【インド進出の登竜門】輸出ビジネスの失敗事例から学ぶ代理店との付き合い方
今回はですね、日本からインドへの輸出ビジネスをする際に検討される販売代理店との契約について、そのメリット・デメリットを解説してみたいと思います。
インド進出を検討する際に、まず最初に出てくる選択肢が販売代理店との連携です。つまり、インドに現地法人をつくらず、日本からの輸出取引のみでインド市場への参入を試みるやり方ですね。身軽に始められて手っ取り早いっていう点ではいいんですけど、ただ、この方法で大成功しているケースって正直ほとんど聞いたことないんですよね。っていうのも、販売代理店との付き合い方だったり、今後の事業展開にうまく繋げていく上で押さえておくべきポイントがたくさんあって、そこが押さえられていないケースが散見されるからです。そこで、今回の動画では日本からインドへの輸出ビジネスを成功させるための重要な論点について解説したいと思います。
販売代理店と言っても、人によってその定義がぜんぜん違ったりするので、まずは代理店(いわゆるエージェント)との契約と、販売店(いわゆるディストリビューター)との契約をそれぞれ分けて定義した上で、そのメリット・デメリットについて解説していきたいと思います。
代理店契約(エージェント契約)
まずは、インド国内の代理店との契約、いわゆる「エージェント契約」ですね。この契約形態は、日本本社がインド市場でビジネスを展開する際にいちばん手っ取り早いアプローチと言えます。つまり、メーカーや商社機能を持つ企業様側が契約当事者となって、直接インド国内の顧客と売買契約を結ぶことを前提に、インド国内の代理店とはあくまでその仲介や販売支援を委託するためのエージェント契約を締結して、成功報酬として例えば売上高の◯%みたいな計算ロジックで販売手数料・コミッションを代理店に支払うことになります。
つまり、企業様が持っている商品の所有権は代理店には一切移転することなく、日本本社から直接インド国内の顧客へ移転するイメージですね。
なので、在庫リスクや信用リスクは、すべて日本本社が負うことが前提になります。つまり、商品が売れ残った場合のリスクや、顧客からの代金回収リスクは日本本社が負うわけですね。商品に関する責任、例えば商品に対する保証や品質に対する責任も、基本的には日本本社が負うことになります。
メリット
このエージェント契約の最大のメリットは日本本社が商流を完全にコントロールできる点です。顧客との直接契約なので、価格設定や取引条件などを本社が主導できます。また、インド国内の代理店側は在庫を持たないので、代理店側に運転資金の圧迫や在庫評価損などのリスクを負わせることがなく、代理店との新規取引を始めやすく、また、万が一インド市場から撤退したい場合でも簡単に取引を辞めることもできます。
デメリット
一方で、デメリットも当然あります。顧客データが代理店を経由することになるので、市場のニーズや顧客の動向をスピーディーに把握するのが難しくなるケースが想定されます。また、インド現地に在庫がないので、顧客への納品にはどうしても時間がかかってしまう、急な注文や少量多品目のニーズに対応しにくいっていうことが起こります。あと、少し小難しい話にはなりますが、このエージェント契約に基づく仲介サービスはインドGST法上の「Intermediary Service」に該当するので、GSTの非課税処理ができず、販売手数料・コミッションに対して18%のGSTが課税される点は注意が必要です。
エージェント契約締結時の重要ポイント
ちなみに、エージェント契約を締結する際にむちゃくちゃ重要なのが、契約期間を限定しておくことと、そして、契約解除条項をちゃんと明記しておくことです。エージェント契約を解除したいと思ったときに、契約期間の定めがなかったり、契約を解除できる明確な事由が明記されていないようなケースだと、代理店に訴えられるリスクが高すぎて先に進めない、なんて状況にもなりかねません。なので、不用意な係争状態におちいることがないようしっかりと事前に対策しておくことをおすすめいたします。
インド国内販売店契約(Distributor)
次に、インド国内の販売店との契約、いわゆる「ディストリビューター契約」について解説したいと思います。こちらは、インド国内の販売店に比較的大きな裁量と責任を持たせる形になるので、エージェント契約よりもう少し踏み込んだアプローチと言えます。つまり、インドの販売店が契約当事者となって顧客と直接売買契約を結ぶことになるので、日本本社はサプライヤーとしてこの販売店に対して商品を輸出販売し、販売店側に商品を引き渡した時点で所有権が移転する前提ですね。販売店が商品を買い取り、それをインド国内で再販する形です。
なので、在庫リスクや信用リスクは、原則、インドの販売店側が負担することが前提になります。販売店が商品を仕入れるため、売れ残りリスクや顧客からの代金回収リスクは販売店側が負うことになりますけど、商品に関する責任は、企業様側が引き続き製造物責任を負う一方で、販売責任は販売店側が負う形になるので、日本の企業様側とインドの販売店側の双方が関与する形になります。販売店側はいわゆるバイセルに基づく転売差益(要は、仕入価格と販売価格の差額ですね)この価格差から収益を上げるモデルです。
メリット
このディストリビューター契約の最大のメリットは、インド現地に在庫を持つので納期を短縮することができて、急な需要にも対応しやすくて、顧客満足度向上に繋がりやすいという点だと思います。つまり、インド国内の顧客側から見れば「インド国内の取引」になるので、安心感・信頼感が高いわけですね。国内企業同士の取引ということで、商習慣の違いによる摩擦も軽減できるといった副次的なメリットもあると思います。そして、企業様側にとっても輸出取引の時点で代金を回収できるため、エージェント契約よりもキャッシュフローが安定しやすいというメリットがありますよね。
デメリット
ただ、デメリットも考慮しておく必要があります。最も大きいデメリットは、在庫リスクと信用リスクをインドの販売店側が負担することになるので、販売店側にある程度の資金力・在庫管理能力、その業界における専門性が必要となる点です。つまり、企業様側としては販売店候補に対して十分なデューデリジェンスを実施して、販売店として本当に適切かつ十分な能力を持っているかどうかを事前にチェックしておく必要があるので、販売店との取引をスタートするハードルが比較的に高く傾向にあります。
ディストリビューター契約締結時の重要ポイント
ちなみに、ディストリビューター契約を締結する上で知っておくべき重要なポイントとして、主に独占権の付与、最低購入量条項、そして、契約解除条項があります。
まず、独占権の付与については指定地域における独占権をExclusiveに付与する場合、もちろん販売店にとっては大きなインセンティブとなるので売上がより増える可能性が高くなるわけなんですけど、ただ、残念ながら結果的に販売店のパフォーマンスがイマイチで、他の販売店にディストリビューター契約を切り替えたい、もしくは、いよいよ自社の販売拠点としてインド子会社を設立したい、みたいな状況になった場合、独占権の付与に邪魔されてしまって契約の切り替えも子会社設立もできない、つまり多大な機会損失につながってしまう、ということにもなりかねないわけです。なので、独占権を付与する場合は対象地域や契約期間を限定的にするなど、慎重に締結する必要があります。
次に、最低購入量条項については独占権を付与する場合にセットで設定される条項ですね。要は、あなたに独占権を付与してあげるんだから、その代わりに、最低でもこれだけは購入してくださいね、という約束を取り付けておくというものですね。そりゃそうですよね、独占権を付与したにもかかわらず、ぜんぜん販売してくれなかったらものすんごい機会損失になっちゃうわけなので、そこを担保しておくために最低購入条項っていうのがあるわけです。内容としては、最低購入量に満たない場合は独占権を剥奪しますよ、とか、損害賠償請求しますよ、みたいな内容になるんですけど、ここで注意が必要なのがたまーに違約金つまりペナルティを設定しているケースもあるんですけど、インドではペナルティの設定が違法・無効と判断される可能性があるのでその点は注意が必要です。
契約解除条項もむちゃくちゃ重要です。特に独占権を付与する場合の契約解除条項については、契約解除ができる一定の理由を可能な限り幅広くかつ具体的に明記・合意しておく必要があるわけですね。もちろん、理由を問わず契約解除できる条項をいれることができれば理想的ですけど、独占権を付与するケースだと販売店側も当然理由なく突然契約解除されては困るので、理由を問わず契約解除というのは合意できないケースが一般的です。
ちなみ、日本はウィーン売買条約(United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods)の締約国なので、日本国内の法人がウィーン売買条約締約国に所在するディストリビューターとの間で販売店契約を締結する場合には、この国際売買における共通ルールとも言える「ウィーン売買条約」が原則として当該販売店契約に自動的に適用されることになります。例えば、商品が契約仕様や通常の使用目的に適合してなかったら買主側が損害賠償や契約解除ができるといった瑕疵担保責任などが自動適用されるわけですが、インドは、ウィーン売買条約の締約国ではないので、インド国内のディストリビューターとの契約においてこれが問題になることはありません。
代理店・販売店との付き合い方
これまでご説明をしてきた代理店や販売店と連携をするメリット・デメリットや契約締結時の留意点だけでなく、より実務的、かつ、継続的な事業拡大において重要になってくるのが代理店・販売店との付き合い方です。
インドの文化を考慮した重要な付き合い方の工夫として、経営陣同士の定期的な対話や、マーケティングおよびブランディングの積極支援、そして、販売コンテストや表彰制度におけるインセンティブ設計などがあります。つまり、インドビジネスにおいてはトップ同士の個人的関係性が極めて重要なので、代理店・販売店任せにはせず、定期的にトップ自らがインドに出張をしてインド企業のトップと仲良くなる努力をすること、また、日本企業が自ら日本ブランドの信頼性や品質をわかりやすく伝えるサポートを積極的に買って出ることで、代理店・販売店が商品を売りやすい環境づくりをサポートすることも大切です。
そして、もし結果が出たらインセンティブとして日本に招待をして激励するなど、インドの代理店・販売店が本気になる仕組み、その気になる仕掛けをつくっていくことが極めて重要だと考えています。
インドの関税障壁の実態
あと、BIS規制に定められた製品をインドに輸出する場合には事前にBISの認証を取得しておかないといけないので注意が必要です。これ、やっかいなのがインド国内の輸入業者が申請を代行することができないので、製造業者が自ら申請をする必要があるってことですね。つまり、工場ごと、製品ごとに個別の申請をする必要あるんですけど、最近はこのBISの申請数がむちゃくちゃ増えていることもあって、平均6カ月から1年近くかかるケースも出ていると聞いています。
っていうのも、毎年多額の貿易赤字を計上する中国からの輸入を規制するために、インド政府がBISの対象品目を急激に増やしているといった背景があるみたいで、日本の製造業にとってはある意味とばっちりみたいな話なんですけど、事業に大きな影響を及ぼしているので本当やっかいですよね。
あと、輸出ビジネスにおける関税に関する手続きも不透明で、例えば、今まではFTAなどの自由貿易協定を利用して製品を免税で輸入できていたにもかかわらず、突然インド政府がHSコードの解釈や定義を変えることでその製品が免税対象から外されて、急に関税が課されたり、過去に遡って追徴課税してくるといったむちゃくちゃ理不尽な事例も発生しているので、こういった不可解な課税リスクの可能性、最悪の事態も想定しながら、事業を運営していく必要があるとも言えます。
さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?今回は日本からインドへの輸出ビジネスにおいて検討される代理店契約と販売店契約について解説してみました。インド進出を検討されている企業はぜひ参考にしていただければと思います。