【インドの日本食がアツい!】インドで成功する日本食レストランの戦略や裏側を解説します
インドで成功する日本食レストランの戦略や裏側を解説します
本日はですね、インド国内の日本食レストランの実態や舞台裏、その戦略について解説してみたいと思います。
インドでは今、外食産業が急成長しています。特に都市部では、忙しい生活スタイルやデュアルインカムの世帯も増えてるので、以前よりも外食をする頻度が増えてるってのもありますし、食に対しては保守的と言われたインドにも、新しい食文化に関心を持つ層も増えてきていて、日本食レストランもこの流れを受けて少しずつ増えてきているんですよね。
そもそも、いろんな角度から日本という国に興味を持ち始めるインド人が増えていることも背景にあると思います。特にアニメや漫画を中心とした日本のコンテンツに興味がある若者もそうですし、IKIGAIや禅・武士道に関する本を読んで日本の文化や価値観に興味を持つ社会人、そして、健康志向が高まる中で日本食に強い関心を示す都市部の富裕層などが典型例です。
こうした傾向を後押ししているのが、大使館・領事館・商工会・日本人会などが中心になって開催しているいろいろなイベントです。2024年9月にデリーで開催された「メラメラジャパン」はフェス形式で日本のコンテンツを紹介すると同時に見本市形式で日本の商品やサービスのPRも行うという初めての試みだったんですけど、50,000人近くの来場者を記録する大盛況のイベントとなりました。
また、2017年からベンガルールでほぼ毎年開催されているジャパン・フード・フェストでは毎年数多くの日本食レストランが出店して、今年はサーモンの解体ショーとか茶道体験などのイベントも催されました。実際、ここ最近は日本の外食チェーンや個人経営の日本食レストランも少しずつオープンし始めていて、デリーやムンバイ、ベンガルール、チェンナイといった主要都市では日本食レストランの種類もかなり増えてきた印象です。
そこで、今回はインドで活躍する日本食レストランがどのような戦略でインド市場に参入しているのかを解説したいと思います。
CoCo壱番屋
一つ目はカレーの国に下剋上「CoCo壱番屋」です。
通称「ココイチ」は1982年に日本で創業し、現在は世界15カ国で約1500店舗を展開するカレーチェーンです。家庭的な味わいと豊富なトッピングや辛さ調整で、好みに合わせたカレーを楽しめる点が日本国内外で支持を集めています。三井物産との共同出資により2020年に「カレーの国」インドへの進出を果たして、首都デリー周辺を中心に事業展開を開始しています。
ココイチのインド市場でのポジショニングは、伝統的なインドカレーとは異なる「日本式カレー」を提供することです。特に富裕層や中間所得層をターゲットに、「スパイシーさ控えめで家庭的な味わい」を特徴としたマイルドなカレーを提供しています。健康志向が高まるインド都市部では、海外の新しい食文化への関心も広がっていて、こうした日本式カレーが「ヘルシーで食べやすい新しい選択肢」として受け入れられつつあります。
インド人消費者に受け入れられるための最大の課題は、宗教や文化的な多様性に対する配慮です。日本ではポークベースのルーが主流ですけど、インドでは宗教的な理由から豚肉や牛肉を避ける人が多いので、カレールーにも動物性脂肪を一切使わない前提で、具材としてはチキンやマトン、ベジタリアン向けのチーズフライなどを中心に、インド現地の嗜好に合わせたメニューを開発しています。
あと、ココイチは「女性客の集客」を重要視しているんですよね。中国市場での経験を生かして、「新しいレストランを試す」ことに前向きな女性の客層をターゲットに、店内のデザインをカフェのような明るくおしゃれな空間にして、気軽に入りやすい店舗づくりに注力しています。特にインドの若者はインスタグラムを中心としたSNSが重要な情報源となっているので、口コミを通じて若年層や女性からの支持を得ることを期待しています。
ココイチは、今後5年以内にインド国内での店舗数を10店舗に増やして、その後はフランチャイズ展開も視野に入れた成長戦略を掲げています。中間所得層が増加するインド市場では、健康志向や多国籍料理への興味が広がっていて、こうした背景もココイチにとっては追い風です。カレーの本場であるインド市場で、日本のカレーがどこまで受け入れられるのかむちゃくちゃ興味深いですよね。
すき家
インドで活躍する日本食レストラン二つ目は牛が神様の国に果敢に攻める「すき家」です。
すき家は、日本を代表する牛丼チェーンとして1982年に創業し、今では世界中で2600店舗を展開しています。牛丼が看板メニューのすき家ですが、そもそも牛肉を食べることをタブー視しているヒンドゥー教徒が多いインドにおいて、すき家は「牛肉を使わない牛丼屋」としてインド市場に挑んでいます。
すき家が重視しているのは、あくまで「どんぶりや」という日本のアイデンティティを保ちながら、現地化を進めることです。ブランド名も「SUKIYA TOKYO BOWLS」に変更し、日本式どんぶりのスタイルを残しつつも現地に合わせたメニューを展開しています。例えば、「照り焼きチキン丼」では、照り焼きソースのチキンにスパイシーなチリカレーソースを添え、さらに日本米の代わりに現地のインド米を使うなど、細かい部分で現地の味覚に寄り添っています。また、インドの多様な食文化に合わせて、ベジタリアン向けの豆腐丼や野菜丼、最近インド人にも認知が広がりつつあるラーメンも、スパイシーラーメンやベジラーメンとしてメニューに取り入れています。
もっともシンプルなTORIDONは通常サイズは189ルピー(日本円で300円ぐらい)なのでリーズナブルですよね。こうしたアレンジ・価格設定をすることで、インド人好みの味わいを日本らしい丼ぶりのスタイルで提供するという、ファーストフード店の新しいスタイルを提案しています。
ちなみに、私が住んでいるベンガルールでは至るところにステーキハウスがあるほど普通に牛肉(水牛?)が食べられるんですけど、すき家がベンガルールに進出する際にはぜひ牛丼メニューをつくってほしいな、と勝手に期待しています。
くふ楽
インドで活躍する日本食レストラン三つ目は本格焼き鳥とエンタメでインド人の心をつかむ「くふ楽」です。
「くふ楽」は、日本やカナダ、ハワイにも展開するグローバルな日本食レストランチェーンで、インド市場においては起業家である本多さんが代表をつとめるヒロハマ・インディアとの合弁事業として進出をしていてすでにインド国内6店舗を運営しています。その人気の背景には、インドの宗教的事情に配慮した、鶏肉料理を中心とした本格的な焼き鳥と、日本食といえばインド人が比較的イメージしやすい寿司やラーメン、どんぶりなどのメニューをインド人好みにアレンジして提供をしている点、そして、お店の名前にあるとおり、「くふ楽」というレストランで食の提供だけでなく、非日常を楽しんでいただくというエンターテイメントの要素を積極的に取り入れた運営方法にあります。
お店に行くと、インド人スタッフ全員が日本語で声を揃えて「いらっしゃいませー!」とか「今日も1日お疲れさまですー!」っていう掛け声や、チンチロリンやジャンケンで買ったらドリンクのサイズが大きくなるゲームまで、まさに日本の活気ある居酒屋そのもので、インド国内の日本食レストランの中でももっとも活気のあるレストランだと思います。
あと、食材の輸入が簡単ではないインドにおいて、作れるものはとにかく自分たちで作るということにチャレンジされていて、具体的にはマヨネーズや焼き鳥のソース、ラー油などは自社で作っているそうです。
価格帯は焼き鳥が2本で約400円、ラーメン1杯1200円、アルコールが1杯1000円ほどと日本と比べても少し高い価格設定になっていますけど、ベンガルールのお店を見ていると肌感覚8割以上はインド人のお客さんでいつも満席になっていてインド人の中間層・富裕層にとてもウケていることがよくわかります。従来インドにはなかったようなメニュー、例えば、鶏パイタンこってりラーメンとか、魚介パイタンラーメンなどの新メニューも開発されていて、日本人にもウケるメニューがたくさんあってむちゃくちゃ有り難いですね。今後の計画として、くふ楽は1年に最低2店舗ずつ増やしていくことを目指していて、近い将来、南ムンバイやバンガロールのホワイトシティにそれぞれ2店舗目を、プネやハイデラバードへの出店も計画中とのことです。
Nippon
インドで活躍する日本食レストラン四つ目はチェンナイ発祥のしゃぶしゃぶ食べ放題「Nippon」です。
Nipponは西原さんという日本料理のシェフ自らがコロナ禍の2021年10月にチェンナイでオープンされた日本食レストランなんですけど、しゃぶしゃぶ食べ放題という看板メニューを中心に寿司も天ぷらもむちゃくちゃ美味しくて、日本の料亭を感じさせてくれるレストランです。私もチェンナイに10年ほど住んでいたので特に思い入れのあるレストランなんですけど、なんといっても西原さんの創業ストーリーがスゴいのでぜひご紹介したいと思います。
西原さんは、もともと大阪にあるご実家の料亭「柿右衛門(かきえもん)」で10年以上修行を積まれた上に、ニューヨークやバンコクの日本食レストランでもシェフとしてご勤務され、さらに、オセアニア諸国のバヌアツ共和国にある高級ホテルの料理長もご経験されたことがある方なんですけど、2019年ごろからチェンナイでも別の日本食レストランで料理長やジェネラルマネージャーとしてご勤務されていました。ただ、そのレストランが残念ながらコロナで閉店してしまったので2020年に日本にご帰国。これからどうしようかと悩んでおられるときに元同僚のPunさんがチェンナイでまた一緒にレストランをやりましょう!と声を掛けてきてくれたことから一念発起、チェンナイでゼロからレストランを立ち上げる決意をされます。
コロナで定期的にロックダウンが続く中で、所持金すべてをインドに持ち込んで、2021年10月についにチェンナイに1号店をオープンさせます。
この時期ってチェンナイは毎年雨季まっただ中で大洪水が発生したりもしていましたので、このタイミングでゼロからレストランをオープンさせた西原オーナーの勇気・男気はほんとスゴいなと思います。その後、チェンナイ1号店は大成功。2023年12月にはグルガオンにも2店舗目をオープンされました。南インドとは違ってグルガオンの冬は特に冷え込むのでしゃぶしゃぶが大人気だそうです。さらに、2025年の夏までにはしゃぶしゃぶだけでなく、お寿司の食べ放題などの夏の季節向けの新メニューも提供予定だそうで、むっちゃ楽しみにですね!ちなみに、Nipponの看板メニュー「しゃぶしゃぶ食べ放題」は、西原オーナーがバンコクで料理長としてご勤務されていた「秋吉」というしゃぶしゃぶ食べ放題のお店がむちゃくちゃ流行っていたことから着想を得てインドでもメニュー化したんだそうです。
豚骨火山
インドで活躍する日本食レストラン5つ目はインド国内初の日系ラーメンチェーン「豚骨火山」です。
この豚骨火山は2024年8月に南インドのベンガルールにオープンしたラーメン屋で、大阪に本社を構えるサンパークという企業が運営しています。シンガポール発のラーメン事業を、タイやフィリピン、カンボジアへと展開していて、各国の食文化や嗜好に合わせたラーメンを開発することで海外進出を進めています。シンガポールに進出した当初はすでに山東火とか一風堂などを中心に豚骨ラーメンが大人気で、ある意味競合がひしめくシンガポール市場において、エンターテイメント性を取り入れた石焼ラーメンで勝負をしたところシンガポール人に大ウケしたんですよね。
インドでは豚骨の代わりに鶏ベースの「火山ラーメン」として提供していて、熱々の石鍋でスープが沸騰し、まるで火山が噴火するような演出はインド人にもウケているみたいです。価格はおよそ1000〜1200円ぐらいでインド人にとっては決してお安くない価格設定ですけど、開店してからまだ間もないにもかかわらず多くのインド人客で賑わっています。火山ラーメンのカレー味を注文すると、ドーサと一緒に出てくるところも面白いですよね。
Wasabi by morimoto
インドで活躍する日本食レストラン6つ目はインドで最も高級な日本食レストラン「Wasabi by morimoto」です。
ムンバイのタージマハールホテル内に2008年にオープンした「Wasabi by Morimoto」は、日本料理を世界に広めたアイアンシェフ、森本正治(もりもとまさはる)氏が手掛けたレストランとして有名です。むちゃくちゃ高級感のあるモダンな内装で、メニューも新鮮な魚介を使った寿司や刺身、和牛ステーキ、鱈の味噌漬けとか、季節ごとのおまかせメニューまであります。おまかせコースは11,500ルピーからってなってて、日本円で最低でも2万円ぐらいするのでまーかなり高いですよね。なので、日本人のお客さんはほとんど入っていません。
タージマハルホテルといえば世界中の政治家や皇族・有名人が宿泊をする超一流ホテルなので、レストランの客層を見ていてもとにかくインド人の富裕層っぽい人が多いんですけど、このクラスになってくるともはや日本食が好きだからというよりは、むしろタージマハルホテル内のレストランで食事をするというステータスを楽しむことがセット、という世界観の方が強い気がしますね。
Naru Noodle Bar
インドで活躍する日本食レストラン最後7つ目は予約の取れないラーメン店「Naru Noodle Bar」です。
この店の注目すべき点はインド人オーナーの創業ストーリーです。この有名店は、元フレンチのインド人シェフKavanさんが独学で日本のラーメン作りを極めて、自家製スープと麺にこだわったラーメンをポップアップイベントとして提供し始めたところからスタートしています。インスタグラムの使い方がむちゃくちゃうまくてですね、店舗がまだない時から美しい日本風のラーメン写真を掲載したり、自宅で楽しめるラーメンキットを提供して動画で解説したりしているプロセスで、インスタグラムのアカウントやポップアップイベントが話題になっていたんですよね。
2022年についに実店舗をオープンした直後から予約が取れない人気店になっています。今ではインスタのフォロワーは6万人以上いて、毎週月曜の予約受付が始まると、ほんの数分で埋まってしまうほどの人気ぶり。
実は一度だけ、ちょうどKavanさんがお店をオープンさせる前に我が家に遊びに来てくれて、一緒にラーメンを作らせてもらったことがあるんですけど、スープを煮込んでいる間もずっとアクとりをしながら鍋をこまめにキレイに拭いていて、とにかくラーメンづくりへのこだわりの強さを感じたんですけど、同時にラーメンの歴史についてもいろいろ教えてくれて、まさかインド人から家系ラーメンの歴史について教えてもらう日が来るとは思わなかったので、むちゃびっくりしたのをよく覚えています。
Naruのメニューは濃厚な豚骨ラーメンや鶏白湯を中心に、ベジタリアン向けのメニュー、そして、餃子や唐揚げ、トックリとおちょこで日本酒も提供しています。クリーミーなスープと製麺機を導入して作っている自家製麺が美味しくて、口コミでも「本格的な日本のラーメンが楽しめる」「日本の文化を体験できる」と多くの人が絶賛しています。カウンター席と少しテーブル席がある程度の小さなお店なんですけど、最近はクリケットのインド代表チームのキャプテン、ビラットコーリーまでが食べに来るほどの人気ぶりで、ベンガルールのラーメン人気の火付け役としても大きな貢献をした注目すべきラーメン屋です。
はい、今回はインドで活躍する日本食レストランがどのような戦略でインド人消費者の心を掴んでいるかを解説しました。今日ご紹介したレストラン以外にも、韓国人が経営する寿司屋とか、インド人が経営する鉄板焼き屋などいろんな業態で日本食レストランが増えてきています。飲食事業でインドへの進出を検討している人はぜひ参考にしていただけると嬉しく思います。