【駐在者必見!】インドの給与計算&確定申告のルールを分かりやすく解説!
インドの給与計算&確定申告のルールを分かりやすく解説!
今回はですね、インドの給与計算と確定申告の仕組みについて解説してみたいと思います。
日本では年末調整という仕組みがあるので、副業している人とか、自営業やフリーランスなどの個人事業主とかじゃない限りそもそも確定申告をしたことがない、という日本人も多いとは思いますけど、インドは年末調整のような仕組みがないので所得税を納税すべきアッパーミドル以上のインド人納税者は基本的にみんな確定申告をしています。インドに駐在をしている日本人も例外ではありません。
そこで今回の動画ではインドにおける個人の確定申告と給与計算の仕組みについて解説してみたいと思います。
個人確定申告の概要
まず、インドの確定申告の概要について日本と比較しながら見ていきたいと思います。
1. 対象者
まず対象者ですけど、日本では、副業で20万円以上の収入があるとか、年収2,000万円以上のサラリーマンとか、医療費控除など一定の所得控除を受けたいサラリーマンとか、あとは自営業・サラリーマンなどの個人事業主とかが確定申告の対象者になっていますけど、インドでは、基本的に、納税義務のある納税者全員が対象者になっているという点で大きく違います。
2. 課税期間
課税期間については、日本は1月〜12月(法人の事業年度は自由に設定可)ですが、インドだと法人・個人ともに4月から翌年3月までと決まっています。
3. 税率
税率については日本・インドともに所得によって段階的に税率が高くなっていく累進課税制度を採用していますがこの図のとおりインドはその立ち上がりが早い一方で最高税率は日本よりも低くなっています。
ちなみに一般的に税率が低いことで知られるシンガポールと比較しても日本は個人所得税の税率がむちゃくちゃ高いですよね。
4. 申告期限
申告期限については、日本は3月15日、もし15日が祝祭日の場合は翌営業日になるのに対して、インドは7月末、月末が祝祭日の場合はその前営業日、さらに申告期限が頻繁に延長されることもざら、という点でだいぶ違いますね。
5. 課税制度
また、課税制度については日本・インドともに所得の種類によって総合課税と分離課税に分かれていてですね、特に株式投資をしているような駐在員はキャピタルゲインに対する課税方式について気になっている方もいると思いますのでぜひその詳細は専門家に確認してみてください。
6. 居住ステータス
最後に重要なのが日本とインドにおける税務上の居住ステータスに関する判定方法の違いです。
つまり、居住ステータスによって、確定申告の際に申告すべき課税所得の範囲が変わってくるわけですね。
日本とインドの居住者の定義をざっくりと比較するとこのようになっています。読みますね。
インドの居住者:以下のいずれかの基準に該当する個人
- 課税年度(4月1日から翌年の3月31日まで)において、合計で182日以上インドに滞在している個人
- 直近の4課税年度において合計で365日以上インドに滞在しており、かつ現在進行年度において60日以上インドに滞在している個人
日本の居住者:以下のいずれかの基準に該当する個人
- 国内に「住所(個人の生活の本拠(客観的事実によって判定する)」を有する個人
- 現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人
(※1年以上海外勤務をする予定で出国した人は出国の日から非居住者として取り扱われる)
つまり、インドは日数を基準にしている点で分かりやすいんですが、日本は「生活の本拠」とか「居所」という表現が基準になっているのでちょっと分かりにくいんですよね。日本の場合、極端なことを言うと、永遠の旅人みたいな人は、例えば1年のほとんどを海外で転々と過ごし、1週間だけ日本に滞在をしたとしても、その旅人の「生活の本拠」つまりその人の実家は引き続き日本にあるので、ほとんど日本にいないにもかかわらず日本の居住者ということになります。
ちょっと話が脱線してしまったのでインドの確定申告の話に戻すと、ここで重要なのは、インドの居住者については「通常の居住者(ROR)」と、「非通常の居住者(RNOR)」という2種類の居住者に区分されているということです。この表に基づいてあなたが「通常の居住者(ROR)」なのか「非通常の居住者(RNOR)」なのかを判定することになるんですけど、
誤解を恐れずにざっくり言うとインド滞在が3年目ぐらいからこの通常の居住者RORの居住ステータスになる可能性があって、いわゆる「全世界所得課税」に移行します。つまり、日本の不動産賃貸収入とか、日本の株式から得た配当収入とか、まさに先ほど出てきた株式譲渡によるキャピタルゲインなどの所得に対しても、インドとはまったく関係のない所得であってもインドですべて課税されてしまうことになります。この場合、所得によっては日本側でも所得税を納税しているケースがあるので二重課税が起こってしまうのですが、日本側の納税証明書を入手してインド側で外国税額控除の適用を受ける、などの選択肢はあるのでその適用可能性含めて確認をする必要があります。
確定申告までの年間スケジュール概要
次に、確定申告を実施するまでの年間スケジュールの概要について、こちらも日印で比較して説明してみたいと思います。
インドでは、まず入社時もしくは年度初めつまり毎年4月にその年度における所得控除対象となる投資や保険料の支払、住宅ローンの返済などがどれぐらいあるか、また、年間でいくらぐらいの家賃を支払う予定かなどの情報を、その見込金額とともにIncome Tax Declarationというフォームに自己申告してもらうんですね。日本では年末調整のときに保険料控除申告書とか扶養控除申告書とかを会社に提出すると思うんですけど、それと似たような書類を、見込金額ベースで年度初めに提出してもらうイメージです。
つまり、インドのサラリーマンのケースでは、年間の見込年収と、自己申告による所得控除の見込金額額に基づいて1年間で納税すべき所得税額の概算を算出して、それを12等分して毎月の給与から源泉徴収・天引きしていく形になります。なので、インドでは当初予定していなかった賞与が支給されたり、当初の見込みと異なる投資や保険料の支払などが発生すると、その変更があったタイミングから年度末まで、つまり次の3月末までの期間にわたって均等に天引きされる源泉所得税の金額を更新する形を取ります。年度末までに当初の見込金額を、実額ベースにアップデートしていくことで納税額を最終化していくわけなんですが、最終的には各個人が7月末までに確定申告を実施する必要があるんですね。
一方で、日本のサラリーマンのケースでは源泉徴収税額表というものが毎年国税庁から発表されて、扶養親族の数に応じて毎月の給与からいくら所得税を源泉徴収すべきか、賞与も金額に応じていくら源泉徴収をすべきかが事前に規定されているので、この源泉徴収税額表に基づいて1月から所得税を天引きしていく、という点で控除すべき源泉税の考え方がインドとはむっちゃ違いますよね。
また、所得控除を反映するタイミング・方法論としては、インドのように年度初めの自己申告制ではなく、年末の12月に保険料控除証明書などを会社に提出することで会社が従業員の代わりに年末調整を実施してくれるので、つまり、さっき冒頭でお話をしたような副業で20万円以上稼いでいる人とか年収2000万円以上のサラリーマンとかじゃない限りは、原則、全員が確定申告をする必要がない、っていう点でも、給与計算や確定申告までの流れがインドとは大きく異なります。
インドの給与計算の仕組み
ここからはインドの給与計算の仕組みについて解説をしてみたいと思います。特にインド人材を採用する際に、候補者とどのように給与や待遇面の交渉をすべきか、という点でもこの給与計算や課税の仕組みを理解しておくことは大切なのでひとつひとつ見ていきましょう。
給与構成
まずは給与構成についてです。
インドでは給与総額を100とした場合、その半分である50を基本給与、さらにその半分である25を家賃手当、残りの25をその他の手当に割り振る、というのが一般的です。これは、所得税法に規定される一定の優遇税制を活用することを想定してこういった給与構成になってわけなんですが、その中でも最も影響が大きいのが家賃手当の部分です。インドではHouse Rent AllowanceいわゆるHRAと言われる部分ですね。ちなみに、インドではCTCという言葉がよく使われます。これはCost To Companyの略語で、会社が負担する人件費総額という意味合いなんですけど、日本の月給とか年収という言葉の定義と少し違うんですよね。つまり、日本では月給とか年収っていうと社会保険料の会社負担部分は含まれませんが、インドでは日本の厚生年金保険料に近いPF拠出金の会社負担部分を含めた形で、月給をMonthly CTCとか年収をAnnual CTCとかって言って表現するのが一般的なので、インド人材採用の際に候補者に提示する年収の定義として、この点は覚えておくと良いと思います。話を戻しますと、
インド所得税法第10(13A)条に規定されるこの家賃手当の優遇制度は、ここに記載されている1〜3のうち一番低い金額のみを課税対象とすることができる、というもので、この2つ目に当たる基本給与の50%もしくは40%という計算式の規定が背景にあって、このような給与構成を採用している企業が多くなっています。
また、その他の手当に割り振るという部分においても、ここに記載されているような一定の優遇税制を活用することができます。例えば、インド所得税法第10(5)条に規定される有給旅行手当Leave Travel AllowanceいわゆるLTAと言われる手当ですけど、これは従業員およびその家族がインド国内旅行において支払った交通手段に対する旅費の実費を上限に、個人所得課税を非課税とすることができるというもので、4年ごとに最大2回までという使用頻度や申請できる家族の範囲、利用できる交通手段の種別などが細かく規定・制限されているので管理がちょっと煩雑になりがちなんですよね。つまり、従業員にとっては優遇税制として活用できる一方で、企業側にとっては事務負担が増えてしまうという側面もあるので、企業によって対応方針が分かれているところだと思います。
なお、インド人のホワイトカラー従業員の場合、給与から一般的に控除される項目としては、主に源泉所得税TDSと、従業員積立基金のProvident Fund(PF)、そして州ごとに規定されているプロフェッショナル税の3つがあります。源泉所得税についてはすでにご説明をしましたが、このPF拠出金については、日本の社会保険料と同じように、会社と従業員がそれぞれ12%ずつ負担をする労使折半の仕組みになっています。また、一般的に標準月額15,000ルピーがPF拠出額の算出に使用される傾向にあるので、ざっくり言うと15,000ルピーの12%、つまり給与水準に関わらず一律1,800ルピーが給与から天引きされる形になっている企業は多いと思います。ちなみに、前回の動画でご説明をしたとおり、インドには国民皆保険制度がないので、健康保険料が給与から天引きされることはないんですけど、企業側の福利厚生の一環として、民間の保険会社を活用した医療保険に加入し、その保険料を会社が代わりに負担するという企業が比較的多くなっています。また、プロフェッショナル税については州ごとに規定されていて、例えば、ベンガルールがあるカルナタカ州では、給与月額25,000ルピー以上の労働者に対して一律で月額200ルピーを徴収する必要があります。
ちなみに、インドに駐在をする日本人駐在員の給与の仕組みについてはこちらの動画で詳しく解説をしていますので、もしご興味のある方はぜひこちらの動画をご覧ください。
あと、少し余談になっちゃうんですけど、役職・給与水準の高いインド人を雇用されている企業様からよく受ける相談が「せっかく高い給与や賞与を提示しても税金が高くて手取りがあまり増えないからインド人から手取りベースで交渉される」という話です。冒頭に説明をしたとおりインドも日本と同様、累進課税となっているので、給与水準が高ければ高いほど確かに所得税率も高くなります。もちろん、年収レベルにもよるので一概には言えないんですけど、給与水準が高い人の場合、特別賞与が支給されたりしても、それによってさらに税額が増えたり、場合によっては適用税率まで高くなってしまって、その半分近くが税金で持ってかれてしまって、実質手取り額はあまり増えないという状況は確かに起こり得るんですよね。この場合、例えば給与や賞与などのキャッシュではなく、社用車を供与する、というのもひとつの手だと考えています。というのも、インド所得税法上において、会社の所有車もしくはリース車両を、仕事およびプライベートで兼用する場合においては、1,600CC未満の車両であれば月額1,800ルピー、1,600CC以上の車両であれば月額2,400ルピー、そしてもし専属のドライバーがつく場合には追加で月額900ルピーを加算した金額のみが個人の課税所得対象となります。つまり、社用車として供与するスタイルを採用することで、従業員が自分で車を買ったり専属ドライバーをつけたりする金額的価値と比べて、個人の課税所得対象となる金額を大幅に軽減することが可能なわけですね。インドは役職の高い人ほど特にステータスを気にする傾向にあるため、金銭報酬だけでなく、例えば今ご説明をしたような社用車の供与や、一定の年会費が発生するハイステータスな法人クレジットカードを持たせてあげるなど、ステータスの観点から、見栄を張りたいインド人の心をくすぶるような効果的な待遇パッケージの検討についても合わせてご検討をされるのも一案かと思います。同じ費用をかけるのであれば、従業員にとってより効果的なお金の使い方をしたいですよね。
皆さん、いかがでしたでしょうか?今回は、インドにおける個人の確定申告と給与計算の仕組みについて解説をいたしました。インド駐在員やインドを含む海外拠点の管理部門の方、インド進出を検討されている企業様はぜひ参考にしていただけると嬉しく思います。