【2025年7月の最新ニュース】インド政府が折れた!テスラが勝ち取った関税爆下げの裏側とは
インド政府が折れた!テスラが勝ち取った関税爆下げの裏側とは
アメリカの電気自動車EV大手・テスラが2025年中の販売開始を見据えて、ムンバイにインド初のショールームを開設します。ついにテスラがインド市場に進出するわけなんですけど、ただ、これ、単なる1企業のインド進出というだけの話じゃないんですよね。実に9年間にもわたる壮絶な関税戦争が終結したことによって迎えた時代の転換点とも言えるわけです。っていうのも、もともとインドにはEV完成車に対して110%の関税をかけるというとんでもなく高い参入障壁がありました。この長年続いた膠着状態がどのようにして終わりを告げたのか、この動画では、その戦いの全貌と、テスラがインド市場で直面するであろう未来について、徹底的に深掘りしていきたいと思います。
110%の関税って何?常識破りの数字に隠されたインド政府の思惑
この110%っていう関税は、輸入EVに対してかけられる最大実効税率を指しているんですけど、実際の関税率としては、4万ドル未満の車両には70%の輸入関税、4万ドル以上の車両には100%の輸入関税をかけるというルールになっています。実際、関税率が100%を超えている品目っていうのは他にも結構あったりして、例えば、ウイスキーや日本酒などのアルコール飲料は原則150%の関税、農産物については原則100%の関税をかけていて、国内産業を保護すると同時に、関税という物品の入場料をがっつりもらうことで税収を確保しているんですよね。
ちなみに、テスラの中でもっとも売れているModel Yがインドに輸入されると言われていますけど、現行の関税率でインドに輸入をするとおそらくオンロード価格としては600万ルピーぐらい(日本円でざっくり1,000万円ぐらい)になっちゃうんですよね。これだとさすがに購買層はかなり限られてしまいます。
そもそもこの驚異的な高関税がなぜ存在するのか?もちろん、国内産業の保護や税収確保という目的はあるんですけど、それ以上にモディ政権が2014年から10年以上にわたってずっと掲げてきた国家戦略「Make in India(メイク・イン・インディア)」という政策が背景としてあります。要は「インドで製造して、インドで雇用を生み出す」つまり国内製造業の振興を目指す政策の影響が大きいわけです。インドはこれまでサービス業を中心に発展してきたという経緯もあって、全産業の付加価値に占める製造業比率はまだ20%未満とかなり低くなっています。人口が世界ナンバーワンなどと注目がされているわけですけど、むしろ慢性的なインドの失業率の高さも指摘される中で、インド政府はとにかく自国での生産をうながして、より多くの雇用を生み出すことに躍起になっているわけです。だからこそ、完成車、いわゆるCBU(Completely Built Unit)の輸入に対しては高関税を課すことで、外国企業に対して「インド国内で生産しない限りは、高値で販売せざるを得ないことになるぞ」という強いメッセージを送ってきたわけですね。
こうしたメイク・イン・インディアという製造業の振興を目指す政策は、植民地時代の経験からくる経済的独立への強い意識の現れとも言えるかもしれません。こういった背景もあって、テスラはずっとインド進出を望んでいた一方で、インド政府はテスラがインドで製造をしない限りはインド市場では戦えないような高関税という参入障壁が、9年にもわたる交渉を難航させた最大の要因だったわけですね。
イーロン・マスクの執念!2016年から始まった長い戦いの始まり
関税の実効税率110%という大きな壁を前に、多くの企業が完成車の輸入については尻込みをする中で、テスラの最高経営責任者、イーロン・マスクだけは諦めませんでした。彼のインド市場への執念は、2016年にまで遡ります。イーロン・マスクは2017年に自身のXでも、インド市場への参入に前向きであることと同時に、関税が大きな障壁であること、そして、インド国内での生産が開始できるようになるまでの一時期のみ関税を減免する優遇策の導入についてインド政府に要請をしている旨、投稿しています。つまり、テスラとしてはまずは輸入販売で足がかりを作って、市場の反応を見てから現地生産に移行する、というむちゃくちゃまっとうなインド市場への参入戦略を描いていたわけですね。
当初、テスラは比較的楽観的な見通しを持っていたみたいです。他国での成功体験から、インド政府も近い将来その門戸を開いてくれるだろうと。ただ、その楽観的な見通しは、すぐにインドの厳しい現実とぶつかることになります。インド政府はテスラの要請に対して断固として応じず、関税の引き下げ要求を繰り返し拒否しつづけてきたんですよね。こうしたテスラによるインド政府との交渉はずっと膠着状態(こうちゃくじょうたい)が続く中で、それでもテスラはインド市場へのコミットメントを示し続けます。2021年1月には、ついにテスラのインド現地法人Tesla India Motors and Energy Private Limitedを設立します。カルナータカ州バンガロールに登記を行って、ある種見切り発射的にインド市場への本格参入に向けた第一歩を踏み出したわけですね。この法人設立は、「我々は本気だぞ」とインド政府に強いメッセージを伝える意図と覚悟を持っていたわけですけど、それでもインド政府の態度は断固として変わりませんでした。「国内で生産するなら関税を下げるが、完成車を輸入するなら高関税を払え」という一点張り。この根本的な対立構造を背景に、現地法人の設立がむしろこの「長い戦い」の始まりを告げた瞬間だったわけですね。
撤退寸前からの奇跡の復活!2022年、白旗寸前の危機
2021年にインド法人を設立して、インド市場参入への本気度を示したテスラですけど、インド政府はあくまで国内生産にこだわり、高関税の維持を主張します。一方で、テスラは高関税のままでは輸入販売の採算が合わないと主張。まー当然そうですよね、テスラを高値で販売をしてそもそも買う人が少なければ、インド国内で生産に踏み切るべきかどうかの経営判断もできないわけですから、両者の溝が埋まることはないわけです。この膠着状態がピークに達したのが、2022年5月の報道です。テスラがインドでの販売計画を「棚上げ」して、すでに現地で採用していた従業員の配置転換に踏み切ったと報じて、これが事実上の「白旗宣言」と見なされて、多くのメディアが「テスラのインド進出は終わった」「テスラ、インド市場からの撤退か」と書き立てます。ただ、イーロン・マスクは、この困難な状況でも、決して諦めませんでした。この世界最大級の市場を逃すわけにはいかないと確信していたわけですね。2023年に入ってからテスラは「インドでの現地生産」を視野に入れた交渉にシフトチェンジして、大きな転換点となるイーロン・マスクとモディ首相との直接会談が実現します。
歴史的転換点!モディ首相とイーロン・マスクの運命の会談
2022年には撤退まで噂をされたテスラでしたけど、2023年6月20日にニューヨークで行われたモディ首相とイーロン・マスクの直接会談が大きな転換点になりました。何年もの間、互いに譲らなかったテスラとインド政府の両者が、それぞれ最高経営責任者と国家元首という個人が直接膝を突き合わせることで、ついに歩み寄りの道を探り始めたわけですね。その成果として、2024年3月15日にインド政府はついに、待望の新しい電気自動車(EV)政策を発表することになります。この新政策の最も画期的なところは、これまで最大実効税率110%だった完成EV車の輸入関税が、特定の条件を満たせばなんとわずか15%にまで劇的に削減されるというものです。
その条件とは主にこの2つです。
第一に、外国のEVメーカーは、インド国内で最低5億ドル(約780億円)を投資して、3年以内にEVの現地生産を開始すること。
第二に、現地で生産するEVの部品の少なくとも25%をインド国内から調達すること。そして、5年以内にはこの現地調達率を50%まで引き上げること
つまり、これらの条件を満たせば、年間最大8000台、5年間で最大40,000台のEVを15%の優遇関税で輸入できるというわけです。インド政府がなぜこの時点で大幅な譲歩に踏み切ったのか?それは、EV産業が世界の潮流であり、インド経済の新たな成長エンジンになりうると判断したからだと思われます。テスラのような世界的なEVメーカーを誘致することで、先進技術の導入、新たな雇用の創出、そして国内サプライチェーンの強化を図りたいという強い狙いがありました。実際、インド政府は2030年までに新車販売の30%をEVにするという目標を掲げていますけど、これを達成するためには外資の力が必要不可欠だと判断した、ということになります。もともとインドという国は基本的に外資を優遇するような政策は発表しない傾向にあるんですけど、メイク・イン・インディア政策をベースとする製造業の振興とEV振興を同時に実現する絶好の機会と捉えて、今回のような新しいEV政策の発表に踏み切ったものと思われます。
56,000ドルのTeslaは成功するのか?インド市場の光と影
長きにわたる関税戦争を経てですね、ついにテスラがインド市場への本格参入を実現するわけですけど、報道によると、テスラはまず最も人気があるモデルModel Yから販売を開始すると見られています。ただ、ここで一つの大きな疑問が浮上します。15%の優遇関税が適用されたとしても本当にインド市場で受け入れられる可能性はあるのかという問題です。ざっと試算をすると販売価格は470万ルピーぐらい(ざっくり800万円ぐらい)になると見込まれるんですけど、この価格帯は、インドの所得水準からするとまさに「超高級車」のカテゴリーですよね。インド人の平均年収は50〜100万円ぐらいなので、テスラの価格は平均年収の実に10倍以上ということになります。日本人の感覚で言うと、日本の平均年収を400万円とするとその10倍である4,000万円の車を買う人が果たしてどれぐらいいるのか、という感覚になるわけですけど、ここはインドの人口規模と所得格差、そして、中長期的につづく経済成長を考えると決して無謀な挑戦ではないことがよくわかります。つまり、テスラがターゲットにしているのは、インドの大多数の消費者ではなく、インドの富裕層なわけですね。インドでは、経済成長とともに中間層の拡大、中間層から富裕層に移行する人口が急速に増加しています。2025年6月に発表されたUBSグローバル・ウェルス・レポートによると、純資産100万ドル以上(つまり、1億5,000万円以上の資産を持っている)インド人富裕層の数はすでに約92万人近くまで迫っていて、今後ますます増えていくと予測されています。こういったインド人富裕層はブランド志向が強くて、かつ、昨今の環境意識の高まりもあって、テスラのような先進的なEVに関心を示す層は確実にいると思われます。ちなみに、純資産100万ドル以上の富裕層はアメリカに約2,200万人、中国に600万人いると言われていて、インドも上位にランクインしているのでインドはもはや世界有数の富裕層大国と言えるわけですね。
一方で、インド市場は、光だけじゃなくて、テスラが克服すべき影も数多く存在します。一つは、EV充電インフラの整備です。インド国内のEV市場が急速に拡大しているとはいえ、EV比率はまだまだ低くて、四輪車市場におけるEV比率は全体の2〜3%程度と言われています。っていうのも、インド国内のEVのほとんどはまだ二輪車・三輪車が主流で、インド全体の充電ステーションの数も、欧米や中国に比べるとまだまだ限定的です。普段私がバンガロールで生活をしていてもいまだに毎週のように停電が起こっているので、充電ステーションの整備とかほんまにできるんかいな、と思ってしまいますが、テスラとしても、単にEV車両を売るだけじゃなくて、充電エコシステムの構築に対しても積極的に関与・協力をしていく必要性も出てくるんじゃないかと思います。
そういう意味において、テスラのインド進出というのは、単に一つの自動車メーカーが新たな市場に進出したというニュース以上の意味を持っています。インドのEV市場は、現時点でまだ国内メーカーであるタタ・モーターズ(Tata Motors)やマヒンドラ(Mahindra & Mahindra)が主導していて、手頃な価格帯のモデルが中心のタタのEVは市場の約7割を占めています。中国のBYDもインド政府による投資規制もあって苦戦しています。なので、テスラのインド進出が、充電インフラの拡充や、バッテリー生産能力の強化など、EVが普及するために必要なインフラの領域におけるさらなる投資を呼び込む可能性もあるので、インドにおけるEV化時代の幕開けを告げる、歴史的な瞬間とも言えるのかもしれません。
さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?今回はですね、「米テスラのインド進出」というニュースを取り上げてテスラの戦略やインドEV市場への影響について解説してみました。インドへの事業展開を検討されている方はぜひ参考にしていただければと思います。