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【速報!】知らないとヤバいインド所得税法大改革と日系企業への影響

インド所得税法が改正。ITA2025を徹底解説。

今回はですね、2026年4月に施行予定の「インド新所得税法:The Income Tax Act, 2025」について、特に日系企業に影響を与える論点と、インド税制の新たな潮流について解説してみたいと思います。

インドは今、世界で最も注目されている投資先の一つですけど、その一方で「インドの税制はむちゃくちゃ複雑だ」と、長年多くの日系企業を悩ませてきたのも事実ですよね。現行の1961年所得税法については、なんと、60年以上も運用されてきたわけなんですけど、それがついに2025年新所得税法(Income Tax Act, 2025)として生まれ変わる、ということでむちゃくちゃ大きな影響が及ぶことが予想されます。

そこで今回の動画では、新しい所得税法によって何が変わるのか、また日系企業が実務上知っておくべき重要な変更点と、それに対して今から何を準備すべきかを具体的に解説したいと思いますので、ぜひぜひ最後までご覧ください。

知らないとヤバいインド所得税法大改革と日系企業への影響

インド政府が制定した2025年新所得税法のそもそもの目的は、旧法の複雑さや重複していた各種規定を整理して、法体系をより簡潔に、国際基準に合ったより透明性の高い税制へと再構築することにあります。旧法は度重なる改正で約819条から構成されていたんですけど、新法では約536条に再編成がされているので、まずは条文量が大幅に半減されていることが分かると思います。

この税制改革の大義としては、複雑で不明確な規定を排除することで、課税関係に対する解釈の分断を防いで、かつ、税務紛争等の負担を大幅に軽減することが狙いの背景にあると思いますけど、ほんまに軽減されるんかいな、と正直私もかなり懐疑的なところはあるので、2026年4月から具体的に何がどう変わるのか、日系企業にとって重要なポイントを優先的に見ていきたいと思います。

インド所得税制簡素化のメリット

まず、日系企業にとって「朗報」とも言える、税制がシンプルになるポイントについて3つほどご紹介したいと思います。

課税年度の統一

1つ目は「課税年度」の統一です。

これまでインドでは「前年度(Previous Year)」と「査定年度(Assessment Year)」という謎に2つの概念があってですね、我々日本人にとっては混乱を招く原因になっていました。つまり、旧所得税法においては、「所得が発生した年」と「その所得を申告・納税・査定する年」を分けて取り扱われていて、この表のように前者を Previous Year(前年度)、後者を Assessment Year(査定年度) と呼んで、常に1年度ズレるということが起こっていたわけですね。これが新しい所得税法では、4月1日から翌年3月31日までを一律の「税年度(Tax Year)」に統一をすることになったというわけです。

インド課税年度区分の改正により、一律の税年度(Tax Year)に統一。

源泉徴収(TDS / TCS)規定の統合と緩和

インドでは支払に際していろんな源泉所得税が課税されるんですけど、特に源泉徴収方法の異なるTDSとTCSという税金についてバラバラに規定がされていたところ、新しい所得税法では、このTDSとTCSに関する規定がそれぞれ所得税法第393条と第394条に集約される形となって、規定がよりシンプルになる、という変更点があります。あとは、一部取引の非課税枠(閾値)の引き上げだったりとか、税率の見直について、毎年のインド予算案などでもこれまで改訂がされてきましたので、この点については引き続き改訂の都度確認をしていくという流れになると思います。

不明確な条文・定義の明文化

複雑で不明確な規定を排除することで課税関係に対する解釈の分断を防ぐ、という狙いについて冒頭お話をしましたけど、一例としてロイヤリティ課税の範囲についての明文化についてご紹介したいと思います。

ロイヤリティ課税っていうのは、例えば日本企業の本社が持っている特許とか商標、ノウハウ、ソフトウェアなどの知的財産等の無形資産について、インド現地法人がそれらを使用することを許諾して、その見返りとしての対価の支払いを受ける場合に、その対価がロイヤリティとして課税対象になるっていうものですね。

これまでロイヤリティっていうのは「権利の譲渡(transfer)」において発生するものと定義されていたんですけど、一方で、「権利の付与(grant)」 については明記されておらず、税務訴訟に発展してしまうケースが散見されていたわけなんですけど、今回の新しい所得税法においては、「権利の付与」についてもロイヤリティ取引に該当するものとして明文化されるようになりました。こういった所得税法の複雑な規定を排除したり明文化することによって、法律の解釈が分かれることによる税務訴訟の発生を軽減することにつながるわけですね。

デジタル関連のインド税制概要

ここ数年でさまざまな取引や手続き、さらには金融資産のデジタル化がどんどん進んでいますが、ここからは、新しい所得税法の内容と合わせて、さらにインドにおけるこういったデジタル関連税制の現在地についてもざっと整理をしておきたいと思います。

インドにおけるデジタル課税の変遷

もともとインドにはEqualization Levy/平衡税という税金があってですね、物理的な拠点、いわゆるPE(恒久的施設)がなくともデジタルなプレゼンスに基づいて課税するというインド独自の税制だったんですけど、国際的な議論の潮流含めて、OECDを中心としたより広範囲な国際合意に基づく課税の枠組みに移行しようとする中でですね、最近このインド独自の平衡税が廃止されたという経緯があります。

非居住者がインド企業に対してオンライン広告やデジタルサービスを提供する際に6%課税されたり、非居住者のeコマース事業者が提供する物品やサービスの提供に2%が課税されたり、といった具合で、たとえば、インド国内企業が海外のSNSや検索エンジンに広告掲載料を支払ったり、海外のECサイトにサービス利用料を支払ったりする場合などにおいて平衡税というものが課税されていたわけです。

一方で、平衡税が廃止された後も引き続き残っているインド国内法の税制として、Significant Economic Presence(SEP)、日本語でいうと「重要な経済的プレゼンス」という概念があります。これは、物理的拠点がなかったとしても、インド市場において相当の経済的関与があると認められる場合にはインドで課税をしますよ、という考え方ですね。

インドでは、重要な経済的プレゼンス(SEP)があり、物理的拠点がなくともインド市場で相当の経済的関与がある場合は課税される。

具体的には、2,000万ルピー以上(日本円でざっと3,500万円以上)の対インド売上であったり、インド国内に30万人以上のユーザーとの継続的なやり取りが発生しているようなケースにおいて、「重要な経済的プレゼンス」があるとみなされて、対インド売上に対して所得税が課税がされるという規定がまだ残っています。このSignificant Economic Presence(SEP)が、源泉所得税いわゆるTDSやTCSと合わせて、インドにおけるデジタル課税の重要な論点となっています。

一方で、日本とインドは日印租税条約を締結しているので、原則インド国内にPEがなければインドでの事業所得課税もなし、という整理になっていますので、要は基本的インド国内法よりも租税条約が優先されるわけですね、なので、各取引ごとに個別に租税条約とも照らし合わせながら課税関係を精査していく必要がある点はご留意ください。

※日印租税条約については、こちらの記事(日印社会保障協定について理解しておくべきポイント)をご覧ください。

ちなみに、OECDとしては「Two-Pillar Solution(二本柱の解決策)」というものを軸にしていまして、インドもこの二本柱、つまり、1つ目の柱である「市場国への課税権再配分」と2つ目の柱である「グローバル・ミニマム課税(最低15%の法人税率)」という考え方をインド国内法に導入していこうとしていて、製造業向けの優遇税制である法人軽減税率15%という税率設定もこのOECDの方針と密接に関わっていると言われています。

税務調査権限のデジタル領域への拡大

インド政府は2020年以降、税務行政の効率化と客観性の向上を目的として、「非対面型税務調査 (Faceless Assessment)」とか「非対面型不服申立 (Faceless Appeals)」などのデジタルプラットフォームを導入してきています。このデジタル化はですね、主に3つの側面から税務調査権限をデジタル領域にまでどんどん拡大している傾向にあります。

インドでは、税務調査権限のデジタル領域への拡大が進んできています。

1つは手続きのデジタル化で、所得税や移転価格税制などの所得税の税務調査については従来の対面型の調査を随時廃止して、納税者と税務当局の間のやり取りをすべてオンラインポータル上で簡潔させることで、調査官の恣意性を排除した上で、公平性をより高めることを目指しているものです。

2つ目はデータ主導で調査対象企業を選定する、っていうことですね。税務当局は、所得税申告データや源泉徴収データ、インドの消費税GST申告のデータ、国際取引申告書(Form 3CEB)などの横断的なデジタルデータを統合・分析した上で、追徴可能性が比較的に高いと判断された納税者や取引を自動的に選定するシステムを導入しています。

3つ目は調査対象の範囲がデジタル取引やデジタルデータにまで拡張しているという点です。今回の新しい所得税法においてもあらためて明文化されたのが、従来の電子帳簿や根拠証憑だけじゃなくて、電子メールサーバとかクラウドストレージ、SNS・ソーシャルメディアアカウントなども含めて調査対象とする点に加えて、先ほどご説明をしたSignificant Economic Presence (SEP)、つまり物理的な拠点がなくても重要な経済的プレゼンスが認められる場合も含めて、課税対象となる取引そのものをデジタル領域に広げていくことで、非居住者のデジタル取引に対する調査権限をも確保しようとしています。なので、日系企業としては調査対象となり得るデジタル領域の範囲についても理解をした上で、各種データの管理方法をあらためて見直す必要があります。

※インドにおける居住ステータスや申告については、こちらの記事(インドの給与計算&確定申告のルールを分かりやすく解説!)もご覧ください。

仮想デジタル資産を明文化

インド政府はこれまで仮想デジタル資産/Virtual Digital Assetsに対する課税として、特別な資産・所得区分でありかつ一律30%の分離課税という整理をしていたんですけど、今回の新しい所得税法においては所得税法上の正式な資産クラスとして「財産や資本資産(Property & Capital Asset)」として分類することを明文化しました。要は、短期・長期などの保有期間によって課税関係が変わる、つまり通常のキャピタルゲイン課税方式に組み込まれる形になるんですね。

あと、旧法だと完全に独立した所得区分になってしまっていた関係で他の所得との損益通算とか損失の繰越とかができない前提だったんですけど、今回の改正によってそれができるようになる可能性についても期待されています。ちなみに、Virtual Digital Assets(VDA)についてはこのように定義されています。

「Virtual Digital Asset」(VDA)とは

(a) 暗号化された手段またはその他の手段によって生成された、情報、コード、番号、またはトークン(インド通貨または外国通貨ではないもの)であり、その名称にかかわらず、価値のデジタル表現を提供するもの、対価の有無にかかわらず交換されるもの、または本質的な価値を持つという約束や表明を伴うもの、または価値の保存手段もしくは勘定単位として機能するもの(金融取引や投資における使用を含むが、これに限定されない)であって、譲渡、保管、または取引が可能なもの。

(b) 非代替性トークン(Non-fungible tokenいわゆるNFTですね)、または中央政府が公報でVDAとして指定するその他のデジタル資産。

という定義で、旧法における定義からより機能的詳細を盛り込んだ内容にアップデートされているわけです。

一方で、仮想デジタル資産取引については、利益が出たか損失が出たかに関わらず、取引総額に対して一律で1%の源泉所得税TDSの徴収義務がある、という点については引き続き変更ありません。

エレクトロニクス製造分野における特別優遇措置

最後に、エレクトロニクス分野における製造業サプライチェーンに対して新たに創設された特別優遇措置(インド新所得税法第61条)についても解説をしておきたいと思います。この規定は、非居住者がインド国内の電子機器製造施設に対して製造に関連するサービスや技術提供をした場合の、推定課税制度(Presumptive Taxation)というものを規定していまして、推定利益率25%、つまり売上に対して25%を推定利益と見なして課税するというもので、かつ、この制度を任意で選択適用した企業については税務監査(Tax Audit)が免除される、という優遇措置になっています。

ちなみに、この25%っていう推定利益率が高いのか低いのかについては当然企業様によっても変わってくるものと思いますけど、通常の移転価格分析に基づく独立企業間価格と比較したときにこの推定課税制度を活用する場合においてどのようなメリット・デメリットがありそうかを慎重に精査する必要はあります。つまり、その判断基準として、25%よりも大幅に低い利益率で着地見込みの企業様にとっては、余計な税金を納税せざるを得なくなる可能性がある一方で、この制度を活用することによって税務監査義務が免除され、かつ、移転価格に関する税務リスクという将来の不確実性をも回避できる、という点においては、戦略的な価値を持つ可能性があると言えるわけですね。

さて、皆さん、いかがでしたでしょうか?今回は、2026年4月に施行予定の「新所得税法Income Tax Act, 2025」と最近のデジタル関連税制の潮流について解説してみました。インド進出に関心のある企業様はぜひ参考にしていただければと思います。

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