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インドに販売拠点を設立した際にインド駐在員が知っておくべき4つの取引スキーム!

今回はですね、インドに販売拠点を設立した際にインド駐在員が知っておくべき取引スキームについて解説してみたいと思います。

インド進出を検討している企業様の中には、どのような販売スキームが最適なのか判断がつかず悩ましいと感じているケースも結構多いと思います。特に、誰が輸入者となるのか、誰が納品するのか、クライアント企業の期待値は何か、そして、それぞれの取引スキームにおける課税関係はどうなるのか。つまり、どのような取引スキームを選択するかによって事業に大きなインパクトを及ぼします。そこで今回の動画では、皆さんの会社がインドで事業を立ち上げる際に、どのような取引スキームが自社のビジネスに最も適しているのか、その具体的な判断基準を持っていただけるよう、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを解説してみたいと思います。

日本国内の経営環境が厳しさを増す中で、海外市場への進出は、国内市場の縮小や労働力不足といった日本企業の課題を解決するだけでなく、事業拡大の新たなチャンスを見出す上でむちゃくちゃ重要になってきています。今回は、特にインドで販売拠点を運営していく上での主要な4つの取引スキームについて、一つずつ具体的に見ていきたいと思います。

インド国内自社販売拠点設立(在庫を保有しない)

まずは、インド国内に自社販売拠点を設立するものの、在庫は一切保有しないモデルですね。要は、インド子会社は販売支援や契約サポートのみを実施して、実際の商品の商流は「日本本社からインド国内の顧客」に直送する形をとります。なので、インド子会社自身はインド国内で在庫を保有せず、日本本社に対して販売支援費としてコミッションを請求するのが一般的です。

メリットとしては、在庫リスクや資金負担が少なくて済むので、事業開始初期フェーズだったり需要がまだ不確実な段階で、リスクを抑えながら市場テストを実施するのに適しているっていう点と、あとはインドに子会社を設立することで、顧客接点をより密に、より多く持てて、顧客との信頼関係や自社のブランドを構築しやすくなる点もメリットとして挙げられます。

一方で、デメリットとしては、日本本社から製品をインドに直送する形になるので、どうしても納期が長くなってしまってですね、インド市場から求められるタイムリーな納品要求に応えにくいという弱点があります。あと、インド国内における販売活動の内容によっては、インドに恒久的施設(いわゆるPE)があると見なされて、PE課税リスクが発生する可能性があります。具体的には、インド子会社が契約の締結に繋がるような主要な役割(Principal Role)を担っている場合には代理人PEが認定されてしまい、インドの税務当局が日本企業本社の事業所得に対して課税権を主張してくる、というリスクがあるので注意が必要です。

ちなみに、インド子会社が担う販売支援等の仲介サービスはインドGST法上の「Intermediary Service」に該当するので、GSTの非課税処理ができなくてですね、販売手数料・コミッションに対して18%のGSTが課税される点は注意が必要です。

インド国内自社販売拠点設立(在庫を保有する)

次に、インド国内に自社販売拠点を設立し、インド子会社が在庫を保有するモデルです。つまり、日本本社からインド子会社へ商品を輸出し、子会社が輸入者として通関手続きを行って、インド国内のクライアントに再販する形です。

メリットとしては、インド国内に在庫があるので、納期を大幅に短縮することができてクライアントからのタイムリーなご要望にお応えしやすくなるっていう点と、クライアント側から見ると「国内販売」として商品を購入できるので、取引に対する利便性が高くて、顧客満足度がより得やすい体制になる点などがあります。あと、輸入時にインド子会社が支払う物品サービス税IGSTは仕入税額控除として利用できるので、取引スキームの課税関係を整理する際の重要な論点として理解をしておくと良いと思います。

一方で、デメリットとしては、インド子会社が在庫を保有する形になるので、倉庫や物流プロセスも踏まえた輸入手続きにどうしても労力が発生してしまう上に、在庫を保有するための資金調達や、在庫の滞留・陳腐化リスクなども発生ます。あと、日本本社との取引における移転価格税制への対応に加えて、関税当局であるSVB(Special Valuatin Branch)における輸入価格の妥当性の審査が入るため、通関手続きをスムーズに実施するために綿密な準備が必要になります。

Bill to Ship to

3つ目は、Bill to Ship toという取引スキームです。これはちょっと複雑に聞こえるかもしれませんが、簡単に言うと「請求先(Bill to)はインド子会社、配送先(Ship to)はインド国内クライアント」という形をとるスキームです。契約上は「日本本社からインド子会社」への販売になるんですけど、実際の商品の配送は「日本本社からインド国内のクライアント」に直送されるわけですね。

このスキームのメリットとしては、インド子会社が正式な販売者になるので、クライアントからすると国内取引として日本からの製品を受け取れるという利便性の高さに加えて、インド子会社が在庫を持たずに済むという、ある種いいとこ取りのスキームになっていることです。このスキームのポイントは、輸入通関の際の輸入者(通関申告書BOE上の輸入者)をインド子会社として申告する、という点です。つまり、日本法人からの請求書の宛名と、通関申告書上の輸入者の名義がいずれもインド子会社で一致するので、インド子会社から日本本社への海外送金も問題なく実行できるわけですね。インドからの海外送金はいろいろと規制があるのでこういった点は十分に注意しておく必要があります。

一方でデメリットもあります。商品が日本から直送されるので当然納期が短縮されることはありませんし、インド子会社が輸入者となるので、インド子会社側で一時的に関税やGSTの立替負担が発生するわけですね。BIS規制やラベリング規制などへの対応やその責任もインド子会社が負うことになるので、インド子会社はインドの複雑な法規制をしっかりと理解して、発生するさまざまな手続きや問題に対しても対処していく能力が求められることになります。

High Sea Sales(HSS)

最後は、High Sea Salesという取引スキームです。これは、船舶上での取引を意味してまして、輸入通関の前に所有権をクライアントに移転させるというちょっと特殊な取引スキームです。日本本社とインド子会社との間で販売契約を結ぶんですけど、貨物がインド港に到着する前に、インド子会社がその商品をクライアントに転売する契約を締結するわけですね。これによって、最終的に輸入通関を行う際の輸入者はクライアント企業側に変更されます。

このスキームを活用するメリットは、インド子会社側が関税やGSTを負担する必要がないので資金繰り面でのメリットを享受できるという側面ももちろんあるんですけど、実務上はそれ以上にクライアント側が積極的に輸入者になることによってクライアント企業が優遇制度を活用できるようなスポット案件や大型設備の納入、SEZ入居企業などにおいて利用されるケースが多いように思います。一方で、この取引スキームにおいてはHigh Sea Salesの契約書を別途準備した上で、船荷証券(Bill of Lading)への裏書がされること、かつ、商品が港に到着する前にこのHigh Sea Salesの契約が成立するよう手配をする必要があるなど、貿易実務がかなり複雑になる可能性がある点は注意が必要です。また、こういった必要書類に基づいて、日本本社への海外送金が問題なく実行できるように、金融機関にも事前に相談をしながら、インド子会社とクライアント企業がその仕組みを理解した上で正しい書類の準備と手続きへの対応を慎重に進めていく必要がある点はぜひご留意いただければと思います。

さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?今回は、インドに販売拠点を設立した際にインド駐在員が知っておくべき取引スキームについて解説してみました。インド進出を検討されている企業様はぜひ参考にしていただければと思います。