【2025年インド経済が急減速!】「インドの時代」はもう来ない!?その実態を解説します
「インドの時代」はもう来ない!?その実態を解説します
最近、インドの経済成長率が鈍化しているっていうニュースを見たので、今日はですね、メディア報道の真相をふかぼって、インド国内でいったい何が起きているのかを解説してみたいと思います。
インド市場に注目が集まっている昨今ですが、インドの経済成長をどこまで信じていいのか、懐疑的になっている人も少なくないと思います。そんな中で報道された「インドの経済成長率鈍化」というニュースはむちゃくちゃ気になりますよね?景気の悪循環、いわゆる、景気低迷とインフレ(物価上昇)が同時に起こる現象「スタグフレーション(Stagflation)」が起きているのではないか、と警笛を鳴らす有識者もいるようです。そこで本日は、経済成長率が鈍化しているインドで実際に何がインドの経済成長を支えているインド特有の論点を中心に起こっているのか、その実態に迫ってみたいと思います。
インドのGDP成長率の現状
まずは、最近発表されたデータから確認してみたいと思います。BRICS諸国の中でも特に高い経済成長率で注目を集めてきたインドですが、最近は成長率の鈍化に関するニュースが相次いでいます。
2024年11月29日に発表されたインドの2024年7~9月期のGDP成長率は前年同期比+5.4%と、事前のエコノミスト予想の中央値である+6.5%を大きく下回っていますし、ちょうど1年前の同時期の四半期成長率が8.1%だったので今年は確かに成長率が大幅に鈍化していることがわかります。これを受けて、インド準備銀行RBIは2024年の成長率見通しを 従来の+7.2%から+6.6%に下方修正している状況です。
天候不順とその影響
では、成長率鈍化の要因はいったい何だと思いますか?主な原因の一つと言われているのが、天候不順による食品価格の高騰です。実際、私が住んでいるバンガロールでも今年の4月から5月にかけて最高気温が37.7°Cから38.5°Cに達して、例年では考えられないほど暑かったんですよね。ちょうどこの時期に出張でバンガロールに来られた方の多くが、涼しいバンガロールを期待して来たのにぜんぜん涼しくないやん、ってめっちゃ言ってたことをよく覚えています。
さらに6月から9月にかけてはインド各地で大雨が降り、洪水が発生しました。この豪雨は玉ねぎなどの収穫やサプライチェーン全体に大きな影響を及ぼすので、その結果として価格高騰に繋がったと言われています。こうした異常気象が農業生産に大きな影響を与えて、食品価格の急騰を引き起こしてしまったわけですね。
インドのように一人当たりGDPが3,000ドル以下の国では、日本とは違って、多くの人の消費がその大部分を食品に依存しています。なので、食品の価格動向が全体的な消費者物価に大きな影響を及ぼすんですよね。日本の消費者物価指数において食品の構成比は27%、アメリカでは13%であるのに対し、インドでは46%が食品で占められていることからも顕著です。例えば、2024年12月時点の公表データによると、玉ねぎは前年同月比で+66.1%、ニンニクは+51.8%、じゃがいもは+64.9%、トマトは+161.3%の上昇となっています。
国内で「トマト強盗」といった犯罪が発生するほど問題が深刻化したんですよね。だってそうですよね、去年は100円で買えていたトマトが260円になっているわけですから所得層の低い人たちにとっては死活問題です。食品価格の高騰において、特に注目されるのが多くのインド家庭で使われるトマトと玉ねぎとじゃがいもです。インド連邦議会上院議員でインド国民会議政党コングレスのジャイラム・ラメシュがX(旧ツイッター)でも、最優先すべきTop Priorityを軽視しすぎていると、つまり、モディ政権の失敗により、トップ・TOPというのがまさにTomato, Onion, Potatoの頭文字になっていて、Top PriorityとTOPをかけているわけですけど、このTOPつまりトマトと玉ねぎとじゃがいもが貧しい人々の食卓から消えつつありますと、非難していました。
ちなみに、このトマト・玉ねぎ・じゃがいもの生産量が多い州はこんな感じになっています。
トマトはインド中部のマディヤプラデッシュ州が生産量第一位ですが、インド南部の3州での生産量もかなり多い一方で、玉ねぎはマハラシュトラ州を中心にインド西南部に一帯が生産量の多くを占めます。また、じゃがいもはウッタルプラデッシュ州を中心にインド東西に生産地域が広がっています。
少し余談にはなりますが、世界で7番目に広い国土面積を有するインドはその約55%が農地として活用されているんですけど、地域によって天候もさまざまで、それに対応した作付・収穫が行われています。収穫期は基本的に雨季と乾季があって、それぞれアラビア語でカリフ(Kharif)とラビ(Rabi)と言われたりしますけど、雨季のカリフ作物としては主にコメ、綿花、落花生、雑穀、乾季ラビ作物としては主に小麦、マメ類などが挙げられます。
あと、コロナ禍で比較的に抑えられていた都心部の家賃も、2024年あたりからかなり高騰し始めているという話をよく聞きます。実際、私が今住んでいるバンガロールのアパートの家賃も、突然オーナーから連絡があって来年からは家賃を100%アップしたいというむちゃくちゃ強気な要求をしていきていて、全体として特に都心部の生活コストは高くなってきていて、個人的な感覚として、食品価格を含めた生活コストの高騰が、中間所得層の消費にも一定の影響を与えている可能性もあるように感じます。
脱線してしまったので話を戻しますと、こうした食品価格を中心とした消費者物価の高騰を受けてですね、インド準備銀行RBIは利下げに対して慎重な姿勢を示しています。現在の政策金利は6.5%で、2022年前半から段階的に利上げを続けてきました。インフレが落ち着いた段階で利下げに踏み切ることが想定されていますが、食品価格の上昇が顕著になってきたため、利下げはまだ時期尚早という状況であると思われます。
失業率の現状
さらに、労働市場の現状も重要な要因のひとつです。インド国家統計局(MoSPI)が24年7~9月に実施した定期労働力調査(PLFS : Periodic Labour Force Survey)のデータでは、インド国内の失業率は約6.4%と公表されていますが、15歳から29歳の若年層で見ると少しずつ改善傾向が見られるものの依然として15.9%とかなり高い失業率になっています。
生産年齢人口のうち、実際に働いている人または仕事を探している人の割合を示す労働参加率は50.4%という数字になっていますが、同じく若年層で見ると41.6%となっていることからも同様のことが言えます。また、国際労働機関ILOの最新の報告書によると、大学を卒業した人の失業率は29.1%とまで言われていて、つまり先ほどの若年層の中でもむしろ高学歴と言われる優秀な若者ほど仕事が見つからないという「エリート無職」の人材が溢れかえっていることは特に注目すべきところです。
ちなみに、失業している多くの労働者が実家の農業や屋台ビジネスなどの非公式経済に従事しているケースも多くて、この分野は統計データに反映されにくいという側面もあるので、そもそも経済全体の実態を正確に把握することが難しいという観点も考慮しておくべき要素だと思います。
今後の展望と課題
これまでは実績ベースの公表データをもとにインドの経済成長率が鈍化している背景について見てきましたが、ここからは中長期的な展望、つまり見込ベースの潜在成長率についても触れておきたいと思います。っていうのも、有識者の見解を見ていると成長率の鈍化はあくまで一時的で、インドの経済は中長期的には引き続き成長し続けるであろうとの見方が多いんですよね。
例えば、国際通貨基金IMFが10月31日に発表したインドの今期2024年度の経済成長率は半年前に公表した数字から0.2ポイント上方修正をして7.0%になるとの見通しを示していて、来期2025年度についても6.5%と前回公表数値を据え置いている状態です。地方の消費活動が回復していることや、公共インフラ投資が拡大を続けていることなどがインドの潜在成長率を7%と見積もっている背景としてあるようなので、今回の成長率鈍化は一時的な現象であるという風にも言えます。
ただ一方で、気候変動の影響が今後も続く可能性はありますし、消費者物価や若年層の失業率の動向、モディ政権の政策などによってもスタグフレーションを生む可能性は否定できないので、特に農業における生産性向上であったり、製造業を中心とした付加価値の高い雇用創出、気候変動に対する適応力を上げていくためのインドの政策については引き続き注目していきたいところです。
ちなみに、インドでは毎年2月に国家予算案Indian Budgetが発表されるんですけど、2024年は4月から6月に総選挙が行われた関係で、7月下旬にあらためて2024年度の本予算案が発表されました。予算案の概要はこんな感じになっていて、モディ首相率いるインド人民党BJPは、今回の総選挙で大きく議席を減らしたんですけど、引き続き連立政権として維持しているので、基本的な枠組みは暫定予算から大きく変わっていません。
ただ、モディ政権が求心力を失いつつあることも事実です。例えば、民間の専門家を重要な官僚ポストに登用するために新たに導入しようとした「官僚の中途採用制度」については野党および連立相手の政党からも強い反対を受けて2024年8月にすぐに撤廃せざるを得ない状況になりましたし、モディ首相肝入りの、インドに住むすべての人が同じルールに従うようにするための新しい法律案「統一民法典(とういつみんぽうてん)」は、ヒンドゥー至上主義のモディ政権のこれまでの権威主義的な動きを見ていると、宗教的少数派を標的にした政策である可能性は高く、多様な宗教を内包するインドにおいて、宗教的自由が失われるリスクをはらんでいるので引き続き注視しておく必要がある政策のひとつと言えます。
また、人口世界1位になり、よく中国と比較されるインドの経済成長ですが、インドは全産業の中で製造業が占める比率が他の国と比べて相対的に低くなっています。産業別の付加価値シェアを中国と比べたときに、「世界の工場」とまで言われた中国は製造業を含む工業、このオレンジ色の線が過去50年間で一気に増えているのが分かると思うんですけど、一方で、インドはサービス業で成長をしてきた国であることがわかります。直近のデータで産業構成をもっと詳しく見ても、中国の製造業比率が33.2%であるのに対して、インドの製造業比率は18.7%にとどまっています。Make In India政策を10年以上にわたって推進してきたインドが、世界の工場になれるのかどうかが、今後の中長期的な経済成長の重要な要素のひとつであるとも言えます。
さて、皆さんいかがでしたでしょうか?今回の動画ではインド経済成長率の鈍化の背景と要因について詳しくお話ししました。インド経済は短期的な課題を抱えながらも、中長期的には高い経済成長のポテンシャルを維持していると言えますが、もちろんインドの経済状況や今後の展望についてはいろんな意見があると思います。ぜひコメント欄でご意見をお聞かせいただけると嬉しく思います。