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【航空業界】インド国内LCCインディゴの誕生秘話と成長戦略!

今回はですね、インド国内LCCであるインディゴの誕生秘話と成長戦略について解説してみたいと思います。

近年、インドの航空業界は目覚ましい成長を遂げており、その中でもインディゴ(IndiGo)は圧倒的なシェアを誇るLCCとして注目を集めています。実は、インドにはかつてむちゃくちゃたくさんの航空会社が参入をしていたんですけど、そのほとんどが市場から撤退をしています。そんな中でなぜインディゴだけがここまで圧倒的な国内シェアを誇るまでにいたったのか。今回の動画では、『The IndiGo STORY』という書籍の内容も交えながらですね、そんなインディゴの驚異的な成長と戦略について分かりやすく解説してみたいと思います。インド市場を狙う企業様にとって、きっと参考になる市場開拓のヒントが隠されていますのでぜひ最後までご覧ください。

インド国内LCCインディゴとは?

インディゴ(IndiGo)はインドの航空会社「InterGlobe Aviation」が運営する航空ブランドで、2006年に運航を開始したインド国内最大の格安航空会社LCCです。InterGlobe Aviationは、旅行代理店事業を行うInterGlobe Enterprisesのラフル・バティアと、米国を拠点とするインド系アメリカ人で元USエアウェイズCEOのラケシュ・ガングワルという2人の実業家によって共同設立された航空会社です。現在、旅客数とそして保有機材数でインド国内最大、インド国内線の市場シェアで60%以上にまで達していて、その強さは圧倒的です。IndiaとGoを組み合わせたブランド名で、インドの特産品であるインディゴの藍色をコーポレートカラーにしています。インドの航空会社は基本的に暖色系のコーポレートカラーが採用されるケースが多いんですけど、藍色の寒色系カラーは結構珍しいですよね。ちなみに、国際航空運送協会(IATA)におけるコードは、例えばJALだったらJL、エアインディアだったらAI、タイ航空ならTG、シンガポール航空はSQといった感じでローマ字2つが割り当てられるのが一般的ですけど、インディゴは「6E」となっていてこれも結構珍しいですよね。ただ、このユニークなコードがちょっとしたユーモアで良い意味で注目されたりもしています。例えば、Hello 6Eとか6E Travelみたいに表現することで、Hello SexyとかSexy Travelといったニュアンスを持たせて注目を浴びたり、競合他社であるAkasa AirがHappy 6Eteen !と投稿して、インディゴの16周年記念を祝ったりする微笑ましいSNS投稿もあります。

とにかくインディゴは、低コストLCCでありながら、定時運航への徹底的なこだわりと、高品質なサービスを提供することで、一般的なLCCのイメージをも覆すユニークなポジショニングを取ることに成功しています。

インディゴが強い理由と実績

インディゴがなぜこれほどまでに強いのかを、その理由と具体的な実績をひとつひとつ見ていきたいと思います。

まず最初にあげられるのが、徹底したコスト管理と健全な財務戦略です。インディゴは、厳格なコスト管理とキャッシュフロー管理を徹底していると言われています。ほとんどの航空会社が燃料費の高騰とか経済低迷によって苦しんだ2008年から2011年の間も、インディゴは一貫して黒字を維持していたんですよね。特にキャッシュフロー管理に大きな影響を与えたのが、2005年当時にセール・アンド・リースバック方式によってエアバス社との間で契約を締結した航空機機材の調達方法です。どういう仕組みかというと、航空機ってむちゃくちゃ高いですよね、なので、大量に一括購入することで大幅な値引きを適用すると同時に、買った機材をすぐに売却してリース契約に切り替えることで初期費用を抑えるっていう契約方法を採用したわけです。

しかも、借金をして大量に機材を買ってしまうと資産も負債も膨れ上がってかなり重たくなってしまいますけど、リースバック方式だったらオフバランス化することができるので、決算書の見栄えがむっちゃよくなるんですよね。ただ、なぜ大手航空機メーカーであるエアバスが、その当時創業したばかりのスタートアップ企業インディゴと大量一括購入の契約を締結できたか、ここには2つのストーリーがあります。

1つは、インディゴの共同創業者であるガングワル氏とのアメリカでの出会いです。
インディゴの共同創業者であるガングワル氏は、インド系アメリカ人なんですけど、インディゴを共同創業する前はアメリカの航空会社USエアウェイズのCEOとして、積極的にエアバスの機材を起用していた経緯があるんですね。エアバスはフランスの航空機メーカーですけど、アメリカ市場ではアメリカの航空機メーカー・ボーイングなどの競合がいる中で、そういった競合を差し置いて大型受注ができるっていうのはむちゃくちゃ大きいですよね。事実、エアバスにとってUSエアウェイズはその当時最大の顧客企業だったようで、ある意味、アメリカのUSエアウェイズ時代にガングワル氏に対する恩とそして彼との確固たる信頼関係があったことが大きく影響しています。

もうひとつのストーリーは、1990年にバンガロールで発生したインディアン航空の死亡事故です。
ムンバイからバンガロールHAL空港への着陸時に墜落して、92名の命が失われたという悲惨な事故だったんですけど、この時に使われていた機材がエアバスA320だったんですね。墜落した原因は操縦士のヒューマンエラーだったとの調査結果が出ているので、エアバスの機材に直接的な問題があったわけではないと言われていますけど、ただ、この墜落事故をきっかけにインド市場におけるエアバスの評判も失墜してしまったわけです。なので、インディゴからの大量一括購入は、エアバスにとってまたとないビジネスチャンスだったわけですね。つまり、ガングワル氏とのアメリカ市場での信頼関係と、そして、インド市場での事業拡大の契機が重なって、創業間もないインディゴとの大量発注契約という一見リスクが高そうに見えるにディールにGOサインが出せた、ということになります。

そして、インディゴが強い2つ目の理由が、単一機種戦略と新機材の積極導入です。
インディゴは主にエアバスA320ファミリーの単一機種での運航をすることで、乗務員の訓練や機材整備を効率化してコスト削減を図っています。エアバスからの大量一括購入契約により機材コストを削減していると同時に、さらに「シャークレット」などの新技術を導入した燃費効率の良い機材A320neoを活用することで、運用コストを低く抑えています。

インディゴが強い3つ目の理由が、顧客満足度へのこだわりです。
「定時運航、低コスト、高いサービス基準」という3つの柱に焦点を当てることで顧客から厚い信頼を獲得することに成功しています。世界的なフライトデータプロバイダーであるOAGが2023年1月に発表したデータによると、インディゴは全世界の航空会社の中で15番目、メガエアラインの中ではなんと世界で5番目に時間厳守の航空会社と評価されています。ちなみにメガエアラインではANAが世界トップ、第2位がJALなので日本企業の時間厳守はやはりさすがですね。

動画を見る

インディゴの保有機材と運航数

2025年3月時点でインディゴは主にエアバスA320やA320neo、そして、A321neoを中心に構成された400機以上の機材を保有しているんですけど、地域路線向けにはターボプロップ機ATR 72-600も保有していたり、急速な需要に対応するため、トルコ航空やカタール航空などの航空会社各社からボーイングの機材をウェットリースしたりもしています。ウェットリースっていうのは、機材だけじゃなくて乗務員や整備士などのサービスも含めてセットでリースする契約形態のことですね。あと、貨物部門のインディゴ・カーゴは、3機のエアバスA321貨物機も保有しています。

ちなみに、1日あたりの何便ぐらい飛んでると思いますか?2025年6月時点でなんとインディゴは1日あたり2,200便超も飛ばしてるんですね。1日1,000便以上運行しているインドの航空会社は他にありません。むちゃくちゃすごくないですか?この圧倒的な運航数でありながら、創業から今まで18年間一度も死亡事故を起こしたことがない、という輝かしい実績を残しています。

インド航空業界の歴史

インドの航空業界はインド国営企業が独占していた時代もあったんですけど、その歴史は主に4つの時代に区分することができます。1911年から1953年までのインド航空の黎明期、1953年から1990年までの国営企業による独占時代、1991年以降の民間航空の参入時代、そして、2003年以降のLCCによる変革期の4つです。

1つ目の時代がインド航空の黎明期です。(1911年~1953年)
今回いろいろ調べていて初めて知ったんですけど、実はインドは世界で初めて航空郵便を実施した国として知られています。1911年にインドで開催されていた万国博覧会の「ユナイテッド・プロビンス・エキシビション(United Provinces Exhibition)」というイベントで、フランス人パイロットのアンリ・ペケ(Henri Pequet)が約6,500通の手紙やハガキをイベント会場から8キロほど離れたインド国内の郵便局に届けた、という記録が残っています。これ、実際にインドでも切手のデザインになっていますし、アンリ・ペケの母国であるフランスでもこんな感じで切手になっています。そんな豊かな航空業界の歴史を持つインドは、タタ財閥の一族であるJ.R.D.タタが、1932年にタタ航空(これが後のエア・インディアなんですけど)これを設立して、インドの民間航空事業をスタートさせます。ちなみに、タタ航空の創設者J.R.D.タタはインド人の父親とフランス人の母親のもと、パリで生まれていて、インドの航空業界は意外にもフランスに強いゆかりを持つ、華々しいスタートをきっているんですね。

2つ目の時代が国営企業による独占時代です。(1953年~1990年代)
1953年にインド議会で「航空公社法(Air Corporation Bill)」っていうのが制定されたんですけど、これによって航空輸送部門が国営化されることになりました。具体的には国際線を担うエアインディア公社と、国内線を担うインディアン航空公社がそれぞれ設立されて、その当時航空輸送事業を展開していたタタ航空を含む8つの民間航空会社が全部に国営化されたわけですね。この国営化って戦後に見られた世界的な流れで、日本でも国鉄とか電電公社とかたばことかの専売公社とかがありましたよね。この時代は1990年まで続くんですけど、航空機技術の革新によって世界の民間航空が飛躍的に成長した時代でもあります。

3つ目の時代は民間航空の参入時代です。(1990年代~)
1986年に民間事業者が「オンデマンド・エアタクシーサービス」を提供することが許可されたんですけど、1990年代に導入された「オープンスカイ政策」と1994年に発効した「航空会社(事業移管・廃止)法」(Air Corporations Transfer of Undertakings and Repeal Act, 1994)の制定によって、実質的に国営企業による独占は完全に終了します。この時代にはジェットエアウェイズやサハラ航空、モディルフト航空、キングフィッシャー航空などむちゃくちゃたくさんの民間航空会社がインド市場に参入したんですけど、インド在住者であれば分かると思いますが現在はそのどれも残っていないですよね。

そして4つ目の時代、現在はLCC台頭による市場変革期です。
インドでは2003年以降にたくさんのLCCが市場に参入したんですけど、エアーデカンやスパイスジェット、ゴーエアー、インディゴなどの格安民間航空会社LCC次々に市場に参入して、さらに、タタとシンガポール航空の合弁事業としてヴィスタラ航空が参入したり、タタとエアアジアの合弁事業としてエアアジアインドが参入して徐々に外資航空会社の資本参加という新しい流れも生まれて競争が激化していく中で、現在市場で圧倒的な存在感を示しているのがインディゴというわけですね。あと、2022年にはアカサエアーというという新しいライバルも登場してきてしていて、インディゴとアカサの戦いについてはこの後少し解説をしたいと思います。

インディゴの新たな戦い

ちなみにこれまで順調に成長をしてきたインディゴもある報道をきっかけに新たな節目を迎えていると言われています。それがインディゴの創業者間での経営方針を巡る対立に関する報道です。共同創業者であったラケシュ・ガングワル氏がこの対立をきっかけに辞任してしまい、そして保有株式をすべて売却予定であるという報道がされています。一方で、2022年に運航を開始したばかりの後発LLCのアカサエアーは、設立から2年足らずで国際線運航を開始するなどものすごいスピードで攻勢を強めています。ただ、アカサエアーも大きな後ろ盾を失う事件が起こります。つまり、主要投資家であった“インドのウォーレン・バフェット”ことラケシュ・ジュンジュンワラ氏が突然他界してしまうんですね。アカサ・エアは、LCCでありながらサービスにも力を入れるという点で、インディゴと似たビジネスモデルを掲げていて、インディゴにとっては初めて本当の意味でのライバルが出現したことになるんですけど、インディゴを離脱したガングワル氏が、なんならアカサ側に加わるのではないかという噂さえ出ている状況です。

そして、インディゴにとって最大の脅威はもちろんタタ財閥です。タタ財閥は、政府から買い戻したエア・インディアと、シンガポール航空との合弁事業であったヴィスタラ、そして、マレーシアのエアアジアとの合弁事業をリブランドしたエア・インディア・エクスプレスを傘下に持っています。これら3つの航空会社を合わせた市場シェアは2割を超えていて、タタ財閥はインディゴにとっては強力な挑戦者としての地位を確立しています。ただ、2025年6月に発生したエア・インディアの墜落事故でエア・インディアは再び厳しい状況になっていて、この窮地をどのように建て直していくことができるかが注目されています。

インドでは中間層の増加により、航空旅客数が年々伸びていて、特に初めて海外旅行に行くインド人が爆増している状況です。このような市場環境において、インディゴはこの需要に応える形で、国際線拡大を視野に入れていて、具体的には、エアバスA350-1000やボーイング787-9ドリームライナーなどのワイドボディー機を導入したり、欧米や中東、東南アジアの航空会社とのコードシェア契約や提携関係をどんどん強化していくことで、単なる国内LCCにとどまらない世界的な航空会社へと進化を遂げようとしています。

さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?今回はインド国内LCCであるインディゴの誕生秘話と成長戦略についてについて解説してみました。インド市場への参入を検討されている企業様はぜひ参考にしていただければと思います。