【2025年最新】インド現地法人設立と事業立ち上げ方法について完全解説
今回はですね、インド現地法人の設立手続きについて徹底解説いたします。今年に入ってから特にインド進出を検討されている企業様が急増しているんですけど、事前に知っていればと後になって後悔するケースや、思わぬ落とし穴にハマって設立手続きが長期化してしまったというケースも散見されます。
そこで今回の動画では、実際に設立手続きを開始する前に知っておくべきことや、これまでに企業様からいただいてきたよくあるご質問に対する回答も踏まえながら解説をしていきたいと思います。
1. 準備フェーズ
それではまずはじめに、準備フェーズとしてインド現地法人の設立手続きを始める前に検討しておくべきことについて解説していきます。事前に検討しておくべきこととしてこの5つの項目があってですね、それぞれ押さえておくべき重要なポイントがたくさんあるのでひとつひとつ見ていきましょう。
- 商号名の候補
- 登記住所
- 授権資本と払込資本
- 取締役
- 株主
商号名の候補
1つ目は商号名候補の決め方についてです。
インド現地法人の商号名については企業様ごとに希望する会社名があると思いますけど、最近は希望どおりに会社名の事前承認が取れないケースも多発しています。
承認が降りない典型的なパターンは主に3つあって、
1つは政府機関を想起させるワードや国名、一般的な用語で構成される会社名ですね。
「National」とか「Central」とか「Bureau」こういった言葉は政府機関を想起させるのでダメ、国名や一般用語だけで構成される会社名も承認が取れない可能性が高いです。
実は弊社もこのパターンで最初承認が取れませんでした。つまり、弊社はGlobal Japan AAP Consultingという会社名なんですけど「Global」という一般用語・ビッグワードと「Japan」という国名で構成されていますよね。この会社名でどうしても承認をとりたかったんですけど、何回申請してもダメで、最終的には諦めて泣く泣くGlobal Japan Consultingの頭文字をとってGJC AAP Consultingという社名で設立をしました。ただ、設立後にダメ元で社名変更を申請してみたらなぜか承認されて、晴れて現在の会社名で登記できています。万が一希望する会社名の承認が得られなくても、設立後にダメもとで社名変更にトライするという最終手段もあるので覚えておくと良いと思います。
2つ目のパターンは会社名に事業内容を総称する単語が含まれていないケースです。
つまり、会社名からどのような事業を行なっているのかが想起できないような場合は承認してくれないケースがあります。
例えば、製造業であればManufacturing、コンサルティング事業であればConsulting、IT関連事業であればIT SolutionとかTechnologyとか、教育関連であればEducationやTrainingのような形で、弊社の会社名にもConsultingというワードを入れていますよね。こういった事業内容を総称する単語を含めた形で商号名の候補を事前にご検討いただくことをおすすめいたします。
そして3つ目のパターンはすでにインド国内に類似の会社名が存在している場合や、会社名の中にすでに商標登録がされているようなワードが含まれている場合には承認を得るのが難しくなります。
つまり、希望する候補名に基づいて事前にインド企業省MCAのポータルサイト上の登記データを確認したり、商工省産業国内取引促進局DPIIT管轄の登録商標検索サイトをつかって事前にリサーチをしておき、希望する会社名の承認が取れそうかどうかのあたりをつけておくというのが有効です。
こういった商号名についてどうしても希望する会社名の承認が取れない場合に最初に検討すべき対策は3つあります。
1つは、特定のワードが既存のインド国内企業の会社名と重複しているようなケースだと、こういった企業からNOC(Non Objection Certificate)いわゆるそのワードを新会社の商号として使用することに異議ないですよ、というレターを入手する、という方法です。これは結構ハードルは高いんですけど、インド国内企業の同意が得られればこのNOCのレターを持って承認を取り付けることができる可能性はあります。
2つ目は、特定のワードが原因で承認が取れない場合は、他のワードと一緒にハイフンでつなぐ、という方法です。例えば、さっきの弊社の事例だとGLOBALとJAPANをハイフンで繋いで、GLOBAL-JAPANとして申請を出すという方法ですね。これで再申請をすることで承認が得られたケースはあるのでダメ元でトライしてみることをおすすめいたします。
そして最後3つ目は、他のワードと一緒に造語にしていしまうという方法です。例えば、さっきの弊社の事例だとGLOBALとJAPANをくっつけてしまって、GLOBALJAPANという新しい造語として申請を出すという方法ですね。これで再申請をすることで承認が得られたケースはあるのでダメ元でトライしてみることをおすすめいたします。ちなみに、インドの登記上の会社名は大文字と小文字の区別はなくすべて自動的に大文字として認識されることになります。
登記住所
2つ目は登記住所をどこにするかという論点です。
インドの現地法人設立手続きには、法人登記するための住所が必要になります。つまり、まずはどこの州に進出をするのかを決めて、そして、その州のどの住所を使って登記するかを決める必要があるわけですね。対応方法としては主に3つの選択肢があります。
1つは、例えば日本の親会社名義でオフィスの契約をしてしまってインド現地法人が設立登記され次第、契約名義を変更する方法。この場合は、よくあるパターンとしてはインド国内に様々なコワーキングスペースがあるのでこういったコワーキングスペースでまずは小さな個室やバーチャルオフィスなどの契約をしてしまうイメージです。ちなみにバーチャルオフィスの場合は法人登記に必要な書類を発行してくれないケースもあるので事前に必要書類と発行可否について確認されることをおすすめいたします。
2つ目は、ビジネスパートナーや会計事務所などがサブリース等による登記可能な住所を持っている場合には、こういった外注先に依頼をして一時的に登記用住所を借りて、法人設立後に登記住所の変更をする方法。この場合、州をまたぐ住所変更はかなり面倒なことになるので、必ず同じ州内となるように準備されることをおすすめします。
そして、3つ目の選択肢はとりあえずどの州に進出をするかどうかだけ決めてしまい、いったん仮住所で法人登記を済ませて、登記が完了してから30日以内に正式な住所を再登記する方法です。この場合、設立後30日以内に登記をしないといけないという期限があるので法人登記後すぐにオフィスの契約を済ませ、速やかに住所の登記手続きに必要な書類を準備する必要があるので設立スケジュールを見据えた事前準備が重要になります。
授権資本と払込資本
3つ目は授権資本と当初払込資本をいくらにするかという論点です。
授権資本というのは定款に記載される資本金の上限枠のことなんですけど、それに対して法人設立当初にいくら資本金として払い込むかを事前に決めておかないといけないわけですね。インドに進出してからどれぐらいの運転資金が必要になりそうかを見積もる必要があるわけですけど、検討プロセスとしては、具体的にはどのようなビジネスモデルでインドに進出をするのか、ということと、進出初年度もしくは立ち上げ初期フェーズにおいてどのような事業計画を描くかで大きく変わってくるものと思います。ここで留意しておくべきポイントが、授権資本を基準に発生する登記費用と、資金調達にかかる手間・追加コスト、そして、1億ルピー基準です。
まず、最初の登記費用についてですけど、インド現地法人を設立する際にかかる設立登記費用は授権資本の金額によって決まってくるんですね。授権資本の金額レベルや州によっても規定が違うんですけどざっくり授権資本の1〜3%程度が登記費用としてかかってくるイメージです。なので、定款に記載する資本の上限枠を高く設定すればするほどそれだけ登記費用がかかってしまうので企業様にとって最適な授権資本金額を設定する必要があります。
2つ目は資金調達の手間・コストです。増資や親子ローンなどいろいろな資金調達手段がありますけど、それぞれの手続きにはそれなりに手間・コストが発生するので来月資金が枯渇しそうとなってから検討をしていたのでは手続きが間に合わないわけです。資金調達の手続きにかなり時間がかかるということと、さらに追加で不要なコスト負担を強いられることになりますので立ち上げ当初資本金をどれぐらい注入するかは慎重にご検討いただければと思います。この辺りの資金調達手段の比較やメリット・デメリットなどについてはこちらの動画で詳しく解説をしていますのでご興味ある方はぜひご覧ください。
そして3つが1億ルピー基準です。インドには資本金によって決まってくる日本の「均等割」のような税金はないんですけど、一方で、払込資本金額が1億ルピー以上になるとカンパニーセクレタリーという有資格者を常勤で雇用しなければならないというインド会社法上の追加コンプライアンスが発生します。これは企業様にとって追加コストが発生する要因になるのでもし払込資本が1億ルピー未満でいったん足りるようなケースにはなるべくその範囲内に抑えておく、実際払込資本金を9999万ルピーなどとして、このコンプライアンスが適用対象外となるように資本金を設定している企業様もいます。
取締役
4つ目は取締役を誰にするかという論点ですね。
インド会社法上、最低2名の取締役を選任する必要があるんですけど、そのうち最低1名は居住取締役でなければならないという規定があります。居住取締役( Resident Director) というのはですね、会計年度、4月1日から翌年3月31日において182日以上つまりざっくり1年の半分以上インドに滞在している取締役のことを指します。なので、新しくインド現地法人を設立するときは、取締役になるメンバーの中にこの居住要件を満たす人がいるかどうかを確認しておく必要があるわけですね。もし、居住要件を満たす取締役がいない場合には社外の信頼できるインド人パートナーだったり、法人設立業務を委託している会計事務所や法律事務所などから居住者の名義を借りて、一時的に取締役に就任してもらってこの居住要件を満たす、というのが一般的です。
ちなみに新しく設立されたばかりの会社については初年度だけ会計年度がフルフル365日ないことになるので、会社設立日からその年度末までの期間のうち、その半分以上をインドに滞在していれば居住要件を満たすものと見なすという例外規定もあるんですけど、当局の担当官によってはこの例外規定がちゃんと理解がされていないケースが散見されます。例えば、今年度ではなくて前年度の居住ステータスを基準に判断してきたり、法的にはちゃんと居住要件を満たしているのにもかかわらずなぜか認められなかったりという具合ですね、なので、弊社としてはスムーズに法人設立手続きを進めていくためにも、すでに居住要件を満たしている人を当初取締役として選任しておくことをおすすめしています。インドでは当局の担当者レベルで法律を正しく理解出来ていないことも多くてなかなか厄介なんですよね。あと、インド現地法人設立後の取締役会の運営上の観点から言うと、取締役メンバーは3名以上いた方が運営しやすいという側面もあります。この辺りの取締役に関する詳細についてはこちらの動画で詳しく解説していますのでご興味のある方はぜひご覧ください。
株主
5つ目は株主を誰にするかという論点ですね。
インド会社法上、最低2者の株主が必要になるので、日本企業の一般的な株主構成・株式持分比率としては、例えば日本本社が99.9%の株式を保有して、海外のグループ会社が残りの0.1%とか1株だけを持って実質100%子会社を設立するという形が多いかなと思います。一方で、グループ会社がないケースや、そもそも個人が株主となるようなケースにおいては、株主総会の開催においてその個人株主が必ず出席しなければならなくなる可能性があります。つまり、年次株主総会のタイミングでその個人株主の方がインド国内にいるかどうかをその都度確認しなければならなくなりますし、また、日本人駐在員などの個人が株主になるようなケースだとその方が帰任したり退職したりした場合に株式を譲渡しなければならなくなるのでちょっと面倒ですよね。こういった背景から個人が株主になるケースでは、株主総会の運営ハードルが少し高くなってしまう可能性があるので、この点を考慮した上でだれが株主になるべきかを検討することをおすすめします。
あと、株主の選任において、名義株主は可能かという質問もよく受けるんですけど、結論から言うと可能です。ただ、名義株主(いわゆるNominee Shareholder)を選任する場合には名義株主が株主としての一定の権利を放棄することを文書で確認した上で登記するという手続きが必要になるのでこの点は留意が必要です。例えば、配当を受け取る権利についても放棄させることは可能なので、名義株主をどのように定義するのか、と言う点も考慮した上で手続きを実施していただくのが良いと思います。この辺りの株主に関する詳細についてもさっきと同じこちらの動画で詳しく解説していますのでご興味のある方はぜひご覧ください。
2. 現地法人設立登記フェーズ
それではここからは実際のインド現地法人の設立手続きについて解説していきます。
取締役を登録するための準備(DSCの取得)
まず最初に、取締役を登録するための準備(DSCの取得)からですね。
インド現地法人の設立には、取締役候補のうち最低1名のDSC(電子署名証書ですね)が必要となるので、まずはDSCを取得するところから始める必要があります。ここで居住取締役として選任予定の方がすでにDSCを持っているケースは多いので、もしその場合はいったんこの手続きをスキップすることも可能です。
商号名の事前承認申請
つぎに商号名の事前承認申請ですね。
インド現地法人の商号名については、インド登記局ROCに対して事前に承認申請をします。冒頭でお話したとおり企業様が希望する会社名については、承認される可能性があるかどうかをある程度事前に調査・検討をした上で候補名をいくつか用意しておくと良いと思います。手続きとしては1度に2つまでの候補名を申請できるので、希望する商号名の優先順位と、その候補名が承認される可能性・難易度のバランスから戦略的に申請をしてきます。もし却下された場合は、却下された理由にもとづいて他の候補名でもう1度トライできる仕組みになっています。
現地法人の設立登記申請
3番目に現地法人の設立登記申請です。
商号名が晴れて事前に承認されると、その商号名は20日間有効となります。どうしても書類の準備とかでもっと時間が必要な場合は有効期間の延長は可能なんですけど、この有効期間中にSPICe+フォームというむちゃくちゃインドっぽい名前の申請フォームを使って現地法人の設立登記を申請します。この登記申請の際には登記住所を設置する州ごとに決められた印紙税や登記費用をインド政府に支払う必要があるのでこのタイミングまでに登記費用がいくらかかるのかを事前に把握しておいて、日本からすぐに送金ができる準備を事前に進めておけると理想的です。ちなみに、このSPICe+フォームっていうのはもともといっこいっこの法人設立手続き用の申請フォームがバラバラになってたものをひとつに統合したもので、今はインド中央政府が管理する形で全体の手続きが電子化・オンライン化されて便利になりました。ただ、便利になった一方で極めて形式的なプロセスになっていて当局の担当官の顔さえ見えないので手続きが遅延している場合のフォローアップや、不明点の確認も難しくなっています。逆にいうと前だったら困った時に菓子折りなんかをもって当局オフィスの担当官に会いに行って、質問をしたり、そこをなんとか助けてくださいよ、って個別にお願いして助けてもらったり、っていうこともできたんですけど、そういった柔軟な対応が難しくなってしまったっていう側面もあります。
さて、話を戻すと、現地法人の設立登記申請にはむちゃくちゃたくさんの書類を準備する必要があります。
ざっと整理をするとこんな感じで株主側の取締役会決議書や登記簿謄本の英訳だったり、株主側署名権限者の本人確認書類や住所証明、さらに、取締役になる方の本人確認書類や住所証明、宣誓供述書やさまざまなレターへの署名やアポスティーユ認証手続きも求められます。また、日本のようにハーグ条約締結国であれば公証人役場でのアポスティーユ認証だけでOKなんですけど、例えばハーグ条約の締結国ではないタイやベトナムの場合、アポスティーユ認証ではなくその国のインド大使館で領事から認証スタンプを得ないといけないということになります。具体的にはタイの場合だと在タイ日本大使館でまず英文の在留証明書とパスポート所持証明書を入手した上で、それを在タイインド大使館に持っていって領事証明(つまり認証スタンプ)を得る、という手続きが発生する形です。
あと、設立登記申請手続きにおいてはインド企業省の登記局MCAポータルサイトを利用するんですけど、これがけっこう不安定なことがあってですね、遅延の原因になったりするケースも多いので、余裕を持ってスケジュールを組んでおく必要があります。例えば、MCAポータルサイトを通じて登記費用を支払う際、金融機関ごとに支払手続きが成功する謎の成功確率が記載されていて、この成功確率にも満たないレベルで結構頻繁にエラーが発生するのですが、一度エラーになると4時間申請ができなくなる、というなんとも不可解な仕様となっているのでむちゃくちゃ厄介です。
晴れて現地法人の設立登記が完了すると、COIという設立証明書と、PANという税務番号、TANという源泉徴収番号、そしてDINというそれぞれの取締役に発行される取締役識別番号が発行されることになります。これまですでに謎の3文字単語がいっぱい出てきていますが、インドではこういった略語がたくさん登場するのでぜひこちらの一覧を参考にしてみてください。ちなみに、取締役に発行されるDINは設立時に最大3名までっていうふうに決まっているので、法人をつくるときに取締役を4人以上にしたいときは、4人目以降の取締役は法人を設立した後にDIR-3というフォームで別途DINを取得してから、取締役を追加する必要がある点についてはご留意ください。
3. 設立登記後の立ち上げフェーズ
さて、ここからは法人設立後の手続きについて見ていきましょう。
法人設立後に対応すべき手続きとしては主に15項目あります。
- 第1回取締役会の開催(設立後30日以内)
- 銀行口座の開設と出資金の送金
- 出資金送金証明書FIRCと出資者確認書類KYCの入手
- 第2回取締役会の開催と株式割当(設立後60日以内)
- 株式割当に関するRBIへの報告(FCGPR)
- 事業開始の届出Form 20Aによる登記(設立後180日以内)
- 物品サービス税GSTの登録
- 輸出入コードIECの取得
- 店舗および施設法に基づく登録
- プロフェッショナル税の登録
- 創業費用の精算
- 源泉所得税TDSの納税準備
- インド現地法人のISIN取得
- 株主のPAN番号の取得
- 株主のDematアカウントの開設と株券の電子化
それでは1番から順番に見ていきたいと思います。
法人設立後いちばん最初にやるのが第一回取締役会の開催です。インド会社法では、現地法人の設立登記完了後30日以内に、第一回取締役会を開催することが義務付けられていて、この取締役会では、ざっとこんなアジェンダに基づいて現地法人の概要全般に関する追認だったり、銀行口座の開設、承認権限者の選任、初年度の会計監査人の選定などを決議することになります。
次に、第一回取締役会を開催してすぐに銀行口座の開設手続きを進めます。
銀行口座の開設は、資本金送金の受け皿となる口座としてむちゃくちゃ重要なんですけど、可能なかぎり日系の金融機関で口座開設をすることをおすすめしています。というのもですね、資本金を受け取ったらインド国内の受取側銀行にFIRC(Foreign Inward Remittance Certificate)及びKYC(Know Your Customer)という書類を発行してもらわないといけないんですけど、インド地場の銀行だとこの書類発行だけでも結構ご苦労されている企業様を見てきたからです。前に実際あったんですけど、出資金の送金が例えばムンバイの別の中継銀行を経由してベンガルールに着金する、みたいなことが起こるんですね。そうすると、一番最初に出資金を受け取ったムンバイの中継銀行がFIRCを発行すべきなのか、それとも最後に受け取ったベンガルールの銀行がFIRCを発行すべきなのかで見解が分かれたりするんですね。そのまま、お互いがお前が発行すべきだ、いやいやそっちで発行しろとかで平行線になったまま半年経っても必要な書類が手元に届かない、ということが起こったので。日系の金融機関であれば既にインド国内の主要拠点に支店を開設しているので、こういった書類の発行手続きもスムーズですし、口座開設準備にむけて事前に連携することもできるのでむちゃくちゃ安心感があります。
口座を開設したら、次に資本金の送金です。本社からインドルピー建てで資本金の送金手続きをします。そのときに、もし円建てで送金手続きをしてしまうと、ルピー建の払込資本金額と、円からルピーに換算された後の実際に着金する金額との間に差額が発生してしまうので、必ず資本金と同額のルピー建てで送金処理をする必要があります。差額が発生すると、過剰分は日本に返金をしなければならなくなりますし、不足分は日本から追加で送金をしてもらわなければならなくなるので、必ず資本金と同額のルピー建てで着金するよう送金処理をする必要があるわけですね。
資本金が着金したら、さっき説明をしたFIRCとKYCという書類を銀行に発行してもらいます。ちなみに、この海外送金をする際にWISEなどの海外送金サービスの利用を検討される企業様がたまにいらっしゃるんですけど、その後のコンプライアンス対応において支障が出てしまうので注意が必要です。
っていうのも、WISEのような海外送金サービスを利用すると、そのビジネスモデルの性質上、実は日本法人からインド現地法人に直接海外送金が実施されるわけではないんですよね。仕組みとしては、日本国内での円建て送金と、インド国内でのルピー建送金を組み合わせることで海外に送金がされたかのようにインド側でお金を受け取ることができるサービスになっているので、インド国外からの外貨送金であることを証明するFIRCっていう書類が入手できなくなっちゃうんですよね。このFIRCが受け取れないとインド国外からの投資であることを証明できないのでコンプラ上問題になるわけです。なので、必ず銀行窓口で正規の海外送金手続きを実施する必要がある点はご留意いただければと思います。
資本金が着金したら第2回取締役を開催して、株式の割当(Allotment of Shares)を決議します。インド会社法上、会社設立登記後60日以内に株式の割当を完了させる必要があります。株式割当の登記をするときに、取締役会決議の抜粋が必要となるので、資本金が着金した後に、第2回の取締役会を開催する流れですね。
そしてつぎにインド準備銀行に株式割り当てに関する報告します。株式の割当が完了してから30日以内に、インド準備銀行RBIのウェブサイト上でユーザー登録を行った上で、FC-GPRというフォームを使って資本金の着金と株式割当について報告をすることになります。
また、資本金の着金が確認できたタイミングで同時に事業開始の届出も合わせて登記をします。具体的には法人設立が完了してから180日以内に、INC-20Aというフォームをつかってインド登記局ROCに対して事業開始の届出をする必要があるんですけど、資本金の着金が確認できる銀行取引明細を添付する必要があるので、法人設立後はスムーズに銀行口座の開設を進めて、資本金が着金次第、銀行取引明細を共有してもらうよう金融機関とも事前に連携をしておくと良いと思います。ここまでくるとようやくインド現地法人の資金から支払ができるようになります。
次に、物品サービス税GSTの登録です。
GSTっていうのはGoods and Service Taxの略語でインドの消費税にあたる税金なんですけど、現地法人を設立したあとに登録をする必要があるんですね。一般的に、GSTの登録のときに必要な情報・書類はこんな感じです。州の管轄当局によっては別の情報や書類を求められる可能性もあるので、自社の登記住所が属する州ごとに最新の情報を確認して手続きを進めていくのが良いと思います。これらを提出して、アーダール番号によるオンラインでの認証手続きが終われば、GST登録申請が完了する流れになっています。
次に、輸出入コードIECの取得です。
IECっていうのはImport Expord Codeの略語で輸出入業務を行うために必要な番号です。必要な情報・書類はGSTと似ていてこんな感じなんですけど、申請先がDGFTというインド商工省の外国貿易部に対してオンラインで申請をする形です。あと、一度取得をしたあと登録した内容に変更がなかったとしても、毎年オンラインでその内容を確認して有効期間を更新をする必要があるので念のため確認してみてください。
次に、店舗および施設法の登録についてですね。
これはThe Shops and Establishment Actという各州政府によって施行されている法律で、特に店舗やオフィス等の商業施設、レストランとかで雇用されている労働者の労働条件等が規定されてる労働法のひとつなんですけど、例えば、営業を開始してから30日以内に登録をしなければならないっていうような規定になっています。これは州によって規定が違うのでそもそも登録が必要かどうかも含めてですね、自社が登記している州の法律を確認してみてください。
次は、プロフェッショナル税の登録についてですね。
各州政府へ納税する地方税のひとつで、日本で言うところの事業所税に近い税金かなーと思います。事業所として雇用主が納税する部分と、従業員から徴収をして納税する部分があります。例えば、ベンガルールがあるカルナタカ州の場合は、事業所としては1年あたり2,500ルピーを納税して、従業員としては月給が25,000ルピー未満の従業員の場合は非課税、25,000ルピー以上の従業員は一律で1人当たり200ルピーを給与から徴収する形になっています。これも州ごとに徴収すべき時期や納税のタイミングが異なるので、自社が登記している州の法律を確認してみてください。
次に、創業費用(Preliminary Expense)の精算について解説したいと思います。
インド現地法人が設立されるまでの間に、日本の親会社が立て替えていた費用をインド現地法人に請求する場合、それらの立替費用を創業費用(Preliminary Expense)として日本本社に送金しますけど、この精算をする際にはいくつか注意点があります。
まず1つ目の注意点としては、インドでは全ての創業費用を税務上損金算入することができず、インド所得税法35D条に規定されているこのような項目のみ、損金に算入をすることができる、という点です。
2つ目の注意点としては、これらの立替費用を創業費用としてインド国外に送金ができるのは、USD 100,000または払込済資本金の5%のいずれか高い方までと決められているので、それを超える金額を日本本社が立て替えて支払っている場合には全額を精算することができない可能性があるのでご留意ください。
最後3つ目、これは注意点というよりは留意事項という程度なんですけど、この創業費用については会計上と税務上で取り扱いが違うんですね。つまり、会計上は一括で費用計上をすることになるんですけど、税務上は最大5年間で均等償却をすることになるので、会計上の費用計上額と、税務上の損金計上額が一時的に異なる、いわゆる一時差異が発生するのでこの点も理解しておくと良いと思います。
次に、源泉所得税TDSの納税準備についても解説をしておきます。
これは経理業務の一部なので、経理の話をしだすともちろんこれ以外にも会計システムをどうするとか、月次決算をどのような体制で行うのか、とかいろいろと論点が出てきてしまいますけど、このTDSっていうのは特にこの立ち上げ初期で一番最初に対応すべきで、かつ、すぐに納税・申告が求められる税種目なのであえて取り上げて解説しておきたいと思います。
っていうのも、日本だと給与から天引きする源泉所得税以外ではそんなに源泉徴収しなければならない状況って多くは発生しないと思うんですけど、インドの場合いろいろなサービスの提供の対価として支払をする際に、インド所得税法に基づいて源泉所得税いわゆるTDSというものを源泉徴収して取引先に支払いをする必要あってですね、この徴収したTDSを翌月7日までに納税しなければならないというルールがあります。
例えば、給与だけじゃなくて、家賃や業務請負、仲介手数料、プロフェッショナルサービス、技術サービスなどサービスの性質によって、そして、支払先が法人か個人かなどによって適用される源泉税率や免税基準額がそれぞれ違うので、そもそも源泉徴収すべきかどうか、すべきだったらいくら源泉徴収して納税する必要があるのかとかをひとつひとつ確認をしていく必要があるんですね。なので、現地法人を設立したばかりでまだ事業が立ち上がっていない初期フェーズであっても、いろいろな支払は先行して発生していると思うので、TDS納税漏れや申告漏れが発生しないように注意していただければと思います。
ここからはどちらかというと株主側の手続きとして対応が必要になってくる株券の電子化に関する手続きです。株券の電子化についてはもともと公開会社にだけ義務付けられていたんですけど、2023年10月27日に発表された法改正で、非公開会社にも適用されることになった新しいコンプライアンスになっています。2025年6月現在、2025年6月末が対応期限になっていますので、それ以降は株券の電子化がされていないと新株の発行(つまり増資)とか、株式の譲渡手続きができなくなる可能性がある、という状況です。で、この株券の電子化をするためにまずインド現地法人側で対応する必要があるのがISIN(証券識別番号)の取得です。インドの証券保管所であるNSDLとCDSLにこういった書類を提出すると、数週間程度でISINが発行されることになります。
そして、株主側で対応が必要になるのがPAN番号の取得とDematアカウント(いわゆる証券口座)の開設です。Dematアカウントはインド証券取引委員会SEBIに正式に登録された金融機関にて開設する必要があるんですけど、こんな感じで法人株主の場合はとにかくいろんな書類・情報を出さないといけない上に、署名・捺印やアポスティーユ認証、ハーグ条約締結国じゃない場合はインド大使館での領事証明などが必要になってくるものもあるのでこれがむちゃくちゃ大変です。インド現地法人の立ち上げだけでもとにかく大変なので、株主側の全面的な協力体制を構築した上で、同時並行で対応を進めていけるよう準備していく必要があります。
さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?インド現地法人の設立手続きについて徹底解説してみました。インド進出を検討されている方はぜひ参考にしていただければと思います。