【2025年最新】インド予算案に見え隠れするモディ政権のしたたかな戦略とは?
インド予算案に見え隠れするモディ政権のしたたかな戦略とは?
今回はですね、2025年2月1日に発表された最新のインド予算案について解説してみたいと思います。
インド予算案っていうのは、毎年2月ごろにインド財務省が発表する国家の収支計画で、財務大臣が来年度の各省庁へのお金の割り振りが発表されるので、今後インドという国がどのような財政運営を行なっていくのかが理解できるわけなんですけど、それだけじゃなくて、政府がインドの社会課題をどのようにして解消していくのか、インド国民の生活をどのように向上させていくのか、インドの経済成長をどのようにして盛り上げて行く のか、これらの具体的な政策も合わせて発表されることになるので、このインド予算案の発表を通じて、これからのインドを未来予測できる一大イベントとしても毎年注目されます。
2025年2月に発表されたインド予算案は、第三期目を迎えたモディ政権としては初めての本格予算なんですけど、農民・農村部の支援、中間層の減税、メークインインディア政策を筆頭とする「自立するインド」の推進、そしてモディ政権のしたたかな戦略的政策が見え隠れして面白い予算案だなーと思っています。
『インド経済の今後』を押さえておきたい方は、ぜひ最後までご覧ください!
1. インド予算案の全体像
2025年度のインド予算案は、歳出総額が過去最高額約50兆6534億ルピー(約90兆円)に達し、前年度比約5.1%増、インフラ、農業、製造業など幅広い分野に資金が配分されて、かつ、外資規制においても保険分野における外資保険会社の出資比率がこれまでの74%から100%に引き上げられました。特に、引き続き多額の予算がついている道路や港湾、空港などのインフラ整備に加えて、インド全土での公共投資を活性化させるために州政府への無利子貸付制度が導入されたり、各種補助金に対しても引き続き大きな予算がつけられていて、製造業振興を目的とした『メークインインディア』政策の継続的な強化を掲げています。
また、農業灌漑や農村開発にも大幅な予算がつけられている一方で、対照的に、民間に任せておいてもなんとかなるであろうIT(情報技術)や通信部門への予算が大幅にカットされている、という点において、かなりメリハリをつけた予算配分になっているとも言えます。また、今回のインド予算案では中間層への減税が大きな話題になりましたけども、事実、予算案発表直後に実施された首都デリー議会選挙では与党・インド人民党(BJP)が中間層を中心とした有権者からの心を掴んで圧勝しました。こうした、州議会選挙や特定の支持層を意識した戦略的な予算配分になっているところも今回の予算案の見どころのひとつと言えます。
ちなみに、インド準備銀行は、インド政府が予算案を発表した1週間後に、消費を刺激して景気を底上げすべく実に4年9ヶ月ぶりの利下げ、つまり、政策金利を6.5%から6.25%に引き下げると発表しましたけど、一方で、ルピー相場が最安値を更新してしまっている中で、輸入価格が高くなってしまう「輸入インフレ」を引き起こして景気が冷めてしまう恐れもあるので、これからの経済動向については引き続き注視していく必要があると思います。
2. 農業に関する具体的な政策
農業における政策についてはもう少し具体的に説明したいと思います。
そもそもモディ政権にとって、農村地域や若年層を中心とした有権者から支持を得ることは安定的な政権運営にとってむちゃくちゃ重要なわけですけど、昨年2024年の総選挙のときは、物価上昇とか失業率の高さに不満を持った低所得者層や若年層からの支持を得ることができなくて、BJP単独での議席を大きく減らしたんですよね。
そこで、今回の新年度予算ではその反省を活かしてまず農業・農村開発を重視した予算配分になっているわけです。具体的には、生産性の低い農村地域100ヶ所に焦点を当てて、約1,700万人の農民を対象にさまざまな支援計画を発表しました。例えば、食料インフレの要因になりやすい豆類(例えばウラド豆とかレンズ豆とかですね)の輸入依存度を軽減して、自国生産を増やすと同時に価格の安定化を図って、そして外貨流出を防ぐ「豆類の自立(Atmanirbharta in Pulses)」政策とか、より多くの収穫量を見込める種子品種を開発する「高収量種子開発ミッション(National Mission on high yielding seeds)」、また、政府保証価格で優先的に買い上げる栽培振興策、また、農家向けに発行されているKisan Credit Cardの融資限度額を30万ルピーから50万ルピーに引き上げるなどの政策も発表されています。
3. 若年層・中間層に配慮した具体的な政策
さらに、インドの若年層や中間層にとっても嬉しい政策が発表されました。つまり、今年2025年からさらなる「サラリーマン減税」が発表されて、個人所得税の非課税枠が現在の年収70万ルピーから年収120万ルピーまで大幅に引き上げられることになりました。これによって、インド国内に約3,000万人ほどいると言われる納税者の可処分所得が年間最大12万ルピーぐらい増える見通しです。さらに、中間層の住宅取得を支援する政策も強化されました。具体的には、新規住宅購入者は住宅ローンの利息部分について税額控除の上限がさらに引き上げられて最大20万ルピーの税額控除が受けられるようになります。ちなみに、住宅ローンの元本返済部分に適用されている所得控除枠については、現在所得税法第80C条、つまり他の投資によって適用される所得控除枠と同じ枠組の中に入ってしまっているので、住宅ローンの返済による所得控除枠をいっぱいいっぱいに活用できない、という課題もあります。なので、今回発表された住宅ローンの利息部分の税額控除枠の引き上げだけじゃなくて、元本返済にかかる所得控除枠についても独立した枠組みができると中間層にとってはより意味のある政策になるんじゃないかと思っています。ちなみに、インド国内で所得税を納税しているのは全人口の2~3%ぐらいと言われているので、果たして、こういった中間層に配慮した政策がどこまで景気に大きな影響を与え得るのかは、注目すべき論点のひとつになると思われます。
4. メークインインディアのさらなる推進
ここでは、モディ政権肝入りの政策「メークインインディア」をさらに加速させるために今回発表された製造業向けの政策についても見ておきたいと思います。雇用やGDP(国内総生産)などの数字にもっとも大きな影響を与える産業といえば製造業ですよね。ただ、世界ナンバーワンの人口超大国でありながらサービス業で成長をしてきたインドは、全産業の中で製造業が占める比率が低くなっています。例えば、「世界の工場」とまで言われた中国の製造業比率が33.2%であるのに対して、インドの製造業比率はまだ18.7%にとどまっているんですね。
こういった背景もあって、モディ政権が発足した2014年当初からこの「メークインインディア」はずっと重要な政策として推進されてきたわけなんですけど、これをさらに加速させるべく、今回のインド予算案では「高付加価値産業」と「労働集約型産業」それぞれの重点産業にフォーカスをする形で予算を配分しています。具体的には、高付加価値産業からは電子機器や自動車などの国内製造を促進するためのPLI(生産連動型報奨金)をさらに拡大したり、携帯電話やEV向けの蓄電池・バッテリーなどの生産に必要な鉱物や資材にかかる基本関税の減免が提案されています。また、労働集約型産業からは食品加工や靴・皮革産業、玩具産業における生産を促進するために、こういった品目の製造に必要な、例えば、魚のすり身や水産飼料用の魚の加水分解物、Wet blue leather(いわゆる染色前の原皮)、電子玩具部品などの基本関税の減免が発表されています。つまり、インド国内で製造をしてもらうために必要な環境を、製造に必要となる部品や原材料の輸入関税を下げて、実際に製造してくれた企業には生産量に応じてインセンティブを与える、という政策を取っているわけですね。
5. BJP政権のしたたかさが出た政策
最後に、州議会選挙も見据えたモディ首相率いるBJP政権の戦略的な動きについてもご紹介しておきたいと思います。今回のインド予算案でBJP政権のしたたかさが顕著に出た政策のひとつとして、北東部ビハール州に設立することを発表した『マカナ委員会』っていうものがあります。このマカナ(ハスの実)は、インド国内外で健康食品として注目されていて、スーパーでもポップコーンと同じ様なポン菓子として販売されているのでうちの娘がよく食べてるんですけど、実はこのマカナ、世界生産量の9割がインド、さらにその9割がビハール州で生産されている、というかなり特殊な農産物なんですよね。インド政府はこのマカナ委員会の設立を通じて、ハス栽培農家への支援、生産・加工・販売の支援を強化し、農村経済や健康食品市場の活性化を図りたいっていう狙いはもちろんあるんですけど、むしろモディ政権にとっては、ビハール州で圧倒的な力を持っている政党で、かつ、連立パートナーであるジャナタ・ダル統一派(JD-U)をつなぎ止めておくための重要な政策として位置付けているとも考えられます。なので、単なる農業支援策ということではなく、ビハール州の有力政党との関係強化と安定した連立政権の運営を見据えた、BJP政権のしたたかな戦略とも言えますよね。
皆さん、いかがでしたでしょうか?今回は2025年2月に発表されたインド予算案について解説いたしました。インド進出をご検討されている企業様や、インド国内ですでに事業を行っている企業様はぜひ参考にしていただければと思います。