしていくことになろうかと思います。

GSTのリバースチャージ方式について

これまでご紹介をしたような一般的な取引の場合、GSTは通常ベンダー側つまりお金を受け取る側がGSTの納税を行います。ただし、リバースチャージ方式(RCM : Reverse Charge Mechanism)という徴税方法が適用される一部の取引については、ベンダー側ではなくクライアント企業側が代わりにGSTの納税を行う必要があります。通常のGSTは物品・サービスの提供を行う売手が、買手からGSTを徴収して、GST当局へ納税します。一方で、リバースチャージ方式では、物品・サービスの買手がGSTを売手に対して支払うことなく自らが直接GST当局へ納税することになります。

このRCMが導入されている背景としては、未成熟な産業も含めてインド政府がGSTの徴収漏れを防ぐことが主な目的になっていてですね、具体的には主にこのような取引に対してRCMが適用されることになるんですけど、インドに進出をする日本企業がよく直面する典型的なケースとしては、サービスや物品の輸入取引があげられます。

<物品>

  • カシューナッツ
  • タバコの葉
  • 綿花
  • シルク糸
  • 宝くじ
  • 中古車
  • セメント等

<サービス>

  • サービスの輸入取引(非課税区域から課税区域へのサービス提供)
  • 貨物輸送業者(GTA : Goods Transport Agency)による貨物輸送サービス
  • 弁護士サービス
  • 居住用住居の賃貸サービス等

例えば、インド現地法人が日本本社に対して技術支援費用や管理報酬などを支払うようなケースですね。この場合、サービスの輸入取引となるため、もし仮に日本本社に対して18%のGSTを支払ったとしても、日本本社はインドのGST番号を持っていないのでインドの税務当局に対してGSTを納税・申告することが現実的にできないですよね。なので、インド現地法人は日本本社に対しては本体価格のみを請求して、GST部分については日本本社の代わりにインドの税務当局に直接納税する形になります。

ちなみに、この日本本社の代わりに納税をしたGSTについては、仮払GST(いわゆる仕入税額控除)として今後顧客から預かる仮受GSTと相殺することができるので、基本的にインド現地法人にとっては損益への影響はないんですけども、ただ、もし相殺対象となる仮受GSTの残高がないような場合には、仮払GSTとして無期限に計上はできるものの、インド現地法人のキャッシュフローに負担を与える形になるのでその点は注意が必要になります。

サービスの輸出取引について

インドからインド国外へのサービスの輸出は、一定の条件を満たす場合に限り、GST法上0%の税率が適用されるので、GSTはかかりません。
その一定の条件とは、ここに記載されている項目すべてを満たす取引のことを指します。ひとつひとつ読みますね。

  1. サービスの提供者の所在地がインド国内である
  2. サービスの受領者の所在地がインド国外である。
  3. サービスが提供された場所がインド国外である。
  4. サービスの提供者によって、その対価が為替換算可能な外貨で受領されている。
  5. サービスの提供者と受領者がひとつの法人内ではない独立した状態で存在している。

この5つの条件をすべて満たせば、GST法に規定されるサービスの輸出(Export of Service)として認められて、GSTがかからないということになります。

ここでよく議論になるのが、3番と4番です。

まず、3番については「サービスが提供された場所がインド国外かどうか」をどのように判定するか、という論点です。


原則、通常のサービスであれば、この図のようにサービスの受領者がインド国外にいれば、そのサービスの提供された場所もインド国外と見なせる、つまり5つの条件をすべて満たすことができればGSTは免税とすることができるんですけど、GST法に規定される「仲介サービス(Intermediary Service)」に該当する場合には例外的に、サービスの受領者がインド国外であったとしても、サービスの提供者の所在地をそのサービスが提供された場所と見なす、というルールがあります。この「仲介サービス」とは一般的にブローカーや代理人、その他物品やサービスの提供者の代わりに役務提供を行うサービスのことを指すんですけど、この定義が曖昧で分かりにくいんですよね。

例えば、カスタマーサポートであったりコールセンター等の一定のBPOサービスや、インドの市場調査業務やソフトウェア開発業務などの一定の下請けサービスなどは仲介サービスには該当しないと想定されているので、インド現地法人が日本本社に対してこういったサービスを提供する場合には、サービスが提供された場所は日本ということになるのでGSTはかからないのですが、一方で、インド現地法人が日本の親会社の代わりにインド国内で営業活動を実施して、受注をした際に親会社からその営業サポートの対価としてコミッションを請求するようなケースについては、この仲介サービスに該当することとなりますので、この場合には、営業サポートというサービスの提供を受けたのは日本本社であるにもかかわらず、サービスが提供された場所はインドということになり、18%のGSTが課税されることになります。この点、通達である程度明確にはなってきているものの、例えば、R&D拠点の場合はどうなるのか等、各個別事情によって課税関係が変わってくる可能性もあるので、注意する必要があります。

もうひとつの論点が4番の「対価が為替換算可能な外貨で受領されている」という点です。

外貨で受領する必要があるので当然請求書は米ドルや日本円などの外貨建てで発行しておく必要があるんですが、注意が必要なのは、外貨建ての請求書で発行をしたとしても、例えばWISEなどの海外送金サービスを使って日本からインドに海外送金をしてしまうと、WISEというサービスのビジネスモデル上、インド側では外貨ではなくルピー建で受け取ってしまうことになるのでこの4番の条件を満たせないというリスクがあります。なので、サービスの輸出取引としてGSTの免税を適用するためには、日本の金融機関から正規のルートで海外送金手続きを実施しておくことをおすすめいたします。ちなみに、2019年にインド財務省が発表した通達によると、インド国外のVostro口座(freely convertible Vostro account)からインド国内口座への入金であれば、インドルピー建送金でも4番の条件を満たすことができるようになっていますので、このVostro口座を開設することが可能かどうかについては金融機関にご確認されることをおすすめいたします。

GST免税のための手続き

最後に、先ほどご紹介をしたサービスの輸出におけるGST免税を適用するにあたって必要となる手続きについて解説しておきたいと思います。
必要な手続きはこの2つのいずれかとなります。

1. GST当局からLUT(Letter of Undertaking)を取得し、GST 0%として輸出請求書(Export Invoice)を発行する
2. 通常の請求書(Tax Invoice)を発行してIGSTを納税した上で、後日GST当局に対して還付申請する

このLUTについては、物品の輸出においても利用できる制度で、税務当局のサイトからこのような形で申請ができるようになっているんですけど、LUT取得日以降でなければGSTの免税を適用することができないことに加えて、LUTを課税期間ごとに取得する必要がある点に注意をして、手続きを実施していただければと思います。

皆さん、いかがでしたでしょうか?インドのGSTについての理解を深めることで、インド市場でのビジネスがよりスムーズに進むことは間違いありません。この動画が少しでもお役に立てれば嬉しいです。

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