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【要注意】インド長期出張の際に気を付けるべき税務論点を徹底解説!

インド長期出張の際に気を付けるべき税務論点を徹底解説!

皆さんこんにちは。インド進出支援ちゃんねるの田中 啓介です。
今回はインドに長期出張する際に気を付けるべき税務論点を徹底解説したいと思います。

最近インド進出を検討している日本企業が結構増えていてですね、出張でインドにいらっしゃる日本人も多いんですけど、中には視察や調査を兼ねて長期でインドに滞在されるケースや、インド国内の工場立ち上げをサポートするために長期出張されるケースも増えています。ただ、税務論点を正しく理解していないと多額の税金を納税しなければならなくなるリスクがあります。

本日の動画を見ていただくことで、インドに長期出張をする際に気を付けるべき日本人に対する個人所得課税と、日本法人に対するPE課税という2つの税務論点について正しく理解することができるようになります。

長期出張の際に気を付けるべきこと

長期出張の際に気を付けるべきことは主にこの2つになります。

(1)インドでの滞在日数
(2)インドでの活動内容とその体制

まずこの2つの評価基準について解説をした後、この2つの基準に照らし合わせて、実際にあった長期出張の事例に基づいて発生し得る税務リスクについて解説をしたいと思います。

インド滞在日数について

1つ目のインド滞在日数については、まず183日を超えないようにすることが重要です。なぜ183日を超えてはいけないかというと、もし183日を超えてしまうと、日印租税条約第15条に規定される短期滞在者免除の特例が使えなくなるからです。つまり、この3つの要件をすべて満たす場合に限って、インドに長期出張をする日本人はインドで個人所得税を納税する必要がないということになっています。ひとつひとつ読んでいきますね。

  1. 当該年度を通じた日本からの出張者のインド滞在日数が、合計183日を超えないこと
  2. 日本からの出張者の報酬が、日本法人などのインド国外居住者から支払われること
  3. 日本からの出張者の報酬が、日本法人のインドPE(恒久的施設等)によって負担されないこと

2と3は通常ほとんどのケースで自然と満たすことができるので、インドに長期出張をする場合にはとにかくインド滞在日数が183日を超えないように調整をする、というのがまず最初に気を付けるべきポイントになります。ちなみに、これは日印租税条約で、日本とインドの両国で適用される規定なので、日本とインドを逆にして読み替えることもできるんですよね。読み替えるとこうなると思うんですけど、みなさんこれを見て何か気づきますでしょうか?

そうなんです、これが結構コロナのときに問題になったんですよね。コロナでインドが強烈なロックダウンになった時に大量の日本人駐在員が日本に一時帰国をしたんですけど、そのあとなかなかインドに戻ってこれずに日本での滞在日数が183日を超えてしまうっていうケースが続出したんですよね。つまり、この条件の1つ目が満たせなくなって、インド駐在員の給与総額に対して日本でも課税がされてしまう、という状況になってしまったわけです。そもそもこれまでは日本に一時帰国をしただけでは日本側で所得税を納税してこなかった日本企業は多かったので、コロナ禍で大量に日本人が一時帰国をした際に、国税庁から多額の追徴課税を指摘されるケースが多発したわけですね。

  1. 当該年度を通じたインドからの出張者の日本滞在日数が、合計183日を超えないこと
  2. インドからの出張者の報酬が、インド法人などの日本国外居住者から支払われること
  3. インドからの出張者の報酬が、インド法人の日本PE(恒久的施設等)によって負担されないこと

それから、日本とインドの税務上の居住ステータスの判定方法が異なる点も理解しておきましょう。
日本とインドの居住者の定義はこのように決まっています。読みますね。

インドの居住者:以下のいずれかの基準に該当する個人

  • 課税年度(4月1日から翌年の3月31日まで)において、合計で182日以上インドに滞在している個人
  • 直近の4課税年度において合計で365日以上インドに滞在しており、かつ現在進行年度において60日以上インドに滞在している個人

厳密にはインドの居住者には通常の居住者と、非通常の居住者という2種類の居住者があって、このように居住ステータスの判定をすることになりますが、今日のトピックからはズレてしますので詳しくご説明することは控えておきます。

日本の居住者:以下のいずれかの基準に該当する個人

  • 国内に「住所(個人の生活の本拠(客観的事実によって判定する)」を有する個人
  • 現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人
    (※1年以上海外勤務をする予定で出国した人は出国の日から非居住者として取り扱われる)

ここで重要なのは、日本の居住ステータスの判定が滞在日数ではないという点です。
つまり、インドに長期出張をする日本人のインドでの滞在日数が183日を超えてしまった場合、インドにおける「税務上の居住者」となって先ほどの短期滞在者免除の特例が使えなくなるので、インド側で個人所得税を納税しなければならなくなるんですけど、一方で長期出張の場合は日本にも引き続き「生活の本拠」があると見なされるので、日本でも引き続き「税務上の居住者」ということになってしまうんですね。その結果、インドでも日本でも所得税を納税しなければならなくなって、いわゆる二重課税が発生してしまうということになります。もしこれが長期出張ではなく、在籍型出向、いわゆる駐在という形に切り替えておけば1年以上海外勤務をする予定で日本を出国することになるので、出国した日から日本では非居住者になって、その結果、原則日本では個人所得税が課税されないということになります。

インドでの活動内容や活動体制

次に、2つ目の「インドでの活動内容や活動体制」について見ていきたいと思います。これは主に日本法人のPEがインドにあると見なされてしまうリスクがあるかどうかという観点で気をつける必要があります。

PE(Permanent Establishment)っていうのは日本語では恒久的施設と言われるもので、事業を行う一定の場所等のことを指します。PEの有無は企業が海外で事業を行う際に、その活動から発生する所得に対して進出先国の税務当局が課税権を主張し得るかどうかを決定する重要な指標になっていてですね、「PEなければ課税なし(No PE, No Tax)」という考え方が事業所得課税における国際的なルールとなっています。

PEには主にこういった4つの種類があるんですけど、

特に3つ目の代理人PEの認定範囲が諸外国よりも広く定義されているので注意が必要です。

例えば、出張者がインドでの契約締結にかかわる「主要な役割(principal role)」を担うことのないようにする必要があります。つまり、顧客との重要な商談を行ったり、価格交渉や契約締結にいたるまでのプロセスにおいて重要な役割を担ってしまうと代理人PEと認定されてしまう可能性があるので、インド国内での活動は補佐的な業務にのみ制限をしておいた上で、最終決定権限は日本側にあることを明示しておく必要があります。

  • 契約締結や価格交渉を行う権限を持たせない。
  • 出張者が重要な意思決定を行わないようにする。
  • 調査業務やマーケティング活動等の補佐的な業務に限定する。

そのほかにも、固定されたオフィスや設備を持たないということも大切です。
インド国内での一定の事業所やオフィスを持つことは、PEと見なされるリスクが高くなってしまうので、もしどうしても勤務スペースが必要な場合には、会議室やレンタルオフィスの一時的な利用に留めたり、他社オフィスの一部を借りる場合のアクセスキーなどはあくまでゲスト扱いにしておくなどの対応策が有効です。

  • インド国内に固定されたオフィスや設備を設けない。
  • 必要な場合は、会議室やレンタルオフィスの一時的な利用に留める。
  • 他社オフィスの一部を借りる場合はあくまでゲスト扱いにしておく。

また、出張者が長期間プロジェクトに関与しない、ということも大切です。
出張者が6ヶ月を超えてプロジェクトに関与するようなケースでは、そのプロジェクトがPEとして認定されてしまう可能性がありますので、各出張者の滞在日数を183日以下に抑えるために、日本からのリモートワーク等により出張回数、滞在日数をなるべく減らしたり、もし現地で中長期的にプロジェクトの運営管理等が必要となるようなケースでは長期出張ではなく駐在に切り替える、などの対応策が有効となります。

  • 各出張者の滞在日数をインド非居住者と区分される限度日数である183日以下に抑える。
  • 日本からのリモートワーク等により出張回数、滞在日数を極力減らす。
  • 現地でのプロジェクト運営管理等が必要な場合には長期出張ではなく駐在に切り替える

動画を見る

具体的な税務リスク

ここからは実際にあった長期出張事例をもとに具体的な税務リスクについて解説していきたいと思います。

現地視察や調査を目的に長期出張をした場合

まず1つ目は現地視察や調査を目的に長期出張をして、インド滞在日数が183日を超えてしまった場合の課税関係について見ていきましょう。

この場合、冒頭ご説明をした短期滞在者免除の特例を使うことができなくなるので、日本でもインドでも個人所得税を納税しなければならなくなって二重課税が発生します。インド側ではインド国内を源泉とする所得に対して課税される形になるので、例えば、長期出張者の1年間の給与所得総額のうちインド滞在日数分を日割り計算した金額をインド国内の課税所得と見なす、というロジックがもっとも合理的な考え方になると思います。ただ、これもこの出張者がインドと日本で実際にどのような業務をしているかによって変わってくる可能性もあるので個別に判断していく必要があります。また、個人所得税の課税期間が日本は1月〜12月であるのに対して、インドは4月〜3月になっているため、この課税期間の違いが外国税額控除を適用や二重課税の回避においてどのような影響があるのか、という点についても検討が必要です。

現地工場立ち上げの現場監督を目的にインドに長期出張をした場合

2つ目はインド国内の工場立ち上げの際に建築工事現場や機械の据え付けなどの現場監督を目的にインドに長期出張をして、インド滞在日数が183日を超えてしまった場合の課税関係について見ていきましょう。

この場合、1つ目の事例と同じように個人所得税をインドでも納税しなければならなくなるという二重課税の問題は同様に発生するんですけど、さらにPE課税の問題が発生します。これは、日印租税条約第5条4項にこのように明確に書かれているんですね。読み上げると、

企業が一方の締約国内における建築工事現場又は建設、据付若しくは組立工事に関連して、六箇月を超える期間、当該一方の締約国内において監督活動を行う場合に、当該企業は、当該一方の締結国内に「恒久的施設」を有し(つまりPEですね)、当該「恒久的施設」を通じて事業を行うものとされる。

つまり、インド国内に長期出張をして、建築工事現場や機械の据え付けなどの監督的・技術的な支援を実施するような場合には、この出張者を派遣している派遣元企業のPEがインド国内にあるものと見なされて、派遣元企業のPEに帰属する所得に対してインド税務当局が課税権を主張してくるということになります。

もし派遣先企業に対して長期出張者による監督・技術支援料などを請求している場合には、派遣元のPE認定がされてしまうとインドから日本への海外送金の際に40%の源泉所得税が課税される可能性もありますので、注意が必要です。このあたりの海外送金実務についてはこの動画で解説をしていますので気になる方はぜひ参考にしてみてください。

ちなみに、もし長期出張でインドに滞在をして、かつ、180日を超えて継続的に滞在をするようなケースでは、FRRO(Foreign Regional Registration Office)に外国人登録も実施する必要がありますので、個人所得課税やPE課税の観点も含めてインドに長期出張をされる場合には滞在日数と活動内容・その体制については十分に注意していただければと思います。

皆さん、いかがでしたでしょうか?インドに長期出張する際に気を付けるべき税務論点を解説いたしました。この動画が今後インドへの長期出張を検討されている企業担当者や経理・人事などの管理部門の方々に少しでもお役に立てれば幸いです。他にももし知りたい情報やご質問、またみなさんが直面されたインド出張時に気を付けるべきポイントが他にもあれば、ぜひコメント欄で教えていただけると嬉しく思います。

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