【2025年8月の最新ニュース】仏教がインドで衰退した本当の理由とは?複雑すぎる歴史の裏側【ダライラマ】
インドの経済やビジネスに関連する最新ニュースを毎月1つ取り上げて解説する新企画、今回はですね、「チベット仏教の後継者問題」というニュースを取り上げて、仏教発祥の地であるインドにおける仏教の過去・現在・未来についてみなさんと一緒に考察してみたいと思います。
仏教はインドで生まれたにもかかわらず、現在インド国内の仏教徒の割合は0.7%とむちゃくちゃ少ないと言われています。仏教発祥の地であるにもかかわらず、なぜここまで少なくなってしまったのか、そこには複雑な歴史とインド特有の社会的背景があるんですよね。そこでこの動画では、インド駐在員が理解しておくべき仏教について、インドでは仏教がどのように発展し、衰退し、そしてまた再び注目をされているのかについて詳しく解説してみたいと思います。
ダライ・ラマの後継者問題
現在、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世は7月6日に90歳になったばかりなんですけど、後継者問題についてずっと注目されてきました。っていうのも、チベット仏教では輪廻転生制度の歴史があってですね、最高指導者ダライ・ラマというのは観音菩薩の化身、そして亡くなったあとはその適性を備えた幼児が「転生者(tulku)」として生まれ変わると言われてるんですね。つまり、亡くなったあと数年で誰に転生をしたのかを高い位の僧侶たちが探し出して認定する、という手続きをとることになります。
一方で、チベットの大部分は中国に実効支配されている状況の中で、2007年に中国は化身ラマの生まれ変わりの認定に対しては中国国家の許可を義務付けるという一方的な法律を制定します。中国政府としては、ダライ・ラマ14世は「チベット独立を図る分裂主義者」だと言って、ずっと敵視してきた経緯があるので、その生まれ変わりを中国政府の息のかかった人物にしてチベット仏教をコントロールしたいわけですね。実は、ダライ・ラマ14世はすでに30年ほど前、その当時6歳だった少年を生まれ変わりとして正式に認定したにもかかわらず、その直後に両親とともに消息不明となっていて、中国政府が別の少年を生まれ変わりに認定したという事実まであります。なかなか闇の深い話ですよね。
800年の空白 – 故郷で消えた仏教の歴史
まずは、仏教発祥の地インドにおける仏教の発展と衰退について見ておきたいと思います。ブッダ、つまり、ゴータマ・シッダールタが紀元前5世紀頃にインド北部・現在のビハール州ブッダガヤで悟りを開いてから、仏教はインド全土に広がっていったと言われています。特に有名なのが、紀元前3世紀のマウリヤ朝のアショーカ王。彼は仏教をインドの国教として広めて、さらにインド国内のみならず、スリランカや東南アジアなどの周辺地域まで布教を進めたって言われています。ただ、その後にインド国内では仏教の勢力がどんどん衰えていきます。理由はいろいろあるんですけど、一つはヒンドゥー教の再興ですね。7世紀以降、シヴァ神やヴィシュヌ神を中心にしたヒンドゥー教の勢力が再び強まってきて、寺院や学問の中心もヒンドゥー系に移っていったんですね。
さらに大きな影響を受けたのが、12世紀以降のイスラム勢力の侵入ですね。特にトルコ系やアフガン系のイスラム王朝が北インドに入ってくると、仏教の寺院や僧院がどんどん破壊されてしまいました。有名なのが、大乗仏教の一派・密教の学術基盤として発展したナランダ大学やヴィクラマシーラ大学。これらは当時、仏教の最高学府とされていた場所なんですけど、1200年頃にトルコ系のイスラム軍によって徹底的に破壊されて、かつ、僧侶が虐殺されてしまいます。
これを機に、仏教徒や僧侶たちは命の危険から隣国のチベットやネパール、スリランカに逃げていってですね、インド国内の仏教は実質的にほぼ消滅してしまったわkです。あれだけ繁栄していた仏教が、突然姿を消したかのように歴史からフェードアウトして、まさに「800年の空白」と呼ばれる時代がここから始まります。
1億人の衝撃:カースト解放と仏教の奇跡的な復活
800年ものあいだ、ほとんど姿を消していた仏教が、近代になって突然「復活」したきっかけ…それが、「カースト制度」と深く関係しています。
インドの社会には、何千年も前から続くカースト制度っていう階級制度がありますよね。特にカーストにさえ入らない「アウト・カースト」とか「アンタッチャブル(不可触民)」などと呼ばれている最下層の人たちは、教育や職業、結婚の自由すら制限されて、ずっと差別され続けてきました。そんな不条理に真っ向から立ち向かったのが、インド憲法の草案をつくった人としても知られるビームラーオ・アンベードカル博士。っていうのも彼自身がアウト・カーストの出身で、子供のころから壮絶な差別を受けて育ったんですよね。彼はヒンドゥー教の枠の中だと人間としての尊厳を守ることができない、平等に重んじる宗教に生まれ変わろう、そう考えて、仏教に改宗することを決意します。1956年10月にインドの中心、おへそにあるナグプールという街で仏教に改宗し、なんとその場に集まった約50万人の人々も一斉に仏教徒になったんですね。これが現代インドにおける「仏教再興運動」の始まりで、さらに、現在このインド仏教の最高指導者の立場にいるのが元日本人の佐々井秀嶺さんです。カースト制度とインド仏教の繋がりについてはこの動画で詳しく解説していますのでご興味のある方はぜひご覧いただければと思います。
冒頭でもお話をしたとおりインド国内の仏教徒は、2011年の国勢調査(こくせいちょうさ)に基づく統計データによるとインド人口のたったの0.7%、約840万人ほどとされていますが、実際には信仰や文化的アイデンティティとして仏教を選んでいる人はすでに1億5千万人を超えているとも言われています。消えたはずの仏教が、現代のインドでまさかの「差別をなくすための社会運動」として生まれ変わったわけですね。
ヒンドゥー至上主義の波:復興仏教への新たな圧力
さて、仏教がインドで再び注目を集める中、もう一つ見逃せない動きがあります。それが「ヒンドゥー至上主義」の台頭です。
2014年にナレンドラ・モディ首相が率いるインド人民党BJPが政権を握って以来、インドではヒンドゥー教を国家の中心に据える動きが強まってきています。この背景には、1925年に設立された民族奉仕団(RSS)という団体の影響があります。RSSはBJP政権の母体とも言われていて、インドをヒンドゥー教徒の国にしようとしています。 このような動きの中で、イスラム教徒や仏教徒を含む少数宗教の信者たちは、さまざまな圧力に直面しています。例えば、2019年に制定された市民権改正法(CAA)は、アフガニスタン、バングラデシュ、パキスタンからインドに入国した「ヒンドゥー教、シク教、仏教、ジャイナ教、ゾロアスター教、キリスト教」の一定の難民に対して市民権を与えるという内容だったんですけど、イスラム教徒を除外する内容となっていて、明らかな宗教的差別が懸念されています。あと、仏教の聖地ブッダガヤにあるマハーボーディ寺院はUNESCOの世界遺産にも登録されているんですけど、この場でヒンドゥー教の儀式が常態化していて、仏教徒が実質的な管理権を行使できないという実態もあります。 さらに、インド政府は歴史の教科書からイスラム教徒や仏教徒の貢献を削除するなど、ヒンドゥー教信仰に偏った歴史の再解釈を進めているとも報道されています。これによって、仏教の歴史や文化が軽視される傾向が強まっているわけですね。 そんな中で、インド仏教とはまた異なる背景を持つチベット仏教がインドに与える影響と、インド政府の外交戦略について見ていきたいと思います。
リトル・ラサの光:インド外交戦略としてのチベット仏教
インド北部、ヒマーチャル・プラデーシュ州の山間に位置するダラムサラっていう街をご存知でしょうか?ここは、1959年にダライ・ラマ14世が中国からの圧力を逃れてインドに亡命をして以来、チベット亡命政府の本拠地となっている場所で、「リトル・ラサ」とも呼ばれています。ダラムサラには、ダライ・ラマの住居であるナムギャル僧院や、チベット仏教の伝統を守るための教育機関、文化施設が集まっています。あと、カルナタカ州マイソール近郊にあるバイラクーペという街も、その当時マイソール州政府がチベット難民を支援した経緯があって、今ではチベット仏教の地域コミュニティ運営拠点として多くのチベット人が住んでいます。
こういった地域では、チベット本土では制限されている宗教活動や文化の継承が自由に行われていて、多くのチベット人難民がインドで生活を送っているわけですね。 インド政府は、ダライ・ラマとチベット亡命政府、そしてチベット仏教を保護することで、中国との外交関係において戦略的な立場を確保しているわけです。特に、ダライ・ラマの後継者問題においては、中国がダライ・ラマ次期生まれ変わりの選定に介入しようとする動きがあるので、インドは慎重な対応を求められています。つまり、中央チベット政権の本拠地であるダラムサラはチベット仏教の精神的な中心地であると同時に、インドの外交戦略においても重要な役割を果たしているわけですね。
未来への布石:ダライ・ラマ継承とインドの選択
さて、ダライ・ラマ14世は今年90歳を迎えられました。1989年にはノーベル平和賞を受賞して、チベット仏教の最高指導者として世界中の人々に影響を与えてきたその存在は、まさに「生きる仏」とも言えるかもしれません。そして、インド仏教の最高指導者である佐々井秀嶺さんも今年の8月で90歳を迎えることになります。今後チベット仏教とインド仏教それぞれの後継者はどうなっていくのか?ダライ・ラマ14世自身は、生前に後継者を指名する可能性を示唆した上で、後継者はチベットではなく、インドなどのチベット以外の国で生まれる可能性についても言及しています。インド政府にとってもここは難しい問題ですよね、もしチベット仏教の後継者がインド国内で認定されれば、中国との関係にも何らかの影響を及ぼす可能性があるからです。また、インド仏教にはそもそも後継者選定の儀礼や制度的な仕組みもないので、インド仏教復興運動のリーダーシップが次の世代にしっかりと引き継がれるかどうかも注目されるところです。仏教発祥の地インドで失われた栄光と差別への抵抗、そして新たな社会運動としての仏教再興が今後どのような展開を見せるのか、こうしたインドにおける仏教の歴史を知るにつけ、信仰が単なる個人の内面にとどまらず、社会や国家のあり方をも左右する力を持つということをあらためて認識させられるわけですけど、多様な国インドが、多様な宗教の見事な共存を実現できるのかどうか、見守っていきたいと思います。
さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?今回は「チベット仏教の後継者問題」というニュースを取り上げて、インドの仏教とその歴史について解説してみました。インドへの移住やインドでの事業展開を検討されている方は、ぜひ参考にしていただければと思います。