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【この動画1本で解決!】インド駐在員給与の仕組みや各種手続きを徹底解説

インド駐在員給与の仕組みや各種手続きを徹底解説

今回はですね、『インド駐在員の給与の仕組み』を徹底解説してみたいと思います。

インド駐在員の給与設計は、手当や福利厚生、社会保障や税務論点にいたるまで多岐にわたっていてとにかく複雑です。先進諸国ではあまり見られないインド特有の項目もあります。そこで本日はインド駐在を予定している方々や海外事業を展開されている経営者層のみなさまに向けて、具体的なインド駐在員給与の仕組みや各種手当の相場感、注意点について、他社事例も踏まえて解説してみたいと思います。

駐在員の給与の仕組みの大枠

まず、駐在員給与の基本的な仕組みについてご説明をしますと、一般的に、駐在員の給与は『本国給与』と『現地給与』に分けて支給されるケースがほとんどです。給与金額を決める上で「購買力補償方式」とか「なんちゃら方式」とかっていうの専門用語はあるんですけど、ざっくり言うと、基本的には本国給与は、駐在員が日本での生活レベルを維持するための給与として、現地給与はインドでの生活費をカバーして、かつ、日本と同等の購買力を維持するために必要な給与として設計をする、考え方をベースにするのが一般的です。つまり、日本側の日本円建て給与と、インド側のインドルピー建て給与に分けて支給されるんですけど、全体の給与のうちどのぐらいの割合をインド側で支給するか、その配分割合については企業によって対応が異なります。また、駐在員に支給される給与については、もし仮に日本で勤務していたら受け取っていたであろう「みなし手取り給与額」を保証する形で設計する企業が多いです。つまり、この手取り保証の仕組みには「グロスアップ計算」と「ループ課税」という論点があるのですが、この点については後ほど詳しく解説したいと思います。

さて、日本とインドの給与配分については大きく分けるとおそらくこの3パターンに分かれます。

(1)インドの就労ビザの発給条件になっている最低給与基準、2024年12月現在のレートで月額約180,000ルピーぐらいをそのままインド側のルピー建給与に設定し、それ以外を日本側で支給するパターンと、
(2)インド側のルピー建て給与を必要最低限の金額に可能な限り低く設定するパターン、
(3)逆にインド側のルピー建給与をかなり高くする、もしくはほぼ全額インドルピーで支給されているパターンの3つに分けられますが、
さらに、日本側で支払われる日本円建て給与をそのまま日本本社が負担するケースと、その給与実費をインド現地法人に請求するケース、そして、為替レートの変動によるリスクを考慮して毎年給与の為替換算による影響を調整してくれているケースも多いと思います。

ここで出てきたこの3つの論点についてはもう少し深掘りして解説したいと思います。

  1. 就労ビザの最低給与基準
  2. 日本円建て給与の日本本社負担
  3. 日本円建て給与をインド現地法人に実費請求

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1.就労ビザの最低給与基準

インド総務省MHA : Ministry of Home Affiarsの規定によると、就労ビザ(Employment Visa)を取得するためには最低162万5,000ルピー以上の給与を支給しなければならない、と規定されています。単純に12ヶ月で割るとざっくり月額14万ルピー弱ぐらいなんですけど、一方で、ビザ取得代行業者などからは雇用契約書には月額180,000ルピー以上で記載してください、と言われることがかなり多いようです。これは昔の旧規定である25,000米ドル以上という給与基準を現在の為替レートで換算した場合の金額が参照されているからで、正直ちょっと意に解せないところはあるんですけど、インドではたまに最新の法律を管轄当局がちゃんとフォローしていない、ということが起こるんですよね。

ちなみに、この最低給与基準の金額は、インド国内でルピー建で支給されるゲンナマのキャッシュのみで満たす必要があるということではなく、例えばインド側の支給給与がもし仮に5万ルピーだけだったとしても、実務上は確定申告の際に日本側の給与やその他現物給与も含めて課税所得ベースでこの最低給与基準をちゃんと超えていれば特に問題はないと解されることになっています。

2.日本円建て給与の日本本社負担

次に、日本円建て給与を日本本社がそのまま負担する場合の論点について見ておきたいと思います。
まず、大原則としてインド現地法人に出向している駐在員の給与は、その全額をインド現地法人が負担すべきである、という考え方があります。インド現地法人との雇用契約に基づいて就労ビザを取得してインドに赴任しているのですから、ある種それが当たり前なわけですけど、ただ、日本では例外的に「較差補填」という独特の税制があってですね、「出向先法人(つまりインド現地法人)の給与水準が出向元法人(つまり日本本社)の給与水準よりも低い場合などは、その差額を補填するために請求・負担される格差補填金額については限定的に日本法人において損金(つまり税務上の経費)に算入できる、という制度があるんですね。

ただ、この制度(法人税基本通達9-2-47)は1969年に創設されたむちゃくちゃ古い制度で、海外各国と比べて日系企業の給与水準がものすごく高かった時代にできた制度なんですよね。なので、むしろ日本よりも給与水準が高い国がたくさん出てきている昨今においては、この「較差補填」という考え方をベースに日本法人が給与の一部を負担するのは現実的にちょっと難しくなってきている、という側面があるのも事実です。この点には十分に留意をした上で、日本本社での給与負担をどうするか、をご検討されることをおすすめいたします。

3.日本円建て給与をインド現地法人に実費請求

そこで最近の傾向としては、日本側で支払った日本円建ての給与は、インド現地法人に実費請求をする企業が増えてきています。一時的に日本法人が給与の一部を日本円で立て替えて支払った上で、インド現地法人に対してその立替精算のための請求書DEBIT NOTEを発行し実費請求する形ですね。つまり、最終的には駐在員の給与全額をインド現地法人が負担することになります。

この場合に注意が必要な論点がGSTの課税関係です。GSTっていうのは日本で言うところの消費税に当たる税金なんですけど、2022年5月にインド最高裁がアメリカ系企業に対して、インド国外法人の従業員の給与の立替精算取引については人的役務提供の対価としての性質を持つとして、出向者給与の立替精算取引に対して消費税を課税するという判決を出したんですね。これまでの常識をひっくり返すような判決だったことに加えて、これが最高裁の判決だった、ということもあってかなり物議を醸してですね、インド日本商工会はこの判決を受けてインド税務当局に対して陳情書を出す事態にまで発展をしたんですけど、いまだにインドの税務当局からは明確な見解が出されていません。こんな状況において、すでに自主的にGSTを納税をした日本企業もあれば、現在引き続き税務当局と係争中という日本企業も多数あるので、自社の出向スキームや締結している出向契約書の内容、出向の実態とも照らし合わせながら、本件に対してどのようなポジションを取るのかを評価しておくことは重要だと思われます。

駐在員手当・福利厚生・休暇等

次に、インド駐在員の典型的な手当や福利厚生の相場感についてご紹介したいと思います。
一般的に検討される項目としてはここに記載があるような項目が中心です。

まず、駐在員の手当については主に『海外赴任手当』と『ハードシップ手当』の2つがあります。海外赴任手当については家族帯同の場合、単身赴任の場合、独身の場合などを区別して設計されるケースもありますし、金額が決まっているパターンもあれば、給与の何%という形で設計しているケースもあって企業によってさまざまなんですけど、金額的な相場感で言うとインドだろうがアメリカだろうがインドネシアだろうが国を問わず月額50,000〜100,000円ぐらいに設定しているケースが多いと思います。企業によってはご家族が帯同される場合の「家族帯同手当」や、単身赴任の場合の「留守宅手当」として項目を切り離して設定している企業もあります。一方で、ハードシップ手当については生活環境におけるインド特有のリスク要因を考慮して、例えば欧米諸国や東南アジア諸国など他国の駐在員よりは高く設定されていて、月額100,000〜150,000円ぐらいの企業が多い印象です。

また、インドでは、日本とはちがって特有の福利厚生が含まれることが多いんですよね。代表的な例としては、専属の運転手付きレンタカーや家賃補助、食料送付制度や買い出し休暇制度、あとは海外旅行障害保険や医療通訳サービスなどがあります。それぞれの相場感としてはこんな感じだと思います。子供の教育費補助も重要な要素ですよね。特に日本人学校がない南インドの場合ではインターナショナルスクールの学費を会社が代わりに負担するケースは多くて、例えば、チェンナイのアメリカンスクールや、バンガロールのストーンヒルやカナディアンスクールは学費が年間300〜400万円近くするのでむちゃくちゃくコストがかかりますよね。

グロスアップ計算とループ課税

それでは、最後に冒頭で少しお話したグロスアップ計算とループ課税について解説をしたいと思います。
海外駐在の場合に知っておくべき重要な論点として、その国の税制と社会保障制度があります。っていうのも、給料から天引きされるものとして所得税と社会保険料ってむちゃくちゃインパクトが大きいですよね。例えば、日本で給料50万円もらっている人の所得税・住民税と社会保険料が仮にそれぞれ10%ずつ、つまり、それぞれ5万円ずつ給与から天引きされて手取りが40万円の人がいるとします。もしこの人が他の国に駐在をすると、その国の税制と社会保障制度にしたがって給与計算をする必要がありますよね。仮にその国の所得税・社会保険料がそれぞれ15%ずつかかるとすると、この人の手取りは35万円になってしまうわけです。会社内で同じ給与をもらっている人が、働く場所によって貰える手取り給与が変わってしまうのは不公平ですよね。それを解消するための仕組みが「みなし手取り給与」と「グロスアップ計算」、そして、それによって発生する「ループ課税」という論点です。

この図のように、もし仮に日本で勤務していたら受け取っていたであろう「手取り給与」を計算して、それを「みなし手取り給与」として駐在員にまず保証をしてあげるわけですね。さっきの事例で言うと、給料50万円の人の手取りが40万円でした。この40万円を「みなし手取り給与」として保証してあげた上で、駐在員に別途支給される海外勤務手当やハードシップ手当、また、住宅補助や専属ドライバー付レンタカーなどの現物給与も上乗せして、さらに、それによってインドで発生する所得税や社会保険料についてはすべて会社が負担をするという仕組みにするわけです。

ここで、現地国で発生する個人所得税や社会保険料というのは、本来は従業員が自分で負担するべき性質のものですけど、これを会社が代わりに負担をすることになるので、現物給与(英語ではtax perquisiteって言ったりしますけど)、これを個人の課税所得にグロスアップする必要があります。すると、会社が代わりに負担をした個人所得税や社会保険料分を個人の所得としてグロスアップしたことによって、さらに個人所得税が増えることになります。つまりここでループ課税が発生するわけですね。

このようなグロスアップ計算とループ課税の仕組みによって、駐在員の人件費っていうのは平気で年間2,000〜3,000万円ぐらいになるのでむちゃくちゃ高くなります。よく駐在員の人がご自身の確定申告書の年収金額を見たときに、いやいやオレはこんなにもらっていない、って言う人が多いんですけど、そう感じてしまう理由はこういった仕組みにあるわけですね。

ちなみに、日本とインドは2016年に日印社会保障協定を締結しているので、現在インドに駐在をしている日本人のほとんどは、インド側で社会保障制度に加入する必要はありません。つまり、派遣期間が5年を超えない駐在員で、かつ、日本で社会保険に加入していることを証明する適用証明書(COC : Certificate Of Coverage)を日本年金機構から入手しておけば、インド側では社会保険料を納付しなくても良いというルールになっています。

さて、本日はインド駐在員の給与の仕組みと、その中で押さえておくべきポイントについて解説しました。駐在員給与の設計は、企業の人事戦略や事業計画の数値にも大きく影響を与えるので、正しい情報を理解しておくことが重要です。ぜひ参考にしていただければと思います。

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