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【インドの闇課税】最新判例!インド駐在員の給与にかかるGST課税問題を徹底解説

今回はですね、インド駐在員の給与にかかるGST課税問題について、2025年7月に出されたカルナータカ高裁の判決をもとに最新状況を徹底解説していきたいと思います。

インドに駐在員を派遣されている日本企業や、これからインド進出を検討されている企業様にとって、2022年の最高裁判決以降、駐在員給与へのGST課税リスクは長らく大きな懸念事項でしたよね。そもそも、給与に消費税を課税する国なんてほとんど聞いたことないですし、あの最高裁判決以降はインド日本商工会もインド税務当局に対して課税関係の明確化を求める陳情書を出すに至るまで発展したわけなんですけども、一方で、つい先日、2025年7月のカルナタカ州高等裁判所の判決によって課税関係がある程度見えてきたとも言えます。

そこで今回の動画では、なぜ駐在員給与にGSTが課されるリスクがあったのか、その背景と重要な判例をご紹介した上で、2025年のカルナタカ高裁の判決が「GSTは課税されない」と判断したロジックについても、具体的な事実認定とともに解説してみたいと思います。この判決が日本企業に与える影響と、今後のGST課税リスクを最小化するための具体的な対応策についても解説いたしますので、ぜひ最後までご覧ください。

インド駐在員の給与にかかるGST課税問題を徹底解説

日本企業が海外進出する上で、駐在員の派遣っていうのは事業の立ち上げや管理体制としてむちゃくちゃ重要ですよね。ただ、この駐在員・出向者の給与に対してインドの消費税GST18%が課税されるリスクがある、というのは日本企業にとってここ数年の悩ましい問題でした。

インドに赴任する駐在員は、日本本社との雇用関係を維持しつつ、インド子会社とも正式な雇用契約を結んで現地で勤務する「二重雇用」いわゆる「在籍型出向」のモデルが一般的ですよね。ただ、2022年の最高裁判決以降、インド税務当局はこの駐在員の派遣は「日本本社がインド子会社に対してマンパワーを提供している、つまり日本本社からインド子会社へのサービスの提供」だと見做して、積極的にGSTを課税しようとしてきたわけです。まずは、この問題がどのようにして発生し、そしてどのように大きな波紋を呼んできたのか、その背景から見ていきたいと思います。

インド駐在員の給与にGST課税?背景にある大きな論点

この駐在員給与のGST課税問題に大きな影響を与えたのが、2022年5月にNorthern Operating Systemsというアメリカ系企業のインド子会社に出されたインド最高裁判決です。インド最高裁はこの判決で、海外グループ企業からインド企業への駐在員の派遣、いわゆる「出向」が「マンパワーサービス/人材派遣サービス」に該当すると判断したんですよね。具体的には、海外本社が自社の社員をインド子会社に派遣して、海外本社側で一部支払っている給与をインド子会社に対して実費請求している場合、インド子会社から親会社へのその支払いは「人的役務提供」の対価だと認定されたわけです。

最高裁の見解として、契約形態上は「出向」に見えてたとしても、実質的にはサービスの提供と見做される、つまり、「形式より実質を重視する(substance over form)」という判断基準をベースに、「親会社からの出向者給与の実費精算には旧税制サービス税(現在のGST)が課税されうる」という法的立場を明確にして、これまでの常識を覆すかなり衝撃的な判決として物議を醸しました。

この最高裁判決を受けて、インド税務当局はかなり積極的に駐在員給与に対してGSTを追徴課税しようと動き始めたわけです。弊社のお客様でも実際に税務調査に入られて、追徴課税通知を受ける事態となった企業様もあります。当局の通知の中には、駐在員給与全体にGSTを課税しようとしてくるケースまで散見されて、税法上の規定を正しく理解していない税務担当官が、判決内容を拡大解釈して追徴課税してくるケースさえ見られました。その結果、企業様のなかには追徴課税通知に対する不服申し立てを行ったり、結果的に税務訴訟に発展してしまったケースもたくさんあってですね、企業様は理不尽な指摘に対する対応せざるを得ないといった状況が続いていたわけです。

カルナータカ高裁Alstom Transport事件のロジック

そんな状況の中で、2025年7月に事態を大きく動かす重要な判決が下されました。それがカルナタカ高等裁判所が出したフランス系企業のインド子会社Alstom Transport India社への判決です。税務当局側は「海外グループ企業からの駐在員派遣はインド子会社への人的役務提供、つまりサービスの輸入にあたる」として、Alstom社に対し約58億ルピー相当のIGST納税を求めていたわけなんですけど、この判決でカルナタカ高裁は、駐在員給与にGSTの追徴課税をしようとしていた税務当局の主張を却下したんですよね。「当該駐在員給与へのGST課税は間違っている」として、納税者であるAlstom社の主張を認めたわけです。

この判決のロジックで特に重要な論点は、大きく分けて2つあります。
1つ目は、インド子会社と駐在員の「実質的な雇⽤関係(Employer-Employee Relationship)」の立証です。
つまり、カルナタカ高裁は、インド子会社と出向者との間に真実の雇用関係が存在するかどうかを詳細に検討したわけなんですけど、業務上の指揮命令系統や給与支払スキーム、労働法上の従業員としての取り扱いなどの事実において、出向期間中、出向者は完全にインド子会社の管理下で勤務していて、同社の従業員として組織に組み込まれていたっていうふうに結論づけたわけですね。

• 業務上の指揮命令系統:
つまり、駐在員たちは、出向期間中、インド子会社の業務上・管理上の排他的にコントロール下に置かれていた。日々の業務指示や勤怠管理、評価・懲戒などもインド側で実施され、出向者はインド子会社の内部規程や就業規則、倫理規定に従って勤務していた。
• 雇用契約・給与支払い:
そして、駐在員はインド子会社との間で現地雇用契約を締結していて、それに基づいて給与・手当はインド子会社から直接支払われていた。実際、給与はインド国内で源泉徴収(TDS)の対象となり、個人所得税もちゃんとインドで納税していた。
• 労働法上の取り扱い:
さらに、出向者にはインドの労働法に基づく雇用者としての義務や、福利厚生や法定給付なども適用されていて、現地従業員と同様の扱いがなされていた。

こういった背景に基づいて、インド子会社との間で実質的な雇用関係があると認められたわけですね。インドGST法では、「従業員が雇用主に提供する役務」はGSTの課税対象外である、とする規定がちゃんとあるので、出向者が実質的にインド子会社の従業員であることが立証できれば、親会社がインド子会社に対してサービス提供をしたことにはならない、というロジックも成立することになります。

2つ目は、万が一サービス提供とみなされたとしても「取引価額=ゼロ」とするという扱いです。
この判決の本質は、先ほどご説明をしたとおり「実質的な雇用関係が成立しているかどうか」という点にあるんですけど、同時にこの判決が重要なのは、万が一この出向がサービスの提供だと見做されたとしてもGSTが課税されるものではない、という補充的な見解をも示してくれたところにあります。

これは、インド財務省のインド税関・間接税委員会(CBIC)が2024年6月に発出した通達210/4/2024-GSTの内容に基づくものです。
この通達で重要なのは、例えば、外国の親会社がインドの子会社にサービス提供したと見做される場合であっても、インド側がそのサービスに対する支払GSTをITCつまり仕入税額控除として使用できる状況であり、かつ、外国の親会社側がインド子会社に対して請求書を発行していなければ、このサービス提供の対価を『ゼロ(Nil)』とみなす、と明記されている点です。平たく言うと、もし仮にGSTを課税したとしても、それが仕入税額控除としてインド側のGST納税額と相殺できるのであれば結局企業にとって負担をするGST税額は一緒だよね、だからこの取引にGSTを課税する意味はないよね、という理屈です。

Alstom事件では、親会社からインド子会社への請求書は発行されていない状況でした。カルナタカ高裁は先ほどご説明をした通達を引用した上で、「このケースでは仮にサービス提供と見做されたとしても、取引価額は『Nil(ゼロ)』と見做されるべき」っていう判断をしたわけです。実際、「請求書が発行されてない以上は、税務当局が課税対象となる取引金額の存在を主張する余地はない」っていう指摘していてですね、これは2023年の日系企業Metal One社に対してデリー高裁が出した判決に対しても賛同を示した形になったわけですね。

なので、「①実質的雇用関係の立証により非課税」とする論理と、「②もし仮にサービス提供と見做されてもそもそも『取引価額はゼロ』なので税額は発生しない」という2つの論理によって、カルナタカ高裁は税務当局が主張していた約58億ルピーのGST追徴処分を違法だとして取り消したわけです。これは私たち日本企業にとってむちゃくちゃ大きな意味を持つ判決になります。

日本企業への具体的な影響と取るべき対策

それでは、このAlstom事件の判決を受けて、私たち日本企業はどのような対策を取っていくべきかを見ていきたいと思います。対策すべき論点は、まさにさきほどの2つの論理をどれだけ形式的にも実質的にも実現できる体制を構築できるか、ということにつきます。つまり、
1. 「形式的かつ実質的な雇用関係の実態を明確に整備すること」そして、
2. 「親会社から子会社への費用請求を発生させないこと」この2つです。

具体的には、
• 日本の親会社とインド子会社との間で適切な出向契約書を締結して、受け入れ先であるインド子会社がその駐在員の実質的な雇用主であること、つまり、インド子会社が給与負担者であることや、インド子会社が業務上の指揮命令権や管理監督権限を持っていることなどを明記しておくことが推奨されます。あと、出向手続きとして、親会社主導で駐在員をインドに派遣するのではなく、インド子会社からの要請に応じる形で出向手続きを実施するなどの対策も有効かと思います。

・あと、インド子会社と出向者との雇用契約書だけでなく、現地での給与支払記録や組織図上の位置づけ、業務指示系統などを文書化しておいて、出向者がインド子会社の実質的な従業員として働いている証跡を備えておくことで、「出向」が「親会社から子会社への雇用関係に基づく社内異動」であることを明確に説明しやすくなると思います。

• そして、給与はできる限りインド現地で支給・負担する形を取ることが望ましいと言えますけど、もしインド駐在員の給与を親会社側で一部支払っていたとしてもインド子会社へは請求しないようにすることでGST課税リスクを軽減できると思われます。

この判決はある意味「在籍出向モデルを適切に構築すれば、GSTは課税されない」というシンプルなメッセージでもあるので、ぜひGST課税リスクを軽減できるように駐在員の出向手続きや給与支払スキーム、納税スキームについて慎重に構築していただければと思います。ちなみに、このAlstom事件はまだカルナタカ高裁の判決なので、もちろん最高裁に上告されて判決が覆される可能性さえありますので引き続きこの出向者給与のGST課税問題の行方についてはしっかりと見守っていきたいと考えています。

さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?インド駐在員給与にかかるGST課税問題については、今後も引き続きこのチャンネルで取り上げていきますし、また、この件に限らず、最新の判例で特に重要なものなどがあれば都度今回のように動画にしていきますので、引き続き情報をキャッチアップしていきたいという人はぜひぜひチャンネル登録をお願いいたします。